Opposite Roles of Salicylic Acid Receptors NPR1 and NPR3/NPR4 in Transcriptional Regulation of Plant Immunity
Ding et al. Cell (2018) 173:1454-1467.
doi:10.1016/j.cell.2018.03.044
シロイヌナズナSNC2 (Suppressor of NPR1, Constitutive2 )は病原菌に対する抵抗性に関与する受容体をコードしており、この遺伝子の優性変異体snc2-1D は恒常的に免疫応答が活性化している。また、snc2-1D npr1-1 二重変異体は矮化する。カナダ ブリティッシュコロンビア大学のZhang らは、NPR1とは独立した免疫系制御因子を単離することを目的にsnc2-1D npr1-1 二重変異体のサプレッサースクリーニングを行ない、bda4-1 snc2-1D npr1-1 三重変異体を得た。bda4-1 変異は優性の変異であり、bda4-1D と改名した。bda4-1D snc2-1D npr1-1 変異体では、snc2-1D npr1-1 変異体の矮性の表現型、恒常的なPR1 およびPR2 の発現、べと病菌Hyaloperonospora arabidopsidis Noco2 に対する抵抗性が抑制された。bda4-1D は、一塩基置換によってNPR4のC末端側ドメインでアミノ酸置換(R419Q)を生じていたことからnpr4-4D と改名した。NPR4のR419残基はNPR1、NPR3や他植物のホモログにおいても保存されており、NPR3においてNPR4のR419に相当するR428をQに置換してsnc2-1D npr1-1 変異体で発現させたところ、矮性の表現型が抑制された。snc2-1D npr1-1 変異体の自己免疫は、SARD1、CBP60g、WRKY70といった転写因子が関与しており、snc2-1D npr1-1 変異体ではこれらの発現量がnpr1-1 変異体よりも高くなっているが、npr4-4D 変異が加わることによって発現が完全に抑制された。また、npr4-4D 変異体では病原菌接種によるSARD1 、WRKY70 の発現誘導が抑制され、病原菌に対する抵抗性も低下していた。npr3-1 npr4-3 二重変異体では、定常状態でのSARD1 、WRKY70 の発現量が増加しており、NPR3とNPR4はSARD1 、WRKY70 の発現を負に制御していることが示唆される。SARD1 遺伝子、WRKY70 遺伝子のプロモーター制御下でレポーター遺伝子Luc を発現するコンストラクトを用いたいシロイヌナズナプロトプラスト一過的発現系を用いた試験から、NPR3 もしくはNPR4 の過剰発現がレポーター遺伝子の発現を抑制することが確認された。よって、NPR3とNPR4は転写コリプレッサーとして機能すると考えられる。TGA転写因子のTGA2、TGA5、TGA6はNPR1、NPR3、NPR4と相互作用をすることが知られており、サリチル酸(SA)の誘導するPR 遺伝子の発現や病害抵抗性を冗長的に正に制御している。SARD1 とWRKY70 のプロモーター領域には2つのTGA転写因子結合モチーフがあり、このモチーフに変異の入ったプロモーターではNPR4 の過剰発現によるレポーター遺伝子の発現抑制が見られなかった。よって、NPR4によるSARD1 、WRKY70 の発現抑制にはTGA転写因子が関与していると考えられる。tga256 三重変異体はSARD1 やWRKY70 の発現量が野生型よりも高く、TGA2/TGA5/TGA6はSARD1 、WRKY70 の定常状態での発現を負に制御していることが示唆される。npr4-4D snc2-1D npr1-1 tga256 六重変異体はsnc2-1D npr1-1 二重変異体と同様に矮化した表現型を示すこと、tga256 三重変異体ではNPR4 の過剰発現によるレポーター遺伝子の発現抑制が見られないことから、NPR3/NPR4はTGA2/TGA5/TGA6と共同してSARD1 、WRKY70 の発現を抑制していることが示唆される。NPR4 の過剰発現によるレポーター遺伝子の発現抑制はSA処理によって解消されたが、npr4-4D の過剰発現ではSA処理の効果が見られなかった。したがって、SAはNPR4の転写抑制活性を阻害しており、npr4-4D変異タンパク質はSA処理に応答しないと考えられる。SAはNPR3/NPR4のSARD1 遺伝子やWRKY70 遺伝子のプロモーター領域へのリクルートに影響せず、NPR3/NPR4とTGA2との相互作用にも影響しないが、NPR3/NPR4の転写抑制活性に対して負の効果を示すことが判った。野生型植物をSAアナログのINAで処理するとべと病菌に対して抵抗性を示すが、npr4-4D 変異体では抵抗性が抑制された。npr4-4D変異タンパク質はSAに対する結合親和性が低下していた。よって、R419残基はSA結合活性にとって重要であると考えられる。NPR4のR419に相当するNPR1のR432をQに置換した変異タンパク質もSA結合親和性が低下しており、変異タンパク質をnpr1-1 変異体で発現させても変異体の表現型は相補されず、レポーター遺伝子のSA処理による誘導が見られなかった。npr3-2 npr4-2 二重変異体でのSARD1 、WRKY70 の発現量増加は、npr1-1 変異による影響を受けなかった。よって、npr3-2 npr4-2 二重変異体でのSARD1 、WRKY70 の発現活性はNPR1に依存していない。また、NPR4によるレポーター遺伝子の発現抑制はnpr1-1 変異体においても見られることから、NPR4はNPR1とは独立してSARD1 、WRKY70 の発現を制御していると考えられる。SA処理や病原菌接種によるSARD1 の発現誘導は、npr4-4D 変異体やnpr1-1 変異体で低下し、npr4-4D npr1-1 二重変異体では完全に抑制された。また、npr4-4D 変異とnpr1-1 変異はsnc2-1D 変異体の免疫活性化表現型や野生型植物の病原菌に対する抵抗性を相加的に抑制した。よって、NPR1とNPR3/NPR4は別々に機能していることが示唆される。野生型植物をSA処理することによって2455遺伝子の発現量が変化し、1543遺伝子は発現が誘導、912遺伝子は抑制された。発現誘導された1543遺伝子のうち、npr1-1 変異体では1107遺伝子、npr4-4D 遺伝子では286遺伝子で誘導が抑制された。npr4-4D 変異体で発現量が変化する遺伝子の多くはnpr1-1 変異体でも変化が見られた。npr1-1 変異体で発現誘導が抑制された1107遺伝子のうちの588遺伝子、npr4-4D 変異体で発現誘導が抑制された286遺伝子のうち252遺伝子は、SAによる発現誘導がわずかに見られたが、これらのうちnpr1-1 変異体の331遺伝子、npr4-4D 変異体の181遺伝子はnpr1-1 npr4-4D 二重変異体で発現誘導が完全に抑制された。したがって、npr1-1 変異とnpr4-4D 変異はSAによる発現誘導に対して相加的に影響している。以上の結果から、SAシグナルによる植物の免疫応答において、SA受容体のNPR1とNPR3/NPR4はTGA転写因子による遺伝子発現誘導に対して正反対の作用を示し、NPR1はコアクティベーターとして、NPR3/NPR4はコリプレッサーとして機能してターゲット遺伝子の転写調節をしていると考えられる。