Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)WRKY75による壊死性病原菌耐性

2021-03-23 08:17:17 | 読んだ論文備忘録

The transcription factor WRKY75 positively regulates jasmonate-mediated plant defense to necrotrophic fungal pathogens
Chen et al.  Journal of Experimental Botany (2021) 72:1473–1489.

doi:10.1093/jxb/eraa529

いつかのWRKY転写因子は植物の防御応答に関与していることが知られているが、その詳細な機構は明らかとなっていない。中国科学院 西双版納熱帯植物園Yu らは、シロイヌナズナのWRKY 遺伝子のT-DNA挿入変異体もしくはRNAi系統に糸状菌Botrytis cinerea を感染させた際の応答性を調査し、wrky75 変異体では壊死症状が急速に進行することを見出した。また、WRKY75 を恒常的に過剰発現させた系統は壊死性病原菌に対する耐性が高まり、病害の発生が抑制された。これらの結果から、WRKY75は壊死性病原菌に対する植物の防御に重要な役割を果たしていると考えられる。ジャスモン酸(JA)シグナルに応答して発現する防御応答関連遺伝子のOCTADECANOID-RESPONSIVE ARABIDOPSIS遺伝子(ORA59 )とPLANT DEFENSIN遺伝子(PDF1.2 )のB. cinerea 感染後の発現は、wky75 変異体で減少し、WRKY75 過剰発現系統で増加していた。WRKY75 の発現はB. cinerea の感染により強く誘導された。また、サリチル酸、エチレン、JA処理によっても誘導が起こり、エチレンとJAを組み合わせて処理することで誘導が強くなった。WRKY75はORA59 遺伝子プロモーター領域に直接結合して発現を活性化していた。WRKY75と相互作用をするタンパク質を酵母two-hybrid(Y2H)系でで探索したところ、JAZ8が見出され、JAZ4、JAZ7、JAZ9も相互作用をすることが判った。そして、JAZタンパク質はWRKY75による転写活性化を抑制することが確認された。JAZ8 の発現はB. cinerea の感染により強く誘導された。jaz8 変異体の病害抵抗性は野生型と同等であったが、JAZ8 過剰発現系統はB. cinerea の感染に対する感受性が高まり、ORA59PDF1.2 の発現誘導が抑制された。wrky75 変異体はJAによる種子発芽阻害や根の伸長抑制に対して感受性が低下し、WRKY75 過剰発現系統では感受性が高くなっていた。よって、WRKY75はJA応答の重要な正の制御因子として機能していると考えられる。以上の結果から、WRKY75はジャスモン酸を介した壊死性病原菌に対する防御応答において重要な役割を果たしていると考えられる。

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論文)窒素によるイネの花成制御

2021-03-19 22:49:51 | 読んだ論文備忘録

Nitrogen Mediates Flowering Time and Nitrogen Use Efficiency via Floral Regulators in Rice
Zhang et al.  Current Biology (2021) 31:671-683.

