Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

村上春樹訳によるスタン・ゲッツ伝

2020-03-16 09:14:31 | 読書

ドナルド・L・マギン, 村上 春樹 訳「スタン・ゲッツ :音楽を生きる」新潮社 (2019/8).

コロナ旋風下,図書館では椅子は全て取り払われ,長居はお断り.ただし物色と貸し出しはOKというので,今まで厚すぎて手が出なかった,この本を借用.587ページ2段組み.村上春樹訳ということには,途中で気がついた.翻訳お疲れ様.チェット・ベイカーのチェットをチェトと書いたりしているが,概ねふつうに翻訳している.読み難くも読み易くもない.

Amazon の内容(「BOOK」データベースより)*****
どんな苦境にあっても、その音色は限りなく美しい。ボサノヴァなど新しいスタイルを常に取り入れ、第一線で半世紀近く活躍したスタン・ゲッツ。薬物やアルコールに溺れていても、ひとたびステージに上がれば自由自在な即興が冴えわたり、どんな楽曲も美しく演奏せずにはいられない。高校生の時にレコードを買って以来、スタン・ゲッツの音楽を愛し続けてきた村上春樹が、いつの日か翻訳したいと願ってきた傑作評伝。テナー・サキソフォンの巨匠、その熾烈な人生の業に迫る。*****

大部分は薬物・アルコールとの闘いの記録.「闘い」といってもその構図は,「本人 対 薬・酒」ではなく 「薬・酒をやめられないゲッツ 対 周囲の妻子」である.最初の妻は夫に付き合って薬物中毒に陥った挙句 捨てられ,次の妻は酒を飲むと死ぬほど気分が悪くなる薬を飲ませたと,ゲッツから裁判に訴えら敗訴する.確かに,こちらの為を思ってくれてはいても,飲むな飲むなと言われ うんざりするのは理解でき同情もできる.でも訴えて勝つところがアメリカだ.

ゲッツの人格に問題があったのは確かだろう.この本のあとがきでは,ベーシストのビル・クロウ (彼の著書は何冊か村上訳で日本で出版されている) はよほど嫌なことがあったらしく,訳者に対して「ゲッツについては話したくもない」という印象を与えたという.

その音楽は美しかった,と言う.気の毒だが,ゲッツの人間的・社会的なトラブルは文章で伝わるが,音楽は伝わらない.自分は実はスタン・ゲッツはほとんど真面目に聞いたことがない...ボサノバを演るときにフレーズを拝借したくらいである.彼のグループが60年代に来日したときコンサートに行った友達が「ゲイリー・バートンは良かったが,ゲッツは手抜きだった」と言ったのを聞いて,食わず (聴かず) 嫌いになったのかもしれない.

ジャック・ティガーデン以下,ジャズメンが続々と登場するのは,やはり面白い.「ゲッツはジャズ史上に名を残すような改革者ではなかった」と,訳者は強調している.ゲッツのコルトレーンに対する位置は,チェット・ベイカー対マイルスのようなものと,ぼくは認識している.

やたらと登場人物が多くて理解を妨げる.誰と間の子供が誰々で,兄弟姉妹がどういう順番で,何時のバンドは誰と組んだ...などを図示した,朝ドラ・ネット解説の「相関図」みたいなものが欲しい.巻末に年表くらいあってもいいと思うが,そういうサービス精神はないらしい.

原題は A Life in Jazz で,「音楽を生きる」はどうかと思う.

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