紅茶の一期一会

紅茶歴(だけは)10年以上の管理人が、
主に、購入した紅茶の感想を書いています。

吉田秀和氏の訃報に触れて

2012-05-30 20:24:31 | その他のWeblog
「音楽評論家の吉田秀和さん死去 98歳」(朝日デジタル)


当BlogのCD感想の大半は、
ゲームやアニメのサウンドトラックについてのものである。

しかし、私が持っているCDの7割以上はクラシック。
クラシックCDの感想記事が少ないのは不自然に思われるかもしれない。

これには理由がある。


私の持っているクラシックCDは、
そのほとんどが、1954年の前後10年に録音されたものである。

当然、既に、何人もの先人が感想を書いている。

今の自分が、これらの感想に付け足すことがあるのだろうか。
自分が書くまでもなく、言い尽くされているのではないか。


先人たちに対して、こうした思いを持つことが多かったからである。


こうした先人の筆頭が、吉田秀和氏である。

氏は、自分にとり、音楽と、その評論における師であった。

吉田秀和氏の著書『名曲300選』『世界の指揮者』は、
私のクラシック鑑賞の指針であったし、今なおその指針であり続けている。


吉田氏の文章には、その音楽を聴いてみたいと思わせる魅力がある。
そして、その音楽を聴いた後、再度文章を読み返すと、
これ以上に的確で豊かな表現があろうかと思わせるものがある。

恐らく私は、氏の文章の何割も理解できていない。
それを芯から理解するための、音楽や教養の知識、経験が不足しているからである。

だが、そんな自分でも何となく伝わるものがあるのだ。

また、音楽、演奏の分析の仕方についても、
音階の上がり下がり、楽器の使い方などの、
客観的な面をも根拠にしているがゆえ、説得力が大きい。

しかし、こうした分析の冷静さがありながらも、
その文章には、温かみがあり、上品さにあふれている。

自分も、このような文章を書きたいと思い続けてきた。
しかし、やはり、それは凡人には出来ない事なのであった。


そんな自分が音楽の感想を書く際、心に留めている氏の言葉がある。

1年ほど前だったか、レコード雑誌の企画で、吉田秀和氏を取り上げたものがあった。
そこで「演奏会の批評をどのように書いたらよいのか」を問われ、氏が返した言葉である。


「聴き終わった後に、何かこれだけは言っておかなければならないというものがあったはずです。
 それを書いて、最後に『よかった』と書く。それでいいのです。」




心よりご冥福をお祈りいたします。


○参考文献
Amazon:『名曲三〇〇選―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)』
Amazon:『世界の指揮者―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)』