Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)翻訳抑制によるエチレンシグナル伝達の制御

2015-12-27 09:31:12 | 読んだ論文備忘録

EIN2-Directed Translational Regulation of Ethylene Signaling in Arabidopsis
Li et al. Cell (2015) 163:670-683.

DOI: 10.1016/j.cell.2015.09.037

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Ethylene Prunes Translation
Mohammad Salehin, Mark Estelle  Cell (2015) 163:543-544.

DOI: 10.1016/j.cell.2015.10.032

エチレンシグナル伝達において、ETHYLENE INSENSITIVE 2(EIN2)は重要な因子となっている。EIN2は小胞体膜に局在しており、エチレン非存在下ではSer/ThrキナーゼのCONSTITUTIVE TRIPLE RESPONSE 1(CTR1)によってC末端部分(CEND)がリン酸化されている。エチレンが受容体に受容されてCTR1が不活性化してCENDがリン酸化されなくなると、CENDは小胞体膜に係留されているN末端から未知のプロテアーゼによって切断されてエチレンシグナルを活性化させる。EIN2の下流に位置する因子としては、ETHYLENE INSENSITIVE 3(EIN3)とそのホモログのEIN3-LIKE 1(EIL1)の2つの転写因子が遺伝子発現制御において重要な役割を演じている。また、EIN2はEIN3/EIL1をターゲットとしているF-boxタンパク質のEIN3-BINDING F-BOX 1(EBF1)、EBF2の機能を抑制していることが知られている。しかしながら、エチレンもしくはEIN2がどのようにしてEBF1/2 の機能を抑制しているかは明らかとなっていない。エチレン応答を正に制御している細胞質5'-3'エキソリボヌクレアーゼをコードしているETHYLENE INSENSITIVE 5EIN5 )の機能喪失変異体は、EBF1/2 mRNAの3'非翻訳領域(UTR)断片が過剰蓄積することから、中国 北京大学Guo らは、EBF1 3'UTR領域(1U )を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナを作出してエチレン応答性を観察した。その結果、この形質転換体の黄化芽生えはエチレンに対する応答性が低下し、EIN3タンパク質量が野生型よりも少ないことを見出した。この1U 過剰発現個体のエチレン低感受性はEBF1 もしくはEBF2 の欠失によって部分的に回復した。したがって、1U の過剰発現によるエチレン応答性の低下にはEBF1/2 が関与しており、1UEBF1/2 の機能を制御していることが推測される。1U 過剰発現個体のEBF1EBF2 転写産物量に変化は見られないので、EBF1/2 の転写やmRNA分解に変化はないと思われる。エチレン処理はポリソームを形成したEBF1/2 mRNAを減少させ、EBF1EBF2 mRNAの翻訳を抑制させたが、1U の過剰発現はポリソーム形成したEBF1/2 mRNAの減少を回復させ、エチレンによって抑制されていたEBF1/2 の翻訳を増大させた。GFP-EBF11U を付加したコンストラクト(G1F )と付加していないコンストラクト(G1C )を導入した形質転換体のGFP-EBF1 mRNA量に差は見られないが、G1F 導入個体ではエチレン処理によってGFP-EBF1タンパク質量が減少し、1U の過剰発現によって増加した。