2016.03.02(水)【清算人は独立の登記?】(金子登志雄)
会社が解散し、株主総会で清算人としてAを選任すると、登記記録にAの就
任年月日が記録されません。
これにつき、松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』703頁には
「最初の清算人に関する登記は、独立の登記であり、その就任の登記………に
おいて、就任年月日………は公示されない(昭41・8・24民甲2441号
回答)」とありました。
最初の清算人の登記は独立の登記だからという理由ですが、これでは何のこ
とか分かりません。私の推測は、清算株式会社の「設立」に準じるから、設立
後最初の取締役と同様に就任年月日を書く意味がないというものです。
ここで疑問が生じました。解散と同時に、監査役を選任した時、就任年月日
は記載されるのでしょうか。
独立登記説では、監査役の登記は独立の登記とはいえないので、就任年月日
が登記されるということになりそうですが、会社設立登記に準じるからという
私見によると登記不要説になりそうです。
そこで、会社法477条6項に指名委員会等設置会社が解散したら監査委員
が自動的に監査役になるとあったので、その登記記録例をみましたら、案の定、
就任年月日が記載されていませんでした。
やはり登記不要が正しそうです。
2016.03.01(火)【マイナンバーカード】(島根・根来川弘充)
マイナンバー制度がはじまって、マイナンバーカードを申請されている方も
おられると思います。
先日、「マイナンバーカード申請をした。」という方のお話をお聞きしまし
た。その方のお話では、書類を2、3枚書いて、運転免許証の写しをつけてマ
イナンバーカードの交付を受けたそうです。
一人につき、3枚程度の書類ですが、わが島根県の人口が約70万人ですの
で、県民全員が登録するとなると210万枚の書類になります。
別なところで、知り合いの税理士さんから、マイナンバー制度のために、金
庫や部屋を増やしたというお話も聞きました。
改めて、各市町村役場によるこれらの書類の管理は、大変なものだろうと思
いました。
マイナンバーカードの申請をすると、いろいろ特典もあるようですが、私自
身は、もう少し見守りたいと思います。
2016.02.29(月)【清算結了の申請人】(金子登志雄)
あれ、今年は閏年なんですね。今、はじめて気づきました。いかに、会社法
及び商業登記オタクの生活を送っているかの証左ですね。いや、書き物に忙し
く精神的ゆとりがないのかな。気の毒な私です。本徒然を書くときだけ我に返
ります。
さて、金曜日に、退任した取締役は、もう取締役ではないのだから、株主総
会議事録の作成者になるのはおかしいともいえると話しましたが、次の点は、
どう思いますか。
1.設立登記の申請人
会社が設立されていないのだから、代表取締役もいないのに、設立登記の申
請人を代表取締役とするのはおかしいじゃないか。
おかしいですよね。しかし、商業登記法は、そういわれることを予測してい
たのか47条1項で、「設立の登記は、会社を代表すべき者の申請によってす
る。」と手当てしています。
2.合併解散会社の申請人
合併解散で会社が消滅したら、誰が登記するのか。
これも商業登記法は予測しており、82条1項で、吸収合併後存続又は新設
する会社を代表すべき者が吸収合併消滅会社を代表すると定めています。
3.清算結了の申請人
清算結了して会社がなくなったのだから清算人もいないのに、清算結了の登
記申請は誰がするのか。
これ、明確な規定がないのですが、清算結了後も清算人はいるらしいのです。
会社法508条1項に「清算人は、清算結了の登記の時から十年間、清算株式
会社の帳簿資料を保存しなければならない。」とあるのです。
どう考えても「元」清算人ですよね。どうも会社法では、元清算人も清算人
というようですから、清算結了登記も(元)清算人の申請でよいのでしょう。
こんなことを考えていると、今日が閏年であることになかなか気づかないの
も無理ありませんね。
2016.02.26(金)【株主総会議事録作成者】(金子登志雄)
昨日はお客様から「子会社の定時株主総会で代表取締役が任期満了退任する
のだが、いままでのように株主総会議事録の作成者として、この者を記載する
ことは無理だと思うので、その際に株主総会終結後に後任として就任する新取
締役でもよいか」という電話質問を受けました。
例えば、本日に定時株主総会が開催されたとしても、議事録の作成は月曜日
以降になるので、その時には前社長は退任しており、議事録作成者にはなれな
いはずだという自然な疑問からの質問です。
極めて、正常な感覚です。これが世間常識です。
にもかかわらず、旧商法に株主総会に出席した取締役は株主総会議事録に署
名する義務があると規定されていたためか、会社法になってからも、株主総会
に出席した取締役が議事録作成者だという主張が当業界では支配的です(松井
信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕149頁)。
退任してしまった人に「議事録を作成してよ」と頼んでも、「いや、もう退
任したので、他にあたってください」といわれたら、どうするのでしょうか。
また報酬でも支払って、無理にお願いするのでしょうか。
ということで、最近は、後任として選ばれた人でもよいとされています。そ
のことは一般の登記の本には書いてないようですが、拙著『事例で学ぶ会社法
実務〔設立から再編まで〕』182頁には詳細に書いてあります。当然ながら、
東京法務局も後任新取締役でもよいとしています。
こういうことを知らない司法書士が多いようですが、松井本などを読んだと
きに自然な疑問がわきませんでしたか。わかないとすると、司法書士以外の世
界との交流が薄いのかもしれませんよ。
もし、最初の質問に私が「前任者に限られます」と答えたら、きっと「なぜ
だ、おかしいじゃないか」と追及を受け、「変なことをいう司法書士」と思わ
れて次回から仕事が来なくなるでしょう。企業法務に従事していますと、こう
いう一般人の正常な感覚に敏感でなければなりませんが、幸い、私は非司法書
士との付き合いが多いので、大丈夫のようです。最初に質問にも、理由付で回
答したため、納得してもらえたようです。
2016.02.25(木)【債務超過と時価と企業価値】(金子登志雄)
旧商法時代は合併消滅会社が債務超過だと合併が認められていませんでした。
マイナスの出資になり合併会社の資本充実にならないからという理由です。
そこで、債務超過の100%子会社を吸収合併する場合は、子会社に増資し
て債務超過を解消するか、子会社の財産を時価換算すれば債務超過でないとい
う上申書を添付して合併していました。
しかし、昨日の本欄のように、債務超過でも企業価値はあります。そもそも
債務超過は簿価基準か時価基準かも旧商法時代は不明確でした。そこで、会社
法はいかなる意味で債務超過でも合併や吸収分割が可能だとしました。
3つに分けて考えるべきです。
① 簿価で債務超過
② 時価で債務超過
③ 企業価値
③がマイナスということは、ありません。シャブ中の清原株式会社も企業価
値はあります。そうでないと、合併比率も出せません。
①と②は合併の際の財産受入れ方法の問題であり、合併できるかどうかとは
無関係です。
①は同一企業グループ内の合併(親子兄弟会社の合併など)での財産の受入
れ法であり、②は第三者間合併での財産受入れ方法です。
①の方法で合併すると、合併会社の財産が減少しますが、合併株式を発行す
ることができます。マイナス財産を受け入れて株式を発行することができるの
かと会社法制定時は驚かれたものですが、この発想こそ「債務超過=株式価値
ゼロ」の禁句です。合併は企業価値を取得することですから、会計処理と区別
して考えるべきです。
詳細は拙著『親子兄弟会社の組織再編の実務』に記載してあります。
2016.02.24(水)【債務超過と株式価値】(金子登志雄)
司法書士や税理士から、合併消滅会社は債務超過なので株式の価値がないか
ら無対価合併にしたいという相談がよくあります。
さて、次の債務超過会社の価値はいくらでしょうか(自己資本のところをみ
れば債務超過かどうかが分かります)。直近の四半期報告書では増資したのか
少し改善され1億7000万円の債務超過でした。
http://profile.yahoo.co.jp/independent/3318
価値がないどころか、時価総額(株価×株数)は50億円です。
http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=3318.T
このように、「債務超過=株式価値ゼロ」というのは大間違いです。数字に疎い司法書士では許されても、税理士などがこれを言い出したら、恥ずかしい
ことです。
上記の会社は上場廃止の可能性があるようですが、それでも、従業員800
人以上もいるりっぱな会社です。
企業法務に従事する司法書士の皆さんは、「債務超過=株式価値ゼロ」は禁
句にしてください。債務超過でも、将来の投資のために債務超過になっており、
そのうち急成長するベンチャー企業はたくさんありますので。
