Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)エチレン受容体ETR1と相互作用する因子

2010-12-29 20:23:26 | 読んだ論文備忘録

Molecular Association of the Arabidopsis ETR1 Ethylene Receptor and a Regulator of Ethylene Signaling, RTE1
Dong et al.  JBC (2010) 285:40706-40713.
DOI:10.1074/jbc.M110.146605

エチレンは膜上に局在する受容体によって受容される。受容体はエチレン応答の負の制御因子として機能しており、エチレンが結合することによって抑制シグナルが遮断され、エチレン応答が起こる。シロイヌナズナには5種類のエチレン受容体ホモログ(ETR1、ERS1、ETR2、EIN4、ERS2)が存在し、ETR1は膜貫通ドメイン、GAFドメイン、ヒスチジンキナーゼ様ドメイン、レシーバー様ドメインから構成されている。ETR1を制御する因子としてREVERSION-TO-ETHYLENE SENSITIVITY1(RTE1)が同定されており、RTE1 過剰発現シロイヌナズナはエチレン非感受性となる。米国 メリーランド大学カレッジパーク校のChang らは、RTE1とETR1の物理的相互作用をBiFC法によって調査し、RTE1のN末端側にcYFP、ETR1のC末端側にnYFPを融合したタンパク質を発現させると強いYFP蛍光が観察されることを見出した。また、エチレン処理は蛍光シグナル強度に影響を及ぼさなかった。ETR1 の機能獲得変異体には、エチレン非感受性を示すに当たってRTE1 を必要としないetr1-1 とRTE1を必要とするetr1-2 があるが、どちらの変異etr1-nYFP融合タンパク質もcYFP-RTE1との相互作用を示して蛍光シグナルを発した。蛍光シグナル強度は野生型ETR1-nYFPと比較すると弱いが、etr1-1 変異体のRTE1非依存性はETR1-1とRTE1の相互作用の喪失によるものではないと考えられる。RTE1と51%の相同性があるRTE1-HOMOLOG(RTH)はRTE1のようなエチレンシグナル伝達に関与していないことが報告されており、cYFP-RHTはETR1-nYFPとの蛍光シグナルを発しなかった。RTE1とETR1は、in vitroにおいて高い親和性を示すことが確認された。RTE1がアミノ酸置換(C161Y)変異したrte1-1 変異体はetr1-1 変異の機能を喪失させることが知られており、BiFCの結果からRTE1-1はETR1との相互作用が弱くなっていることがわかった。以上の結果から、ETR1とRTE1の物理的相互作用はETR1が機能するために必要であると考えられる。

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論文)新規サイトカイニンアンタゴニスト

2010-12-28 06:12:07 | 読んだ論文備忘録

The Phenylquinazoline Compound S-4893 is a Non-Competitive Cytokinin Antagonist that Targets Arabidopsis Cytokinin Receptor CRE1 and Promotes Root Growth in Arabidopsis and Rice
Arata et al.  Plant Cell Physiol. (2010) 51:2047-2059.
doi:10.1093/pcp/pcq163