doi:10.1016/j.cub.2020.10.095

一般的に、窒素施肥量を増やすと開花や成熟が遅延し、低窒素条件では開花は促進される。しかしながら、窒素による開花制御の分子機構は明らかとなっていない。中国 南京農業大学のXu らは、水耕栽培イネに供給する窒素を低濃度(0.25 mM LN)、正常濃度(2.5 mM NN)、高濃度(10 mM HN)の三水準に分けて短日もしくは長日条件で育成し、開花までの日数を調査した。その結果、LNとHNで育成したイネはNNで育成したイネよりも開花までの日数が日長に関係なく長くなることが判った。イネの茎頂分裂組織のRNA-seq解析から、HNで育成しているイネが生殖成長に移行した際に高い発現を示すMYBファミリー転写因子遺伝子Os08g0157600を見出し、N-mediated heading date1Nhd1 )と命名した。Nhd1 はシロイヌナズナのCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1CCA1 )やLATE ELONGATED HYPOCOTYLLHY )との類似性が高く、葉や根での発現は周期性を示した。実生でのNhd1 の発現は窒素供給量と正の相関があり、出穂期ではNNで育成したイネでHNやLNで育成したイネよりも発現量が高くなっていた。アンモニアやグルタミン(Gln)の添加は、硝酸アンモニウム、硝酸、グルタミン酸を添加した場合よりも葉でのNhd1 の発現量が高くなった。また、グルタミンシンテターゼ(GS)の阻害剤であるL-メチオニンスルホキシミン(MSX)の添加によりNhd1 やイネのフロリゲン遺伝子であるHd3a の発現が抑制され、Glnを加えることで再活性化した。これらの結果から、GlnもしくはGlnの下流の代謝産物は日長とは独立してイネの花成を制御する窒素因子の1つであると考えられる。nhd1 変異体は花成遅延し、窒素供給による花成時期の変化が見られなくなった。また、複数の花成遺伝子の止葉での発現を見たところ、nhd1 変異体ではHd3a の発現のみが抑制されていた。Nhd1はHd3a 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を活性化させることが確認された。hd3a 変異体は花成遅延し、nhd1 変異体と同じように、窒素供給による花成時期の変化が見られなくなった。nhd1 変異体は野生型よりも生育期間が長いため窒素摂取量が多くなり、収量も高くなった。また、nhd1 変異体は野生型よりもシンク器官への窒素配分が促進されていた。したがって、nhd1 変異体は窒素の取込みと利用効率が高いといえる。窒素利用効率はGS/GOGATサイクルによる窒素同化とアミノ酸トランスポーターによる窒素輸送によるところが大きい。nhd1 変異体では窒素供給量に関係なくOsFd-GOGAT の発現が劇的に増加したが、OsGS1.1OsNADH-GOGAT の発現は窒素供給量に依存していた。窒素供給によりNhd1 の発現は上昇したが、OsFd-GOGAT の発現量とOsFd-GOGAT活性は低下した。また、Nhd1はOsFd-GOGAT 遺伝子プロモーター領域に結合することが確認された。nhd1 変異体ではアミノ酸トランスポーターをコードするOsLHT1 の発現量も増加していた。113種のジャポニカイネと127種のインディカイネについてNhd1 のプロモーター領域およびコード領域の配列を調査し、SNPに基づいた5つのハプロタイプ(Hap.A~Hap.E)が確認された。そして、Hap.A、B、CはHNでの育成で花成時期変化は見られなかったが、Hap.D、Eは花成遅延を示した。両者の間にはプロモーター領域に複数のSNPがあり、Hap.EはHap.AやHap.CよりもHNで発現量が大きく減少していた。以上の結果から、Nhd1はHda3OsFd-GOGAT の発現を制御することで、窒素供給に応答した花成と窒素利用効率を調節していると考えられる。

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論文)キュウリの花器官発達を制御する因子

2021-03-09 19:18:59 | 読んだ論文備忘録

Transcriptional control of local auxin distribution by the CsDFB1-CsPHB module regulates floral organogenesis in cucumber
Nie et al.  PNAS (2021) 118:e2023942118.

doi:10.1073/pnas.2023942118

キュウリは一葉(S1)期芽生えの葉腋で花芽誘導が始まっている。中国農業大学のSui らは、芽生え茎頂のRNA-seq解析から花分裂組織特異的な遺伝子発現を解析し、既知の遺伝子の他に未知タンパク質をコードするCsa7G067350 が高い発現を示すことを見出した。本遺伝子の茎頂での発現は子葉(S0)期から二葉(S2)期にかけて増加し、三葉(S3)期には減少した。また、本遺伝子は雄花、雌花、子房といった生殖器官で発現量が高く、子房や果実の篩部維管束組織において転写産物の蓄積が確認された。これらの結果から、Csa7G067350 は花の形成や維管束の発達に関与していることが推測される。Csa7G067350タンパク質はグループD植物シスタチンに分類され、カボチャやキュウリにおいて見出されたPHLOEM PROTEIN1(PP1)と類似性が高かった。また、PP1と同様に、本タンパク質はシステインプロテアーゼインヒビター活性に関与するQxVxGモチーフを欠いており、パパイン活性を阻害しなかった。Csa7G067350 の過剰発現(OE)系統および発現抑制(RNAi)系統は、雄花芽(MFB)および雌花芽(FFB)に形態異常が見られた。このことから、本遺伝子をDEFORMED FLORAL BUD1CsDFB1 )と命名した。RNAi系統は花弁、雄ずい、心皮といった花器官の数が増加し、OE系統では減少した。また、OE系統ではMFBおよびFFBの各器官が融合した表現型を示すことがあった。また、花柄や子房/果実の維管束数がRNAi系統では増加し、OE系統では減少した。野生型植物と比較して、YUCCA オーキシン生合成遺伝子(CsYUC2CsYUC4CsYUC6 )の発現量がRNAi系統で増加しOE系統で減少、オーキシン排出キャリア遺伝子CsPIN1 の発現量はRNAi系統で減少しOE系統で増加していた。また、RNAi系統の花分裂組織や花原基はオーキシン(IAA)蓄積量が野生型よりも高く、OE系統では少なくなっていた。そこで、花芽に合成オーキシン(NAA)を添加したところ、野生型では花弁数が増加し、OE系統では正常な花の形態と器官数に回復した。これらの結果から、CsDFB1 はオーキシンの生合成と輸送に依存して局所オーキシン分布を制御することで花器官形成と維管束分化に影響していることが示唆される。CsDFB1タンパク質にDNA結合ドメインはないが、HD-ZIPⅢ型転写因子のPHABULOSA(CsPHB)、YABBY-型転写因子のCsYAB2、および自ら(CsDFB1)と相互作用をすることが判った。miRNA耐性型CsPHB (CsPHB*)を過剰発現させたCsPHB*-OEは、花器官数や維管束数の増加、IAA含量の増加といったCsDFB1-RNAi系統と類似した表現型を示した。CsPHBはCsYUC2 遺伝子やCsPIN1 遺伝子のプロモーター領域に結合し、CsYUC2 の発現を活性化、CsPIN1 の発現を抑制した。そして、CsDFB1はCsPHBによるCsYUC2CsPIN1 の発現制御を抑制した。以上の結果から、CsDFB1はCsPHBの抑制因子として機能し、CsPHBを介したCsYUC2 の発現活性化とCsPIN1 の発現抑制を低減させ、局所オーキシン分布や植物の発達を調節していると考えられる。

