Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジベレリン受容体の結晶構造解析

2008-11-29 13:31:08 | 読んだ論文備忘録

Gibberellin-induced DELLA recognition by the gibberellin receptor GID1
Murase et al.  Nature (2008) 456:459-463.

Structural basis for gibberellin recognition by its receptor GID1
Shimada et al.  Nature (2008) 456:520-523.

News and Views
Plant biology: Gibberellins close the lid
Peter Hedden  Nature (2008) 456:455-456

Nature11月27日号に、ジベレリン受容体GID1のジベレリン認識およびDELLAタンパク質認識について、結晶構造から解析した論文が2報出た。GID1はその1次構造が脂質代謝に関与するホルモン感受性リパーゼ(HSL)と似ていることが知られており、両者の高次構造の類似点・相違点を明らかにすることがGID1のジベレリン認識の解明にとって重要であった。
奈良先端大学のMuraseらは、シロイヌナズナのジベレリン受容体GID1Aについて、GA3-GID1A-DELLA(GAIのN末端側にあるDELLAドメイン)複合体の結晶構造解析を行ない、GID1Aタンパク質はコアドメインとN末端の伸長部で構成されていること、コアドメインの構成するポケットにGA分子が収納され、N末端伸長部がポケットに蓋をしていること、蓋となったN末端伸長部が糊となってDELLAドメインと結合することを明らかにした。DELLAの結合は、GAをトラップしているポケットをカバーするN末端伸長部を安定化し、GID1AとGAとの結合を強めている。以上の結果から、以下のモデルか考えられる。GAはGID1-DELLA結合を強めるアロステリックインデューサーとして機能し、GID1とGAが結合することによってGID1とDELLAとが結合するN末端伸長部の構造変化を誘導する。これにDELLAタンパク質が結合してDELLAタンパク質の構造も変化する。すなわち、GAによって活性化されたGID1は、SCF複合体がDELLAタンパク質を基質として認識することを促進する「ユビキチン化シャペロン」として機能していると考えられる。なお、このGID1-GA-DELLAの構造モデルは、既知のオーキシン受容体による認識機構とは異なっていると考えられる。
名古屋大学のShimadaらは、イネGID1タンパク質(OsGID1)とGA4の複合体の結晶構造解析を行ない、OsGID1の高次構造はHSLと似たα/β水解酵素型構造をしており、GA結合ポケットはHSLの基質結合部位に対応していること、OsGID1のN末端側の蓋の部分はGAをポケット内に収めるように覆っていることを明らかにした。さらに、OsGID1のGA結合に重要なアミノ酸残基を置換してその結合能を調べたところ、アミノ酸置換したほとんどすべての変異体はGA結合活性がないか、あるいは非常に低い結合活性しか示さなかった。以上の結果から、GID1はHSLに由来し、GA結合に関与するアミノ酸残基が置換することで、生理活性を持つGAに対してより厳密な選択性とより高い親和性を獲得するように進化してきたと考えられる。

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論文)避陰反応による花成のメカニズム

2008-11-27 23:32:11 | 読んだ論文備忘録

Acceleration of Flowering during Shade Avoidance in Arabidopsis Alters the Balance between FLOWERING LOCUS C-Mediated Repression and Photoperiodic Induction of Flowering
Wollenberg et al.  Plant Physiology (2008)148:1681-1694.

シロイヌナズナの花成は、日長や低温処理といった様々な環境シグナルによって誘導される。シロイヌナズナを長日条件下に置くと、花成誘導因子のCONSTANS  (CO )とCO の発現を促進するGIGANTEA GI )の発現のリズムが変化してCOタンパク質が蓄積し、これらの因子の下流に位置するFLOWERING LOCUS T FT )やTWIN SISTER OF FT TSF )の発現が増加して花成が起こる。低温処理による花成には2つの遺伝子が関与しており、低温処理していない植物ではFRIGIDAFRI )が花成抑制因子のFLOWERING LOCUS C FLC )の発現を誘導し、FLCがCOと競合して花成を抑制しているが、低温処理をするとFLC の発現がヒストンの修飾によって抑制され、相対的にCOレベルが上昇して花成が起こる。本論文では、花成の環境シグナルの1つである避陰反応(赤色光と遠赤色光のバランス)がどのようなメカニズムによるものなのかを、フィトクロムや花成因子の突然変異体を用いていて調査した。その結果、避陰反応光条件を再現する遠赤色光の多い光の照射による花成誘導では、春化処理による花成誘導のようなFLC の発現抑制はみられず、GI  発現の遅れによるCO 発現の増加が起こっていることが明らかとなった。また、これまでPHY B の下流に位置して開花を誘導する因子とされてきたPFT1(PHYTOCHROME AND FLOWERING TIME 1)は、Pfrのシグナルを抑制することにより避陰反応での花成を誘導していると推測される。

