泥の文学碑 | ||
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読了日 | 2010/2/22 | |
著者 | 土屋隆夫 | |
出版社 | 廣済堂出版 | |
形態 | 単行本 | |
ページ数 | 248 | |
発行日 | 1981/4/10 | |
書誌番号 | 0193-002520-2230 |
は特別文学にこだわっているわけではないのだが、著者の文学と本格ミステリーの融合を目指しながら著作を続けているという姿勢に、なんとなく共感を覚えて読み続け、いつの間にか10冊目となった。
本書はタイトルにも表されているようにそうした著者の試みが顕著に現れている短編集だ。短編は短い中で起承転結を表現するため無駄がなく、贅肉をそぎ落とした肉体のような感じを受けるのだが、それが本格推理となればなおさらに文学的な要素を組み合わせるのは難しいのではないかと思う。といっても巻末にある権田萬治氏の解説によれば、本文が必ずしも文学的ということではなく、登場人物が文学に関係するとか、文学に精通しているということで良いと言うことなのだが・・・。
いずれにしてもそのためには著者自身の、文学に対する造詣の深さを問われることになるのは、間違いのないところだろう。
本書では下記別表のごとく、7編の作品が収録されており、その内おしまいの2編では実在の人物に絡めたストーリーで、虚実織り交ぜての構成が楽しめる。一つ二つ紹介すると・・・。
「空中階段」
月刊雑誌「小説世紀」が募集した”新人登場”で入選した作品、白沢達人作「消えた人」が、盗作だという読者からの投書があった。投書の主は17年前に探偵小説誌「仮面集団」を発行していた人物で、当時雑誌が新人発掘で募集して入選となった「空中階段」と酷似しているという内容だった。そして、その「空中階段」の作者こそ今をときめく流行作家の北条純だというのである。編集者の竹中東一郎は詳細を訊くために投書の主である大里氏に連絡を取るが、入院中だった彼は病態が悪化して昏睡状態だとのこと。
そしてさらに、盗作の疑いのある白沢達人を訪ねると何日か前に彼は自殺していた・・・。
「泥の文学碑」
表題作は、前述の通り実在した昭和初期、太宰治に師事した無頼派作家・田中秀光の著作に解説文を依頼された文芸評論家にまつわるストーリー。
編集者からそれまでの仕事ぶりを見込まれて依頼された文芸評論家・水城守人は、従来にない画期的な評論をと意気込んで、田中秀光に関する古い資料を集めるべく、雑誌広告を出す。広告を見た信州長野在住の女性読者から手紙が届く。水木は喜び勇んで打ち合わせの通りの時刻の列車で信州小諸に向かうのだった・・・・。
んの一部の内容を書いたが、短編はその一部だけの紹介も興趣をそぐ可能性もあるから、このくらいにしておくが、今から30年近くの前の作品は多少の時代感覚のずれはあるものの、本格ミステリーとしての面白さは一向に損なわれることなく、胸に迫るものがある。
著者の作品は未読のものが未だかなりあるので、こうした作品を読むともっとよみたいという欲求が高まる。人にお勧め出来る作品だ。
# | タイトル |
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1 | 空中階段 |
2 | 愛する |
3 | 氷の椅子 |
4 | 虚実の夜 |
5 | 盲目物語 |
6 | 泥の文学碑 |
7 | 川端康成の遺書 |
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