しかしながら、G1C 導入個体ではそのような変化見られなかった。このことから、1U 転写産物の蓄積は翻訳が高まることでEBF1/2 の機能が高まっていると考えられる。また、GFP1U を付加したコンストラクト(G1U )を導入した形質転換体はエチレン処理をすることでGFP蛍光が減少し、この減少はエチレン阻害剤の銀イオンを添加することで回復した。したがって、EBF1 3'UTR領域を付加したmRNAはエチレンによって翻訳が抑制されることが示唆される。1U の過剰発現で観察されたエチレン感受性の低下はEBF2 3'UTR領域(2U )を過剰発現させることによっても引き起こされた。エチレン処理によるG1U mRNAの翻訳抑制は、野生型、ein3 eil1 二重変異体において観察されたが、ein2 変異体、etr1 変異体では起こらなかった。したがって、 3'UTR領域による翻訳抑制はエチレン受容体やEIN2が関与しているが、EIN3/EIL1は関与していないことが示唆される。ein2 変異体ではEBF1/2 mRNAポリソームプロファイルのエチレン処理による変化が起こらず、EBF1 の翻訳抑制も見られなかった。完全長EBF1 を発現させた形質転換体の部分的なエチレン非感受性表現型はEIN2 を過剰発現させることで抑制されたが、EBF1 コード領域を発現させた形質転換体のエチレン非感受性は変化が見られなかった。したがって、3'UTR領域は、EBF1 の翻訳を抑制する重要なエチレン応答エレメントであり、この抑制にはEIN2が必要であることが示唆される。1U を98 ntから150 ntの5つの断片に分けてEIN2による翻訳抑制を調査したところ、3つの断片に抑制活性があり、これらの断片には7つのポリUからなるモチーフ(EPU と命名)が含まれていた。そして、7つのEPU を除去したEBF1 を発現させたebf1 変異体は、EIN2による翻訳抑制を受けなくなり、EIN3タンパク質量が減少した。EBF2 3'UTR領域にも5つのEPU があり、これらモチーフもEIN2による翻訳抑制に関与していることが確認された。EBF 3'UTR領域のポリUモチーフは他植物においても見出され、よく保存されたエチレンシグナル伝達制御機構であることが示唆される。したがって、EPU を介したEIN2による翻訳抑制はEBF1タンパク質量を制御し、エチレンシグナル伝達を制御する重要な過程であると考えられる。EIN2による翻訳抑制はC末端部分(654-1272、CEDN)が関与しており、EIN2のCENDに含まれる核局在シグナル(1262-1269、NLS)を欠損もしくは変異させると翻訳抑制活性が失われた。しかしながら、CENDの従来のNLSを異なる配列のNSLに置換してCENDを核に局在させても翻訳抑制活性は復活しなかった。したがって、EIN2 CENDのNLSモチーフは核局在シグナルとは別に翻訳抑制に関与していることが示唆される。1U を含むmRNAは、エチレン非存在下では細胞質と核の両方に局在しているが、エチレン存在下ではEIN2と相互作用を示して細胞質に局在し、この局在にEIN2のNLS配列が関与していることがわかった。1U を含むmRNAとEIN2は、エチレン存在下でEIN5と共に細胞質のPボディに局在していた。また、EIN5およびその他のPボディに含まれる因子のPAB2、PAB4、PAB8は、EIN2 CENDと相互作用をすることが確認された。さらに、Pボディ因子の機能喪失変異体はエチレン感受性が低下していた。以上の結果から、エチレンによって活性化されたEIN2 CENDはEBF1/2 mRNAの3'UTR領域と相互作用をしてPボディ因子とともにPボディを形成してEBF1/2 の翻訳を抑制、その結果EIN3/EIL1の蓄積とエチレン応答が起こると考えられる。