サイトカイニンは細胞分裂、細胞分化を促進する植物ホルモンであるが、根の成長に関しては、不定根形成、側根形成、根の伸長成長を抑制する作用がある。よって、根でのサイトカイニン作用を抑制することができれば根の成長促進が期待される。住友化学農業化学品研究所の荒田らは、サイトカイニン受容体に対するアンタゴニストを探索することを目的に、シロイヌナズナのサイトカイニン受容体をコードするCRE1 を発現させたヒスチジンキナーゼ欠損酵母のサイトカイニン(BA)存在下で成長を抑制する物質を80,000の化学物質ライブラリーの中からスクリーニングした。その結果、酵母の成長を濃度依存的に阻害するSS-6772とS-4607の2つの物質が選抜された。これらの物質は共通の化学構造として4-フェニルキナゾリンを持ち、これまでに報告されているサイトカイニン受容体アンタゴニスト、アンチサイトカイニン、サイトカイニンとは構造が異なる。サイトカイニンアンタゴニストであれば根の成長を促進する作用があるとの推測から、シロイヌナズナ芽生えを用いた手法によっても40,000の化学物質ライブラリーのスクリーニングを行ない、SS-6772とS-4607を含む1,818の物質が1次スクリーニングで選抜された。酵母サイトカイニンアンタゴニスト活性、根の成長促進活性、SS-6772とS-4607の構造をもとにキナゾリン環の2位と4位の置換基の最適化を行ない、もっと強い活性を示す物質としてS-4893が選抜された。S-4893はCRE1の非競合阻害剤として機能し、阻害定数(Ki)はLineweaver-Burk法で1.02x10−6  M、Dixon法で3.43x10−6  Mであった。S-4893はシロイヌナズナでのARR5 のサイトカイニンによる発現誘導を中和させる作用があり、S-4893自身はARR5 の発現誘導効果を示さない。よって、S-4893はサイトカイニンアゴニスト活性はない。また、S-4893添加はシロイヌナズナ胚軸からの緑化カルスの形成とカルスからの根毛形成阻害に必要とするカイネチン濃度を上げる作用を示した。さらに、S-4893添加はBAによるシロイヌナズナ芽生えの1次根成長阻害を濃度依存的に抑制し、根の成長を促進する効果があった。S-4893の根成長促進効果は単子葉植物のイネにおいても観察され、濃度依存的にイネ幼苗の種子根、冠根、側根の伸長を促進した。しかし、S-4893添加は冠根や根の分枝の数には影響を及ぼさなかった。よって、S-4893は、サイトカイニンアンタゴニストとして作用することで、シロイヌナズナとイネの根の成長を促進していると考えられる。

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論文)キノーム解析によるジャスモン酸、サリチル酸シグナル伝達機構の探索

2010-12-27 06:10:39 | 読んだ論文備忘録

Kinome Profiling Reveals an Interaction Between Jasmonate, Salicylate and Light Control of Hyponastic Petiole Growth in Arabidopsis thaliana
Ritsema et al.  PLoS ONE 5(12): e14255.
doi:10.1371/journal.pone.0014255

植物は病原菌の感染や昆虫による食害を受けると様々な防御応答をする。この応答はジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、エチレンによって誘導されるが、アタッカーによって生成されるホルモンの相対的な量が異なり、これにホルモン相互のクロストークが加わることで適切な防御応答が行なわれる。植物ホルモンのシグナル伝達にはタンパク質キナーゼによるリン酸化過程が含まれていることが知られており、ホルモン処理による基質のリン酸化を網羅的に調査することによって、どのようなシグナル伝達、ホルモン相互のクロストークがなされているかを解析することが可能となると考えられる。オランダ ユトレヒト大学のZanten らは、キナーゼの基質となるペプチドがスポットされた市販のPepChipアレイ(オランダ Pepscan Systems)を用いて、シロイヌナズナ芽生えをMeJAもしくはSAおよびSA/MeJA処理した際のキノーム解析を行なった。その結果、MeJA処理では75、SA処理では63、SA/MeJA処理では123のペプチドが対照区とは異なるリン酸化を受けることがわかった。しかも、多くのスポットがMeJA、SA、SA/MeJA処理特異的にリン酸化され、そぞれの処理で重複しているものは少なかった。このことはSA/MeJA処理はMeJA処理とSA処理の単純な和ではないことを示している。PepChipには植物特異的なペプチドが10個スポットされており、SA処理ではそれらのペプチドのリン酸化に変化は見られなかったが、MeJA処理では4つのペプチド(アクアポリン、PEPカルボキシラーゼ(PEPC)、光合成系IIDタンパク質(PSIID)、フィトクロムA(PhyA))のリン酸化に変化が見られた。また、SA/MeJA処理ではPhyA、PSIIDとショ糖合成酵素由来のペプチドのリン酸化が高まった。よって、これらのタンパク質はそれぞれのホルモン処理によって転写後制御を受けていると考えられる。キノミックスによって示されたMeJAによる光合成や光関連因子の制御は、転写レベルにおいても起こっていることがトランスクリプトームデータから示されており、PSII関連遺伝子、光シグナル関連遺伝子はMeJA処理によって発現量が減少する。よって、光関連因子のMeJAによる制御は転写レベルと転写後レベルの両方によってなされており、JAシグナルと光シグナルは相互作用をしていることが示唆される。低光強度条件下でははが上を向く下偏成長が起こり、この反応はPhyAと光合成関連シグナルによる制御を受け、MeJAによって抑制されることが知られている。MeJAによる下偏成長の抑制はJA非感受性coronatine insensitive 1coi1 )変異体やphyA 変異体では起こらないことから、JAシグナルによる下偏成長抑制にはPhyAが関与していることが示唆される。光合成電子伝達の阻害剤DCMU処理による下偏成長の誘導は、MaJA処理によって抑制されることから、光合成低下によって誘導される下偏成長はMaJAによって抑制される。下偏成長はモンシロチョウ(Pieris rapae )幼虫の食害によっても抑制されるが、これは食害によるJAの蓄積によって引き起こされていると考えられる。これら下偏成長に関する結果は、キノームやトランスクリプトームのデータから推測されるMeJAによる光シグナルの抑制を支持するものとなっている。SA処理もMeJA処理と同様にシロイヌナズナの下偏成長を抑制し、SA非感受性non-expressor of PR genes 1npr1 )変異体ではSA処理による下偏成長抑制が起こらないが、MeJA処理では抑制が起こった。また、coi1 変異体のSA処理は下偏成長抑制を起こした。したがって、MeJAとSAは異なるシグナル伝達経路によって下偏成長抑制を引き起こしているものと考えられる。

