隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1274.インフォメーショニスト

2012年07月24日 | 冒険

 

インフォメーショニスト
THE INFORMATIONIST
読 了 日 2012/07/20
著  者 テイラー・スティーヴンス
Taylor Stevens
訳  者 北沢あかね
出 版 社 講談社
形  態 文庫上下巻
ページ数 287/266
発 行 日 2012/04/13
ISBN 978-4-06-277244-0
978-4-06277245-7

 

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々ここで僕はドラマなどに言及するとき、AXNミステリーというスカパーのチャンネルについて書いている。このチャンネルを見るようになってから10年以上になる。いや、もしかしたら20年くらいになるか?
主に海外ミステリードラマを見るのが目的で視聴するようになったのだが、ドラマだけでなくいくつかの書評番組や、出版社の宣伝ともいえる番組を見ている。その中で講談社の発信するリブラリアンの書架という15分番組で、先達て編集者が推すミステリーが本書だった。その時は特別興味を抱いたわけでもなく、見るとはなしに見ていたのだが、後にどこかほかの番組でも本書を勧めていたことから、読んでみようという気になり、amazonで手に入れた。もちろん僕のことだから古書である。
それでも本書は上のデータでもわかるように、今年の4月に出たばかりの、言ってみればまだ新刊だ。

前にも書いたが、少し翻訳ものをまとめて読もうと思っているので、番組は渡りに船といったところだったの だ。タイトルにもなっている「インフォメーショニスト」とは、情報収集の専門家のことだ。
と言っても、ただそれだけのことではもちろんない。世界を股にかけて、女一人で活動するためには(主人公のインフォメーショニストは女性だ)無法者を相手に立ち回りをすることもあるから、護身術の心得も必要だ。しかし、この主人公の場合護身術などと言えるような生易しいものではない。生活環境も、習慣も、治安に対する警察の対応も、権力の在り方も、何もかも西洋文明とはかけ離れたアフリカの国で情報収集をすることが、いかに難しく、命がけであるかということが、ストーリーの進行とともに明らかになる。

 

 

彼女、ヴァネッサ・マイケル・マンローはドゥカティ(イタリアのバイクメーカー、ドゥカティの製造する大型バイク)を操り、時速240kmで跳ばすのがストレスの解消法なのだ。
アメリカ国籍を持ちながらも、カメルーン(アフリカ南西部に位置する国)で生まれて、17年間もアフリカ各地で育ったマイケル(それが彼女を人が呼ぶときの呼び名となっている)は、壮絶なその過去から今の生業のためには、あるいは業務上自分の身を守るためには、冷静に、時には過激に障壁を排除する。
今までにもそうした女性を主人公としたストーリーをいくつか読んではきたが、本書の主人公はその別格と言えるかもしれない。こういうストーリーを読んでいる時、次第に主人公の人となりが少しずつではあるが、具体的にわかっていく過程が、僕の胸をドキドキと高鳴らせて、先行きへの期待も高まる。読書の至福感だ。

 

 

ルコでの仕事が終わって、アメリカはヒューストンで待ち構えている、ビジネス・パートナーで弁護士のケイト・ブリーデンに連絡すると、タイタン・エクスプロレーションの経営者リチャード・バーバンクから依頼のあったことを知らされる。
ヴァネッサ・マイケル・マンローのインフォメーショニストとしての仕事は、海外進出をする企業のための情報収集だ。そのマイケルに筋違いと思える、仕事の依頼が舞い込んだのである。リチャード・バーバンクの依頼はアフリカで行方を絶った娘のエミリの捜索だった。人探しは本意ではなかったが、成功報酬の高さに心を動かされた。しかしそれには一つ条件が付け加えられた。バーバンクの腹心ともいうべき人物を同行させるということだった。
一匹狼ともいえるマイケルにとっては、人と組んで仕事をするということは信条に反することだった。しかしながら、マイルズ・ブラッドフォードという人物は、万一の時にマイケルの命を守るためだという依頼人に、致し方なく条件をのんだ。

莫大な報酬を呈示して人探しをするというシチュエーションに、2010年11月に読んだ「ミレニアム」を思い浮かべた。それと形を変えた「幻の女」というテーマも僕を夢中にさせた。先述のごとく不条理感の漂うアフリカ各地での捜索は困難を極める。そして、マイケルは絶体絶命の危機に陥るのだ。

著者の紹介を読むと、彼女は「神の子」というカルト集団の中で誕生して、通常の学校教育を受けることなく、組織の中の働き蜂として育ったという。それがどういうものかはよくわからないが、そうした中で世界中を放浪した経験が、この処女作を生んだということだ。 さらに処女作がニューヨークタイムズのベストセラーとなるのは、異例のことだという。確かに読んでいて手に汗握る展開と、現在の主人公を形作っているその生い立ちのすさまじさと、非情さや、バイオレンスに満ちたストーリー、全体の構成などなど、読後しばらく興奮の余韻を残す。

 

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