シューマンの指 | ||
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読了日 | 2016/05/06 | |
著 者 | 奥泉光 | |
出版社 | 講談社 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 365 | |
発行日 | 2012/10/16 | |
ISBN | 978-4-06-277385-0 |
津市の生活介護施設「太陽(ひ)のしずく」で5月1日、天羽支部会が行われた。天羽支部会と言うのは、社会福祉法人薄光会が運営する「ケアホームCOCO」を利用する障害者の保護者・家族の会の名称で、もともとは入所施設・豊岡光生園の保護者・家族の会に所属していた人たちだが、昨年4月に分割されたものだ。
早いもので天羽支部会が結成されて1年が過ぎた。独自の活動をしようと言う鈴木支部長の案で、僕は会報作りをすることになって、今回で4号を作成・配布した。会報作りは、回を重ねるたびにだんだん難しくなっていくが、長年法人の役員の一端を担っていたことから、保護者と施設職員、あるいは法人組織等の仕組みなどを理解してもらえる、コミュニケーションツールとなるよう努力している。
法人組織は規模が大きくなるにつれ、組織内のコミュニケーションでさえ見通しが悪くなる傾向にあるから、せめて、保護者・家族の会と利用施設との間は、円滑な交流を目指したいと願うからである。
そんなことから、3日憲法記念日には富津市の新舞子海岸で行われたイヴェントに、「太陽(ひ)のしずく」が参加するということで、取材―と言うほどのことではないが―に行ってきた。小さな団体の主催する手作りのイヴェントは、結構な数の人たちが集まって、にぎわっていた。
我らが「太陽(ひ)のしずく」からの参加は、「にこちゃん喫茶」というソフトドリンクと手作り雑貨を提供するコーナーで、そこそこのお客さんからの注文を受けていた。僕は何枚かの写真を撮って早々に失礼したが、小さな集まりなのでケアホームの利用者が大勢参加することは無理なことが分かり、ちょっと残念な気もしたのである。
そんなこんなでブログへのアップデートが大分遅れた。
講談社から2010年にこの作品の単行本が刊行されたとき、テレビの書評番組(番組名は覚えていない)で紹介されたのを見て、記憶の片隅に残っていた。そんなことでBOOKOFFの100円の文庫棚でこの文庫を見かけて買ったものだと思う。
少し前のことでもどうでもいいことはすぐ忘れてしまうから、いやいやどうでもいいことばかりでなく、僕の頭は肝心なことでさえ時々忘れる。
半分は歳のせいにしているが、聞くところによれば忘れっぽいのは、加齢とは関係ないことだそうだ。つまり忘れないための努力をしていないからだそうだ。そんなことを言ったって、忘れないための努力はどうすればいいのかも分からないから、仕方がないのだ。
高校生の頃英単語をカードに書いて、一生懸命覚えたころの努力を、今更したくないという気持ちもどこかにあって、あえて忘れないための努力を怠っているのだ。だから、時折テレビで見るピアニストやヴァイオリニストが、難しく長い楽曲を空で難なく弾きこなす様を見ていると、こういう人達は違う人種だと思えてしまうのだ。
僕も20代前半の頃、アコースティックギターを習い始めて、まだまだ若かったその頃は今よりはずっと物覚えも良かったから、それほど難しくない曲は楽譜を見て弾けるようになった。小学生の頃同級生の指導で、バイエルの後半まで行ったから、同時に譜面を読むことを覚えた。ずいぶん昔のことだが、ギターを始めてそんなことも思い出して、どうやら譜面通りに指を動かすことも抵抗がなかったのだろう。
だが、数年前にギターを弾こうと思ったら、なんとチューニングの仕方も全く覚えていないことに気づいた。
覚えるのは簡単ではないが、忘れるのはいとも簡単に忘れてしまうものだと、愕然としたものだった。
いや、どうでもいいことを長々書いたが、僕はそれほど音楽と無関係ではなかったことを言いたかっただけのことだ。そんなことで、今では専ら音楽は聞くだけにとどまっているが、音楽なしでは夜も日も明けずと言った頃もあったことが、懐かしい。
書を読み始めて、中山七里氏の「さよならドビュッシー」を読んだ時の感動とは、また趣の異なった感動を覚える。こちらはタイトルからも想像できるように、ドイツ・ロマン派を代表するローベルト・アレクサンダー・シューマンの生涯を描いた作品、ではなくそのシューマンに傾倒する若き天才ピアニスト永嶺修人(まさと)と、その先輩にあたる語り手・里橋優の交流を描いた物語だ。
と、途中まで疑いもなく思っていたら、なんと・・・・その先はネタバレになるから書けないが、シューマンに関する精緻を極めた解説―里橋と永嶺の会話による―にどんな結末が待っているのかと言う期待に、そうした音楽論議に多少の辟易を覚えながらも、よくもこれほどの解説や会話を紡いだものだと、関心もしながら読み進めた。
しかし、ようやく半ばに至って、突然発生する殺人事件が、それまでの音楽論議から一変して、ミステリーへと変遷するのだ。
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