隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1310.サクリファイス

2013年01月09日 | 冒険
サクリファイス
読 了 日 2012/12/28
著  者 近藤史恵
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 290
発 行 日 2010/02/01
I S B N 978-4-10-131261-3

 

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藤史恵氏の作品を読むのは随分としばらくぶりのような気がして、記録をたどったら、2011年5月に「モップの精と二匹のアルマジロ」を読んだのが最後だった。およそ1年半ぶりの本書は、2008年に大藪春彦賞を受賞した作品だ。
大藪春彦賞という賞がどういう趣旨のものか僕はよく知らないのだが、昔よく読んだ大藪氏の作品からのイメージと、近藤史恵氏の作品イメージが合わなくて、近藤氏の受賞に関してちょっと違和感を感じたこともあった。
しかし、考えてみれば大藪賞といっても、必ずしも大藪春彦氏の作品のような、クールな殺し屋が出てくる小説ばかりとは限らない。いや、そうした大藪氏の作品に似た小説は、かえって受賞の対象にならないのだろう。

 

 

それにしても近藤史恵女史(前は近藤史恵嬢とも書いてきたが、もうベテラン作家の仲間入りだろうから、敬意を表して・・)は、実にたくさんのシリーズキャラクターを生み出している。
僕が著者の作品を読むのは、アンソロジーを除いても本書で27冊目となる。いくつかのシリーズキャラクターに惚れ込んで読み継いだ結果だ。前出の「モップの精と二匹のアルマジロ」のキリコちゃんや、名探偵・今泉文吾の梨園シリーズに出てくる歌舞伎役者・瀬川菊花、その弟子の瀬川小菊、また時代物の猿若町捕物帳シリーズ江戸・南町奉行所の同心・玉島千蔭などなどである。
僕に取れば、読みなれたキャラクターたちの活躍を期待したいところだが、著者のことだから今度の作品でもまた魅力的なキャラクターが生まれたのだろうと、思いながら手にした。

 

 

作品は、サイクルロードレースを題材としたストーリーで、そうした背景の中での人間ドラマを描いている。
巻末の解説氏によれば、サイクルロードレースについては、いろいろと難しいルールもあって、初めての者にとっては理解の及ばないところもあるらしい。
僕は全部読み終わってから、この解説を読んだのだが、(解説の)最初の方を読んで、何を言ってるのだろうと少し反発の気持ちが湧いた。どうもこの解説者は自分がサイクルロードレースに関しては、いかにエキスパートであるかを吹聴しているような感じを受けたからだ。まあしかし、そのくらいでないとなかなか人の作品の解説などできないのかもしれないが・・・・。
確かに予備知識なしにこのロードレースを見れば、「あれ!」と思うような場面が出てくるかもしれないが、この作品の読みどころは、先述のごとくサイクルレースに題材をとっており、迫力に満ちたレース場面もさことながら、その中での選手たちの人間ドラマなのだ。それはタイトル「サクリファイス(犠牲)」にも表れている。
いま若い人たちの間では、不安定な社会の在り方も影響してか、将来に夢を持てない人が増えているというような、メディアの報道もあるが、この作品の中の人物のように、自分の目指すところを明確にとらえて、そこに向かって努力する若者も数多くいると思う。

読み終えて、そうした若者がいる限りこの国の将来も見限ったものでもないな、とそんな思いを持ったのである。

 

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