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論文)草本植物にF-box遺伝子は多い

2008-11-25 20:38:53 | 読んだ論文備忘録

The F-Box Gene Family Is Expanded in Herbaceous Annual Plants Relative to Woody Perennial Plants
Yang et al.  Plant Physiology (2008)148:1189-1200.

F-boxタンパク質は、ユビキチン-26Sプロテアソーム経路によるタンパク質分解に関与するSkp1-Cullin-F-box複合体において基質の認識をしているコンポーネントである。植物では、葉の老化、分枝、花成、概日リズム、自家不和合性、フィトクロームシグナル伝達、植物ホルモン(アブシジン酸、オーキシン、エチレン、ジベレリン)応答、非生物/生物ストレス応答といった様々なプロセスにおいてこの経路によるタンパク質分解が関与している。F-boxタンパク質をコードする遺伝子は、一年生草本植物のシロイヌナズナで656、イネで678存在するが、多年生木本植物のポプラには320しかない。それぞれの植物の遺伝子数は、シロイヌナズナ27,000、イネ42,653、ポプラ45,555なので、ポプラのF-box遺伝子数はその全遺伝子数に比べて少ないと言える。そこで、この3種の植物のF-box遺伝子ファミリーの比較を行なった。ポプラのF-box遺伝子はすべての染色体に分布しており、シロイヌナズナやイネのF-box遺伝子に比べるとタンデムリーピートとして重複している割合は低いが、遺伝子断片の重複によるものの割合は高かった。3種の植物の1,654のF-box遺伝子は50の系統グループに分けることができ、3種に共通する系統は8つあった。これらは植物の成長・発達にとって必要な基本的な過程に関与するF-box遺伝子であると思われる。シロイヌナズナもしくはイネに特異的なF-box遺伝子はポプラに特異的なF-box遺伝子の6倍あり、このことは、草本植物において種特異的にF-box遺伝子が拡張していったことを示している。また、生物ストレス応答に関連するF-box遺伝子はシロイヌナズナに多かった。3種の植物に共通する分岐群に分類されたポプラのF-box遺伝子のうちの54%は、近年ゲノム配列が公開された木本植物のブドウ(156遺伝子)、パパイヤ(139遺伝子)のF-box遺伝子に相同遺伝子が見られず、ポプラに特異的なF-box遺伝子の75%はブドウ、パパイヤで相同遺伝子が見られなかった。これは、ポプラでの遺伝子断片の重複によるF-box遺伝子の増加は、ブドウやパパイヤでは起こらなかったことによると思われる。以上の結果から、F-box遺伝子ファミリーの進化の過程での増加の様式は個々の植物種で異なり、草本植物ではタンデムリーピートによってその数を増加させていったものと思われる。

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HP更新)「バイケイソウ考 その4」を追記

2008-11-21 23:34:12 | ホームページ更新情報
HP「Laboratory ARA MASA 」のバイケイソウプロジェクトに「バイケイソウ考 その4」として、中国の研究者によるシュロソウ属植物Veratrum nigrum (Black Hellebore、中国名: 藜蘆)の雄花/両性花の資源配分と生殖戦略に関する論文2報を紹介しました。来年度は、この論文を参考にして箱根のバイケイソウの雄花/両性花の量比、分布について調査したいと思います。
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論文)傷害により植物が小さくなるメカニズム

2008-11-18 17:54:19 | 読んだ論文備忘録

Wound-Induced Endogenous Jasmonates Stunt Plant Growth by Inhibiting Mitosis
Zhang & Turner  PLoS ONE (2008)3:e3699