全く比喩にもなりませんが、仙台の立花司法書士は、もっか急成長中のベン
チャー司法書士です。己に投資してきた知識や技量が徐々に花開いてきたとこ
ろでしょうか。努力は実るというよいお手本だと思っています。
2016.02.23(火)【立花論文拝読】(金子登志雄)
立花さん、月報司法書士No.528の「株主総会の実務」、拝読いたしま
した。筆頭論文で写真入り、すごいじゃないですか。
たいへんな労作ですね。どこかで読んだような内容が全くなく、自分の頭で
考えて調べた内容ですから、相当時間がかかったでしょう。
たぶん、読んだ司法書士は永久保存版として保管したことでしょう。松井本
や江頭本にも書いてない内容ですから、貴重です。私もパソコンに永久保存し
ました。
昨日の徒然に登場した中西敏和さんを特別講師に呼んで、私が東京司法書士
会で研究発表したのは平成12年でしたが、当時の論文をみましたら、写真付
きであり、私の髪も黒々としていました。いまは白髪7分咲きといったところ
です。
中西さんもトレードマークの太った体形でしたが、その後、だいぶほっそり
なさいました。なつかしい思い出です。
中西さんは日本を代表する株式問題の権威ですから、「さん」付けで呼ぶの
は失礼だといわれそうですが、実は、私は東洋信託銀行で数年先輩になります
ので、ご了承ください(私は入社数年早々に脱落したので、銀行員時代は当然
に面識はありません)。
立花さんのますますのご活躍を願っています。そのうち、機会がありました
ら、ぜひ、東京会でも講演してください。
2016.02.22(月)【議題の修正について】(仙台・立花宏)
先日、ある雑誌(月報司法書士No.528)に記事を掲載していただきま
した。
ボリュームのある原稿で、ずいぶん苦労しましたが、日本司法書士会連合会
の担当者の皆さまのご指導・ご協力のおかげで、なんとか無事、掲載にこぎつ
けることができました。担当者の皆さまに心より感謝を申し上げたいと思いま
す。
せっかくの機会ですので、掲載された記事の内容の中で、もう少し掘り下げ
てみたい点があり、この場をお借りして、記述させていただきます。
記事の中に、株主総会で動議がでた場合の対応について記載した部分があり
ました。「取締役1名選任の件」という議題の場合に、追加でもう1名、合計
2名の取締役を選任することが可能か、という点です。
この問題に対し、私は、招集通知に記載された議題の範囲を超えることにな
り許されないと記載しました。
これは、記事を執筆する上での参考にさせていただいた文献の見解に基づい
たもので、文献の見解は東京高裁平成3年3月6日判決に沿うものです。おそ
らく、実務上も、この考えに基づいて対応しているケースが多いと思われます。
では、議題に記載された員数を超えた役員が選任され、その旨が記載された
株主総会議事録が添付された登記申請は受理されないのでしょうか。
実は、これについては先例(昭和37年5月25日民四89号)があります。
「監査役2名選任の件」という議案に対して、監査役3名を選任した総会決議
を有効としたものです。
この先例の解説(登記研究176号)では、もともと、総会の招集通知には
選任する監査役の員数を記載する必要がなく(前記判例の見解とは異なる)、
たまたま員数が記載されていても、その記載は特に主要なものではないし、株
主が不利益を受けることも考えられず、許された範囲内の修正に該当するとし
ています(注:内容を要約しております)。
また、これが監査役の選任ではなく、取締役の選任でも同じ解釈が可能とい
う見解(別冊ジュリスト124号平成5年刊)もあるようです。
もっとも、上記先例があるからといって、たとえば、議題が「取締役1名選
任の件」となっているところ、取締役が2名選任された内容が記載された株主
総会議事録を添付した登記申請が受理されるでしょうか(取締役会設置会社で
あることを前提とする)。とても難しい問題だと思います。
個人的には、株主全員が出席し、満場一致で承認しているなど、株主に不利
益にならないことが明らかなケースであれば、有効と認める余地はありえると
しても、一般論としては、議題として員数を記載した以上、それはそれなりに
重要な意味をもつのではないだろうかと考えております。
実は、以前(平成12年)、金子先生がこの問題について詳細に分析され、
東京司法書士会の研究会で、発表をされていらっしゃいます。その研究内容を
拝見させていただく機会があったのですが、その研究の深さに感動するととも
に、自分の勉強の浅さを思い知らされることとなりました。
(前記の個人的見解は、この研究会において、金子先生とともに講演された中
西敏和先生(当時は東洋信託銀行。のちに同志社大学教授等を務められた)の
見解を参考にさせていただきました。)
実務上の対応方法については、金子先生の著書「事例で学ぶ 会社法実務」
東京司法書士協同組合編(中央経済社)166頁にも記載がありますので、ご
参考にしていただければさいわいです。
今回の記事を執筆させていただき、あらためて法務の難しさ、深さを知るこ
とができました。日本司法書士会の担当者の皆さま、そして、金子先生に感謝
申し上げたいと思います
ありがとうございました。
2016.02.19(金)【住所問題の締め】(金子登志雄)
金曜日です。先週から2週間にわたり規則61条5項問題を取り上げてきま
したが、虚しいものです。当局の方は本欄をみていないでしょうし………。こ
こで何を書いても、犬の遠吠えほどの効果もないでしょう。しかし、民間側の
意見として、主張だけはしておく必要があります。
今日は2週間の締めとして、もし「生年月日」で本人の実在性を証明するこ
とになったとしたら………、と考えてみました。きっと、次のような条文にな
っていたことでしょう。
「取締役等の就任による変更の登記の申請書には、就任を承諾したことを証
する書面に記載した氏名及び生年月日と同一の氏名及び生年月日が記載されて
いる本人確認証明書を添付しなければならない。」
もし、こうなった場合に、いくら東京法務局でも「規則61条第5項は就任
承諾書に取締役等の氏名及び生年月日が記載されていることを前提とした上で、
………本人確認証明書の添付を要することを規定しています。したがって、規
則第61条第2項………の場合であっても、当該取締役等の就任承諾書には、
当該取締役等の氏名のほか、生年月日の記載をも要することとなります。」と
は言い出さないでしょう。
本人確認のため(実在性の判定)には、住所である必要はないし、就任承諾
書記載の住所と本人確認証明書の住所が必ずしも一致する必要はありませんが、
規則61条5項に「同一の氏名及び住所」と、あえて「同一」が挿入されてい
るのは、「照合」のためです。
同2項は「書面の印鑑につき印鑑証明書を添付しなければならない」とする
だけで「書面の印鑑につき【同一の印影が記載されている】印鑑証明書」とは
なっていませんが、当然の前提です。住所の場合は、そう受け止められないこ
ともあるので、5項に、あえて「同一」を挿入したわけです。
2項につき、印鑑証明書の添付が必要だから実印を押さねばならないと解釈
するのと同様に、5項も本人確認証明書を添付するから就任承諾書に【照合の
ために】住所の記載が必要になるのであって、2項のときは住所の照合が不要
であることは明らかです。
条文規定からしても、立法経緯からしても、結果の妥当性からしても、従来
の見解が新見解に勝っています。早期に従来の解釈に戻っていただくことを切
望し、まとめとします。
2016.02.18(木)【住所記載が求められた理由】(金子登志雄)
なぜ、規則61条5項における就任承諾書に住所の記載が必要なのかにつき、
当時のパブコメにあります。
下記の「意見募集の結果」にある2番意見ですが、実は、これ私が一昨年の
11月15日に提出したものです。4番意見も私です。
http://is.gd/kyzEgX
(意見)
「就任を承諾したことを証する書面に【記載した住所につき】市区町村長そ
の他の…」とあるのは、住所を記載しない場合は住民票等の添付が不要である
と勘違いされかねず、また、住所の記載のない就任承諾書は認められないとい
う運用がなされる可能性があるため、「就任を承諾したことを証する書面に市
区町村長その他の…」とし、「記載した住所につき」を削除するのがよい。
(注)省略されていますが、同11月23日には「 すでに意見提出済みですが、
5項につき、就任承諾書や議事録での席上就任の場合に、取締役等の住所記載
が必須になるのかという不安が実務界で少なくありません(証券代行である信
託銀行等からも問い合わせを受けました。企業が証券代行部に問い合わせてい
るようです)。5項から「記載した住所につき」の削除をよろしくお願いしま
す。」とも、お願いの意見を出しています。
(回答)
個人を特定するには、氏名のほか住所の情報によって行う必要があるところ、
「記載した住所につき」を削除すると、【誰についての証明書を添付すること
となるかが不明確となることから】、「記載した住所につき」を削除すること
はできないと考えます。
なお、【御指摘の部分については、就任を承諾したことを証する書面に記載