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論文)Aux/IAAタンパク質のオーキシン応答因子以外のターゲット

2010-12-26 17:57:24 | 読んだ論文備忘録

Repression by an auxin/indole acetic acid protein connects auxin signaling with heat shock factormediated seed longevity
Carranco et al.  PNAS (2010) 107:21908-21913.
doi:10.1073/pnas.1014856107


スペイン科学調査最高評議会 天然資源・農業生物学研究所のJordano らは、ヒマワリの種子で発現し胚発生過程に関与している熱ショック転写因子(HSF)HaHSFA9と相互作用をするタンパク質を酵母two-hybrid法によりスクリーニングし、Aux/IAAタンパク質をコードするcDNAを単離した。このタンパク質はシロイヌナズナに29個あるAux/IAAのうちのAtIAA27との類似性が高いことからHaIAA27と命名した。HaIAA27とHaHSFA9との相互作用は、HaHSFA9がHSF同士がオリゴマーを形成する際に使われるドメイン(OD)と、HaIAA27はAux/IAAはオーキシン応答因子(ARF)と相互作用をする際に使われるドメインIIIおよびIVとの間で形成されることが判った。HaIAA27のドメインIIをアミノ酸置換して安定化させたタンパク質を用いて、ヒマワリ胚においてHaIAA27とHaHSFA9が相互作用を示すことがBiFC法によって確認された。よって、Aux/IAA(HaIAA27)タンパク質は生体内においてARF以外のタンパク質(HaHSFA9)とも相互作用をすることが示唆される。HaIAA27はヒマワリ未熟胚においてHaHSFA9の作用を抑制しており、内生オーキシン量が増加するとHaIAA27が分解されて抑制が除去される。HaIAA27を種子特異的プロモーターDS10 で発現させた形質転換タバコを作出して表現型を解析したところ、野生型のHaIAA27を発現させた場合には異常は見られなかったが、ドメインIIをアミノ酸置換したHaIAA27を発現させたタバコでは、種子中の低分子量熱ショックタンパク質(sHSPs)蓄積量が減少し、芽生え胚軸と主根が太短くなった。ドメインIとIIを欠失させARFとの相互作用に関与するドメインのみを有するタンパク質を発現させた場合は、種子中のsHSPsの蓄積はドメインIIをアミノ酸置換したHaIAA27を発現させたものと同程度に減少したが、芽生えの形態変化の程度は軽微であった。したがって、HaIAA27による熱ショック転写因子の抑制は、Aux/IAAタンパク質によるオーキシン応答因子の抑制とは異なることが示唆される。

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論文)ジベレリンにより発現誘導されるシステインリッチタンパク質の生理作用

2010-12-24 19:36:44 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis cysteine-rich protein GASA4 promotes GA responses and exhibits redox activity in bacteria and in planta
Rubinovich and Weiss  The Plant Journal (2010) 64:1018-1027.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04390.x

