[香港/ロンドン 3日 ロイター] - 南シナ海の領有権をめぐりフィリピンが中国を訴えた国際的な仲裁裁判の判断が迫るなか、日本や米国、東南アジアの当局者が神経を尖らせている一方で、中国高官は「気にしていない」と明言する。
南シナ海での領有権を主張する中国と、極めて重要な国際貿易ルートでもある同海域における同国の行動に反発したフィリピンの提訴を受け、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は今月12日、裁定を下す。
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南シナ海の9割に主権が及ぶと中国は主張しており、フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、異議を申し立てている。
「実際いつ裁定が下されるのか、知らないし、関心もない。どのような裁定が下るにせよ、全面的に間違っていると考えるからだ」。
中国の劉暁明駐英大使は、ロンドンでの昼食会でロイターに語った。
「(裁定は)中国や、それらの岩礁や島嶼(とうしょ)についての中国の主権に何らの影響を与えるものではない。
それは重大で不当な、悪しき前例となるだろう。この件について法廷で争うつもりはないが、自らの主権のために、もちろん戦うことになる」
仲裁裁判所の裁定を無視しようとする中国政府の方針は、国際法に基づく秩序の拒絶と同時に、米国に対する直接的な挑戦を意味する。米国は、中国が軍事及び民生用目的で同海域の島々と岩礁を開発しており、地域の安定を脅かしていると考えている。
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また、それは領有権紛争リスクをさらに高めることになると、弁護士や外交官、安全保障の専門家らは指摘する。
裁定結果が下された後で、米政府がどう対処するかによって、この地域における同国の信頼性が試されると広く受け止められている。
米国は第2次大戦以降、自己主張を強める中国に対抗して、この地域において圧倒的な安全保障のプレセンスを維持してきた。
中国は、米国に対して自国の領土と政治的な主権を守るための問題として認識している。
また、南シナ海で領有権を主張する他の国々は、米国を味方に付けていると感じることで勇気づけられ、中国に挑んでいると劉大使は語る。
「これらの国々は、米国が(味方に)いることで、中国との状況を好転できると感じている。私は米国の動機について非常に疑わしく思う」
差し迫る裁定を一蹴する中国だが、自らの主張を広めるための国際的なプロモーション活動も怠らない。
外交官やジャーナリストと会合を持ち、世界各地での論説や学術論文において、自国の主張を説いている。
「フィリピン政府の主張には正当な根拠がない」。チャイナデイリーのニュージーランド創刊号に掲載された記事にはそう書かれていた。
中国の外交官は常に、そして、あらゆるレベルでこの問題を提起しているとアジアと西側諸国の外交官は指摘する。
「それは執拗なものだ。こんなことは何年も目にしたことがない」とアジアに拠点を置く西側の公使は語る。
中国は、このような領有権問題は国際仲裁ではなく、二国間協議によって解決されるべきとの同国の主張を40カ国以上が支持していると述べているが、公の場で中国への支持を表明した国はほんの一握りだ。
今回の裁定は、単に南シナ海の領有権にとどまらず、中国の台頭がもたらす、より広範な米中の緊張関係を物語ることになる、と中国と西側双方のアナリストは指摘する。
「これは、米国の優位性の衰退を露呈するものだ」と香港にある嶺南大学で中国安全保障問題を専門とする張宝輝氏は語る。
「中国の行動に指図はできないと米国に示すことで、中国は自らの評判を高めることができる」
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<中国とフィリピンの主張>
フィリピンが自らの主張の拠り所にしているUNCLOSは、島や岩礁などのさまざまな地理的な特徴から、どのような領有権を主張できるかを規定している。中国はこの条約の調印国であり、これは同国が国連に加盟後、最初に合意した国際条約のうちの1つだ。
