Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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植物観察)突哨山

2024-04-24 10:07:32 | 植物観察記録

北海道の突哨山にスプリング・エフェメラルの花々を観に行った。ここでは特にカタクリとエゾエンゴサクが大きな群落を形成し、両者が混在してピンクとブルーのパッチワークを形作っているところもある。

 


カタクリ(片栗)Erythronium japonicum ユリ科カタクリ属

 


エゾエンゴサク(蝦夷延胡索)Corydalis fumariifolia subsp. azurea ケシ科キケマン属

 


フクジュソウ(福寿草、献歳菊)Adonis ramosa キンポウゲ科フクジュソウ属

 


エンレイソウ(延齢草)Trillium smallii シュロソウ科エンレイソウ属

 


ナニワズ(難波津)Daphne jezoensis ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属

 


ヒメイチゲ(姫一華)Anemone debilis キンポウゲ科イチリンソウ属

2024年4月24日 北海道 旭川市・比布町 突哨山

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植物観察)キバナヤセウツボ

2024-04-22 15:33:23 | 植物観察記録

キバナヤセウツボ(黄花痩靫)
Orobanche minor Sm. var. flava Regel
ハマウツボ科ハマウツボ属

ヤセウツボ(痩靫、Orobanche minor Sm.)の色違いの変種。ヤセウツボは、地中海沿岸を原産地とする無緑葉、一年草の寄生植物で、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカに広く移入分布、アフリカなどではマメ科作物に寄生して大きな被害を与えることがある。原産地では変異が大きく分類が確立していない。茎は直立して高さ15~40cm、上部にややまばらに花をつける。萼は左右2片に分かれ、左右それぞれも2裂、裂片の先端は尾状。花弁は唇形花冠を形成し、縁は不規則に切れ込む。おもにマメ科シャジクソウ属に寄生し、シロツメクサやムラサキツメクサの群生地に発生する。日本では、明治期以降に牧草として輸入されたシロツメクサやムラサキツメクサに紛れ込んで導入されたと考えられる。外来生物法で要注意外来生物に指定されている。

ヤセウツボは私の散歩道でもしばしば見かけるが、キバナヤセウツボは観音崎トンネル近くのある場所でのみ見られる。「神奈川県植物誌2018」には、横須賀市観音崎での採集報告が記録されていた。この場所ではヤセウツボも生育しており、いずれもムラサキツメクサに寄生している。Web上での写真投稿を見ると、キバナヤセウツボは、千葉県、茨城県、栃木県でも見られるようだ。Web投稿写真での神奈川県内撮影のものは、全てこの観音崎の個体群を写したのものと思われる。

ヤセウツボが宿主植物の認識に用いているストリゴラクトン受容体は、2023年に明治大学のグループによって同定された。
https://doi.org/10.1093/pcp/pcad026

 

2024年4月20日 神奈川県横須賀市観音崎公園

お詫び:
以前、本ブログのバイケイソウ以外の「植物観察記録」についてはFacebookに投稿するとしましたが、Facebookのアカウントを持っていない方にも見て頂けるように、同一内容の投稿をブログとFacebookの両方に出すことにしました。混乱させてしまい、申し訳ありません。

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論文)TCP13による避陰反応に類似した応答

2024-04-21 12:53:52 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis transcription factor TCP13 promotes shade avoidance syndrome-like responses by directly targeting a subset of shade-responsive gene promoters
Hur et al.  Journal of Experimental Botany (2024) 75:241–257.