ジベレリン(GA)は、生合成、シグナル伝達、生理作用について多くの知見が得られているが、シグナル伝達から生理作用に至る過程に関与する因子についての情報は少ない。トマトから見出されたGA-stimulated transcript 1GAST1 )は、そのような因子の1つであり、多くの植物にホモログが存在し、GAにより発現が誘導される。GAST1 はC末端にシステインリッチドメインを持つ低分子量タンパク質をコードしており、シロイヌナズナにはGAST1 様遺伝子ファミリーが14個(GASA1-14 )存在している。イスラエル エルサレム・ヘブライ大学のWeiss らは、シロイヌナズナGAST1 様遺伝子のうちGASA4 を恒常的に発現させた形質転換体を作出し、その機能解析を行なった。GASA4 過剰発現シロイヌナズナは形態的な変化は認められないが、短日条件下での花成が早くなった。また、GASA4 過剰発現個体の種子は、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール存在下での発芽率が高くなっており、植物体のGA生合成酵素遺伝子の発現を見たところ、GA20OX の発現量が低下していた。GA生合成酵素遺伝子の発現はGAによって抑制されることから、GASA4 過剰発現個体はGA応答が促進されていると考えられる。3つのGASA 遺伝子(GASA4GASA5GASA6 )をターゲットとする人工マイクロRNAを発現させた形質転換シロイヌナズナは、形態や花成時期に変化は見られなかったが、パクロブトラゾール存在下での種子発芽率が野生型よりも高くなっていた。gasa5 機能喪失変異体シロイヌナズナはGA応答が促進されるという報告があることから、人工miRNA発現種子のGA合成阻害剤存在下での発芽促進は、GASA5 の発現抑制によるものと考えられる。GASA4 過剰発現個体は、葉に傷害を与えた際の過酸化水素の蓄積が抑制されており、GASA4は酸化還元活性があるものと思われる。さらに、GASA4 過剰発現個体は傷害による一酸化窒素(NO)の蓄積を抑制し、NOドナーであるニトロプルシドナトリウム(SNP)存在下での種子発芽阻害が低減された。GASA4による過酸化水素やSNPに対する耐性は、GASA4 を発現させた大腸菌においても観察され、GASA4のシステインリッチドメインを発現させた場合でもSNP耐性を示した。GASA4のシステインリッチドメインのCys残基4箇所をAlaに置換したものを過剰発現させたシロイヌナズナは、傷害による過酸化水素の生成が僅かしか抑制されず、GA20OX の発現低下も見られなかった。よって、GASA4の活性にはシステインリッチドメインが関与していると考えられる。以上の結果から、GASA4はGA応答を促進するタンパク質として、そして酸化還元調節因子として機能していると考えられる。

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論文)APETALA2によるトマト果実の成熟制御

2010-12-23 17:02:44 | 読んだ論文備忘録

A tomato (Solanum lycopersicum) APETALA2/ERF gene, SlAP2a, is a negative regulator of fruit ripening
Chung et al.  The Plant Journal (2010) 64:936-947.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04384.x

