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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)WRKY71による葉の老化促進

2021-10-30 07:46:57 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis WRKY71 regulates ethylene-mediated leaf senescence by directly activating EIN2, ORE1 and ACS2 genes
Yu et al.  Plant Journal (2021) 107:1819-1836.

doi: 10.1111/tpj.15433

中国 青島農業大学のDong らは、シロイヌナズナの花成や分枝に関与しているWAKYファミリー転写因子WRKY71の過剰発現系統WRKY71-1D は野生型よりも葉の老化が促進され、機能喪失変異体wrky71-1 は葉の老化が遅延することを見出した。よって、WRKY71は葉の老化制御に関与する転写因子であると考えられる。WRKY71-1D の葉は、野生型と比較してクロロフィル含量や光化学系Ⅱ最大量子収率(Fv/Fm)が低く、老化関連遺伝子(SAGs)の発現量が高くなっており、wrky71-1 の葉では逆の傾向を示した。成長段階が異なる葉においてWRKY71 の発現を見ると、老化していない葉での転写産物量は最も低く、老化が進むにつれて黄化した領域から転写産物量が増加していった。この発現量の変化は老化マーカー遺伝子SAG13 の発現パターンと一致していた。WRKYタンパク質はシスエレメントW-box(TTGACC/T)に結合することが知られており、SAG13 遺伝子のプロモーター領域には15個、SAG201 遺伝子プロモーター領域には4個のW-boxが存在していた。解析の結果、WRKY71はこれらの遺伝子をターゲットとしていることが確認された。WRKY71-1Dsag13 変異もしくはsag201 変異を導入したところ、WRKY71-1D よりも葉の老化が遅延した。このことから、WRKY71SAG13 およびSAG201 の発現を直接制御することで葉の老化を加速させていることが示唆される。野生型植物、WRKY71-1Dwrky71-1 変異体の葉のRNA-seq解析から、WRKY71は様々な葉の老化誘導経路、例えば塩ストレス、暗黒処理、エチレンを介した老化に関与する49個の遺伝子の発現を制御していることが確認された。そこでエチレンによる葉の老化誘導との関連に着目して解析を行なったところ、WRKY71 の発現はACC処理によって誘導されることが判った。切り葉にACC処理をした老化誘導実験では、WRKY71-1D は野生型よりも強く老化が現れたが、wrky71-1 変異体の葉は緑色を維持した。よって、WRKY71はエチレンによる葉の老化を促進していると考えられる。WRKY71-1D ではエチレンシグナル伝達に関与しているEIN2EIN3 やエチレンが誘導する葉の老化に関与しているORE1/NAC2 の転写産物量が増加しており、wrky71-1 変異体では減少していた。WRKY71-1Dein2-5 変異、ein3-1eil1-1 変異もしくはnac2-1 変異を導入したところ、WRKY71-1D の葉の老化が遅延した。よって、WRKY71はエチレンシグナルを介して葉の老化を促進していると考えられる。EIN2 遺伝子、ORE1 遺伝子のプロモーター領域にもW-boxが含まれており、各種解析から、WRKY71はEIN2ORE1 のプロモーター領域に結合することが確認された。よって、WRKY71はエチレンシグナル伝達経路の因子の発現を介して葉の老化を促進していることが示唆される。さらに、ACC合成酵素遺伝子ASC2 のプロモーター領域にもW-boxが含まれており、WRKY71による発現制御を受けていることが判った。よって、WRKY71はASC2 を直接活性化してエチレン合成にも関与している。そこで、WRKY71-1D の切り葉にエチレン合成阻害剤の硝酸銀もしくはアミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理をしたところ、WRKY71による老化促進が抑制された。また、WRKY71-1Dacs2-1 変異を導入することでも老化が遅延した。以上の結果から、WRKY71は老化関連遺伝子の発現を直接活性化し、エチレンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現も活性化して正のフィードバックループを形成することで葉の老化を促進していると考えられる。

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論文)不定胚形成におけるアブシジン酸の効果

2021-10-23 07:42:41 | 読んだ論文備忘録

ABA signalling promotes cell totipotency in the shoot apex of germinating embryos
Chen et al.  Journal of Experimental Botany (2021) 72:6418–6436.

