よみびとしらず。

あいどんのう。

クラップユアハンド

2020-07-09 11:02:00 | 散文
たくさんの声に合わせて手を叩いたら
ぼくの声なんて誰にも届かずに
だからぼくは安心して
ぼくのなかにある届く必要のない言葉をあげた

その声を耳にしたあなたはわたしに手を伸ばし
叩く必要のある手を叩かずに
だからあなたは暗やみに取り込まれて夜となり
音のない静かな世界の栖(すみか)となった

夜に手は鳴らずに言葉もあがらず
あなたの本心をぼくは知るよすがもなく
ただ夜を見つめて夜は更けていく
あなたの瞳に気づかなければ
ぼくはこんなにも夜に焦がれることはなかっただろうに

音のない夜に音は響かず
風も雨もわたしも慟哭(どうこく)も
その言葉を無くして夜を過ごした
そのなかで懸命に手を叩くのは
あの日叩かなかったあなたのために

あなたに差し出された手のひらの音は
どんな手拍子よりもぼくに響いた
その音をもう一度聴きたくてぼくは
音のない夜に手を叩く
いつの日かあなたへ届くまでとこしえに

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