この論文とほぼ同じ内容の論文がCell誌の次のページに掲載された。

Gene-Specific Translation Regulation Mediated by the Hormone-Signaling Molecule EIN2
Merchante et al. Cell (2015) 163:684-697.

DOI: 10.1016/j.cell.2015.09.036

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論文)ジャスモン酸による花成制御

2015-12-13 16:32:08 | 読んだ論文備忘録

Transcriptional Mechanism of Jasmonate Receptor COI1-Mediated Delay of Flowering Time in Arabidopsis
Zhai et al.  Plant Cell (2015) 27:2814-2828.

doi:10.1105/tpc.15.00619

幾つかの植物種においてジャスモン酸が花成制御に関与していることが報告されているが、詳細な分子機構については明らかとなっていない。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所Li らは、シロイヌナズナにおいてJA受容体として機能するF-boxタンパク質CORONATINE INSENSITIVE1(COI1)の変異体coi1-2 は、日長条件に関係なく花成が促進されることを見出した。したがって、COI1を介したJAシグナルは花成を遅延させていると考えられる。JA生合成遺伝子ALLENE OXIDASE SYNTHESISAOS )の発現が抑制されたaos 変異体の花成は野生型と同等であることから、AOSによるJA生合成は花成時期制御に関与していないことが示唆される。JA応答遺伝子の転写抑制因子の1つであるJAZ1のドミナントネガティブ型(JAZ1ΔJas)を過剰発現させた形質転換体は、coi1 変異体と同様に、花成が促進された。様々なJA応答を制御しているMYC2のT-DNA挿入変異体myc2-2 の花成時期は野生型と同等であり、MYC2はCOI1による花成時期制御には関与していないことが示唆される。coi1-2 変異体では長日条件の昼の時間のFLOWERING LOCUS TFT )の発現量が野生型よりも高くなっており、coi1-2 変異体の早期花成はFT の異所的な発現によるものと思われる。coi1-2 変異体にft-10 変異を導入すると早期花成の表現型が抑制さることから、COI1はFT の発現を抑制することで花成を遅延させていると考えられる。JAによる花成制御にMYC2が関与していないことから、JAZと相互作用をするMYC2以外の因子がCOI1による花成制御に関与していることが推測される。そこで、JAZ1タンパク質を相互作用をするタンパク質を酵母two-hybrid法で選抜し、選抜されたタンパク質のうち、花成制御に関与しているとされる2つのAP2ファミリータンパク質TARGET OF EAT1(TOE1)とTOE2に注目して解析を行なった。BiFCアッセイや共免疫沈降試験から、JAZ1、JAZ3、JAZ4、JAZ9がTOE1およびTOE2と相互作用をし、他のJAZタンパク質は相互作用を示さないことがわかった。toe1 変異体、toe2 変異体は早期花成の表現型を示し、toe1 toe2 二重変異体は単独変異体よりも花成が促進されることから、TOE1とTOE2は花成制御において機能重複していると考えられる。一方、TOE1 過剰発現個体は花成が遅延した。toe1 toe2 二重変異体でのFT 転写産物量は野生型よりも著しく高く、TOE1 過剰発現個体では低くなっていた。toe1 toe2 二重変異体の早期花成表現型はft-10 変異を導入することで抑制された。したがって、TOE1とTOE2はFT の転写を抑制することで花成を負に制御していると考えられる。TOE1はFT 遺伝子のプロモーター領域および下流領域に結合することが確認された。したがって、TOE1はFT 遺伝子に直接結合して遺伝子発現を制御していると考えられる。FT プロモーター制御下でLUC レポーターを発現するコンストラクトを導入した一過的発現アッセイ系において、TOE1 を過剰発現させるとLUC の発現量が減少するが、同時にJAZ1 を過剰発現させるとLUC 発現の減少が相殺された。しかし、TOE1との相互作用に関与しているNTドメインをを欠いたJAZ1ΔNT を過剰発現させた場合にはLUC 発現は減少したままであった。よって、JAZ1はTOE1と相互作用をすることでTOE1によるFT 遺伝子の発現抑制を解除していると考えられる。coi1-2 変異体でTOE1 を過剰発現させるとFT 転写産物量は野生型よりも少なくなり、花成遅延を起こした。TOE1 の過剰発現は、根の伸長阻害やJA応答遺伝子の発現に関してcoi1-2 変異体で観察されるJA非感受性については変化を示さなかった。また、toe1 toe2 二重変異体ではJAによる根の伸長阻害や防御遺伝子の発現に変化は見られなかった。したがって、TOE-JAZ複合体はCOI1を介した花成制御に対して特異的に関与していると考えられる。

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論文)アブシジン酸コレセプターABI1の26Sプロテアソーム系による分解

2015-12-09 22:00:44 | 読んだ論文備忘録

Degradation of the ABA co-receptor ABI1 by PUB12/13 U-box E3 ligases
Kong et al.  NATURE COMMUNICATIONS (2015) 6:8630.

