紅茶の一期一会

紅茶歴(だけは)10年以上の管理人が、
主に、購入した紅茶の感想を書いています。

コンヴィチュニーの新世界 ~ゆったりとした木目調の響き~

2009-08-31 12:36:14 | 音楽系
久しぶりにクラシックの話題ですな。
今日は『交響曲第9番 新世界より』の「コンヴィチュニー指揮、バンベルク響」の演奏を取り上げます。
『交響曲第9番 新世界より』と言えば、ドヴォルザークの有名な曲でありますね。
この交響曲の第2楽章の冒頭部分が、『家路』という良く知られた曲のフレーズである事がその理由の1つでしょう。
しかし、私自身この曲がそれほど好きというわけではありませんでした。
やはり、心揺さぶられる演奏に出会わなければよく聴く曲とはならないようで、この曲も多分に漏れずそうでしたね。

 最初に感銘を受けたのは「フリッチャイ指揮、ベルリン・フィル」の演奏でした。
厚みのある低弦に支えられながらも、情緒あふれる演奏でありました。
特に2楽章の哀切さといったら感涙モノです。白血病で死が迫っていたフリッチャイ先生が指揮するところを想像してまた涙という感じでしたね。
私はこの盤で『新世界より』が好きになりました。今でも一番よく聴くのはこのフリッチャイ盤です。
 他に好きなのは「ノイマン指揮、チェコ・フィル(1972年)」の演奏です。
この演奏は、始めて2楽章を聴いた時に、なぜか夕焼けの公園で父親と娘さんが遊んでいる光景が思い浮かんでしまった演奏です。
クラシック音楽を聴いていて不思議なのは、歌詞がないにも拘らずこういう場面が思い浮かんでしまうことがあるところですね。
しかし、こういう体験はごく稀にしかないので、この演奏は貴重ですね。
この演奏は、ピッチが少し高いように感じます。それがまたなんとも夢幻的です。

 さて、前置きが長くなりましたが、コンヴィチュニー先生の演奏に行きましょう。
フランツ・コンヴィチュニーという指揮者は当Blogでも時々名前を出しています。(ベートーヴェン9番とかベートーヴェン7番。)
個人的なコンヴィチュニー先生に対する印象は、「ゆりかごの様な安心感、安定感と、曲の生命力の自由闊達な表現を両立できる方。」といったものです。(ベートーヴェンの全集と、モノラル録音の英雄、田園を聴く限りの印象です。)
そんなコンヴィチュニー先生がバンベルク響と録音した新世界の演奏が発売されるとなれば、買うしかないでしょう。(爆)
お値段は懐にやさしい1260円です。しかし、価格に似合わず演奏は期待を裏切らない素晴らしいものでした。(クラシックでそういうことは非常に多い。)

 例えば2楽章は、良く歌い非常に味わい深いです。木目調というか、ぬくもりのある素朴な響きですね。
バンベルク響の母体はチェコのオーケストラのようですが、そういったところが影響しているのでしょうか。
4楽章はノりにノってます。きびきびとした演奏ですが、重量感は失わず一枚板です。
全楽章を通じて、1つの楽器が飛び出しすぎない。飛び出そうとすると、他の楽器がサポートするような感じでしょうか。
こうしたところから、演奏に安定感が生まれているのではないかと思います。楽器で音楽全体をバランス良くコーディネートしているように聴こえます。
 テンポ的には、始めて主題を聴いたとき、あれっとなるような感じが一部でありました。
しかし、主題の繰り返しを何度も聞いていると、これはこれでいいような気がしてきます。
これは不思議です。まるで子守唄のようです。何度も同じような音階をやさしく繰り返されると、心地よくなってくるあの感じです。
コンヴィチュニー先生の演奏はどれもこういう雰囲気があるように思います。他の指揮者では聴けない大いなる美点ではないでしょうか。
 また、CDの音質も非常に良好です。よく響き、低弦の動きが良く聴きとれます。
楽器のニュアンスもわかりやすい。イングリッシュホルンのふわぁっとした味わい深さも、この音質ならよくわかります。

 以上より、個人的に「コンヴィチュニー指揮、バンベルク響」の新世界は買ってよかったと思える素晴らしいCDでありました。
『新世界より』という曲が好きな方は(もちろん好きでない方も)、是非聴いてみていただければと思います。