doi:10.1093/jxb/erad402

TCP転写因子は、植物器官の発達だけでなく、環境シグナルに対する応答も制御している。シロイヌナズナには24のTCPファミリー遺伝子があり、大きく2つのクラスに分かれている。TCP5、TCP13、TCP17は1つのサブグループを構成しており、これらを過剰発現させた形質転換体は、通常は日陰で生育する芽生えで観察される長い胚軸と下偏生長した葉が生じる。これらの表現型から、このサブグループのTCPタンパク質は避陰反応(SAS)を活性化することが示唆される。これまでの研究で、TCP17はPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)-オーキシン経路を制御することでSASを促進すること、TCP5はPIF4を含む他のPIFタンパク質と相互作用をしてPIFの安定化と転写活性を高めることが知られている。しかしながら、TCP13がSASの制御に関与しているかは明らかではない。韓国 淑明女子大学校のCheonらは、CaMV 35Sプロモーターの制御下でTCP13 を過剰発現する形質転換体は、葉が野生型植物よりも小さく、恒常的に下偏生長を示すこと、芽生えの胚軸は高R:FR比光下でも野生型植物よりも長くなることを見出した。TCP5TCP13TCP17 の単独変異体や二重変異体に大きな表現型の変化は見られなかったが、tcp5/13/17 三重変異株は、低R:FR光下で野生型植物よりも胚軸が短かくなった。TCP5 またはTCP17 の過剰発現系統も、恒常的に胚軸が伸長することから、TCP5、TCP13、TCP17は冗長的に作用して胚軸伸長を促進しており、TCP13はSASまたはSAS様の応答を促進していることが示唆される。TCP13 の発現は日陰処理をしても変化しなかったが、TCP13タンパク質は日陰処理や暗処理によって安定性が低下した。TCP5とTCP17タンパク質も暗処理で不安定化したが、日陰処理では安定性に変化は見られなかった。PIF4は、光条件下で不安定化するが、TCP13 過剰発現系統では光条件による安定性の変化が見られなかった。これらの結果から、TCP13は過剰な光応答を緩和する非干渉性のフィード・フォワード・ループの構成要素であることが示唆される。TCP13 過剰発現系統および日陰処理植物のRNA-seq解析から、TCP13によって発現制御を受ける1370遺伝子、日陰処理により発現量が変化する2503遺伝子が見出された。TCP13によって制御される遺伝子のうち477遺伝子は、日陰処理によっても制御されており、そのほとんどはTCP13と日陰処理によって同じ方向に制御されていた。日陰処理はPIFタンパク質を安定化してオーキシン生合成を活性化し、胚軸伸長や下偏生長を促進している。遺伝子オントロジー(GO)解析を行なったところ、TCP13が制御する遺伝子と日陰処理が制御する遺伝子は、いくつかのGO用語が共通して増加したが、オーキシン関連のGO用語は、日陰処理で活性化された遺伝子でのみ増加しており、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシン関連のGO用語は見られなかった。また、エンリッチメント解析(GSEA)から、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシンが発現を制御している遺伝子が見られないが、オーキシンシグナル伝達遺伝子は日陰処理によって活性化されることが確認された。これらの結果から、TCP13は、日陰処理とは異なり、オーキシンシグナル伝達を活性化しないことが示唆される。また、TCP13が制御する遺伝子の中には、PIFによって発現が制御される遺伝子も見られなかった。これらのことから、TCP13は日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達を活性化するのではなく、むしろSAS様の応答を促進していることが示唆される。一方で、SAUR19 を含む幾つかののSAUR 遺伝子がTCP13によって優先的に活性化され、日陰処理は多くのSAUR 遺伝子の発現を活性化していることが判った。SAUR 遺伝子は、オーキシンシグナル伝達の下流または独立に細胞伸長を促進することが知られている。TCP13によって活性化される3つのSAUR 遺伝子(SAUR19SAUR21SAUR66)のプロモーター領域には、TCP結合配列と推定される配列があり、TCP13は光条件に関係なくこれらのSAUR 遺伝子プロモーターに直接結合することが確認された。これらのSAUR 遺伝子の活性化がTCP13 過剰発現系統での胚軸伸長の唯一の原因であると結論づけることはできないが、TCP13は、日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化することなく、SAS様応答を引き起こしていることが示唆さる。トランスクリプトーム解析からは、TCP13と日陰処理がフラボノイド生合成遺伝子の発現を抑制することが示されており、野生型植物では日陰処理によってアントシアニン量が減少すること、TCP13 過剰発現系統では高R:FR比光下でもアントシアニン量が低い状態にあることが確認された。フラボノイド生合成遺伝子プロモーター領域にはPIFタンパク質やTCPタンパク質の結合部位がみられ、TCP13とPIF4はこれらの配列をターゲットして遺伝子発現を抑制しいていることが判った。以上の結果から、TCP13は、PIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化してはおらず、日陰応答遺伝子の一部を直接標的とすることで避陰反応に類似した応答を促進していると考えられる。

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論文)葉で発現するmRNAによる花分裂組織の分化

2024-04-18 11:13:30 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis leaf-expressed AGAMOUS-LIKE 24 mRNA systemically specifies floral meristem differentiation
Huang et al.  New Phytologist (2024) 241:504-515.