した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の
公務員が職務上作成した証明書」と修正することとしました】。
上記の【 】部分は、ここで追加したものですが、要するに、「記載した住
所につき」という当初原案では、「住所の記載のない就任承諾書は認められな
いという運用がなされる可能性がある」から、削除してほしいという私の意見
に対し、商事課は「そういう誤解を招くとの指摘があったので、これを受け入
れ、その表現をやめて、こう変えた」と説明しているわけです。
また、住所の記載は証明書を添付するにあたり、誰のための証明書かを明ら
かにするためだと答えています。同姓同名者の存在を想定したものでしょう。
つまり、就任承諾書に住所を記載する必要はないが、印鑑照合で登記の真実
性を担保することができる場合を除き、本人確認証明書と「氏名・住所と同一
性を照合」する必要があるから、就任承諾書には結果的に住所の記載が必要と
なるという意味です(印鑑証明書の添付が必要になるときは結果的に実印の押
印が強制されるというのと同じです)。
東京法務局見解の「就任承諾書に取締役等の氏名及び住所が記載されている
ことを前提とした上で、取締役等が就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一
の氏名及び住所が記載されている本人確認証明書の添付を要することを規定し
ています。」は、順序が逆です。「氏名と住所の同一性を判断するために」と
いう目的のために住所の記載が求められたものです。
この前提が相違するため、「したがって、規則第61条第2項………による
取締役等の印鑑証明書を添付することにより、同条第5項ただし書の適用を受
ける場合であっても、当該取締役等の就任承諾書には、当該取締役等の氏名の
ほか、住所の記載をも要することとなります。」と東京法務局見解は飛躍して
しまうわけです。
それにしても、私の意見(心配)のとおりの結果になってしまいました。
2016.02.17(水)【実印か認印か】(金子登志雄)
この仕事に携わっておりますと、お客様から、この書類への押印は実印か、
認印かと聞かれることが頻繁にあります。他の司法書士も同じでしょう。
その時は、私は「印鑑証明書を添付せよと言われない場合は認印でかまいま
せん」とお答えしています。
そもそも実印か、認印かは、印影をみても分かりません。印鑑登録している
かどうかだけの差ですから。
私の世代では、実印はフルネームの重厚なもの多かったのですが、最近は、
まるで三文判と大差のない実印が多くなりました。上場会社の社長でも同じで
す。おそらく、こういう無意味なことに神経を使わなくなったのでしょう。
何をいいたいかといいますと、社会では、実印を押すから、それが実印であ
ることを証明するために印鑑証明書を添付するのではなく、逆に、印鑑証明書
の添付を求められているから実印を押すのです。
商業登記規則61条2項には実印を押せとはどこにも書いてありません。印
鑑証明書をつけよとあるだけです。
これをもって、印鑑証明書を添付したのだから、認印でもいいじゃないかと
いう論は成り立ちません。立法趣旨からして、印鑑照合することが前提になっ
ているからです。
同様に、本人確認証明書として住民票等の添付を求められているから、就任
承諾書に住所を書くのです。
東京法務局の文書には「就任承諾書に取締役等の氏名及び住所が記載されて
いることを前提とした上で」とありますから、就任承諾書というものは、そも
そも本人確認証明書を添付するかどうかとは無関係に住所を書くものだという
思考が読み取れます。
これでは議論になりません。社会の実態と相違しすぎませんか。また、そも
そも就任承諾書は登記所に提出するためだけの書面ではありません。会社に提
出するものです。そのあたりをも考慮した法解釈を願いたいものです。
2016.02.16(火)【住所問題シミュレーション】(金子登志雄)
昨日の続きです。しつこいようですが、商業登記を深く愛するゆえですから、
大目にみてください。
決して、当局に逆らっているわけではありません。登記所には拙著を愛読し
てくださっている方々も大勢いますし、私が会社法・商業登記オタクであるこ
とは十分に知れ渡っています。
今度の新著でも、私は当局の見解の代弁者、通達の啓蒙家のつもりで新規則
を説明したつもりでしたが、今になって急に違う見解を出され困惑中といった
ところです。著者として新著の名誉・信用も守らねばなりません。
さて、本欄閲覧の皆様、次の3つのうちで、取締役就任承諾書(又はその援
用)として認められるものはどれでしょうか。
Q1.非取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録に
は候補者として住所付で「東京都……A」とあったが、Aは、総会に出席し
ていなかった。就任承諾書には、「取締役に就任を承諾します。A/実印」
とあり、印鑑証明書が添付されていた。
Q2.取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録には
候補者として住所なしで「A」とあり、Aは、総会に出席して席上で就任承
諾した。直後の取締役会でAは代表取締役に選定された。Aの代表取締役の
就任承諾書には、「代表取締役に就任を承諾します。東京都……A/実印」
とあり、印鑑証明書が添付されていた。
Q3.取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録には
候補者として住所付で「東京都……A」とあったが、Aは、総会に欠席して
いた。直後の取締役会でA以外を新代表取締役に選定したので、Aは出席し
取締役会議事録に実印を押し、印鑑証明書をつけた。Aの取締役就任承諾書
には「取締役に就任を承諾します。A/実印」とあったが住所の記載はなか
った。
以上につき、つい先日までは全部が肯定されていましたが、先般の東京法務
局見解では、Q1・2・3の全部が取締役就任承諾書に住所が記載されていな
いことをもって否定されることでしょう。
規則61条5項は就任承諾書に常に住所の記載を求めたものか、本人確認証
明書が必要なときだけ、照合用に住所の記載を求めたものかの見解の差です。
本欄閲覧の非司法書士の方は、どんな感想を持ったでしょうか。
2016.02.15(月)【法律論をしようよ】(金子登志雄)
13日土曜日は、富山県司法書士会で改正会社法の講義でした(M会長ほか
皆様お世話になりました)。
富山はこれで3度目です。1回目は越後湯沢経由で長い列車の旅。日本海側
からの強風であやうく遅刻するところでした。これに懲りて2回目は飛行機。
今回は北陸新幹線でした。東京から2時間ちょっとです。実に便利になり快適
でした。故郷の上州経由でした。
さて、講義で非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書に住所の記載が必要
かと尋ねてみたところ、賛否ほぼ同数でした。
ただ、これは感覚での賛否に過ぎません。住所を記載するのが望ましい、あ
るいは安全だという論と、記載しないと違法か(却下事由か)の論は別の問題
ですが、法律家を自負する司法書士にあっても、何の限定もなく質問されれば、
前者で答えてしまうことがよくあることだからです。
住所記載問題では、何のための住所か、誰のための住所の記載かも考えない
と正しい判断ができないと思っています。
まず、「山本太郎」を取締役に選任する場合に、選任側では山本太郎の住所
など、重要ではありません。選任側が想定している、あの山本で十分です。だ
から、新設合併契約でも新設分割計画でも、設立時取締役として山本太郎の氏
名の明記を求めても住所の記載を求めておりません(753条、763条)。
そもそも選任側では、山本太郎の正確な住所を知らないのが通常です。
これに対して、指定された山本太郎が「了解した。取締役になります」と就
任承諾すれば、これで契約は成立します。口頭でもかまいません。口頭でもよ
いわけですから、ここでは、住所は必要ありません。就任後に事務処理の必要
から細かい住所を連絡すれば十分です。
就任承諾書の住所記載が必要だとされたのは、当事者間や会社法の要請では
なく、架空人が登記されたりすることもあるので、その実在性を証明するため
に、言い換えれば登記の真実性を担保するための商業登記規則の要請です。
印鑑証明書を添付する場合は、印影の照合をもって、登記の真実性を担保し
ているのであり、商業登記規則は、そこに住所を求めていません。
住所記載が必要な場合は法令で明文を設けます。定款作成の発起人の氏名及
び住所、印鑑届提出者の氏名及び住所が典型例です。
したがって、今回の商業登記規則61条2項で印鑑証明書を添付する場合に
も住所を記載せよ(二重で無駄でも書き写せ?)という東京法務局見解は法令
に根拠のないことを求めているのか(私見)、新設された同規則61条5項が
根拠規定になるのかを議論すべきであり、単純な就任承諾には住所を記載すべ
きだ論は、よく言えば立法論、悪く言えば井戸端論議に過ぎません。
