白鵬は、まだまし?!
思わず本音が出てしまったのだろう。初場所を全勝優勝で飾ったまではよかったが、翌日の会見でまさかの審判批判を繰り広げた大相撲の横綱、白鵬(29)=本名、ムンフバト・ダヴァジャルガル。後日、テレビ局のバラエティー番組に出演し、謝罪の姿勢を見せたが、問題はいまだにくすぶっている。だが、この角界。白鵬の振る舞いはいただけないものの、それがかわいく思えるほど過去にはこんな豪傑が…。
1月26日の会見で白鵬が言及したのは13日目の稀勢の里戦。2人とも土俵の外に出るのがほぼ同時と判断され、白鵬は取り直しの末に勝利を収めた。だが、本人はあくまで1回目の取り組みで勝っていたとし、「子供が見ても(勝っていると)わかる相撲」と、審判団にかみついた。反響はすさまじく、翌日には相撲協会に100件以上の苦情が寄せられたという。
しかし、過去にも問題行動で世間を騒がせた横綱は少なくない。
その1人が第35代横綱・双葉山。白鵬本人も尊敬する横綱で、1939年の初場所まで続いた69連勝の記録は、76年がたつ現在も破られていない。だが、実はこの双葉山、引退し、断髪を済ませた後の47年に逮捕されている。
理由は、双葉山がハマっていた新興宗教だった。当時、石川県金沢市で璽光尊(じこうそん)を名乗る女性教祖が戦後の世直しと称し、「東京が火の海になる」などの過激な予言で信者を集めていた。事態を重く見た当局は同年1月に教団を摘発。内部に踏み込むと、そこにいたのは何と、教祖を守ろうと仁王立ちになっている双葉山だった。
太鼓のバチを振り回して複数の警察官と大立ち回りを演じた双葉山は、教祖らとともに逮捕。これがきっかけとなり、双葉山はマインドコントロールから覚めるが、社会を大きく騒がせた。
今年1月の初場所では、第48代の大鵬が持っていた優勝回数32回の記録を白鵬が44年ぶりに塗り替えたことでも話題となった。2年前に亡くなった大鵬は、白鵬が「角界の父」と慕った人物だが、土俵の外では65年、巡業先のハワイで拳銃を不正入手していたことが発覚し、世間を仰天させている。
当時の大相撲界は、大鵬と第47代の柏戸の両横綱が活躍する「柏鵬時代」を迎えていたが、柏戸も同様にハワイから国内に拳銃を持ち込んでいた。警察の調べに2人とも「怖くなり隅田川に捨てた」などと証言したため、舟を出して捜索が行われた。両横綱が書類送検される前代未聞の事件だったが、協会からの処分は「けん責」にとどまった。
ほかにも、第39代の前田山は49年の大阪場所を大腸炎を理由に途中休場。休場届を出しに行ったその足で、来日していた米サンフランシスコ・シールズと巨人軍の日米野球を見に行ってしまった。シールズの監督と握手する写真が新聞に掲載されると「無責任だ」との声を浴び、引退を余儀なくされた。
今回の白鵬の暴走について、相撲ジャーナリストの荒井太郎氏は「以前、モンゴル巡業に同行取材したことがあるが、日本との国民性の違いに驚いた。チンギス・ハンを生んだ国であるためか、『強い者が偉大』であり、周囲は横綱という存在に尋常ではないリスペクトを抱いていると感じた。そうした環境で育ったため、今回のような発言に至ったのではないか」と話す。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を理解できる日はくるだろうか。