竹崎の万葉集耕読

日本人のこころの拠り所である「万葉集」を味わい、閉塞感の漂う現代日本人のこころを耕したい。

ワイワイ酒の効用

2009-06-17 09:36:20 | 日記
日本人のこころの歌―私家版・万葉集耕読⑫
  ワイワイ酒の効用

 験(しるし)なき ものを思はずは
 一坏(ひとつき)の 濁れる酒を 飲むべくあるらし
くよくよしてもはじまらない物思いなどにふけるよりは、いっそのこと濁り酒の一杯でも飲む方がよさそうだ。
黙居(もだを)りて 賢しらするは
 酒飲みて 酔ひ泣きするに なほしかずけり 
 黙りこくって分別くさく振舞うのは、飲んで酔い泣きするのにやっぱり及びはしないのだ。
               ともに大伴旅人(巻三)

 大伴旅人(家持の父)は、漢詩文に長けた教養ある官僚であったが、晩年に大宰帥となり、山上憶良(筑前守)らと筑紫歌壇を形成した。
 この二首の歌は、賛酒歌十三首中、最初と最後の歌である。一連の歌は、宴席で即興に披露されたものであろう。敵対する藤原氏の謀略で九州に左遷され、着任早々、同伴した愛妻大伴郎女を喪い、郷愁の憂いもひとしおであった。その苦しみを、「心許す大宰府の人々が分かち持ってくれることを信じながら詠んだのであろう。」(伊藤博)

 木村尚三郎『耕す文化の時代』によると、「ワインのような醸造酒は、人と人との心を結び、楽しさを倍加する酒。ウイスキーのような蒸留酒は、人を孤独にする酒」だと言う。
 吉幾三が歌うように、「演歌を聞きながら、ひとり、手酌で、詫びながら」「酒よ」と語りかけて飲むのも悪くないが、老年を迎え、日に日に鬱積する憤懣を飛散させるには、いささか手ぬるい。
 やはり、心を許す仲間たちと車座になって、世の中の堕落ぶりを罵倒しながら、お猪口と徳利で飲むワイワイ酒に如くものはない。

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