植物は繰り返し傷害を受けると成長が鈍り、葉などの器官が小さくなる。シロイヌナズナを実験材料に用いて、特定の葉に傷を付けた後の無傷葉の成長を見たところ、野生型の無傷葉は対照(傷害処理をしていない植物体の同着位葉)に比べて小さくなったが、ジャスモン酸(JA)合成の突然変異体(aos など)やJAシグナル伝達の突然変異体(coi1 など)では傷害個体の無傷葉の小型化は起こらなかった。事実、傷害処理して1.5時間目の植物体の内生JA量は無傷個体の7倍あり、植物体にメチルジャスモン酸(MeJA)を散布することで葉の小型化が再現された。これらの結果から、傷害によって生成されたJAが葉の成長を抑制していると考えられる。小型化した葉を詳細に観察したところ、葉の小型化は細胞数の減少により引き起こされていることが明らかとなり、細胞の大きさ自体に変化は見られなかった。そこで、細胞分裂のマーカーとしてpCycB2;1::GUS を導入した個体を用いて、傷害やMeJA処理の葉の細胞分裂に対する影響を調査したところ、これらの処理は細胞分裂マーカーが減少することが確認された。また、成長を抑制することが知られている他の植物ホルモン(IAA、ACC、SA)を処理した場合には細胞分裂マーカーに変化は見られなかった。以上の結果から、葉が傷害を受けることで生じたシグナル(JA?)が茎頂へ伝わり、細胞分裂率が低下して葉の小型化が起こると考えられる。なお、今回の実験でJAからJA-Ileを生成するJAR1の突然変異体jar1 では傷害による葉の小型化が見られた。JAR1(JA-Ile)は傷害応答のJAシグナルには関与していないのかもしれないが、傷害を与えたjar1 突然変異体でも野生型の10%程度のJA-Ileが検出されるので、JA-Ileが傷害により誘導される成長量低下に関与していないとは現時点では言い切れない。

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論文)根の重力屈性におけるオーキシンとフラボノイドの関係

2008-11-13 22:19:18 | 読んだ論文備忘録

Flavonoids Redirect PIN-mediated Polar Auxin Fluxes during Root Gravitropic Responses
Santelia et al.  J Biol Chem (2008) 283:31218-31226.

植物の根は重力刺激を受けて下方へと伸長していくが、その際には伸長領域でのオーキシンの不均等分布が関与している。シロイヌナズナpin2 突然変異体はオーキシン輸送体の変異で、求基的なオーキシン輸送が減少し、根は重力屈性を失った成長をする。フラボノイドと結合する蛍光色素(DPBA)を用いて芽生え各器官でのフラボノイドの局在を見たところ、野生型植物ではフラボノイドは茎頂、子葉、根‐シュート結合部、一次根(特に伸長領域)で見られた。pin2 突然変異体では根全体のフラボノイド量は野生型と大きく違わないが、根端伸長領域でのフラボノイドが野生型よりも少なかった。外部からIAAを添加すると、野生型では蛍光が増えるが、pin2 突然変異体では増え方が少ない。このことは、オーキシン量とフラボノイド量は植物体内で相互に関連していることを示している。また、pin2 突然変異体の根では、特異的なフラボノイドの蓄積が見られ、ジ-およびトリグリコシル化したフラボノイドからモノグリコシルフラボノイドへの移行が観察された。このことは、オーキシン量がフラボノイドのグルコシル化に関与するグルコシルトランスフェラーゼの発現に影響していることを示唆している。
pin2 突然変異体に微量のフラボノイド(kaempferol や quercetin)を与えると重力屈性が25%程度回復することから、フラボノイドは重力屈性を部分的に回復させるものと思われる。この、フラボノイドによるpin2 突然変異体の重力屈性の回復はオーキシン輸送阻害物質のNPAによって妨げられる。PINタンパク質類は相互に機能を相補しているので、複数のPIN 遺伝子が機能喪失した突然変異体を解析に用いてpin2 突然変異体のフラボノイドによる重力屈性の部分的回復に関与しているPINの探索を行なったところ、PIN1 がこの現象に関与していることが示された。また、pin2 突然変異体のフラボノイド処理によってPIN1タンパク質が不均等に分布するようになった。以上の結果から、フラボノイド処理によるpin2 突然変異体の重力屈性の部分的回復は、この処理により根端でPIN1の不均等分布が起こり、これによって生じたオーキシンの不均等分布が屈曲を引き起こしていると考えられる。

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論文)春化の際のポリコームタンパク質複合体の変化

2008-11-11 00:23:46 | 読んだ論文備忘録

A PHD-Polycomb Repressive Complex 2 triggers the epigenetic silencing of FLC during vernalization
De Lucia et al.  PNAS (2008) 105:16831-16836.

