続・休眠担保権の抹消と「所在不明」

2012-10-08 19:07:16 | Weblog
続・休眠担保権の抹消と「所在不明」
月報司法書士2012年7月号に、休眠担保権の抹消をめぐって懲戒がなされた事例が掲載されている。

事案は、司法書士が依頼者(土地所有者)から抵当権者であるCが死亡し、その相続人の一人であるDが存在することを聞いていたにもかかわらず、Cの死亡及び同人の相続人の存否に関して、住民票及び戸籍簿の調査等を行わないままに、受領催告通知が「宛所不明」として返戻されたことを受けて、弁済供託のうえ、抹消登記をした、というものである。

処分の理由として、「本件抵当権抹消登記申請が不動産登記法70条3項後段の規定に該当しないことを認識していたにもかかわらず、登記権利者の代理人として申請をしたものであって、『会員は、法令又は依頼の趣旨にそわない書類を作成してはならない』とする○○司法書士会会則90条の規定に違反し、・・・」としている。そして、3カ月の業務停止という重い処分がなされている。

確かに、抵当権者の相続人の一人が判明している場合(ただし本件において、Dの所在まで分かっていたのかどうか不明)には、「登記義務者の所在が知れない」とはいえない。供託書に「被供託者は、数年来その所在が不明であるため」などと事実と違うことを書くのも問題である。知ってしまった以上、それを無視することはできない。

ところで、疑問なのは、登記義務者の調査をどこまでしなければならないかである。本件においては、調査を尽くさなかったことをもって懲戒がなされているわけではない。もし、一般的に、住民票及び戸籍簿の調査を経てからでなければこの特例を使えないとされてしまうと、これを使えるケースはかなり減るだろう。
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不在住・不在籍証明書が必要ですよね。
http://inakashihou.blog.fc2.com/?no=14
休眠担保権の抹消と「所在不明」
Q:所有者をAとする甲土地の登記簿に、明治40年に登記された抵当権者を「○○郡○○町123番地 山田太郎」とする抵当権設定登記がある。Aは「山田太郎」という名前を聞いたこともないが、同じ住所に同姓の山田三四郎という人物が住んでいるのを知っている。この「山田太郎」名義の抵当権を抹消するためにはどうすればよいか。


A:不動産登記法70条3項後段は、「登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができない」場合において、「被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたとき」には、「登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる」としている。
 ここで「登記義務者の所在が知れない」とはどういう場合を指すのかが問題になる。
この点について、単に登記義務者の所在を知らないというだけでは足りず、住民票や戸籍簿の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等相当な探索手段を尽しても、なお不明であることを要する、との見解がある。
 他方、登記実務においては、登記義務者の登記簿上の住所に宛てた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面(配達証明付き郵便による)や民生委員が登記義務者がその登記簿上の住所に居住していないことを証明した書面等を、登記義務者の所在が知れないことを証する書面として、この特例(不動産登記法70条3項後段の特例)を適用することが認められている。
 なお、登記名義人が死亡し、その相続人の所在が判明している場合には、その相続人についてこの特例を適用することはできないとされている。

 登記実務上は簡便な方法で抹消が可能なのであるが、「相当な探索手段を尽くす」という要請とどう折り合いをつけるかが問題となる。
 実際に、抵当権の登記名義人の相続人に対し、受領催告書を受け取らないよう依頼したうえで、受領催告書を送付し、供託の方法で抹消した事案において、懲戒処分がなされた事例がある(月報司法書士2009年5月号)。
 しかし、探策手段を十分に尽くすとすれば、戸籍調査等によって登記名義人の相続人の所在が判明することがほとんどであるから、この特例を使える場面がほとんどなくなってしまう。

 いろいろな場合が考えられるが、次の4つの場合を想定してみる。なお、抵当権の登記名義人は死亡している(であろう)ことを前提とする。
(1)抵当権の登記名義人やその相続人を知らず、登記簿上の住所にも家屋がない、または他人が住んでいる。
(2)抵当権の登記名義人を知らないが、登記簿上の住所には同姓の者が住んでおり、その者は抵当権の登記名義人の相続人の可能性がある。
(3)抵当権の登記名義人の相続人(の一部)の所在を知っているが、登記簿上の住所には家屋がない、または他人が住んでいる。
(4)抵当権の登記名義人の相続人(の一部)が、登記簿上の住所と同一の住所に住んでいることを知っている。

