Local light signaling at the leaf tip drives remote differential petiole growth through auxin-gibberellin dynamics
Küpers et al. Current Biology (2023) 33:75–85.
doi:10.1016/j.cub.2022.11.045
シロイヌナズナの葉は、光照射部位によって組織特異的な成長反応を示す。葉柄への遠赤色光(FR)照射は葉柄の伸長を促し、葉先へのFR照射(FRtip)は葉柄の下偏生長(下面が上面よりも早く生長する現象)を誘発して葉が上向きとなる。このように葉柄の伸長と下偏生長が空間的に分離しているため、植物は自己による遮蔽や近隣植物との競争に対して最適な成長制御を行うことができる。FRtipによる葉柄の下偏生長は、感知する葉の先端と応答する葉柄基部の間に空間的な隔たりがある。さらに、葉柄の下偏生長は、葉柄の背軸(下)側と向軸(上)側で細胞の伸長に差があることが必要である。オランダ ユトレヒト大学のPierik らは、以前に、FRtipが誘導する葉柄の下偏生長は、葉先での局所的なフィトクロムBの不活性化によってPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)が活性化し、活性化したしたPIFがオーキシン生合成を高めることで引き起こされることを見出している。しかしながら、葉の先端からのオーキシンのシグナルがどのようにして葉柄の下偏生長を誘導するのかは明らかとなっていない。そこで、葉の先端部、葉柄の背軸側と向軸側を経時的(20分刻みに300分まで)にサンプリングしてFRtipによる遺伝子発現の変化を観察した。その結果、葉の先端部ではFRtip初期にはオーキシンおよび光シグナル関連の遺伝子発現が高まり、続いてアブシジン酸関連遺伝子の発現が高まること、葉柄では光シグナル関連遺伝子の発現量変化は見られないが、100分から180分の間にオーキシン応答関連遺伝子の発現が高まり、同時に、ブラシノステロイド応答、エチレン応答、ジベレリン(GA)の生合成と応答関連の遺伝子の発現も高まることが判った。葉柄の背軸側と向軸側で発現量が異なる遺伝子は無かったが、背軸側の遺伝子発現量の変化は向軸側よりも大きいことが判った。したがって、背軸側で優先的に遺伝子発現が活性化されていると考えられる。FRtipによってオーキシンシグナル関連遺伝子の発現が高まることから、遊離オーキシン(IAA)量を調査したところ、FRtipによって葉先と葉柄背軸側のIAA含量が増加するが、向軸側のIAA含量は変化しないことが判った。また、葉柄背軸側にIAA添加をするとFR照射をしなくても下偏生長が起こり、葉柄向軸側にIAA添加をするとFRtipによる下偏生長が阻害された。したがって、下偏生長はオーキシン勾配によって誘導されていると考えられる。蛍光オーキシンレポーターを用いた解析から、FRtipから3時間以内に背軸側細胞層でオーキシン濃度の増加が見られ、向軸側細胞層でのIAA濃度の増加は僅かであることが確認された。FRtipの代わりに葉先にIAAを添加(IAAtip)すると、3時間後に葉柄の両側でIAA濃度が増加し、その後、向軸側のIAA濃度は低下したが背軸側では増加が継続した。下偏生長はオーキシン勾配が関与していると考えられることから、PINオーキシントランスポーターの機能喪失変異体を解析したところ、pin3 変異体やpin3 pin4 pin7 三重変異体はIAAtipに応答した下偏生長が低下し、FRtip、IAAtipによる葉柄背軸側のIAA濃度増加が阻害されることが判った。また、葉柄基部内皮のPIN3タンパク質は向軸側よりも背軸側で多く見られた。したがって、PINが葉先から葉柄背軸側へオーキシンを輸送することで背軸側細胞の伸長と葉先の環境検知に応答した下偏生長を促進していると考えられる。オーキシンシグナル伝達に関与しているAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)の多重変異体は、IAAtipによる下偏生長が抑制された。PIF4、PIF5、PIF7は、FRによる下偏生長を制御しており、pif4 pif5 二重変異体はIAAtipによる下偏生長が抑制されたが、pif7 変異は抑制効果が弱かった。PIF7はYUCCA(YUC)を介したオーキシン生合成を制御しているので、PIF7は葉先でのオーキシン生合成に関与し、PIF4、PIF5は葉柄でのオーキシン応答を促進していると考えられる。葉柄背軸側ではGAの生合成とシグナル伝達関連遺伝子発現量が高く、GA生合成変異体(ga20ox1 、ga20ox2 )ではFRtipによる下偏生長が抑制された。また、GA生合成阻害剤パクロブトラゾールを前処理することでFRtipによる下偏生長が阻害され、葉柄へGA添加することでこの阻害は解消された。さらに、葉先にGAを添加(GAtip)することで、FR照射なしに下偏生長が起こった。ただし、葉柄背軸側にGA添加をしても下偏生長は起こらなかった。GAtipは葉先でのYUC9 転写産物量を増加させ、yuc 多重変異体ではGAtipによる下偏生長が抑制された。DELLAが機能喪失したdellaP 五重変異体は常に葉が上向きだが、FRtipやIAAtipによって下偏生長が更に誘導され、葉はほぼ垂直となった。また、FRtipやIAAtipによって葉柄でDELLAタンパク質のRGAが分解されることが確認された。これらの結果から、葉先から供給されたオーキシンは葉柄背軸側でのGA合成を誘導し、GA量の増加によってDELLAタンパク質が分解されてPIFやARFといった成長を促進する各種転写因子のDELLAによる阻害が解除されて成長が促進されると考えられる。以上の結果から、植物は近隣植物を検出すると、葉先から葉柄の背軸側基部まで長距離オーキシン輸送を行ない、GA生合成とPIFやARFの活性化を経て局所的に細胞成長を誘導して葉を上向きにしていると考えられる。