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論文)リン欠乏に応答したイネの形態と栄養素利用変化の分子機構

2024-03-18 17:18:08 | 読んだ論文備忘録

Low phosphorus promotes NSP1–NSP2 heterodimerization to enhance strigolactone biosynthesis and regulate shoot and root architecture in rice
Yuan et al.  Molecular Plant (2023) 16:1811-1831.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.022

リンは、植物の成長、発達、代謝とって重要な栄養素の一つであり、植物はリンの大部分を無機リン酸塩(Pi)として吸収する。イネは、Pi欠乏に応答して、分けつ数の減少、主根の伸長と側根数減少といった形態変化を起こす。この過程には、Pi欠乏シグナルを伝達する転写因子Oryza sativa PHOSPHATE STARVATION RESPONSE2(OsPHR2)が関与していることが知られている。また、Pi欠乏はストリゴラクトン(SL)の生合成を強く誘導する。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所のWangらは、イネプロトプラストを用いた実験から、OsPHR2およびOsPHR1は、SL生合成を促進するGRASファミリー転写因子遺伝子のNODULATION SIGNALING PATHWAY1NSP1)およびNSP2 の転写を活性化することを見出した。CRISPR-Cas9によって作出したNSP1NSP2 の機能喪失変異体やユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた形質転換体の解析から、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での分けつ数の減少とSLシグナル伝達の活性化(D53タンパク質の分解誘導)に関与していることが判った。NSP1NSP2 の発現は、SL生合成遺伝子(D10D17D27Os900Os1400)と同様に、Pi欠乏によって促進された。また、NSP1とNSP2は複合体を形成してSL生合成遺伝子のプロモーターに結合してその発現を活性化すること、プロモーター領域への結合と遺伝子発現の活性化においてNSP2が重要であることが判った。OsPHR2は、NSP1NSP2 に加えてD17D27Os900 のプロモーターに結合し、その発現を直接活性化した。したがって、OsPHR2は、NSP1、NSP2と協力して相乗的にSL生合成遺伝子の転写を活性化していると考えられる。nsp1 nsp2 二重変異体は、Pi欠乏条件でのSL生合成遺伝子の発現誘導と根および根滲出液中のSL量の増加が阻害されており、NSP1とNSP2は、Pi欠乏下でのSL生合成誘導にとって重要であると考えられる。NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールによる根の発達制御について調査したところ、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での主根の伸長促進と側根数の減少に関与していることが判った。イネの側根と冠根の発達はCROWN ROOTLESS 1(CRL1)/ADVENTITIOUS ROOTLESS 1(ARL1)によって制御されており、CRL1 の発現はSL処理によって抑制された。crl1 変異体では、SL処理やPi欠乏による側根密度の減少が見られないことから、CRL1はPi欠乏条件での側根密度の制御に関与していることが示唆される。nsp1 nsp2 二重変異体のCRL1 発現量は、野生型植物よりも高く、Pi欠乏による発現の低下が殆ど見られなかったが、SL処理により発現量は低下した。これらの結果から、Pi欠乏はNSP1NSP2 の発現を活性化してSLの生合成とシグナル伝達を促進することで、CRL1 の発現抑制と側根密度の抑制を引起していることが示唆される。Pi欠乏による冠根数の減少は、野生型植物とnsp1 nsp2 二重変異体で同等であることから、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏による冠根数の制御に影響していないと考えられる。Pi欠乏は多くの植物種で窒素の吸収と同化を阻害することが知られている。解析の結果、Pi欠乏はイネの内生窒素濃度を低下させ、窒素の吸収と同化に関与する遺伝子(OsNRT2.1OsAMT1.1OsAMT1.2OsAMT1.3OsGS1.2OsGS2OsNRT1.1BOsNIA1OsNRT2.3aOsNAR2.1OsNIR1)の発現を抑制することが判った。Pi欠乏による窒素濃度の低下はnsp1 nsp2 二重変異体やd14 SL受容体変異体では見られなかった。また、nsp1 nsp2 二重変異体ではPi欠乏による窒素の吸収・同化関与遺伝子の発現抑制が弱くなっていた。これらの結果から、Pi欠乏は、NSP1/2-SLシグナル伝達経路の一部を通じて窒素吸収と同化を抑制していることが示唆される。次に、SLによるリン吸収の制御について調べたところ、SL処理はPiトランスポーター遺伝子の発現を誘導すること、nsp1 nsp2 二重変異体およびd14 変異体は野生型植物よりも内生Pi濃度が低いこと、d14 変異体でのPi欠乏によるPiトランスポーター遺伝子の発現誘導は野生型植物よりも弱いことが判った。したがって、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏時にリン吸収を向上させていることが示唆される。興味深いことに、Pi欠乏条件下でSL処理をするとOsNRT1.1BOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2の転写産物量が増加し、低窒素条件下でSL処理をすることでOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2OsGS2の発現が誘導された。これらの結果から、SLによる窒素吸収・同化の制御が、環境中の窒素・リン濃度の変動に伴ってダイナミックに変化し、窒素とリンの濃度バランスをとっていることが示唆される。これらの結果から、NSP1NSP2 はイネのリン利用効率を改善する因子としての有用性が期待されるが、ユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた場合、分けつ数の減少や収量の低下を引起していた。そこで、NSP1NSP2 を自身のプロモーター制御下で発現させた形質転換体を作出したところ、これらの形質転換体は根でのSL生合成が高まり、主根の伸長とPi欠乏時のリン吸収が促進され、地上部乾物重の増加、穂長の伸長が見られ、収量が増加した。以上の結果から、イネはリン欠乏に対してNSP1、NSP2を介してストリゴラクトンの生合成とシグナル伝達を活性化し、形態や栄養素利用を変化させていると考えられる。

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