doi: 10.1111/nph.19293

シロイヌナズナのMADS-box転写因子 AGAMOUS-LIKE 24(AGL24)は、花序分裂組織の分化に関与していることが知られている。AGL24 mRNAは、栄養生長組織、生殖生長組織の何れにおいても蓄積しているが、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して分裂組織の分化を制御していると考えられている。しかしながら、このような移動性mRNAが、発現組織ではなく受容組織特異的に機能する機構については明らかとなっていない。台湾 中央研究院植物暨微生物學研究所Yuらは、AGL24 プロモーター制御下でGUS を発現する形質転換シロイヌナズナの組織化学的解析から、GUS活性は胚軸や子葉維管束、葉、根などの栄養生長組織で検出され、芽生えから成熟個体までの全ての発生段階において観察されることを見出した。また、花成期には、GUS活性は葉の維管束で観察された。これらの結果は、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に輸送され、分裂組織の分化を規定するという仮説と一致している。葉で発現するAGL24 が花分裂組織形成に関与しているのかを明らかにするために、人工miRNA(amiRNA)を組織特異的に発現させた形質転換体を用いて解析を行なった。agl24 変異体はわずかに花成が遅れ、soc1 svp 二重変異体は正常な花をつけるが、agl24 soc1 svp 三重変異体は花器官に異常が見られる。soc1 svp 二重変異体において、AGL24 amiRNA(AGL24-amiR)をGALACTINOL SYNTHASE 1GAS1)プロモーター制御下で成熟葉の葉脈特異的に発現(GAS1pro:AGL24-amiR)、もしくはSUCROSE TRANSPORTER 2SUC2)プロモーター制御下でコンパニオン細胞特異的に発現(SUC2pro:AGL24-amiR)させると、agl24 soc1 svp 三重変異体と類似した花構造となることが判った。このことから、葉で発現するAGL24 が花器官形成に必要であることが示唆される。AGL2435S プロモーター制御下で過剰発現(35S:AGL24)させると、花成が促進され、花器官に異常が生じる。SUC2pro:AGL24 またはGAS1pro:AGL24 を導入して、葉特異的にAGL24 を発現させた形質転換体は、35S:AGL24 形質転換体と同様に早期花成と花器官の異常を示した。AGL24は、茎頂においてMADS-box転写因子遺伝子SEPALLATA3SEP3)の発現を抑制しており、AGL24-amiR を発現させた形質転換体の茎頂ではSEP3 転写産物量が増加し、SUC2pro:AGL24GAS1pro:AGL24 を導入した形質転換体では減少していた。萼片の表皮細胞を走査型電子顕微鏡で観察すると、巨大細胞が小さな細胞の間に点在する特徴的なパターンが観察され、巨大細胞と小細胞の表面は微細な隆起で覆われている。しかし、35S:AGL24 形質転換体の萼片表皮には、微細隆起がなく、葉の表皮で観察されるようなジグソーパズル状の細胞が観察され、細胞運命が転換していた。そして、SUC2pro:AGL24 およびGAS1pro:AGL24 形質転換体の萼片表皮は、微細隆起に覆われた巨大細胞と隆起のないジグソーパズル状の細胞の両方が観察され、細胞運命が部分的に変化していた。これらの結果から、葉で発現するAGL24 は、非細胞自律的に作用して花器官の細胞運命に影響していることが示唆される。AGL24 mRNAが移動しうるのかを接ぎ木試験によって調査した結果、野生型植物の台木にagl24 変異体の穂木を接ぐと穂木でAGL24 mRNAが検出されること、非移動性のGFP mRNAを付加したAGL24GFP-AGL24)を発現するコンストラクト(35S:GFP-AGL24SUC2pro:GFP-AGL24)の台木に野生型植物の穂木を接ぐと穂木でGFP-AGL24 mRNA化検出されることが確認された。予想外なことに、35S:GFP-AGL24 形質転換体、SUC2pro:GFP-AGL24 形質転換体の葉でGFP-AGL24 mRNAが高蓄積していることが確認されたが、GFP蛍光は検出できなかった。しかし、SUC2pro:GFPAGL24 形質転換体の花茎頂ではGFP蛍光を検出した。したがって、AGL24タンパク質は茎頂で選択的に蓄積し、葉では蓄積しないことが示唆される。35S:GFP-AGL24 形質転換体の切り葉を26Sプロテアソーム阻害剤MG132で処理したところ、GFP蛍光が検出された。したがって、葉で翻訳されたAGL24はプロテアソーム系によって直ちに分解されると考えられる。このことを確認するためにベンサミアナタバコを用いた一過的発現解析を行なったところ、35S:GFP を発現させた際にはGFP蛍光が検出されたが、35S:GFP-AGL24 を発現させた際には検出されなかった。AGL24タンパク質はMIKC型MADS-box転写因子であり、N末端MADSドメイン、中間ドメイン、ケラチン様ドメイン、C末端ドメインから構成されている。GFPを融合させたAGL24タンパク質断片をベンサミアナタバコで発現させてGFP蛍光を観察した結果、葉におけるAGL24タンパク質の速やかな分解にMADSドメインが関与していることが判った。以上の結果から、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して花の形成を制御していること、葉で翻訳されたAGL24タンパク質は26Sプロテアソーム系によって速やかに分解されるとこが判った。AGL24 の発現は、光、植物ホルモン、春化の影響を受けるので、葉から茎頂へのAGL24 mRNAの移動は、花分裂組織の発達を調整するために葉が感知する様々な環境シグナルを統合している可能性がある。