doi:10.1093/jxb/erab306

不定胚形成(somatic embryogenesis)は2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)のような合成オーキシンの処理によって試験管内で誘導することができる。また、アブシジン酸(ABA)も不定胚形成に関与しているということが提唱されているが、2,4-Dとの相互作用については明らかとなっていない。オランダ ヴァーヘニンゲン大学Boutilier らは、シロイヌナズナ芽生えに2,4-D処理をして茎頂から不定胚を直接誘導する実験系を用いて解析を行なった。トランスクリプトーム解析の結果、2,4-D処理によって5687遺伝子の発現が増加し、5600遺伝子の発現が減少していることが判明し、発現量が増加する遺伝子にはABA関連遺伝子や種子成熟関連遺伝子が含まれていた。そこで、不定胚形成におけるABAの役割を調査するために、内生ABA含量が異なる変異体を用いて誘導実験を行なった。その結果、内生ABA含量が高いcyp707a2-1 変異体は不定胚形成率が高く、aba2-1 ABA生合成変異体は形成率が低くなることが判った。aba2-1 変異体は野生型よりもカルスを多く形成し、ABAを添加することによって不定胚形成率が回復した。よって、ABAは不定胚形成促進の制御に関与していると考えられる。ABA受容体の多重変異体は不定胚形成に対して強い負の効果を示し、ABAを添加しても負の効果は改善されなかった。また、ABA受容体を過剰発現させた系統は不定胚形成効率が僅かに高くなった。さらに、ABAシグナル伝達を負に制御しているPP2Cタンパク質フォスファターゼの変異は不定胚形成効率を高め、ABAシグナル伝達の正の制御因子であるSnRK2タンパク質キナーゼの変異は不定胚形成に対して抑制的に作用した。これらの結果から、ABAの受容とシグナル伝達は2,4-Dによる不定胚形成にとって重要であると考えられる。ABAシグナル伝達経路上の転写因子ABI3、ABI4、ABI5の不定胚形成に対する効果を変異体を用いて解析したところ、いずれも2,4-Dが誘導する不定胚形成に対して促進的に作用し、特にABI3とABI4の作用が大きいことが判った。ABI3 の発現はオーキシンシグナル伝達を制御しているARF10およびARF16によって制御されており、ABI3もMIR160 を介してARF10ARF16 の転写後制御をしている。そこで、arf10/16 二重変異体について調査したところ、この変異体の不定胚形成率は低下していることが判った。ABI3ABI4 は種子発芽の際に一過的に発現が誘導されるが、2,4-D処理をすることで発芽後も発現が維持された。しかしながら、この発現は不定胚形成しない組織においても見られることからABI3ABI4 の発現は転写後制御受けているものと思われる。以上の結果から、2,4-Dが誘導する不定胚形成にはABAの生合成やシグナル伝達が関与していると考えられる。

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論文)光シグナルによる周期的側根形成誘導

2021-10-15 22:14:43 | 読んだ論文備忘録

Periodic root branching is influenced by light through an HY1-HY5-auxin pathway
Duan et al.  Current Biology (2021) 31:1-14.