春化(vernalization)は、植物が長い低温条件下に晒されることで花芽形成を抑制する遺伝子FLOWERING LOCUS C (FLC ) の発現が低下するエピジェネティックな制御により起こる。これにはポリコーム群(PcG)タンパク質複合体PRC2によるFLC 遺伝子の発現抑制が関与している。本論文では、シロイヌナズナを春化処理した際にFLC 遺伝子に結合するトランス因子を調査し、春化の際にFLC 遺伝子の第1イントロンに結合しているPRC2コア複合体にPHDフィンガータンパク質VRN5が結合することを明らかにした。この結合には低温によって誘導される別のPHDフィンガータンパク質VIN3とVEL1が関与している。その後、温度が上昇するとVIN3は消失し、FLC 遺伝子の全域に結合しているRRC2コア複合体にVRN5が結合し、ヒストンがトリメチル化されて遺伝子のサイレンシングが起こる。このように、春化の過程においてポリコームタンパク質コア複合体とPHDフィンガータンパク質で形成された複合体(PHD-PRC2複合体)の構成や分布の変化が起こり、FLC 遺伝子の発現抑制がなされる。

ポリコーム群遺伝子(polycomb-group genes : PcG)はショウジョウバエのオスの第一肢に存在する櫛状の構造物であるセックスコームの異所的発生を引き起こす遺伝子として見つかった。その翻訳産物は核内にクロマチンに結合する巨大なタンパク複合体として存在し、その構成タンパクの組み合わせによりpolycom repressive complex 1(PRC1)とPRC2の2種類(3番目の複合体としてPRC3という報告もある)に分かれる。PcGタンパク質はクロマチンを修飾して遺伝子発現を抑制することで、発生、形態形成、細胞増殖、エピジェネティック制御など幅広い生命現象に関わっていることが報告されている。

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論文)概日リズムによる成長量変化を制御するタンパク質

2008-11-08 01:22:27 | 読んだ論文備忘録

A zinc knuckle protein that negatively controls morning-specific growth in Arabidopsis thaliana
Loudet et al.  PNAS (2008) 105:17193-17198.

下胚軸の成長において温度、光に対する感受性が異なるシロイヌナズナの2つの系統(Bay-0とShahdara)を用いたQTL解析によって、その表現型を大きく制御している遺伝子At5g43630を同定した。TZP (tandem zinc knuckle/PLUS3)と命名したこの遺伝子は、タンパク質-タンパク質結合および1本鎖DNAとの結合に関するzinc knuckleドメイン(タンデムに存在)と核酸との結合に関与するPLUS3ドメインを持つタンパク質をコードしており、維管束植物にのみ1コピー存在する。また、zinc knuckleドメインとPLUS3ドメインの両方を持つタンパク質はこれが唯一である。下胚軸の成長に感受性の見られるBay-0系統では、TZP 遺伝子に8塩基の挿入が見られ、これによりPLUS3ドメインの領域で停止コドンが入る。Bay-0型の個体でTZP 遺伝子を過剰発現させると、下胚軸や直線的に延びる器官が長くなる。TZPタンパク質は核に斑点状に局在し、クロマチンのリモデリングの過程で伸長成長に関与する遺伝子の転写を制御しているものと思われる。下胚軸の成長は概日リズムにより変化し、明け方に最もよく成長するが、TZP 転写産物量およびマイクロアレイによる伸長成長に関与する遺伝子の転写産物量の経時的変化の観察結果から、TZPは概日時計および青色光シグナルの制御下で、朝特異的な成長促進を制御していることが示唆された。
この遺伝子の同定に用いた系統がTZP 遺伝子に異常があるために表題に「negatively controls」とあるのだろうが、実際にはTZPは伸長成長を促進している。この表題、ちょっと損してませんか?(それとも私の理解が間違ってます?)

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論文)DELLAタンパク質の分解を介さない新たなジベレリンシグナル伝達

2008-11-06 20:36:19 | 読んだ論文備忘録

Release of the Repressive Activity of Rice DELLA Protein SLR1 by Gibberellin Does Not Require SLR1 Degradation in the gid2 Mutant
Ueguchi-Tanaka et al. Plant Cell (2008) 20:2437-2446.

Proteolysis-Independent Downregulation of DELLA Repression in Arabidopsis by the Gibberellin Receptor GIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF1
Ariizumi et al.  Plant Cell (2008) 20:2447-2459.