APETALA2AP2 )遺伝子は、シロイヌナズナの花の器官形成制御機構を説明するABCモデルにおいてAクラスに属するホメオティック遺伝子として同定され、現在では、他の形態形成や分裂組織での機能が報告されている。トマトではAP2 が果実の発達に関与していることが示唆されているが、詳細な分子機構は明らかとなっていない。米国 コーネル大学のGiovannoni らは、トマトのAP2 遺伝子であるSlAP2a と果実の成熟との関係を調査した。果実の成熟過程におけるSlAP2a の発現を見ると、breaker期に転写産物量が増加し、その後成熟後期には転写産物量は減少していった。SlAP2a の発現をRNAiによって抑制させた形質転換トマトは、花の形態に変化は見られなかったが、成熟した果実の果皮色が濃いオレンジ色となった。果実の大きさは野生型よりもやや小さくなったが、種子の量や稔実には変化は見られなかった。また、果実色の変化と果実の軟化は野生型よりも早くなっていた。SlAP2a RNAi系統は全カロテノイド量が野生型の20-40%程度であり、野生型ではリコペン量が全カロテノイドの90%程度を占めているのに対して形質転換体では35-45%であった。しかし、β-カロテン量は野生型よりも2倍多く、全カロテノイドの40-50%あった。このことが形質転換体果実の果皮色がオレンジ色を呈している理由であると考えられる。SlAP2a RNAi系統果実はbreaker期のクロロフィル含量も高く、特にクロロフィル-aが高くなっていた。SlAP2a RNAi系統果実でのカロテノイド生合成に関与する酵素遺伝子の発現を見たところ、ファイトエン合成酵素1遺伝子(PSY-1 )の発現量が低く、野生型果実では殆ど検出されないリコペン-β-サイクラーゼ遺伝子(Cyc-B )の発現が見られた。このような遺伝子発現の変化が、形質転換体果実でのカロテノイド量の減少とリコペンやβ-カロテン含量の増加をもたらしていると考えられる。形質転換体果実のエチレン生産は、breaker期において野生型よりも3-5倍多く、breaker期後期においてもエチレン生産の高い状態が継続した。よって、SlAP2a は果実成熟時のエチレン生合成を負に制御している。形質転換体果実では、果実の成熟に関与しているMADS-box転写因子Le-MADS RIN や果実の軟化に関与しているポリガラクツロナーゼ遺伝子(PG2A )の発現に大きな変化は見られなかったが、発現誘導時期が野生型よりも早くなっていた。以上の結果から、SlAP2aはトマト果実の成熟過程において、果実成熟に関与している因子の発現を調節する機能があると考えられる。

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論文)ポリコーム群タンパク質による胚的形質の抑制

2010-12-21 22:52:33 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis PRC1-like ring-finger proteins are necessary for repression of embryonic traits during vegetative growth
Chen et al.  Cell Research (2010) 20:1332-1344.
doi:10.1038/cr.2010.151

ポリコーム群(PcG)タンパク質複合体は、ヒストンのメチル化・遺伝子の発現抑制に関与している。ポリコーム複合体は、ポリコーム抑制複合体1(PRC1)とPRC2に大きく2つに分けられ、PRC2はヒストンH3リジン27(H3K27)のトリメチル化を、PRC1はクロモドメインを有するサブユニットポリコーム(Pc)を介してH3K27me3に結合して遺伝子のサイレンシングを引き起こす。シロイヌナズナにおいて、PRC2を構成するサブユニットは複数見出されており、植物の様々な成長過程の制御に関与していることが報告されているが、PRC1に関する知見は少ない。動物のPRC1コア複合体はPcの他にring-フィンガータンパク質のRING1A、RING1B、BMI1を含んでおり、シロイヌナズナにもそれらと相同なタンパク質をコードする遺伝子(AtRING1a 、AtRING1b 、AtBMI1a 、AtBMI1b 、AtBMI1c )が存在しているが、Pcのホモログは見出されていない。しかし、クロモドメインを含むLIKE HETEROCHROMATIN PROTEIN1(LHP1)がH3K27me3に結合してPcのアナログとして機能すると考えられている。フランス国立科学研究センター 植物分子生物学研究所のShen らは、シロイヌナズナのPRC1の機能について各種変異体を用いて解析を行なった。Atring1a Atring1b 二重変異体は、栄養成長期にあっても胚の特性が抑制されず、子葉、葉、茎頂から異所的に未分化のカルスが形成される。根は伸長が遅く、根端が膨らんで緑化し、picklepkl )変異体の根のようになる。Atring1a Atring1b 変異体での胚的形質の脱抑制を分子レベルで解析するために、幹細胞活性や胚発生に関与する遺伝子の発現を調査したところ、茎頂分裂組織の制御に関与する遺伝子(STMBP/KNAT1KNAT2KNAT6 )の発現量が2-6倍、器官の境界領域の確立や茎頂分裂組織の誘導に関与するNACドメイン転写因子遺伝子(CUC1CUC2CUC3 )の発現量が3-15倍、胚的形質の維持に関与するMADSドメインファミリー転写因子遺伝子AGL15 の発現量が15倍、オーキシン排出キャリアをコードするPIN1PIN2 の発現量が3-4倍増加していた。また、AP2/ERF転写因子のBBM 、CCAAT結合転写因子のLEC1 、B3ドメイン転写因子のLEC2FUS3ABI3 をコードする遺伝子は発現量が大きく増加(18-360倍以上)していた。以上の結果から、Atring1a Atring1b 変異体では胚発生や幹細胞活性に関与する幾つかの鍵となる調節遺伝子が異所的に発現していることが示唆される。Atring1a Atring1b 変異体をオーキシン輸送阻害剤1-ナフチルフタラミン酸(NPA)を含む培地で育成したところ、未分化カルスやpkl 変異体様の根の形成が抑制された。したがって、Atring1a Atring1b 変異体の表現型にはオーキシンが関与していると考えられる。酵母two-hybridアッセイからAtBMI1a、AtBMI1b、AtBMI1cはAtRING1aもしくはAtRING1bと結合し、AtBMI1cはLHP1と結合することが確認された。よって、AtBMI1、AtRING1、LHP1はタンパク質複合体を形成すると考えられる。Atbmi1a Atbmi1b 二重変異体もAtring1a Atring1b 変異体と同様に未分化カルスやpkl 変異体様の根の形成を引き起こして胚的形質が脱抑制され、CUC1WOX5WOX8AGL15PIN2BBMLEC1LEC2FUS3ABI3 の発現量が増加していた。よって、AtRING1とAtBMI1は冗長性は無いが同じPRC1様複合体を形成して胚発生後の遺伝子発現や胚的形質の制御を行なっていると考えられる。AtBMI1c および程度は低くなるがAtBMI1aAtBMI1b の発現量はAtring1a Atring1b 変異体において増加しており、AtRING1aAtRING1b の発現量もAtring1a Atring1b 変異体で増加していた。よって、PRC1様複合体は自らを構成するring-フィンガータンパク質遺伝子の発現を抑制していると考えられる。