とはいえ、中国は、南シナ海の大半において同国が議論の余地のない、歴史的権利と主権を有しているため、今回の問題はUNCLOSやハーグ裁判所の権限を超えていると主張している。
中国は、いわゆる「九段線」を基準に自国の領有権を主張する。それは、第2次世界大戦で日本が敗戦した後で、地図上に引かれた、境界があいまいなU字型の破線だ。
フィリピンが訴えた15項目では、中国の主張する領有権と、豊かな漁場であり、エネルギー資源の宝庫でもある7つの岩礁における同国の埋め立て工事の正当性に異議を唱えている。
また、フィリピンは、UNCLOSで認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)で開発を行う自国の権利保障を求めている。
フィリピン政府の弁護士チームに近い関係者は、海上における中国の今後の行動に大きな圧力をかけるに足る、十分な項目において有利な裁定を得ることができるだろうと自信をのぞかせる。
昨年11月にフィリピンが法廷で展開した主張の多くは、難解な法律用語で表現されていたが、中国が建築を進める工事の規模を強調するため、弁護士チームは1つのスライドショーを用いた。
それには、オランダ首都アムステルダムにある広大なスキポール空港が、中国が南沙(英語名スプラトリー)諸島のスビ礁に設置した新たな滑走路にぴったり重ね合せられていた。
「裁判官が全員スキポールを利用していたことを知っていた」とフィリピン政府の弁護士チームに近い関係者は話す。「彼らには真意が伝わったと思う」
<統一行動はできるか>
裁定を控え、英国やオーストラリア、日本などの国々は、米政府ともに、航行の自由や法の秩序を尊重することの重要性を強調している。
米国は東南アジア諸国にも、この問題で統一戦線を張るよう働きかけているが、まだ成果は上がっていない。
仲裁裁判所に自国の主張を伝え、独自提訴の可能性も排除しないベトナムは1日、仲裁裁判所が「公平で客観的」な裁定を下すことを求めた。
主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)は、中国の反対があったとしても、裁定は拘束力を持つべきだと述べている。
ベトナムは、裁定を支持するとの見解を裁判所に提出した。
法律の専門家は、裁定は技術的に拘束力があるとはいえ、UNCLOSの裁定を執行する機関が存在しないと指摘する。
また、アジアの軍や政府当局者の間では、いかなる裁定が下されたとしても、中国は新たな軍事行動や工事増強によって自身の主張を強調しようとするのではないかとの懸念が強まっている。
中国は、南沙諸島の新たな施設で戦闘機やミサイルを配備したり、防空識別圏の設定、あるいはフィリピンとともに実効支配する浅瀬で新たな埋め立て工事を開始したりする可能性があると米国やアジア域内の軍事当局者は指摘する。
岩礁は中国の領土であり、米国の挑発に対抗するため自国領土に「自己防衛」設備を設ける権利があると中国は主張している。
中国がフィリピンに近いスカボロー礁付近でも、岩礁の上に建造物を設置して恒久的な海上プレゼンスを確保するのではないかと、米当局者は神経を尖らせている。
中国の劉大使は、南シナ海ではさまざまな民間設備が完成もしくは建造中だと述べた。同大使は、軍事施設も建造中だと認めている。
「中国はなぜ軍事施設を建造してるのかとの質問を受けたが、それは米国に問うべきだ。彼らがわれわれを脅かしてきた。
われわれが脅かしているのではない。彼らはすぐ近くにいるのだ」
マレーシアとベトナム、ブルネイ、台湾が領有権を主張する海域で、米国は自らの軍事プレゼンスを高めてきた。
フランスは欧州諸国も南シナ海における共同パトロールに参加するよう提案している。
米国の取り得る対応としては、軍艦による航行の自由作戦の強化や、軍用機による領空通過、もしくは東南アジア諸国に対する防衛協力の強化などが含まれる、と米当局者は匿名を条件に語った。
中国は領有権問題を二国間協議で解決することを望んでいると劉大使は語る。「これらの国と戦争はしないし、戦いを望んでいない。
それでも、われわれは、島々の主権を主張する」
以上、ロイター記事
中国を育てたのは、アメリカであり、そのツケがこのようにやってきた。
中国は、欧米によるアジア、アフリカ植民地時代と同じような時代感覚で侵略を行っており、手段選ばずの考えだから、行きつく先には、戦争が待っている。
中国って、本当に大ウソつきだから困ったものです。