大伴坂上郎女(2)
730年、大伴旅人は、太宰帥を兼務したまま大納言を拝命して帰京の途についた。そして、まもなく佐保の邸宅で死没した。都に還ってからも、大伴坂上郎女は、家持を補佐しながら社交界を仕切った。しだい藤原氏の勢力に圧倒されてきた大伴氏の勢いを挽回するために、時には天皇に献歌までした。
4
721 天皇に献る歌 大伴坂上郎女、佐保の宅に在りて作る
あしひきの 山にしをれば 風流(みやび)なみ
我がするわざを とがめたまふな (巻四相聞)
(何しろ山住みの身の無粋者でございますから、都のみやびにうといままに私がいたしますこの振舞いを、失礼だとお咎め下さいますな。)
母親としての周到な気遣いのすえ、大嬢は大伴家持と二嬢は大伴駿河麿と結婚させた。殊に自分の甥でありながら母親のように養育し、長女の婿になった家持に対する思いは複雑であった。
653 大伴宿禰駿河麻呂が歌
心には 忘れぬものを たまさかに
見ぬ日さまねく 月ぞ経にける (巻四相聞)
(心では忘れることとてないのに、思いのほかにお逢いしないままずるずると一月もたってしまいました。)
656 大伴坂上郎女が歌
我れのみぞ 君には恋ふる 我が背子が
恋ふといふことは 言のなぐさぞ (巻四相聞)
(私の方だけですよ、あなたに恋い焦がれているのは。あなたのおっしゃる恋い焦がれるという言葉は、口先だけの慰めとわかっています。)
979 大伴坂上郎女、甥家持の佐保より西の宅に還帰るに与ふる歌
我背子が 着る衣薄し 佐保風は
いたくな吹きそ 家に至るまで (巻六雑歌)
(この人の着ている着物は薄い。佐保風はひどくふかないでおくれ。この人が家に着くまでは。)
1620 あらたまの 月立つまでに 来まさねば
夢にし見つつ 思ひぞ我がせし (巻八秋相聞)
(月が改まるまでもおいでにならないので、いつも夢に見ては、あなたのことをとても恋しく私はおもっていたのですよ。)
3928 大伴宿禰家持、天平十八年の閏の七月をもちて、越中の国の守に任けらゆ。すなはち七月を取りて任所に赴く。時に、姑大伴氏坂上郎女、家持に贈る歌
今のごと 恋しく君が 思ほえば
いかにかもせむ するすべのなさ (巻十七)
(今からもう、こんなにもあなたが恋しいのなら、この先どうすればよいのでしょう。どうにもならないほどせつないことです。)
730年、大伴旅人は、太宰帥を兼務したまま大納言を拝命して帰京の途についた。そして、まもなく佐保の邸宅で死没した。都に還ってからも、大伴坂上郎女は、家持を補佐しながら社交界を仕切った。しだい藤原氏の勢力に圧倒されてきた大伴氏の勢いを挽回するために、時には天皇に献歌までした。
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721 天皇に献る歌 大伴坂上郎女、佐保の宅に在りて作る
あしひきの 山にしをれば 風流(みやび)なみ
我がするわざを とがめたまふな (巻四相聞)
(何しろ山住みの身の無粋者でございますから、都のみやびにうといままに私がいたしますこの振舞いを、失礼だとお咎め下さいますな。)
母親としての周到な気遣いのすえ、大嬢は大伴家持と二嬢は大伴駿河麿と結婚させた。殊に自分の甥でありながら母親のように養育し、長女の婿になった家持に対する思いは複雑であった。
653 大伴宿禰駿河麻呂が歌
心には 忘れぬものを たまさかに
見ぬ日さまねく 月ぞ経にける (巻四相聞)
(心では忘れることとてないのに、思いのほかにお逢いしないままずるずると一月もたってしまいました。)
656 大伴坂上郎女が歌
我れのみぞ 君には恋ふる 我が背子が
恋ふといふことは 言のなぐさぞ (巻四相聞)
(私の方だけですよ、あなたに恋い焦がれているのは。あなたのおっしゃる恋い焦がれるという言葉は、口先だけの慰めとわかっています。)
979 大伴坂上郎女、甥家持の佐保より西の宅に還帰るに与ふる歌
我背子が 着る衣薄し 佐保風は
いたくな吹きそ 家に至るまで (巻六雑歌)
(この人の着ている着物は薄い。佐保風はひどくふかないでおくれ。この人が家に着くまでは。)
1620 あらたまの 月立つまでに 来まさねば
夢にし見つつ 思ひぞ我がせし (巻八秋相聞)
(月が改まるまでもおいでにならないので、いつも夢に見ては、あなたのことをとても恋しく私はおもっていたのですよ。)
3928 大伴宿禰家持、天平十八年の閏の七月をもちて、越中の国の守に任けらゆ。すなはち七月を取りて任所に赴く。時に、姑大伴氏坂上郎女、家持に贈る歌
今のごと 恋しく君が 思ほえば
いかにかもせむ するすべのなさ (巻十七)
(今からもう、こんなにもあなたが恋しいのなら、この先どうすればよいのでしょう。どうにもならないほどせつないことです。)