他者との共生のコツを説く~『Papa told me』という漫画~

2009-08-27 20:13:55 | その他のWeblog
最近私の書棚に漫画の量が増えてきました。
元々ほとんど活字の本しか読まない人間であります。
しかし、やはり良いものは良いので、つい買ってしまいますね。
ずいぶん昔の記事で、『AQUA』『ARIA』という漫画が素晴らしいという内容のものがあったと思います。
今回取り上げるのは『Papa told me』という漫画です。
もうかれこれ20年以上、現在進行形で続いているシリーズであります。
今は27巻+2巻の計29冊出ています。最新刊が出たのが今年の4月です。

この漫画は、短編のお話が集まったような感じの構成になっています。
総論的には、父子家庭の娘さんとその父親の身の回りで起こる出来事についてのお話であるといえましょう。
さて、この漫画の主人公とされる娘さんは、的場知世ちゃんという小学3,4年生位の女の子です。
この子が、自立的かつ非常に頭の良い子なのです。こういう女の子なら是非嫁にしたいと思うほどであります。(爆)
(まあ、知世ちゃんの意中の人はお父さんだけみたいです。このお父さんがまた素敵な方なのです。)
この知世ちゃんは観察力、思考力、感受性が抜群に優れているため、身の回りの社会に対する矛盾に疑問を抱くわけですね。
例えば、父子家庭であることに対して可哀想であるとの評価を下す人間がいるとします。
こうした人間に対して、知世ちゃんは「自分は父子家庭だけれども、優しいお父さんがいて幸せである。可哀想なんかではない。なぜ可哀想などというのか。」といった趣旨のことを言うのです。
すなわち、父子家庭=不幸せという既存の価値観に対して、そうとは限らないという疑問を呈するわけですね。
『Papa told me』のほとんどの話に、こうした既存の価値観に対する、知世ちゃん(や他の人達)の疑問が挟み込まれております。
また、こうした疑問と共に、既存の価値観に縛られた人々から傷つけられる人間というのも描かれます。
ゆえに、既存の価値観に賛同しきれない人間の共感を呼ぶのであろうと思います。(ほとんどの人がそうした人間でしょうし、私もそうであります。)
漫画中で彼女が発する「『ほとんど』と『すべて』じゃまるで違うよね。」という台詞が象徴的です。

既存の価値観への疑問ということで、どちらかというとラジカルな漫画なのでしょうが、作風としてはほんわかした印象で押し付けがましくありません。
ふっと笑みがこぼれるような優しい作風で、現代の童話と評される所以であると思います。
また、自分が自明としていた事柄に対し、疑問を抱く知世ちゃんの考えに膝を打つことも多く、知的な刺激もいっぱいであります。
こうした意味で、非常に好きな漫画なのです。

この漫画を読んでおりますと、人の苦しみが生まれる理由のひとつが浮き彫りになってくるようです。
それは、ある価値観を一方的に押し付けられるというものです。
この点が『Papa told me』のお話の中の登場人物が苦しむ共通の理由になっているのです。

こうした苦しみをできるだけ引き起こすことなく、自分を守りながら他者と共存していくにはどうすれば良いのでしょうか。
私は、この漫画が①他者の価値観を尊重する。②自分なりの主体的な楽しみを持つ。という方法を提示していると考えています。
私も、こうした想像力を活用する方法には賛成であります。
憲法にも『思想・良心の自由』が規定されています。
この自由は①の大切さを踏まえて規定されたものでありましょう。さらに、②の前提となる自由でもあると思います。
劇中の知世ちゃんや他の人も、想像力を発揮して人の苦しみを感知したり、身の回りに小さな楽しみを見つけ出したりしています。

『Papa told me』という漫画は、このような想像力の大切さや、これを養う必要性を教えてくれます。
想像力を縦横無尽に使うこと、それは豊かな人生を送る重要な鍵であったのです。
豊かな人生を送りたいと思っている方は、この漫画を読まれると非常に参考になると思いますよ。(なにかの宗教みたいですな…。)
また、想像力の欠如した政策などを遂行していらっしゃる方々は、是非この漫画を読んでいただいて、その意味を汲み取っていただきたいと思いますね。


P.S この漫画には『完全版』なるものが出ています。(全3冊)
しかし、この『完全版』には、単行本版の全ての物語が収録されているわけではありません。
よって、『完全版』でこの漫画に嵌ってしまうと、『完全版』に載っていない話を読むために、改めて単行本を集めることになってしまいます。(こうなったのは他ならぬ私です…。)
したがって、金銭的に余裕のない方は、単行本の1巻から買われることをお勧めいたします。
(選び抜かれた物語を収録した『完全版』の利点も、捨てきれないところはありますが…。)