doi:10.1016/j.cub.2021.06.055

光はシロイヌナズナ芽生えの根の発達を制御しており、芽生えを暗所で育成すると主根伸長と側根形成が抑制される。中国 南京農業大学のXuan らは、フィトクロムのクロモフォア生合成を制御しているヘムオキシゲナーゼをコードするLong hypocotyl1HY1 )の機能喪失変異体の明所育成芽生えは、側根数、主根の伸長、側根密度が野生型よりも低下することを見出した。よって、光が誘導する根の成長にはHY1の機能が必要であると考えられる。hy1 変異体ではステージⅠの側根原基数が減少していることから、HY1 は側根原基の誘導に関与しているものと思われる。側根原基はオシレーションゾーン(OZ)での遺伝子発現の周期変動によって形成される。DR5:LUC レポーターを用いた解析から、明所で育成したhy1 変異体芽生えの根はLUCシグナル強度が野生型の根よりも低く、振幅の間隔も長いことが判った。よって、HY1は側根原基形成部位(pre-branch site)の形成を促進することで側根形成を制御していることが示唆される。明所育成hy1 変異体芽生えの主根は野生型よりも短いが、これは根端分裂組織の細胞分裂活性が野生型よりも低いことに起因していた。よって、HY1活性は光によって誘導される根端分裂組織の活性化と主根伸長に関与していると考えられる。HY1 は葉や胚軸の維管束組織で発現しているが、根のコルメラ細胞、側部根冠細胞、道管側の内鞘(XPP)細胞、発達中の側根原基においても発現が見られ、この発現は光照射によって誘導された。野生型植物とhy1 変異体を用いた接ぎ木試験から、側根形成と主根伸長は地上部由来のHY1が主に関与しており、根由来のHY1の関与も見られること、HY1は地上部と根の間で移動しないことが判った。そこで、hy1 変異体において根冠もしくはXPP細胞特異的にHY1 を発現させたところ、XPP細胞特異的に発現させた場合に側根形成と主根伸長が回復した。よって、XPPに局在するHY1が根の発達に貢献していることが示唆される。野生型とhy1 変異体の根のトランスクリプトーム解析から、光シグナルに応答してHY1を介して発現量が増加する遺伝子にHY5 とそのホモログのHY5 homologHYH )が含まれていた。HY5HYH は根端分裂組織と伸長領域で発現しており、明所で育成したhy5 hyh 二重変異体芽生えは、hy1 変異体と同じように、野生型と比較して側根原基と側根が減少し、主根が短くなった。IAA29GH3.6/DFL1 といったオーキシン関連遺伝子も光シグナルに応答してHY1を介して発現誘導されており、これらの遺伝子はHY5やHYHによる制御も受けていた。そこで、DR5:GUS レポーターを用いて根のオーキシン蓄積を見たところ、HY1は光が誘導する根端分裂組織やOZでのオーキシン蓄積に関与していることが確認された。また、明所育成hy1 変異体の根は、野生型と比較してオーキシン極性輸送に関与しているAUX1 遺伝子やPIN 遺伝子の発現量が減少し、PIN1タンパク質の細胞内局在が乱れていた。そこで、hy1 変異体にオーキシン(1-NAA)処理をしたところ、側根原基形成部位の数と側根数が野生型と同程度までに増加した。以上の結果から、光シグナルはHY1-HY5-オーキシンシグナルモジュールを介して側根の周期的な形成を誘導していると考えられる。

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論文)COI1による防御関連遺伝子の発現抑制

2021-10-09 08:41:42 | 読んだ論文備忘録

The jasmonoyl-isoleucine receptor CORONATINE INSENSITIVE1 suppresses defense gene expression in Arabidopsis roots independently of its ligand
Ulrich et al.  Plant Journal (2021) 107:1119-1130.