東京法務局内の議論の過程は、どうだったのでしょうか。
2016.02.12(金)【物書き屋の法案作成】(金子登志雄)
昨日の休日も物書き業に精を出していました。仙台の立花、広島の幸先両司
法書士にも手伝ってもらっていますが、「この部分、分かりにくい。伝わりに
くい」などの厳しい評を受け、さらに分かりやすく書くようにしています。
さて、監査役を退任し取締役に就任する場合に、なぜ本人確認証明書が必要
なのか、規則61条5項の立法趣旨からすれば不要ではないかという疑問が日
司連の掲示板にも、先般の東京法務局講師のセミナーでも登場していました。
私も立法趣旨及び申請人の負担の軽減からすれば再任概念に含めるべきだっ
たと思います。そこで、もし、私が規則の立案担当者だったら、どういう条文
にするかと、暇に任せて挑戦してみました(これ、実に失礼なことですよね。
しかし、僭越ながら、あえて書いてみます)。
(原文)
設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)によ
る変更の登記の申請書には、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取
締役、監査役又は執行役(以下この項において「取締役等」という。)が就任
を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が
記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締
役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなければならな
い。ただし、登記の申請書に第二項(第三項において読み替えて適用される場
合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市区町村長の作
成した証明書を添付する場合は、この限りでない。
(金子案)
前3項の場合を除き、設立の登記又は取締役等(取締役、監査役及び執行役
のことをいう。以下この項において同じ。)の就任による変更の登記の申請書
に添付する設立時取締役等又は取締役等の就任を承諾したことを証する書面に
は、氏名のほか住所を記載し、その実在性を証する書面として市区町村長その
他の公務員が職務上作成した氏名及び住所に関する証明書(設立時取締役等又
は当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなけ
ればならない。ただし、その申請時の履歴事項証明書に取締役等として記録さ
れていた者が再任又は他の取締役等に就任した場合は、この限りではない。
いかがですか。私のほうが1行短いのに、分かりやすさと誤解を招かない内
容だとは思いませんか。無報酬でよいから法務省さんで雇ってくれないかなぁ。
2016.02.10(水)【人が代われば】(金子登志雄)
「新株予約権の払込金額の算定はブラックショールズ・モデルによる」と新
株予約権の発行要綱に記載し決議し、割当日までに、1個1000円と決まっ
た場合に、ずっと、この1000円で登記してきました。
ところが、平成20年頃でしたが、東京法務局の担当者の交代に伴い、「登
記申請時に、その算定方法に従って具体的な価額が定まるべき場合であっても、
『価額』が算定方法に従った正しい内容のものか否かを申請書及び法定の添付
書類に基づき登記官が判断することはできないことから、あくまで『算定方法』
を登記すべきである。『価額』をもって登記の申請がされた場合には、商業登
記法第24条第9号により却下することとなる。」といった信じがたい回答が
出されました。
結果は、多くの申請人が従わなかったためか、いつしか消えてしまいました。
解散した時は取締役会がなくなったのだから「当会社の株式を譲渡するには、
取締役会の承認を受けなければならない」の「取締役会」も変更登記しないと
解散の登記自体も受理できないという回答も、誰も従わなかったためか、これ
も消えてしまいました。
こうしてみると、公務員は先例主義が多いのに、登記所は従来の動きを急に
変更するところがあり、ある意味では革新的な官庁かもしれません。
しかし、さすがに法務省回答には現場も従うのか、旧商法時代でしたが、お
かしな回答なのに、実務を支配していたのは、1に、監査役が1人の場合は、
その者の後任は補欠にならないという見解、2に、定款で定めても代表取締役
は株主総会で選任できない、3に、数か月先の期限付解散は認められないとい
うものがありました。1と2は会社法の制定と共に否定されましたが、3はい
まだに生きています。
我々司法書士としては、この見解には仕方なく従うが、この見解には従わず
とも頑張れば登記が受理されるという見極めが必要であり、そこにベテランの
味が出るのかもしれません。
2016.02.09(火)【省エネ登記の伝統が消えるか】(金子登志雄)
企業法務・商業登記の仕事に従事して30年、登記の世界は省エネで動き、
同じことを2度も書かずに済むように運用され、実に効率的だという感想を持
ち続けてまいりました。
就任承諾も議事録内に記載してあれば「議事録を援用する」で済み、別途、
就任承諾書が不要です。
新規に代表取締役として甲を選任した場合に、私は、選任した取締役会議事
録内にも、甲の就任承諾書にも甲の住所を記載しません。添付する印鑑証明書
に住所が記載されているので、それで十分だからです。
取締役に数人が就任し、その就任承諾書が必要なときも、数人を連記し、紙
の枚数を極力少なくしています。紙が少なければ、登記所のチェック枚数も少
なくなり、審査も容易ですし、保管場所の負担も軽減することができます。
こういう省エネ登記の伝統的な流儀作法が身に付いていますので、昨日の件
のように、印鑑証明書に住所が書いてあるのに、わざわざ、それをまた書かせ
るなどといったことを登記所が求めてきたことにも驚きました。何の意味があ
るのでしょうか。
本人確認証明書(住所証明書)のときも、なぜ住民票等を添付するのに住所
を就任承諾書に書かせるのかという疑問も持ちましたが、これは同姓同名者も
いるので、納得できました。
印鑑証明書をつける場合も、同じ印影の実印を持つ人もいるから、住所を書
かせて特定する必要があるとでもいうのでしょうか。
省エネ登記の伝統に従い、「住所の記載は印鑑証明書又は本人確認証明書の
記載を援用する」というゴム版を作って、就任承諾書に押してみたい衝動に駆
られてしまいます。
2016.02.08(月)【驚きの新解釈(規則61条)】(金子登志雄)
ビジネス社会では、会社の担当者が代われば、急に対応が代わることがよく
ありますが、登記所に、これをされては、たまったものではありません。
5日に東京法務局を講師にお招きした地元司法書士会のセミナーがありまし
た。そこで、商業登記規則61条2項につき、5項が昨年2月に新設されたの
で従来の取扱いをしないとの説明がありました。
2項は、再任を除き、非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書には印鑑証
明書を添付せよというものです。当然に、就任承諾書には実印を押して印影照
合しますが、それで十分であり、就任承諾書に住所の記載までは求められてい
ませんでした。過去何十年もこれで運用されてきました。
昨年2月に新設された5項は「再任を除き、就任承諾書に記載した氏名と住
所と同一内容の住所証明書(本人確認証明書)を添付せよ。ただし、2項で印
鑑証明書を添付する場合は、この限りではない」というものでした。
一瞬、印鑑証明書を添付する場合は住所証明は不要だが、就任承諾書には住
所の記載が必要になったのかと思われるでしょうが、改正案にも、登記の基本
通達にも、法務省の登記雑誌での解説にも、一切、そういう説明がありません
でした。
なかったどころか、「2項で印鑑証明書を添付する場合を除き、就任承諾書
に記載した氏名と住所と同一内容の住所証明書(本人確認証明書)を添付せよ」
と、5項ただし書を文頭において説明していました。
当然です。印鑑証明を添付する場合は問題が生じなかったが、それ以外にも
本人確認の証明を求めるために、5項が新設されたのであり、何十年も続いた
2項の解釈を変えるものではなかったはずだからです。
東京法務局も今までは同じだったはずですが、急転回で、今後は、2項でも
住所を書けというのです。司法書士にパブコメして、一定期間を経て変更する
のであればともかく、何十年も続いた運用に急ブレーキです。激しいむち打ち
症になりそうです。
私はこの解釈に大反対であり、納得できませんので、ぜひ、この規則を立案
した方、通達を書いた方、登記情報に解説を書いた方に質問したいものですが、
聞くところによると、法務省内の人事異動は動きが早く、その方々はもう別の
部署だとか。
今のところ、この見解は東京法務局だけのようですが、この解釈が広まると、
そのうち就任承諾書というものは常に住所の記載が必要なものであり、再任で
も、清算人でも、みな同じということに発展しかねませんので、要警戒です。