 まず、(1)の場合には、登記簿上の住所にあてて受領催告書を送り、それが不到達であれば相当な探索手段は尽くしたものとして特例を使って問題ないだろう。
 (3)の場合、登記簿上の住所にあてて受領催告書を送れば、不到達になるので、書面審査しかしない登記手続においてはこの特例によって抹消登記をすることは可能である。しかしながら、実体法上は登記義務者の所在が知れているのにこの特例を使うことは違法なものとなる。
 ただ、よその家からみて、ある親子が親子に見えるからと言って、本当に親子であるかは戸籍を見てみないと分からないものであるし、また、ある人が登記名義人の相続人の1人であるからといって、その被担保債権及び抵当権を相続しているかどうかは分からないものである。
 (2)の場合、民生委員の協力が得られるのであれば、その証明書でもってこの特例を使っても差し支えないように思う。ただし、もっと探索手段を尽くすべきとの立場もあろうとは思う。
 民生委員の協力が得られない場合、登記簿上の住所にあてて受領催告書を送れば登記簿上の住所に住んでいる者が受け取ってそれが到達してしまう可能性がある。
 ところで、本人限定受取郵便で送った場合には、宛て所に尋ね当たらずで返送され、なおかつその住所の者に差出人が知られることもないのだろうか。このあたりは分からないが、もしそうであるとすれば本人限定受取郵便を利用することも考えられる。
 受領催告書が到達してしまう可能性がある場合や、登記簿上の住所に住んでいる者に差出人が知れて不審に思われる可能性がある場合には、あらかじめ登記簿上の住所に住んでいる者に断ったうえで送るというのも一案である。ただし、そのように断ることは、かえって話をこじらせてしまうリスクも伴う。
 (4)の場合については、上記(2)および(3)の場合の記載をもって参考にされたい。



以下対極的な立場を紹介する。

 九州地方の某司法書士のHPによれば、抵当権の登記名義人やその相続人を知らない場合にもかかわらず、わざわざ戸籍謄本等を調査し、相続人が多数いることが分かったので、相続人全員を相手として抹消登記手続を求める訴訟を提起し、判決をもって抹消登記をしたことが解決事例として載っている。それだけの手間、時間、お金をかけて抹消したことが本当の意味での「解決」だったのだろうか。


 他方、有限会社煌雅堂という会社のHPには次のようなことが記載されている(http://www.kougadou.jp/report00151.html)。なお文中「300万円位の費用」というのは大げさだろう。

問題は登記義務者の「所在が知れない時」の解釈の仕方で、登記研究専門書には「単に登記権利者が登記義務者の所在を知らない、というだけでは足りず、住民票や戸籍等の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等、相当な探索手段を尽くしても、尚不明であることを要す」とある。通常司法書士はこの文言を重視し、かつ遵守する。そうすると例えば、今回の相談者の様に100年も前の休眠担保権の場合、おそらく債権者は亡くなられている可能性が高いし、相続人もどれ位存在するか皆目判らない。探偵のような聞き込み調査をして、かつ戸籍を取り相続関係説明図を作成し、それぞれの相続人の所在が不明か否かを振り分ける。作業内容やそれに要する時間、そして費用は膨大なものになる。全く効力が無いも同然の権利を抹消するのに、2~3年を費やし、300万円位の費用を要すると思うが、尚抹消できるかどうか断言できない、というのが大体の司法書士の回答である。費用対効果から、普通は売買を諦め休眠担保権は更に深い眠りに入る、という訳である。
本音と建前
 法の専門家である司法書士が、法や通達に則して判断するのは至極同然である。但し、誰が見ても理不尽な事案の解決法を、全く見出そうとしない姿勢は役人の考え方と同じであまりにも芸が無い。要は大局観が欠けているのだが、前記した様に厳密に遵守すると、とても間尺に合うものではない。それではどうしたら良いのか?まず司法書士が菓子折りを持って登記簿に記載されている抵当権の債権者の住所を訪ね、相続人に休眠担保権の話をする。もちろん本来の手続きの不合理性、つまりどれ位理不尽な事なのかを話す。そして郵便で債権者宛に書面を発送するが、受取人不存在で送達不可にしてもらう様お願いする。送達不可が「不存在証明書」となり、これを添付して債権額等を供託して抹消が可能になる。担保登記名義人の現在の所在も死亡の有無も不明であれば、それを証する書面添付でOKなのである。要は法務局はあくまで書面主義なので、抹消する為の書面だけ完備していれば、実体はどうあれ抹消する。建前論を重視すればとても引き受けられない仕事だが、機転を働かせれば解決できる、というのが本音の部分である。

http://inakashihou.blog.fc2.com/blog-entry-10.html

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