doi: 10.1111/tpj.15372

F-boxタンパク質のCORONANTINE INSENSITIVE1(COI1)は、植物ホルモンのジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)の受容体であり、シロイヌナズナcoi1 機能喪失変異体はJA-Ile生合成変異体allene oxide synthaseaos )と類似した表現型が見られる。しかしながら、coi1 変異体とaos 変異体は常に同じ表現型を示すわけではない。例えば、coi1 変異体は子のう菌類のVerticillium longisporum に対して耐性を示すが、野生型植物やaos 変異体は耐性を示さない。ドイツ ゲッチンゲン大学Gatz らは、coi1 変異体、aos 変異体、野生型植物の根のトランスクリプトーム解析を行ない、coi1 変異体では167遺伝子の発現量が菌の感染に関係なく野生型植物やaos 変異体よりも高く、その中にはPHOSPHOGLYCERATE MUTASEPGM )やPATHOGENESIS-RELATED LIPASE2PRLIP2 )のようなcoi1 変異体で50倍以上発現量が高い遺伝子も存在することを見出した。したがって、COI1はJA-Ileとは関係なく特定の遺伝子の発現を抑制していることが示唆される。coi1 変異体で発現の高い遺伝子は免疫応答に関連したもの、特にサリチル酸(SA)に関連した遺伝子が多く含まれており、coi1 変異体でのSA生合成遺伝子ISOCHORISMATE SYNTHASE1ICS1 )の発現量はaos 変異体よりも2.8倍高くなっていた。そこで、SA生合成変異sid2-2coi1 変異体に導入してみたが、coi1 変異によるPGMPRLIP2 の発現量増加に変化は見られなかった。また、coi1 変異体、coi1 aos 二重変異体、coi1 sid2-2 二重変異体はV. longisporum 耐性を示したが、野生型植物、aos 変異体、sid2-2 変異体は耐性を示さなかった。jaz 十重変異体(jazD )は恒常的にジャスモン酸やエチレンに対する応答が活性化しているが、PGM の発現に変化は見られなかった。また、JAZタンパク質と相互作用をしない変異型COI1タンパク質(COI1AA)をcoi1 変異体で発現させてもPGMPRLIP2 の発現は抑制された。よって、COI1による遺伝子発現抑制にJAZリプレッサータンパク質は関与していないと考えられる。さらに、変異体の解析から、JAZタンパク質によって機能が抑制されるMYC2、MYC3、MYC4およびEIN3、EIL1もCOI1による発現抑制に関与していないことが確認された。しかしながら、COI1と相互作用することが報告されているメディエーターサブユニットMED25の機能喪失変異体med25 ではPGM の発現量が減少した。以上の結果から、COI1は、JA-IleおよびJAZタンパク質に依存しない方法で遺伝子発現を抑制する副業機能を持っていると思われる。

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論文)アブラナ蜜腺の細胞壁インベルターゼによる花蜜量と糖分組成の制御

2021-10-01 16:39:40 | 読んだ論文備忘録

A cell wall invertase controls nectar volume and sugar composition
Minami et al.  Plant Journal (2021) 107:1016-1028.

doi: 10.1111/tpj.15357

花蜜の量と糖分組成は、植物とポリネーターの相互作用の強さを決定する重要な要素である。アブラナ科植物は、二糖類のショ糖が非常に少なく、グルコースとフルクトースが多く含まれるヘキソース主体の花蜜を作る。ショ糖のヘキソースへの分解はインベルターゼによって触媒されており、シロイヌナズナの花では細胞壁インベルターゼ4(AtCWINV4)がショ糖分解に関与していることが知られている。米国 ミネソタ大学Carter らは、アブラナの蜜腺(側蜜腺、中央蜜腺)で発現している細胞壁インベルターゼを調査し、BrCWINV4A (BraA04g025740.3C ) が高い発現を示すことを見出した。野生型植物とbrcwinv4a-1 機能喪失変異体で蜜腺の構造に差異は見られないが、brcwinv4a-1 変異体は蜜腺からの花蜜の分泌量が野生型の10%程度になっていた。また、brcwinv4a-1 変異体の側蜜腺が分泌する花蜜は、野生型と比較してショ糖含量が高いが全糖類の量は少なかった。側蜜腺のインベルターゼ活性が花蜜量を制御しているかを調査るために、インベルターゼ阻害剤ヘプタモリブデン酸アンモニウム処理を行なったところ、阻害剤処理濃度に応じて花蜜量が減少することが判った。野生型植物とbrcwinv4a-1 変異体のポリネーター訪花数と種子収量を野外で比較調査したところ、野生型の花はbrcwinv4a-1 変異体の花の約2倍の昆虫が訪花し、特にミツバチとジョウカイボンの訪花が多かった。しかし、ツヤハナバチ、ハエ、その他のハチや甲虫の訪花数は野生型とbrcwinv4a-1 変異体で同程度であった。また、野生型植物はbrcwinv4a-1 変異体よりも1株あたりの種子数が約30%多かったが、1株あたりの総種子重量に有意差はなかった。brcwinv4a-1 変異体の種子は野生型種子よりもサイズが大きく千粒重が重かった。以上の結果から、アブラナでは蜜腺の細胞壁インベルターゼBrCWINV4が花蜜の量と糖分組成を制御していると考えられる。

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