http://www.esg-hp.com/笩
会社が解散し、株主総会で清算人としてAを選任すると、登記記録にAの就
任年月日が記録されません。
これにつき、松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』703頁には
「最初の清算人に関する登記は、独立の登記であり、その就任の登記………に
おいて、就任年月日………は公示されない(昭41・8・24民甲2441号
回答)」とありました。
最初の清算人の登記は独立の登記だからという理由ですが、これでは何のこ
とか分かりません。私の推測は、清算株式会社の「設立」に準じるから、設立
後最初の取締役と同様に就任年月日を書く意味がないというものです。
ここで疑問が生じました。解散と同時に、監査役を選任した時、就任年月日
は記載されるのでしょうか。
独立登記説では、監査役の登記は独立の登記とはいえないので、就任年月日
が登記されるということになりそうですが、会社設立登記に準じるからという
私見によると登記不要説になりそうです。
そこで、会社法477条6項に指名委員会等設置会社が解散したら監査委員
が自動的に監査役になるとあったので、その登記記録例をみましたら、案の定、
就任年月日が記載されていませんでした。
やはり登記不要が正しそうです。
2016.03.01(火)【マイナンバーカード】(島根・根来川弘充)
マイナンバー制度がはじまって、マイナンバーカードを申請されている方も
おられると思います。
先日、「マイナンバーカード申請をした。」という方のお話をお聞きしまし
た。その方のお話では、書類を2、3枚書いて、運転免許証の写しをつけてマ
イナンバーカードの交付を受けたそうです。
一人につき、3枚程度の書類ですが、わが島根県の人口が約70万人ですの
で、県民全員が登録するとなると210万枚の書類になります。
別なところで、知り合いの税理士さんから、マイナンバー制度のために、金
庫や部屋を増やしたというお話も聞きました。
改めて、各市町村役場によるこれらの書類の管理は、大変なものだろうと思
いました。
マイナンバーカードの申請をすると、いろいろ特典もあるようですが、私自
身は、もう少し見守りたいと思います。
2016.02.29(月)【清算結了の申請人】(金子登志雄)
あれ、今年は閏年なんですね。今、はじめて気づきました。いかに、会社法
及び商業登記オタクの生活を送っているかの証左ですね。いや、書き物に忙し
く精神的ゆとりがないのかな。気の毒な私です。本徒然を書くときだけ我に返
ります。
さて、金曜日に、退任した取締役は、もう取締役ではないのだから、株主総
会議事録の作成者になるのはおかしいともいえると話しましたが、次の点は、
どう思いますか。
1.設立登記の申請人
会社が設立されていないのだから、代表取締役もいないのに、設立登記の申
請人を代表取締役とするのはおかしいじゃないか。
おかしいですよね。しかし、商業登記法は、そういわれることを予測してい
たのか47条1項で、「設立の登記は、会社を代表すべき者の申請によってす
る。」と手当てしています。
2.合併解散会社の申請人
合併解散で会社が消滅したら、誰が登記するのか。
これも商業登記法は予測しており、82条1項で、吸収合併後存続又は新設
する会社を代表すべき者が吸収合併消滅会社を代表すると定めています。
3.清算結了の申請人
清算結了して会社がなくなったのだから清算人もいないのに、清算結了の登
記申請は誰がするのか。
これ、明確な規定がないのですが、清算結了後も清算人はいるらしいのです。
会社法508条1項に「清算人は、清算結了の登記の時から十年間、清算株式
会社の帳簿資料を保存しなければならない。」とあるのです。
どう考えても「元」清算人ですよね。どうも会社法では、元清算人も清算人
というようですから、清算結了登記も(元)清算人の申請でよいのでしょう。
こんなことを考えていると、今日が閏年であることになかなか気づかないの
も無理ありませんね。
2016.02.26(金)【株主総会議事録作成者】(金子登志雄)
昨日はお客様から「子会社の定時株主総会で代表取締役が任期満了退任する
のだが、いままでのように株主総会議事録の作成者として、この者を記載する
ことは無理だと思うので、その際に株主総会終結後に後任として就任する新取
締役でもよいか」という電話質問を受けました。
例えば、本日に定時株主総会が開催されたとしても、議事録の作成は月曜日
以降になるので、その時には前社長は退任しており、議事録作成者にはなれな
いはずだという自然な疑問からの質問です。
極めて、正常な感覚です。これが世間常識です。
にもかかわらず、旧商法に株主総会に出席した取締役は株主総会議事録に署
名する義務があると規定されていたためか、会社法になってからも、株主総会
に出席した取締役が議事録作成者だという主張が当業界では支配的です(松井
信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕149頁)。
退任してしまった人に「議事録を作成してよ」と頼んでも、「いや、もう退
任したので、他にあたってください」といわれたら、どうするのでしょうか。
また報酬でも支払って、無理にお願いするのでしょうか。
ということで、最近は、後任として選ばれた人でもよいとされています。そ
のことは一般の登記の本には書いてないようですが、拙著『事例で学ぶ会社法
実務〔設立から再編まで〕』182頁には詳細に書いてあります。当然ながら、
東京法務局も後任新取締役でもよいとしています。
こういうことを知らない司法書士が多いようですが、松井本などを読んだと
きに自然な疑問がわきませんでしたか。わかないとすると、司法書士以外の世
界との交流が薄いのかもしれませんよ。
もし、最初の質問に私が「前任者に限られます」と答えたら、きっと「なぜ
だ、おかしいじゃないか」と追及を受け、「変なことをいう司法書士」と思わ
れて次回から仕事が来なくなるでしょう。企業法務に従事していますと、こう
いう一般人の正常な感覚に敏感でなければなりませんが、幸い、私は非司法書
士との付き合いが多いので、大丈夫のようです。最初に質問にも、理由付で回
答したため、納得してもらえたようです。
2016.02.25(木)【債務超過と時価と企業価値】(金子登志雄)
旧商法時代は合併消滅会社が債務超過だと合併が認められていませんでした。
マイナスの出資になり合併会社の資本充実にならないからという理由です。
そこで、債務超過の100%子会社を吸収合併する場合は、子会社に増資し
て債務超過を解消するか、子会社の財産を時価換算すれば債務超過でないとい
う上申書を添付して合併していました。
しかし、昨日の本欄のように、債務超過でも企業価値はあります。そもそも
債務超過は簿価基準か時価基準かも旧商法時代は不明確でした。そこで、会社
法はいかなる意味で債務超過でも合併や吸収分割が可能だとしました。
3つに分けて考えるべきです。
① 簿価で債務超過
② 時価で債務超過
③ 企業価値
③がマイナスということは、ありません。シャブ中の清原株式会社も企業価
値はあります。そうでないと、合併比率も出せません。
①と②は合併の際の財産受入れ方法の問題であり、合併できるかどうかとは
無関係です。
①は同一企業グループ内の合併(親子兄弟会社の合併など)での財産の受入
れ法であり、②は第三者間合併での財産受入れ方法です。
①の方法で合併すると、合併会社の財産が減少しますが、合併株式を発行す
ることができます。マイナス財産を受け入れて株式を発行することができるの
かと会社法制定時は驚かれたものですが、この発想こそ「債務超過=株式価値
ゼロ」の禁句です。合併は企業価値を取得することですから、会計処理と区別
して考えるべきです。
詳細は拙著『親子兄弟会社の組織再編の実務』に記載してあります。
2016.02.24(水)【債務超過と株式価値】(金子登志雄)
司法書士や税理士から、合併消滅会社は債務超過なので株式の価値がないか
ら無対価合併にしたいという相談がよくあります。
さて、次の債務超過会社の価値はいくらでしょうか(自己資本のところをみ
れば債務超過かどうかが分かります)。直近の四半期報告書では増資したのか
少し改善され1億7000万円の債務超過でした。
http://profile.yahoo.co.jp/independent/3318
価値がないどころか、時価総額(株価×株数)は50億円です。
http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=3318.T
このように、「債務超過=株式価値ゼロ」というのは大間違いです。数字に疎い司法書士では許されても、税理士などがこれを言い出したら、恥ずかしい
ことです。
上記の会社は上場廃止の可能性があるようですが、それでも、従業員800
人以上もいるりっぱな会社です。
企業法務に従事する司法書士の皆さんは、「債務超過=株式価値ゼロ」は禁
句にしてください。債務超過でも、将来の投資のために債務超過になっており、
そのうち急成長するベンチャー企業はたくさんありますので。
