よみびとしらず。

あいどんのう。

2018-09-19 18:11:04 | 散文
歯をみがいているとぼろぼろと12本歯が抜けた。
はじめに気がついたのはじいちゃんだった。じいちゃんはにかっと笑って「歯抜け仲間だのう」と喜んだ。

わたしは口に手をあててどうしようどうしようとうろたえた。まだ若いのにこんなにも歯が抜けてしまうなんて。これからどうすればいいんだろう。どうしよう。どうしたら。どうしよう。

涙目で口に手をあて、うろつくわたしに母が声をかけた。

「あんたの抜けた歯、それ全部乳歯よ」

なんでもわたしの乳歯は幼き頃より、それはそれはたいそうな頑固者でどうしても全部は抜けなかったらしい。なだめてもすかしてもちっとも抜ける気配がないから、母はもう放ったらかしにすることにした。

そんな頑固者な乳歯がこのたび、全部抜けた。

わたしはまずは深呼吸して気を落ち着かせ、つぎに舌で自分の歯を順序よくつるりとなぞるもどこにも抜け穴はなく、歯が抜ける前と後の区別が全くつかなかった。この口のなかの一体どこに12本もの乳歯が生えていたのか、わたしにはちっとも分からない。

どれが上の歯でどれが下の歯かもよく分からない12本の歯を、わたしはじいちゃんと一緒にぜんぶ空へと投げた。確かに歯は12本も抜けたけど、果たしてわたしはじいちゃんの歯抜け仲間と言ってもいいのか不安になって、わたしはじいちゃんの顔をこっそりのぞいた。わたしと目があうとじいちゃんは、いつもの顔でにかっと笑った。じいちゃんの笑顔はとってもかわいい。

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