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論文)アブシジン酸応答を正に制御するRING型E3ユビキチンリガーゼ

2010-12-19 18:25:06 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis C3H2C3-Type RING E3 Ubiquitin Ligase AtAIRP1 Is a Positive Regulator of an Abscisic Acid-Dependent Response to Drought Stress
Ryu et al.  Plant Physiology (2010) 154:1983-1997.
doi:10.1104/pp.110.164749

シロイヌナズナにはE3ユビキチンリガーゼをコードする遺伝子が1400以上存在し、そのうち477はRING(Really Interesting New Gene)モチーフを含んでいるE3ユビキチンリガーゼである。韓国 延世大学校のKim らは、E3ユビキチンリガーゼのうち非生物ストレス条件で発現量が増加するものをマイクロアレイデータベースから100個選び出し、これらのT-DNA挿入機能喪失変異体の種子をアブシジン酸(ABA)存在下で発芽させてABA非感受性の変異体を単離し、これをatairp1 (Arabidopsis ABA-insensitive RING protein 1)と命名した。AtAIRP1 遺伝子(At4g23450)は153アミノ酸からなるC3H2C3タイプのRINGタンパク質をコードしている。AtAIRP1 転写産物は、低温、乾燥、高塩濃度に応答して増加することから、様々な非生物ストレスおよびABAによって発現が誘導される。AtAIRP1タンパク質はE3ユビキチンリガーゼ活性を有しており、細胞質に局在していた。AtAIRP1 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナ種子は、発芽時の幼根の出現と子葉の展開の点においてABA感受性が増加しており、atairp1 変異体とは逆の形質を示した。また、ABAによる芽生えの根の成長抑制、葉の気孔の閉鎖、活性酸素種の生成に関してもatairp1 変異体は非感受性で、AtAIRP1 過剰発現個体は感受性が高くなっており、AtAIRP1はABAの誘導するこれらの過程に対して正の制御因子として機能していると考えられる。AtAIRP1 過剰発現個体は乾燥ストレスに対して耐性を示し、atairp1 変異体は逆に弱くなっていた。乾燥によって発現が誘導されるRD20RD26RD29ARD29BRAB18KIN2 およびABA応答に関与するbZIP型転写因子のABF3ABI5 のABAによる発現誘導は、AtAIRP1 過剰発現個体では野生型よりも高く、atairp1 変異体では低くなっていた。マイクロアレイデータから、ABAによるAtAIRP1 の発現誘導はSnRK2プロテインキナーゼによって制御されていると考えられる。AtAIRP1がターゲットとするタンパク質は探索中であり、現時点では明らかではない。