全く比喩にもなりませんが、仙台の立花司法書士は、もっか急成長中のベン
チャー司法書士です。己に投資してきた知識や技量が徐々に花開いてきたとこ
ろでしょうか。努力は実るというよいお手本だと思っています。
2016.02.23(火)【立花論文拝読】(金子登志雄)
立花さん、月報司法書士No.528の「株主総会の実務」、拝読いたしま
した。筆頭論文で写真入り、すごいじゃないですか。
たいへんな労作ですね。どこかで読んだような内容が全くなく、自分の頭で
考えて調べた内容ですから、相当時間がかかったでしょう。
たぶん、読んだ司法書士は永久保存版として保管したことでしょう。松井本
や江頭本にも書いてない内容ですから、貴重です。私もパソコンに永久保存し
ました。
昨日の徒然に登場した中西敏和さんを特別講師に呼んで、私が東京司法書士
会で研究発表したのは平成12年でしたが、当時の論文をみましたら、写真付
きであり、私の髪も黒々としていました。いまは白髪7分咲きといったところ
です。
中西さんもトレードマークの太った体形でしたが、その後、だいぶほっそり
なさいました。なつかしい思い出です。
中西さんは日本を代表する株式問題の権威ですから、「さん」付けで呼ぶの
は失礼だといわれそうですが、実は、私は東洋信託銀行で数年先輩になります
ので、ご了承ください(私は入社数年早々に脱落したので、銀行員時代は当然
に面識はありません)。
立花さんのますますのご活躍を願っています。そのうち、機会がありました
ら、ぜひ、東京会でも講演してください。
2016.02.22(月)【議題の修正について】(仙台・立花宏)
先日、ある雑誌(月報司法書士No.528)に記事を掲載していただきま
した。
ボリュームのある原稿で、ずいぶん苦労しましたが、日本司法書士会連合会
の担当者の皆さまのご指導・ご協力のおかげで、なんとか無事、掲載にこぎつ
けることができました。担当者の皆さまに心より感謝を申し上げたいと思いま
す。
せっかくの機会ですので、掲載された記事の内容の中で、もう少し掘り下げ
てみたい点があり、この場をお借りして、記述させていただきます。
記事の中に、株主総会で動議がでた場合の対応について記載した部分があり
ました。「取締役1名選任の件」という議題の場合に、追加でもう1名、合計
2名の取締役を選任することが可能か、という点です。
この問題に対し、私は、招集通知に記載された議題の範囲を超えることにな
り許されないと記載しました。
これは、記事を執筆する上での参考にさせていただいた文献の見解に基づい
たもので、文献の見解は東京高裁平成3年3月6日判決に沿うものです。おそ
らく、実務上も、この考えに基づいて対応しているケースが多いと思われます。
では、議題に記載された員数を超えた役員が選任され、その旨が記載された
株主総会議事録が添付された登記申請は受理されないのでしょうか。
実は、これについては先例(昭和37年5月25日民四89号)があります。
「監査役2名選任の件」という議案に対して、監査役3名を選任した総会決議
を有効としたものです。
この先例の解説(登記研究176号)では、もともと、総会の招集通知には
選任する監査役の員数を記載する必要がなく(前記判例の見解とは異なる)、
たまたま員数が記載されていても、その記載は特に主要なものではないし、株
主が不利益を受けることも考えられず、許された範囲内の修正に該当するとし
ています(注:内容を要約しております)。
また、これが監査役の選任ではなく、取締役の選任でも同じ解釈が可能とい
う見解(別冊ジュリスト124号平成5年刊)もあるようです。
もっとも、上記先例があるからといって、たとえば、議題が「取締役1名選
任の件」となっているところ、取締役が2名選任された内容が記載された株主
総会議事録を添付した登記申請が受理されるでしょうか(取締役会設置会社で
あることを前提とする)。とても難しい問題だと思います。
個人的には、株主全員が出席し、満場一致で承認しているなど、株主に不利
益にならないことが明らかなケースであれば、有効と認める余地はありえると
しても、一般論としては、議題として員数を記載した以上、それはそれなりに
重要な意味をもつのではないだろうかと考えております。
実は、以前(平成12年)、金子先生がこの問題について詳細に分析され、
東京司法書士会の研究会で、発表をされていらっしゃいます。その研究内容を
拝見させていただく機会があったのですが、その研究の深さに感動するととも
に、自分の勉強の浅さを思い知らされることとなりました。
(前記の個人的見解は、この研究会において、金子先生とともに講演された中
西敏和先生(当時は東洋信託銀行。のちに同志社大学教授等を務められた)の
見解を参考にさせていただきました。)
実務上の対応方法については、金子先生の著書「事例で学ぶ 会社法実務」
東京司法書士協同組合編(中央経済社)166頁にも記載がありますので、ご
参考にしていただければさいわいです。
今回の記事を執筆させていただき、あらためて法務の難しさ、深さを知るこ
とができました。日本司法書士会の担当者の皆さま、そして、金子先生に感謝
申し上げたいと思います
ありがとうございました。
2016.02.19(金)【住所問題の締め】(金子登志雄)
金曜日です。先週から2週間にわたり規則61条5項問題を取り上げてきま
したが、虚しいものです。当局の方は本欄をみていないでしょうし………。こ
こで何を書いても、犬の遠吠えほどの効果もないでしょう。しかし、民間側の
意見として、主張だけはしておく必要があります。
今日は2週間の締めとして、もし「生年月日」で本人の実在性を証明するこ
とになったとしたら………、と考えてみました。きっと、次のような条文にな
っていたことでしょう。
「取締役等の就任による変更の登記の申請書には、就任を承諾したことを証
する書面に記載した氏名及び生年月日と同一の氏名及び生年月日が記載されて
いる本人確認証明書を添付しなければならない。」
もし、こうなった場合に、いくら東京法務局でも「規則61条第5項は就任
承諾書に取締役等の氏名及び生年月日が記載されていることを前提とした上で、
………本人確認証明書の添付を要することを規定しています。したがって、規
則第61条第2項………の場合であっても、当該取締役等の就任承諾書には、
当該取締役等の氏名のほか、生年月日の記載をも要することとなります。」と
は言い出さないでしょう。
本人確認のため(実在性の判定)には、住所である必要はないし、就任承諾
書記載の住所と本人確認証明書の住所が必ずしも一致する必要はありませんが、
規則61条5項に「同一の氏名及び住所」と、あえて「同一」が挿入されてい
るのは、「照合」のためです。
同2項は「書面の印鑑につき印鑑証明書を添付しなければならない」とする
だけで「書面の印鑑につき【同一の印影が記載されている】印鑑証明書」とは
なっていませんが、当然の前提です。住所の場合は、そう受け止められないこ
ともあるので、5項に、あえて「同一」を挿入したわけです。
2項につき、印鑑証明書の添付が必要だから実印を押さねばならないと解釈
するのと同様に、5項も本人確認証明書を添付するから就任承諾書に【照合の
ために】住所の記載が必要になるのであって、2項のときは住所の照合が不要
であることは明らかです。
条文規定からしても、立法経緯からしても、結果の妥当性からしても、従来
の見解が新見解に勝っています。早期に従来の解釈に戻っていただくことを切
望し、まとめとします。
2016.02.18(木)【住所記載が求められた理由】(金子登志雄)
なぜ、規則61条5項における就任承諾書に住所の記載が必要なのかにつき、
当時のパブコメにあります。
下記の「意見募集の結果」にある2番意見ですが、実は、これ私が一昨年の
11月15日に提出したものです。4番意見も私です。
http://is.gd/kyzEgX
(意見)
「就任を承諾したことを証する書面に【記載した住所につき】市区町村長そ
の他の…」とあるのは、住所を記載しない場合は住民票等の添付が不要である
と勘違いされかねず、また、住所の記載のない就任承諾書は認められないとい
う運用がなされる可能性があるため、「就任を承諾したことを証する書面に市
区町村長その他の…」とし、「記載した住所につき」を削除するのがよい。
(注)省略されていますが、同11月23日には「 すでに意見提出済みですが、
5項につき、就任承諾書や議事録での席上就任の場合に、取締役等の住所記載
が必須になるのかという不安が実務界で少なくありません(証券代行である信
託銀行等からも問い合わせを受けました。企業が証券代行部に問い合わせてい
るようです)。5項から「記載した住所につき」の削除をよろしくお願いしま
す。」とも、お願いの意見を出しています。
(回答)
個人を特定するには、氏名のほか住所の情報によって行う必要があるところ、
「記載した住所につき」を削除すると、【誰についての証明書を添付すること
となるかが不明確となることから】、「記載した住所につき」を削除すること
はできないと考えます。
なお、【御指摘の部分については、就任を承諾したことを証する書面に記載
