Polyamines Regulate Strawberry Fruit Ripening by Abscisic Acid, Auxin, and Ethylene
Guo et al. Plant Physiology (2018) 177:339-351.
doi:10.1104/pp.18.00245
ポリアミン(PA)は、植物の成長や老化の制御に関与していることが知られている。過去にPAがイチゴ果実の成熟に関与していることが報告されているが、その機構については明らかとなっていない。中国 北京農学院のShen らは、イチゴ果実の成熟を7つのステージ[small green (SG)、large green (LG)、degreening (DG)、white (Wt)、initial red (IR)、partial red (PR)、full red (FR)]に分け、各ステージでのポリアミン類[プトレシン(Put)、スペルミジン(Spd)、スペルミン(Spm)]の含量を調査した。その結果、Put含量はSGからFRにステージが進むに従って減少し、FR果実で最も低くなった。Spd含量はSGからPRまでは低いが、FR果実でわずかに増加していた。Spm含量は緑色果実の間は低いが、Wtから増加が始まり、FR果実で最も高くなった。よって、Spmはイチゴ果実の成熟に関連していることが示唆される。イチゴ果実の成熟に対するPAの役割を調査するために、DG果実を各PAもしくはSpd、Spmの生合成を律速するSAMデカルボキシラーゼ(SAMDC)の阻害剤であるメチルグリオキサールビス(グアニルヒドラゾン)(MGBG)を含む溶液に浸漬して果実の成熟度合いを調査した。その結果、SpdとSpmの添加は果実の赤色化(アントシアニン蓄積)を促進し、MGBGとPutの添加は阻害することが判った。また、Spm、Spdの添加は内生のSpm、Spdの蓄積を促進し、Put、MGBGの添加は内生Put量を増加させるが、内生Spm、Spd量の蓄積を阻害していた。これらの結果から、SpmとSpdは果実の成熟を促進し、Putは成熟を阻害することが示唆される。PAによる果実の成熟制御の際の成熟に関連する植物ホルモンの変化を見た。その結果、エチレン放出はSpm、Put、MGBGの添加によって促進され、Spdによって阻害、アブシジン酸(ABA)の蓄積はSpmによって促進され、Spd、Put、MGBGは阻害、オーキシン(IAA)の蓄積はSpm、Put、MGBGによって促進され、Spdによって阻害された。よって、イチゴ果実赤色化におけるPAの作用はABA、エチレン、IAAが関与していることが示唆される。LG、Wt、IR、PRの4つのステージ果実についてRNA-seq解析を行ない、各ステージ間(LG-Wt、Wt-IR、IR-PR)で発現量変化する遺伝子(DEGs)を調査した。その結果、LGからPRへ移行するにつれてDEG数が減少していき、LGとWtの間は発現量が減少する遺伝子が多く、WtとIRの間は発現量が増加する遺伝子が多くなっていた。したがって、代謝変化は緑-白-赤の間で起こっており、白い果実は特徴的なステージにあることが示唆される。果実成熟過程のDEGsの中にはIAA、ABA、エチレンのシグナル伝達にに関連する遺伝子が見られ、これらのホルモンはイチゴ果実の成熟において重要であることが示唆される。Spd、Spm生合成の律速酵素であるSAMDCをコードするFaSAMDC 遺伝子は、LG果実で発現量が高く、果実が白色化する際に減少し、赤色化の間に急速に増加した。RNAiでFaSAMDC を発現抑制させた果実は、成熟の程度が果実内でキメラ状になり、FaSAMDC を過剰発現させたOE果実は色が濃い赤色になった。よって、FaSAMDCは果実の成熟に関与していることが示唆される。対照と比較して、FaSAMDC OE果実はSpm、Spdの含量が高く、RNAi果実は低くなっていた。しかし、Put含量はOE果実で低く、RNAi果実で高くなっていた。エチレン放出量はOE果実、RNAi果実とも対照よりも減少しており、アントシアニン、ABA、可溶性糖類の含量はOE果実で増加し、RNAi果実で減少していた。また、PA生合成や果実成熟に関連する遺伝子の発現量もOE果実で高く、RNAi果実で低くなっていた。以上の結果から、ポリアミン、特にスペルミンはイチゴ果実の成熟にとって重要であり、SAMデカルボキシラーゼは果実の成熟を正に制御していることが示唆される。