DOI: 10.1038/ncomms9630

アブシジン酸(ABA)のシグナル伝達において、ABAコレセプターのクレイドAタンパク質フォスファターゼ2C(PP2C)は負の制御因子として機能している。細胞質に局在するPYR/PYL/RCAR ABA受容体がABAと結合すると、PP2Cと相互作用をし、PP2Cによって阻害されていたSnRKファミリー等のタンパク質キナーゼが活性化することが知られている。しかしながら、ABA受容体との結合以外にPP2Cを制御する機構は明らかとなっていない。中国農業大学Gong らは、シロイヌナズナPP2CのABA-INSENSITIVE 1(ABI1)の代謝回転による制御について解析を行った。芽生えを26Sプロテアソーム阻害剤であるMG132で処理すると対照よりもABI1量が増加することから、ABI1は26Sプロテアソームにより分解されることが示唆される。ABI1をターゲットとするE3ユビキチンリガーゼを酵母two hybrid アッセイによって探索し、調査した29のタンパク質のうち5つ(PUB12、PUB13、PUB44、PUB60、SDIR1)がABI1と相互作用をすることが確認された。このうち、植物U-box E3リガーゼのPUB12、PUB13について詳細な解析を行なった。ABI1とPUB12/13は生体内においても相互作用することが確認され、ABI1はArmadillo repeat ドメインを介してPUB12/13と相互作用をしていた。in vitro ユビキチン化アッセイの結果、PUB12/13はPYR1とABA存在下でABI1をユビキチン化することが確認された。PYL ABA受容体は、ABAと結合した後にPP2Cと相互作用をして活性阻害するグループ(PYR1、PYL1-3)とABAと結合しなくてもPP2Cと結合して活性阻害するグループ(PYL4-10)に分かれるが、後者のPYLはABA非存在下でもABI1をユビキチン化した。ただし、ABA存在下の方がユビキチン化の程度は僅かに高くなっていた。pub12 pub13 二重変異体は、野生型よりもABI1の蓄積量が高く、分解速度が遅くなっていた。よって、PUB12/13はABI1の分解に関与していることが示唆される。また、生体内においてABI1がユビキチン化されることが確認された。シロイヌナズナ芽生えをABA処理するとABI1タンパク質量が減少すること、ABA含量が10%以下に減少したaba2-21 変異体から抽出したタンパク質液は野生型由来のものよりもABI1タンパク質の分解程度が低いことから、ABI1の分解はABAによって促進されることが示唆される。pyr1 pyl1 pyl2 pyl4 四重変異体のABI1タンパク質量は野生型よりも少ないが、ABI1の分解は野生型よりも遅くなっていた。また、ABA処理によって誘導されるABI1タンパク質の蓄積は四重変異体では少なくなっていた。したがって、ABI1の分解にはABA受容体が必要であると考えられる。pub12 pub13 二重変異体では、クレイドA PP2Cによって活性が阻害されるOST1/SnRK2.6のタンパク質キナーゼ活性は野生型よりも低いが、アミノ酸置換によりABA受容体との相互作用をしないabi1-1 変異体よりも高くなっていた。この結果から、pub12 pub13 二重変異体でのOST1キナーゼ活性の低下は、ABI1が蓄積してPP2C活性が増加したことによることが示唆される。pub12 変異体やpub13 変異体はABAによる子葉の緑化阻害に対して耐性があり、pub12 pub13 二重変異体はABA非感受性がさらに高くなっていた。芽生えのABA処理1時間後に野生型で発現が誘導されている3580遺伝子のうち、2237遺伝子はpub12 pub13 二重変異体で発現量が低く、2024遺伝子はabi1-1 変異体で発現量が低くなっていた。また、1327遺伝子は両方の変異体で発現量が低くなっていた。同様に、ABA処理3時間後に野生型で発現が誘導される4225遺伝子のうち、pub12 pub13 二重変異体で2724遺伝子、abi1-1 変異体で2679遺伝子の発現量が低く、1972遺伝子は両方の変異体で発現量が低くなっていた。ABA処理は孔辺細胞での過酸化水素の生産を促進するが、pub12 pub13 二重変異体ではABI1が蓄積してABAシグナルを抑制するために過酸化水素の生産が減少していた。pub12 変異体、pub13 変異体、pub12 pub13 二重変異体は、水の蒸散量が多く、乾燥ストレスに対する感受性が高く、ABAに応答した気孔の開閉が抑制されていた。したがって、PUB12とPUB13はABAを介した気孔の開閉に関与していることが示唆される。pub12 pub13 二重変異体にabi1-3 機能喪失変異を導入すると、pub12 pub13 二重変異体のABA非感受性の表現型が回復して、野生型やabi1-3 変異体と同等の表現型を示した。このことから、PUB12/13はABA応答においてABI1の上流で作用していることが示唆される。以上の結果から、シロイヌナズナのABAシグナル伝達における主要なPP2CのABI1は、ABA存在下でのABA受容体との相互作用による活性阻害とPUB12/13 E3ユビキチンりガーゼによるユビキチン化/26Sプロテアソーム系による分解の両方によってABAシグナルの活性化を引き起こしていることが示唆される。

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