した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の
公務員が職務上作成した証明書」と修正することとしました】。
上記の【 】部分は、ここで追加したものですが、要するに、「記載した住
所につき」という当初原案では、「住所の記載のない就任承諾書は認められな
いという運用がなされる可能性がある」から、削除してほしいという私の意見
に対し、商事課は「そういう誤解を招くとの指摘があったので、これを受け入
れ、その表現をやめて、こう変えた」と説明しているわけです。
また、住所の記載は証明書を添付するにあたり、誰のための証明書かを明ら
かにするためだと答えています。同姓同名者の存在を想定したものでしょう。
つまり、就任承諾書に住所を記載する必要はないが、印鑑照合で登記の真実
性を担保することができる場合を除き、本人確認証明書と「氏名・住所と同一
性を照合」する必要があるから、就任承諾書には結果的に住所の記載が必要と
なるという意味です(印鑑証明書の添付が必要になるときは結果的に実印の押
印が強制されるというのと同じです)。
東京法務局見解の「就任承諾書に取締役等の氏名及び住所が記載されている
ことを前提とした上で、取締役等が就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一
の氏名及び住所が記載されている本人確認証明書の添付を要することを規定し
ています。」は、順序が逆です。「氏名と住所の同一性を判断するために」と
いう目的のために住所の記載が求められたものです。
この前提が相違するため、「したがって、規則第61条第2項………による
取締役等の印鑑証明書を添付することにより、同条第5項ただし書の適用を受
ける場合であっても、当該取締役等の就任承諾書には、当該取締役等の氏名の
ほか、住所の記載をも要することとなります。」と東京法務局見解は飛躍して
しまうわけです。
それにしても、私の意見(心配)のとおりの結果になってしまいました。
2016.02.17(水)【実印か認印か】(金子登志雄)
この仕事に携わっておりますと、お客様から、この書類への押印は実印か、
認印かと聞かれることが頻繁にあります。他の司法書士も同じでしょう。
その時は、私は「印鑑証明書を添付せよと言われない場合は認印でかまいま
せん」とお答えしています。
そもそも実印か、認印かは、印影をみても分かりません。印鑑登録している
かどうかだけの差ですから。
私の世代では、実印はフルネームの重厚なもの多かったのですが、最近は、
まるで三文判と大差のない実印が多くなりました。上場会社の社長でも同じで
す。おそらく、こういう無意味なことに神経を使わなくなったのでしょう。
何をいいたいかといいますと、社会では、実印を押すから、それが実印であ
ることを証明するために印鑑証明書を添付するのではなく、逆に、印鑑証明書
の添付を求められているから実印を押すのです。
商業登記規則61条2項には実印を押せとはどこにも書いてありません。印
鑑証明書をつけよとあるだけです。
これをもって、印鑑証明書を添付したのだから、認印でもいいじゃないかと
いう論は成り立ちません。立法趣旨からして、印鑑照合することが前提になっ
ているからです。
同様に、本人確認証明書として住民票等の添付を求められているから、就任
承諾書に住所を書くのです。
東京法務局の文書には「就任承諾書に取締役等の氏名及び住所が記載されて
いることを前提とした上で」とありますから、就任承諾書というものは、そも
そも本人確認証明書を添付するかどうかとは無関係に住所を書くものだという
思考が読み取れます。
これでは議論になりません。社会の実態と相違しすぎませんか。また、そも
そも就任承諾書は登記所に提出するためだけの書面ではありません。会社に提
出するものです。そのあたりをも考慮した法解釈を願いたいものです。
2016.02.16(火)【住所問題シミュレーション】(金子登志雄)
昨日の続きです。しつこいようですが、商業登記を深く愛するゆえですから、
大目にみてください。
決して、当局に逆らっているわけではありません。登記所には拙著を愛読し
てくださっている方々も大勢いますし、私が会社法・商業登記オタクであるこ
とは十分に知れ渡っています。
今度の新著でも、私は当局の見解の代弁者、通達の啓蒙家のつもりで新規則
を説明したつもりでしたが、今になって急に違う見解を出され困惑中といった
ところです。著者として新著の名誉・信用も守らねばなりません。
さて、本欄閲覧の皆様、次の3つのうちで、取締役就任承諾書(又はその援
用)として認められるものはどれでしょうか。
Q1.非取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録に
は候補者として住所付で「東京都……A」とあったが、Aは、総会に出席し
ていなかった。就任承諾書には、「取締役に就任を承諾します。A/実印」
とあり、印鑑証明書が添付されていた。
Q2.取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録には
候補者として住所なしで「A」とあり、Aは、総会に出席して席上で就任承
諾した。直後の取締役会でAは代表取締役に選定された。Aの代表取締役の
就任承諾書には、「代表取締役に就任を承諾します。東京都……A/実印」
とあり、印鑑証明書が添付されていた。
Q3.取締役会設置会社の株主総会でAを取締役に選任した。総会議事録には
候補者として住所付で「東京都……A」とあったが、Aは、総会に欠席して
いた。直後の取締役会でA以外を新代表取締役に選定したので、Aは出席し
取締役会議事録に実印を押し、印鑑証明書をつけた。Aの取締役就任承諾書
には「取締役に就任を承諾します。A/実印」とあったが住所の記載はなか
った。
以上につき、つい先日までは全部が肯定されていましたが、先般の東京法務
局見解では、Q1・2・3の全部が取締役就任承諾書に住所が記載されていな
いことをもって否定されることでしょう。
規則61条5項は就任承諾書に常に住所の記載を求めたものか、本人確認証
明書が必要なときだけ、照合用に住所の記載を求めたものかの見解の差です。
本欄閲覧の非司法書士の方は、どんな感想を持ったでしょうか。
2016.02.15(月)【法律論をしようよ】(金子登志雄)
13日土曜日は、富山県司法書士会で改正会社法の講義でした(M会長ほか
皆様お世話になりました)。
富山はこれで3度目です。1回目は越後湯沢経由で長い列車の旅。日本海側
からの強風であやうく遅刻するところでした。これに懲りて2回目は飛行機。
今回は北陸新幹線でした。東京から2時間ちょっとです。実に便利になり快適
でした。故郷の上州経由でした。
さて、講義で非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書に住所の記載が必要
かと尋ねてみたところ、賛否ほぼ同数でした。
ただ、これは感覚での賛否に過ぎません。住所を記載するのが望ましい、あ
るいは安全だという論と、記載しないと違法か(却下事由か)の論は別の問題
ですが、法律家を自負する司法書士にあっても、何の限定もなく質問されれば、
前者で答えてしまうことがよくあることだからです。
住所記載問題では、何のための住所か、誰のための住所の記載かも考えない
と正しい判断ができないと思っています。
まず、「山本太郎」を取締役に選任する場合に、選任側では山本太郎の住所
など、重要ではありません。選任側が想定している、あの山本で十分です。だ
から、新設合併契約でも新設分割計画でも、設立時取締役として山本太郎の氏
名の明記を求めても住所の記載を求めておりません(753条、763条)。
そもそも選任側では、山本太郎の正確な住所を知らないのが通常です。
これに対して、指定された山本太郎が「了解した。取締役になります」と就
任承諾すれば、これで契約は成立します。口頭でもかまいません。口頭でもよ
いわけですから、ここでは、住所は必要ありません。就任後に事務処理の必要
から細かい住所を連絡すれば十分です。
就任承諾書の住所記載が必要だとされたのは、当事者間や会社法の要請では
なく、架空人が登記されたりすることもあるので、その実在性を証明するため
に、言い換えれば登記の真実性を担保するための商業登記規則の要請です。
印鑑証明書を添付する場合は、印影の照合をもって、登記の真実性を担保し
ているのであり、商業登記規則は、そこに住所を求めていません。
住所記載が必要な場合は法令で明文を設けます。定款作成の発起人の氏名及
び住所、印鑑届提出者の氏名及び住所が典型例です。
したがって、今回の商業登記規則61条2項で印鑑証明書を添付する場合に
も住所を記載せよ(二重で無駄でも書き写せ?)という東京法務局見解は法令
に根拠のないことを求めているのか(私見)、新設された同規則61条5項が
根拠規定になるのかを議論すべきであり、単純な就任承諾には住所を記載すべ
きだ論は、よく言えば立法論、悪く言えば井戸端論議に過ぎません。
東京法務局内の議論の過程は、どうだったのでしょうか。