Plant Cell 誌9月号に、ジベレリンシグナル伝達を抑制しているDELLAタンパク質の分解を介さないジベレリンシグナルに関する論文が2報出た。名古屋大学のUeguchi-Tanakaらはイネを、ワシントン州立大学のAriizumiらはシロイヌナズナを実験材料に用いて、ほぼ同じような結果を報告している。
ジベレリンのシグナル伝達は、ジベレリン受容体GID1にジベレリンが結合することでジベレリンシグナル伝達を抑制しているDELLAタンパク質との複合体が形成され、DELLAタンパク質がF-boxタンパク質(イネ:GID2、シロイヌナズナ:SLY1)を介したプロテアソーム系によって分解されることによって起こるとされている。よって、ジベレリン受容体やF-boxタンパク質が欠損した突然変異体ではジベレリンシグナルが遮断されるためにわい化する。しかし、F-boxタンパク質欠損変異体でジベレリン受容体の発現を抑制したりジベレリン合成を抑制したりするとわい化の程度がさらに強くなり、逆にF-boxタンパク質欠損変異体でジベレリン受容体を過剰発現させるとわい化の程度が低減する。また、F-boxタンパク質欠損変異体ではDELLAタンパク質の蓄積が見られ、この蓄積はジベレリン処理によって増加するが、ジベレリン受容体欠損変異体のDELLAタンパク質量は少なく、ジベレリン処理による蓄積増加も見られない。これらの結果は、わい化とDELLAタンパク質量との間には相関がなく、ジベレリン受容体がわい化の低減やDELLAタンパク質蓄積量の増加をもたらしていることになる。また、DELLAタンパク質とジベレリン受容体との結合に関与してしているDELLAモチーフのないDELLAタンパク質では、F-boxタンパク質欠損変異体でジベレリン受容体を過剰発現させた際のわい化の低減が見られないことから、わい化の低減にはジベレリン受容体とDELLAタンパク質との結合が必要であると考えられる。以上の結果から、ジベレリン受容体-ジベレリン-DELLAタンパク質複合体による、DELLAタンパク質の分解を介さずにDELLAタンパク質の抑制活性を低減する新たなシグナル伝達の存在が示唆される。

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論文)冠水耐性イネが伸長しないメカニズム

2008-11-04 00:08:39 | 読んだ論文備忘録

Submergence tolerance conferred by Sub1A is mediated by SLR1 and SLRL1 restriction of gibberellin responses in rice
Fukao & Bailey-Serres  PNAS (2008) 105:16814-16819.

冠水耐性のイネは、水没しても伸長を抑制して炭水化物の消費を抑えることで冠水状態を克服する。マップベースクローニングにより冠水耐性の遺伝子座Submergence-1 Sub1 )の同定が行なわれ、エチレン応答因子(ERF)をコードするSub1A-1 が耐性に関連する(冠水により発現誘導される)遺伝子であることが示されている。また、冠水によるイネの伸長には植物ホルモンのエチレン、アブシジン酸、ジベレリンが関与していることが知られている。本論文では、Sub1A-1 遺伝子によってどのような機構で冠水耐性(伸長の抑制)がもたらされるのかを明らかにした。ユビキチンプロモーターを用いてSub1A-1 を異所的に発現させた形質転換イネはジベレリンに対する応答性が低下しており、冠水耐性イネ[M202(Sub1)]では、エチレン処理によってジベレリンシグナル伝達を負に制御しているDELLAタンパク質のSLENDER RICE-1 SLR1 )とSLR1のN末端側にあるDELLAドメインの欠失したSLR1 like-1 SLRL1 )の転写産物量が増加することが確認された。一方、Sub1A-1 遺伝子を持たないイネではエチレン処理によりSLR1タンパク質の減少が見られた。冠水によるイネの伸長成長に関与しているもう1つの植物ホルモンのアブシジン酸は冠水によって減少するが、アブシジン酸処理によってSub1A-1 転写産物量が減少することから、アブシジン酸の分解は冠水耐性獲得の経路においてSub1A-1 発現よりも上流に位置していると考えられる。これらの結果から、以下のモデルが考えられる。冠水耐性を持たないイネは、冠水によって生成されたエチレンによってアブシジン酸の分解とSLR1タンパク質の分解が起こる。これによりジベレリンに対する応答性が増して伸長成長が起こる。冠水耐性イネでは、エチレンの生成とアブシジン酸の分解によってSub1A-1 転写産物量が増加し、SRL1 の発現が誘導される。このSRL1 の発現誘導はジベレリンのシグナル伝達を鈍らせ、伸長成長が抑制される。

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