隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1096.夜は千の目を持つ

2010年09月15日 | サスペンス
夜は千の目を持つ
Night has A Thousand Eyes
読了日 2010/08/16
著 者 ウイリアム・アイリッシュ
William Irish
訳 者 村上博基
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 410
発行日 1979/07/20
ISBN 4-488-12011-3

 

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ーネル・ウールリッチ名義(我が国で紹介された時のペン・ネーム。実際は本名のミドルネーム、ジョージ・ハプリイの名で発表されたようだ-中島河太郎氏の解説)で書かれたサスペンスの名作だ。1945年に発表され1947年に映画化されている。
映画は残念ながら僕は見てないが、ビデオ化もされていないから、スカパーなどのチャンネルで放映されない限り、見るのはちょっと無理だろう。

 

昔ウールリッチやアイリッシュの作品に一時期傾倒していたこともあったが、この作品は読んだ記憶がなかった。
と、思っていたら、読み進めるうちにある個所で、わずかながら記憶がよみがえって、読んでいたことに気付いた。多分宝石の別冊で読んだのかもしれない。当時、と云っても昭和20年代の初めだったろう、こうした長編が一挙に掲載された探偵雑誌「宝石」の別冊がよく発行されていた。
僕が読んだのはもちろん、ずっと後で古書店で手に入れたものだが。雑誌でしかも古本だから、単行本で買うよりずっと安価で買えたので、僕はそうした古雑誌を神田で、ずいぶん手に入れて読んだものだった。

 

て、物語は青年刑事トム・ショーンがいつもの帰り道、川べりの道を歩いていて、落ちていた札を拾うところから始まる。幾枚もの札の落ちている道をたどれば、今まさに橋の上から川に身を投げようとしている若い女性を見つける。札はどうやら彼女のハンドバッグから飛ばされたようだ。
そして、彼はその娘ジーン・リードを危うく助けることのなるのだが…。

そこからジーン・リードが身投げをするにいたった長い長い告白が始まる。
サスペンスの詩人ともいわれる著者の文章は、所々でその本領を発揮して美しいとも、楽しいとも、あるいは寂しいとも、切ないともいえる表現がみられ、味わい深い。
ストーリーは、ジーンの告白部分と、後半のショーンの所属する警察の上司マクナマス警部の指揮する捜査の部分との二つの部分から成り立っているのだが、謎を解明するということについては明確に表現されてはいない。
つまり本格ミステリーではなく、あくまでサスペンスに重きを置いたストーリーと云うことだ。

暗くやりきれないような、ショーンとジーンと、ジーンの父親の三人が苦悩する場面の続く中で、ジーンの健気な努力と、次第にその魅力を発揮していくところが、僕は素晴らしいと感じ、一方で女性の強さを思い知らされる。
登場人物は少なく、謎が謎のまま終わる部分もあって、説明不足と感じるところもあるが、終盤に至るまでのサスペンスの盛り上がりは、胸の痛くなるほどの展開を示して、素晴らしい。

 

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