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論文)アブシジン酸による根端分裂組織の維持

2010-12-18 08:31:31 | 読んだ論文備忘録

ABA promotes quiescence of the quiescent centre and suppresses stem cell differentiation in the Arabidopsis primary root meristem
Zhang et al.  The Plant Journal (2010) 64:764-774.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04367.x

アブシジン酸(ABA)は分裂組織の機能を維持させたまま分裂を休止させ、低濃度のABAは一次根の成長を促進する作用があるが、その詳細な機構は明らかとなっていない。英国 リーズ大学植物科学センターのZhang らは、シロイヌナズナの芽生えにABA生合成阻害剤としてフルリドンを与えると、その濃度に応じて根の静止中心(QC)細胞の分裂が誘導されることを見出した。ここへさらにABAを添加するとQCの分裂が止まり元へと戻った。また、ABA欠損変異体aba1-1aba2-4aba3-2 およびABA非感受性変異体においてもQCの分裂が観察された。よって、ABAは根端分裂組織のQCを静止状態に置く作用がある。フルリドン処理はQCおよびコルメラ幹細胞の分化(デンプン粒の蓄積)を誘導し、ここへさらにABAを添加すると分化が抑制された。よって、ABAは根端分裂組織の根端部側の幹細胞の分化を抑制する作用がある。またフルリドン処理は根端分裂組織の基部側の分裂領域および移行領域の細胞数を減少させ、ABA処理は増加させた。この分裂領域での細胞数の増加は、ABAが基部側の細胞分化を抑制することによって引き起こされていることが判った。ABAは側根分裂組織においても同様の作用を示した。QCの分裂はエチレンによって誘導されることが知られているが、フルリドン処理によるQCの分裂誘導はエチレン生合成阻害剤(2-アミノエトキシビニルグリシン)やエチレン作用阻害剤(硝酸銀)を添加しても起こることから、ABAはエチレンとは別個にQC分裂を制御していると考えられる。各種ABA非感受性変異体のQC分裂の観察から、ABI1、ABI2、ABI3、ABI5はABAによるQC静止に関与していることが示唆されたが、ABI4は関与していないことが判った。ABAは根端分裂組織幹細胞の維持に関与しているWOX5MONOPTEROSMP )、PLETHORA2 の発現を誘導する作用があり、wox5-1 変異体の根端分裂組織の異常な分裂はABAを添加しても抑制されないことから、ABAによるWOX5MP の発現上昇が幹細胞の維持を引き起こしていると考えられる。

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論文)タンパク質のメチル化による概日時計の制御

2010-12-15 23:21:34 | 読んだ論文備忘録

Type II protein arginine methyltransferase 5 (PRMT5) is required for circadian period determination in Arabidopsis thaliana
Hong et al.  PNAS (2010) 107:21211-21216.
doi:10.1073/pnas.1011987107

米国 ダートマス大学のMcClung らは、概日時計に関与する新規因子を同定することを目的に、概日リズムによって発現量が夕暮れに増加するカタラーゼ3遺伝子プロモーターの制御下でルシフェラーゼ遺伝子を発現する形質転換シロイヌナズナをEMS処理した変異体集団の中から、概日周期の長い変異体H54を見出した。この変異体はルシフェラーゼの発現周期が27時間程度であり、これに呼応して変異体芽生えの子葉の運動周期も長くなっていた。SNP解析により原因遺伝子のの探索を行ない、タイプⅡタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5 ; At4g31120)遺伝子のナンセンス変異がH54の表現型を示していることが確認され、これをprmt5-54 と命名した。PRTM5 は植物体全身で発現しており、PRTM5タンパク質は核と細胞質の両方に局在していた。PRMT5 の発現は概日リズムによる制御を受けており、光や温度といった環境要因によって転写産物量が変動した。概日時計を構成する因子のうち、CCA1LHYTOC1 の発現量や変動はPRMT5の影響を受けていなかったが、PRR7PRR9GIGANTEAGI )はH54変異体において転写産物の振幅が大きく変化していた。しかしながら、現時点においてPRMT5によるメチル化を受け概日時計の機能に直接関与しているターゲットは明らかではない。

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