よみびとしらず。

あいどんのう。

月と雨

2020-10-18 18:40:41 | 散文
この遺伝子の記憶を辿れば
私は確かに広大な海と
猛るマンモスの姿を知っていた
あなたには何にも知らないと嘯(うそぶ)いて
とぼけたつもりが本音になって
いつしか本当に知らなくなった
あなたの姿もわたしの名前も何もかも
そうして新たに与えられた私の名前に
あなたは呼応して涙を流した

雨降るその奥にあるのは夜の暗やみ
その夜にのぼる月の姿なし
夜の空はわたしの代わりに涙を流した
胸中に広がる空虚な夜はいつも雨
月の姿など知らないあなたは
あの月はマガイモノなのだと主張して
夜空わたる月の明かりを打ち落とさんとした
ただこの胸のうちにあの光が欲しいと
それだけであったとは知らずして

打ち落とされた月にその輝きなく
全ての夜は月を失った
夜はいつも雨
雨音の鳴る暗やみに
月の影はとけこみ時を待つ
いつかきっと訪れるあなたの姿に
豊潤な雨水は海を知り
私はあなたの名前を思い出す

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