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論文)葉で発現するmRNAによる花分裂組織の分化

2024-04-18 11:13:30 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis leaf-expressed AGAMOUS-LIKE 24 mRNA systemically specifies floral meristem differentiation
Huang et al.  New Phytologist (2024) 241:504-515.

doi: 10.1111/nph.19293

シロイヌナズナのMADS-box転写因子 AGAMOUS-LIKE 24(AGL24)は、花序分裂組織の分化に関与していることが知られている。AGL24 mRNAは、栄養生長組織、生殖生長組織の何れにおいても蓄積しているが、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して分裂組織の分化を制御していると考えられている。しかしながら、このような移動性mRNAが、発現組織ではなく受容組織特異的に機能する機構については明らかとなっていない。台湾 中央研究院植物暨微生物學研究所Yuらは、AGL24 プロモーター制御下でGUS を発現する形質転換シロイヌナズナの組織化学的解析から、GUS活性は胚軸や子葉維管束、葉、根などの栄養生長組織で検出され、芽生えから成熟個体までの全ての発生段階において観察されることを見出した。また、花成期には、GUS活性は葉の維管束で観察された。これらの結果は、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に輸送され、分裂組織の分化を規定するという仮説と一致している。葉で発現するAGL24 が花分裂組織形成に関与しているのかを明らかにするために、人工miRNA(amiRNA)を組織特異的に発現させた形質転換体を用いて解析を行なった。agl24 変異体はわずかに花成が遅れ、soc1 svp 二重変異体は正常な花をつけるが、agl24 soc1 svp 三重変異体は花器官に異常が見られる。soc1 svp 二重変異体において、AGL24 amiRNA(AGL24-amiR)をGALACTINOL SYNTHASE 1GAS1)プロモーター制御下で成熟葉の葉脈特異的に発現(GAS1pro:AGL24-amiR)、もしくはSUCROSE TRANSPORTER 2SUC2)プロモーター制御下でコンパニオン細胞特異的に発現(SUC2pro:AGL24-amiR)させると、agl24 soc1 svp 三重変異体と類似した花構造となることが判った。このことから、葉で発現するAGL24 が花器官形成に必要であることが示唆される。AGL2435S プロモーター制御下で過剰発現(35S:AGL24)させると、花成が促進され、花器官に異常が生じる。SUC2pro:AGL24 またはGAS1pro:AGL24 を導入して、葉特異的にAGL24 を発現させた形質転換体は、35S:AGL24 形質転換体と同様に早期花成と花器官の異常を示した。AGL24は、茎頂においてMADS-box転写因子遺伝子SEPALLATA3SEP3)の発現を抑制しており、AGL24-amiR を発現させた形質転換体の茎頂ではSEP3 転写産物量が増加し、SUC2pro:AGL24GAS1pro:AGL24 を導入した形質転換体では減少していた。萼片の表皮細胞を走査型電子顕微鏡で観察すると、巨大細胞が小さな細胞の間に点在する特徴的なパターンが観察され、巨大細胞と小細胞の表面は微細な隆起で覆われている。しかし、35S:AGL24 形質転換体の萼片表皮には、微細隆起がなく、葉の表皮で観察されるようなジグソーパズル状の細胞が観察され、細胞運命が転換していた。そして、SUC2pro:AGL24 およびGAS1pro:AGL24 形質転換体の萼片表皮は、微細隆起に覆われた巨大細胞と隆起のないジグソーパズル状の細胞の両方が観察され、細胞運命が部分的に変化していた。これらの結果から、葉で発現するAGL24 は、非細胞自律的に作用して花器官の細胞運命に影響していることが示唆される。AGL24 mRNAが移動しうるのかを接ぎ木試験によって調査した結果、野生型植物の台木にagl24 変異体の穂木を接ぐと穂木でAGL24 mRNAが検出されること、非移動性のGFP mRNAを付加したAGL24GFP-AGL24)を発現するコンストラクト(35S:GFP-AGL24SUC2pro:GFP-AGL24)の台木に野生型植物の穂木を接ぐと穂木でGFP-AGL24 mRNA化検出されることが確認された。予想外なことに、35S:GFP-AGL24 形質転換体、SUC2pro:GFP-AGL24 形質転換体の葉でGFP-AGL24 mRNAが高蓄積していることが確認されたが、GFP蛍光は検出できなかった。しかし、SUC2pro:GFPAGL24 形質転換体の花茎頂ではGFP蛍光を検出した。したがって、AGL24タンパク質は茎頂で選択的に蓄積し、葉では蓄積しないことが示唆される。35S:GFP-AGL24 形質転換体の切り葉を26Sプロテアソーム阻害剤MG132で処理したところ、GFP蛍光が検出された。したがって、葉で翻訳されたAGL24はプロテアソーム系によって直ちに分解されると考えられる。このことを確認するためにベンサミアナタバコを用いた一過的発現解析を行なったところ、35S:GFP を発現させた際にはGFP蛍光が検出されたが、35S:GFP-AGL24 を発現させた際には検出されなかった。AGL24タンパク質はMIKC型MADS-box転写因子であり、N末端MADSドメイン、中間ドメイン、ケラチン様ドメイン、C末端ドメインから構成されている。GFPを融合させたAGL24タンパク質断片をベンサミアナタバコで発現させてGFP蛍光を観察した結果、葉におけるAGL24タンパク質の速やかな分解にMADSドメインが関与していることが判った。以上の結果から、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して花の形成を制御していること、葉で翻訳されたAGL24タンパク質は26Sプロテアソーム系によって速やかに分解されるとこが判った。AGL24 の発現は、光、植物ホルモン、春化の影響を受けるので、葉から茎頂へのAGL24 mRNAの移動は、花分裂組織の発達を調整するために葉が感知する様々な環境シグナルを統合している可能性がある。

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