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論文)エチレン応答性を調節する新規因子

2021-03-03 07:01:18 | 読んだ論文備忘録

The RING E3 ligase SDIR1 destabilizes EBF1/EBF2 and modulates the ethylene response to ambient temperature fluctuations in Arabidopsis
Hao et al.  PNAS (2021) 118(6):e2024592118.

doi:10.1073/pnas.2024592118

中国 南方科技大学Guoらは、エチレンシグナル伝達の新規変異体の単離を目的に、シロイヌナズナ ストレス関連変異体集団からトリプルレスポンスに異常の見られる個体を選抜し、RINGタイプE3リガーゼの変異体salt- and dorught-indused ring finger 1sdir1 )に着目して解析を行なった。sdir1 変異体は低濃度エチレンに対する応答性が低下しており、SDIR1 を過剰発現させた系統(SDIR1ox )はエチレン無処理でも芽生え胚軸が野生型よりも短く、エチレン処理によるトリプルレスポンスも強くなっていた。これらの結果から、SDIR1はエチレン応答の正の制御因子であることが示唆される。sdir1 変異体では低濃度エチレン処理によるethylene insensitive 3(EIN3)タンパク質の蓄積が低下し、SDIR1ox では増加していた。ein3 eil1 二重変異体のエチレン非感受性の表現型はSDIR1 を過剰発現させても変化しないことから、SDIR1はEIN3/EIL1の上流においてエチレンシグナルを正に制御していると考えられる。アミノ酸置換によりE3リガーゼ活性を失活させたSDIR1(SDIM)を用いた解析から、SDIMはEIN3/EIL1のプロテアソーム系による分解に関与しているF-boxタンパク質のEIN3-binding F-box protein 1(EBF1)/EBF2と特異的に相互作用をすることが判った。この相互作用はエチレンに依存しておらず、SDIR1はEBF1/EBF2をユビキチン化するE3リガーゼとして機能し、EBF1/EBF2量を直接制御することでエチレン応答性を調節していると考えられる。SDIR1 転写産物量は外気温が上昇(28 ℃)すると増加した。また、EBF1/EBF2タンパク質量は外気温が上昇するにつれて減少し、この減少はsdir1 変異体では抑制された。そして、外気温の上昇はEIN3タンパク質の蓄積量を増加させ、この増加はsdir1 変異体で抑制、SDIR1ox で強化された。野生型植物のエチレン応答性は外気温が上昇するにつれて低下し、温度によるエチレン応答性の差異はsdir1 変異体では減少していた。外気温が上昇してEIN3タンパク質量が増加するにつれて、エチレン処理によるEIN3タンパク質量の増加の程度が小さくなっていった。以上の結果から、SDIR1はEBF1/EBF2の分解を介して温度変化に応答したエチレンシグナル伝達の調節に関与していると考えられる。

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