Arabidopsis SAURs are critical for differential light regulation of the development of various organs
Sun et al. PNAS (2016) 113(21):6071-6076.
doi:10.1073/pnas.1604782113
暗所で育成したシロイヌナズナ芽生えを明所に移すと、子葉は展開し、胚軸は伸長が抑制される。中国 北京大学のChen らは、器官特異的な光応答に関与している遺伝子を解析するために、シロイヌナズナ暗所育成芽生えに光照射した後の子葉と胚軸での遺伝子発現の変化を網羅的に調査した。器官特異的光応答遺伝子群(OLRs)のうち、子葉のみで光に応答する遺伝子(OLR1)、胚軸のみで光に応答する遺伝子(OLR2)、子葉と胚軸で逆の応答をする遺伝子(OLR3)の3つのグループについて詳細な解析を行なった。これら3つのグループとも、ホルモン刺激に応答する遺伝子が多く含まれており、それらのうち37%はオーキシン経路に関与するものであった。特にOLR2で発現量が低下する遺伝子はオーキシン刺激に応答する遺伝子が多く含まれていた。オーキシンに関連した器官特異的光応答遺伝子では、Small Auxin Up RNA (SAUR )遺伝子が特に多く含まれていた。SAUR ファミリー遺伝子は、シロイヌナズナには79遺伝子あり、これらすべてのSAUR 遺伝子の発現パターンを解析すると4つのクラスに分類された。クラス1は子葉では光に応答して発現量が増加するが、胚軸では光応答を示さない。クラス2は光に応答して子葉で発現量が増加するが、胚軸では減少する。クラス3は光に応答して胚軸で発現量が減少するが、子葉では一定の発現を維持する。クラス4は子葉、胚軸ともに常に発現量が一定となる。クラス2の遺伝子は子葉と胚軸で光に応答して逆の制御がかかるので興味深い。また、このような遺伝子は芽生え全体を解析した場合には光応答遺伝子としては同定されないと思われる。SAUR 遺伝子の80%はこの4つのクラスに分類され、クラス1~3に分類される32のSAUR 遺伝子をlirSAUR (light-induced in cotyledons and/or repressed in hypocotyls SAUR )と命名した。クラス1、2、3に分類される遺伝子として、それぞれSAUR14 、SAUR50 、SAUR65 を選び、これらを過剰発現させた形質転換体芽生えの表現型を観察した。いずれの過剰発現個体も暗所育成3日目の胚軸が野生型よりも長く、さらに育成すると子葉が開いた。また、SAUR50 とSAUR65 の過剰発現個体は子葉が野生型よりも大きくなっていた。明所で育成した形質転換体は、野生型よりも胚軸が長く、SAUR50 とSAUR65 の過剰発現個体の子葉は野生型よりも大きくなった。過剰発現個体の子葉や胚軸の表皮細胞は野生型のものよりも大きいことから、lirSAURは細胞拡張を促進することで子葉や胚軸の成長を促進していると考えられる。こられの結果から、lirSAURは暗所と明所の両方で子葉と胚軸の成長を促進していることが示唆される。クラス2遺伝子のSAUR50 と、この遺伝子と発現パターンが類似しているクラス2遺伝子のSAUR16 とをCRISPR/Cas9でゲノム編集したsaur50saur16 二重変異体の暗所育成芽生えは、野生型よりも胚軸が短く、明所育成芽生えの子葉は野生型よりも小さくなった。また、暗所から明所へ移した際の子葉の展開が遅かった。光照射による各器官のオーキシン量の変化を見たところ、子葉では僅かに増加し、胚軸では減少していた。また、暗所育成芽生えをIAA処理したところ、lirSAUR 遺伝子の発現は胚軸のみで誘導され、子葉では誘導されなかった。これらの結果から、子葉でのlirSAUR の光照射による発現誘導はオーキシン以外のシグナルによって引き起こされ、胚軸ではオーキシンがlirSAUR の発現を正に制御していると考えられる。芽生えを暗所から明所へ移すと胚軸でのSAUR50 、SAUR65 の発現は速やかに減少するが、オーキシンアナログのピクロラムをを添加すると発現量の減少が緩やかになり、胚軸は対照よりも長くなった。したがって、オーキシン量の低下が光照射による急速なlirSAUR の発現量低下と胚軸身長阻害に関与していると考えられる。しかし、オーキシンを添加しても光照射による胚軸でのlirSAUR 発現量の低下は見られることから、光照射によるlirSAUR 発現はオーキシンによって部分的に制御されるが、胚軸においてSAUR を特異的に発現抑制する別の機構が存在すると考えられる。ChIP-qPCRアッセイから、光形態形成の抑制因子として作用するフィトクロム相互作用因子(PIF)のPIF3とPIF4は、SAUR14 、SAUR50 、SAUR65 のプロモーター領域に結合することがわかった。また、pif1pif3pif4pif5 (pifq )変異体の暗所育成芽生えでは、子葉でのSAUR14 、SAUR50 、SAUR65 の発現量が増加し、胚軸での発現量が減少していた。よって、PIFは暗所育成芽生えの子葉でのlirSAUR の発現を抑制し、胚軸では発現を促進していることが示唆される。このことは、暗所育成pifq 変異体芽生えは子葉が展開、拡大して胚軸が短くなることと一致している。pifq 変異体の胚軸が短い表現型は、lirSAUR を過剰発現させることによって部分的に回復した。したがって、PIFがlirSAUR 遺伝子のプロモーターに直接結合して、子葉や胚軸での発現を直接制御していることが示唆される。以上の結果から、以下の作業モデルが考えられる。子葉では、PIFがlirSAUR のプロモーターに結合して暗所での発現を抑制しているが、光照射によってPIFが分解されると抑制から解放されてlirSAUR 転写産物が蓄積し、子葉の拡張が促進される。胚軸では、PIFと高濃度内生オーキシンが暗所でのlirSAUR の発現を活性化し、蓄積したlirSAURが胚軸の伸長を促進する。光照射によってPIFが分解され内生オーキシン量が減少することでlirSAUR 転写産物量が減少し、胚軸伸長が減速する。