2016.02.12(金)【物書き屋の法案作成】(金子登志雄)
昨日の休日も物書き業に精を出していました。仙台の立花、広島の幸先両司
法書士にも手伝ってもらっていますが、「この部分、分かりにくい。伝わりに
くい」などの厳しい評を受け、さらに分かりやすく書くようにしています。
さて、監査役を退任し取締役に就任する場合に、なぜ本人確認証明書が必要
なのか、規則61条5項の立法趣旨からすれば不要ではないかという疑問が日
司連の掲示板にも、先般の東京法務局講師のセミナーでも登場していました。
私も立法趣旨及び申請人の負担の軽減からすれば再任概念に含めるべきだっ
たと思います。そこで、もし、私が規則の立案担当者だったら、どういう条文
にするかと、暇に任せて挑戦してみました(これ、実に失礼なことですよね。
しかし、僭越ながら、あえて書いてみます)。
(原文)
設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)によ
る変更の登記の申請書には、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取
締役、監査役又は執行役(以下この項において「取締役等」という。)が就任
を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が
記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締
役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなければならな
い。ただし、登記の申請書に第二項(第三項において読み替えて適用される場
合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市区町村長の作
成した証明書を添付する場合は、この限りでない。
(金子案)
前3項の場合を除き、設立の登記又は取締役等(取締役、監査役及び執行役
のことをいう。以下この項において同じ。)の就任による変更の登記の申請書
に添付する設立時取締役等又は取締役等の就任を承諾したことを証する書面に
は、氏名のほか住所を記載し、その実在性を証する書面として市区町村長その
他の公務員が職務上作成した氏名及び住所に関する証明書(設立時取締役等又
は当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなけ
ればならない。ただし、その申請時の履歴事項証明書に取締役等として記録さ
れていた者が再任又は他の取締役等に就任した場合は、この限りではない。
いかがですか。私のほうが1行短いのに、分かりやすさと誤解を招かない内
容だとは思いませんか。無報酬でよいから法務省さんで雇ってくれないかなぁ。
2016.02.10(水)【人が代われば】(金子登志雄)
「新株予約権の払込金額の算定はブラックショールズ・モデルによる」と新
株予約権の発行要綱に記載し決議し、割当日までに、1個1000円と決まっ
た場合に、ずっと、この1000円で登記してきました。
ところが、平成20年頃でしたが、東京法務局の担当者の交代に伴い、「登
記申請時に、その算定方法に従って具体的な価額が定まるべき場合であっても、
『価額』が算定方法に従った正しい内容のものか否かを申請書及び法定の添付
書類に基づき登記官が判断することはできないことから、あくまで『算定方法』
を登記すべきである。『価額』をもって登記の申請がされた場合には、商業登
記法第24条第9号により却下することとなる。」といった信じがたい回答が
出されました。
結果は、多くの申請人が従わなかったためか、いつしか消えてしまいました。
解散した時は取締役会がなくなったのだから「当会社の株式を譲渡するには、
取締役会の承認を受けなければならない」の「取締役会」も変更登記しないと
解散の登記自体も受理できないという回答も、誰も従わなかったためか、これ
も消えてしまいました。
こうしてみると、公務員は先例主義が多いのに、登記所は従来の動きを急に
変更するところがあり、ある意味では革新的な官庁かもしれません。
しかし、さすがに法務省回答には現場も従うのか、旧商法時代でしたが、お
かしな回答なのに、実務を支配していたのは、1に、監査役が1人の場合は、
その者の後任は補欠にならないという見解、2に、定款で定めても代表取締役
は株主総会で選任できない、3に、数か月先の期限付解散は認められないとい
うものがありました。1と2は会社法の制定と共に否定されましたが、3はい
まだに生きています。
我々司法書士としては、この見解には仕方なく従うが、この見解には従わず
とも頑張れば登記が受理されるという見極めが必要であり、そこにベテランの
味が出るのかもしれません。
2016.02.09(火)【省エネ登記の伝統が消えるか】(金子登志雄)
企業法務・商業登記の仕事に従事して30年、登記の世界は省エネで動き、
同じことを2度も書かずに済むように運用され、実に効率的だという感想を持
ち続けてまいりました。
就任承諾も議事録内に記載してあれば「議事録を援用する」で済み、別途、
就任承諾書が不要です。
新規に代表取締役として甲を選任した場合に、私は、選任した取締役会議事
録内にも、甲の就任承諾書にも甲の住所を記載しません。添付する印鑑証明書
に住所が記載されているので、それで十分だからです。
取締役に数人が就任し、その就任承諾書が必要なときも、数人を連記し、紙
の枚数を極力少なくしています。紙が少なければ、登記所のチェック枚数も少
なくなり、審査も容易ですし、保管場所の負担も軽減することができます。
こういう省エネ登記の伝統的な流儀作法が身に付いていますので、昨日の件
のように、印鑑証明書に住所が書いてあるのに、わざわざ、それをまた書かせ
るなどといったことを登記所が求めてきたことにも驚きました。何の意味があ
るのでしょうか。
本人確認証明書(住所証明書)のときも、なぜ住民票等を添付するのに住所
を就任承諾書に書かせるのかという疑問も持ちましたが、これは同姓同名者も
いるので、納得できました。
印鑑証明書をつける場合も、同じ印影の実印を持つ人もいるから、住所を書
かせて特定する必要があるとでもいうのでしょうか。
省エネ登記の伝統に従い、「住所の記載は印鑑証明書又は本人確認証明書の
記載を援用する」というゴム版を作って、就任承諾書に押してみたい衝動に駆
られてしまいます。
2016.02.08(月)【驚きの新解釈(規則61条)】(金子登志雄)
ビジネス社会では、会社の担当者が代われば、急に対応が代わることがよく
ありますが、登記所に、これをされては、たまったものではありません。
5日に東京法務局を講師にお招きした地元司法書士会のセミナーがありまし
た。そこで、商業登記規則61条2項につき、5項が昨年2月に新設されたの
で従来の取扱いをしないとの説明がありました。
2項は、再任を除き、非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書には印鑑証
明書を添付せよというものです。当然に、就任承諾書には実印を押して印影照
合しますが、それで十分であり、就任承諾書に住所の記載までは求められてい
ませんでした。過去何十年もこれで運用されてきました。
昨年2月に新設された5項は「再任を除き、就任承諾書に記載した氏名と住
所と同一内容の住所証明書(本人確認証明書)を添付せよ。ただし、2項で印
鑑証明書を添付する場合は、この限りではない」というものでした。
一瞬、印鑑証明書を添付する場合は住所証明は不要だが、就任承諾書には住
所の記載が必要になったのかと思われるでしょうが、改正案にも、登記の基本
通達にも、法務省の登記雑誌での解説にも、一切、そういう説明がありません
でした。
なかったどころか、「2項で印鑑証明書を添付する場合を除き、就任承諾書
に記載した氏名と住所と同一内容の住所証明書(本人確認証明書)を添付せよ」
と、5項ただし書を文頭において説明していました。
当然です。印鑑証明を添付する場合は問題が生じなかったが、それ以外にも
本人確認の証明を求めるために、5項が新設されたのであり、何十年も続いた
2項の解釈を変えるものではなかったはずだからです。
東京法務局も今までは同じだったはずですが、急転回で、今後は、2項でも
住所を書けというのです。司法書士にパブコメして、一定期間を経て変更する
のであればともかく、何十年も続いた運用に急ブレーキです。激しいむち打ち
症になりそうです。
私はこの解釈に大反対であり、納得できませんので、ぜひ、この規則を立案
した方、通達を書いた方、登記情報に解説を書いた方に質問したいものですが、
聞くところによると、法務省内の人事異動は動きが早く、その方々はもう別の
部署だとか。
今のところ、この見解は東京法務局だけのようですが、この解釈が広まると、
そのうち就任承諾書というものは常に住所の記載が必要なものであり、再任で
も、清算人でも、みな同じということに発展しかねませんので、要警戒です。
http://www.esg-hp.com/笩