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論文)シュート由来マイクロRNAによる側根形成の制御

2024-04-14 12:24:12 | 読んだ論文備忘録

A micro RNA mediates shoot control of root branching
Sexauer et al.  Nature Communications (2023) 14:8083.

doi:10.1038/s41467-023-43738-6

ドイツ エバーハルト・カール大学テュービンゲンMarkmann(現所属 ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク)らは、以前に、ミヤコグサ(Lotus japonicus)のシュート由来篩部移動性マイクロRNA miR2111が根粒菌の共生感染と根粒形成を制御していることを明らかにした。 miR2111は、根で発現して根粒菌との共生を抑制しているF-Box Kelch- repeat遺伝子TOO MUCH LOVETML)を標的としている。今回は、miR2111の機能について、根系構築の制御における可能性について解析を行なった。pUBQ1::MIR2111-3 を導入することにより成熟miR2111を恒常的に過剰発現させた形質転換ミヤコグサの表現型を解析したところ、野生型植物よりも側根の発生が少ないことが判った。pUBQ1::MIR2111-3 を発現させたシュートを野生型植物の根に接いだところ、根のmiR2111量が増加し、側根発生量が減少した。よって、シュートのmiR2111が根に移行して側根の数を制御していると考えられる。また、この接ぎ木植物では対照よりもTML 転写産物量が減少していた。tml 変異体は、野生型植物よりも側根の発生が少なく、pUBQ1::MIR2111-3 導入系統と同等の表現型を示すことから、側根制御におけるmiR2111活性の主な標的はTML であることが示唆される。Crispr-CAS9で作出したmir2111-3-1 変異体は、野生型植物と比較してmiR2111量が少なく、TML 転写産物量が多く、側根数が増加していた。また、野生型植物の根にmir2111-3-1 変異体のシュートを接いだ場合も、対照と比べて側根発生が促進された。したがって、シュート由来のmiR2111は、TML を介した側根誘導の制御において十分かつ必要であることが示唆される。ミヤコグサは、何れのエコタイプにおいても、窒素飢餓によって側根数が増加した。一方、側根原基数は、硝酸塩が十分な条件下で多くなっていった。また、成熟miR2111量は、シュートと根の両方において硝酸量と負の相関を示し、全身的な窒素応答シグナルの関与が示唆される。根のTML 転写産物量は、miR2111量とは逆のパターンを示し、窒素飢餓の際にはmiR2111によってTML が抑制されると考えられる。この窒素飢餓応答性は、エコタイプで異なり、Gifu B-129系統よりもMG-20系統で強く現れた。miR2111過剰発現形質転換体およびtml 変異体は、野生型植物と比較して側根数が一貫して少なく、硝酸塩の影響を受けなかった。MIR2111-3 を過剰発現させたシュートをMG-20系統の根に接いだところ、硝酸塩に応答した側根形成が喪失した。このことは、シュート由来のmiR2111がこの応答を効率的に抑制していることを示唆している。Gifu B-129系統では、硝酸塩に応答したTML 転写産物量の減少が見られず、このことがGifu B-129系統の窒素飢餓応答性の低さをもたらしていると考えられる。これらの結果から、miR2111-TMLレギュロンは、硝酸塩に応答した側根の誘導と出現に関与しており、miR2111は側根原基形成の抑制因子として機能し、TMLは活性化因子として機能すると考えられる。また、硝酸に依存した側根原基出現の制御にTML は必要ではあるが、TML 転写産物量とは相関してはおらず、硝酸に応答した側根原基出現の制御にはさらなる因子が関与していることが示唆される。植物体の根を2つに分けて硝酸を添加したした培地と添加していない培地で生育すると、窒素飢餓培地上で生育している根のmiR2111量も低下した。このことは、miR2111の蓄積は、硝酸飢餓ではなく、硝酸充足によって全身的に抑制されることを示唆している。この時、両者の根のTML 転写産物量は相補的ではあるが中間的であることから、TML 量はさらなる調節因子の影響を受けている可能性がある。興味深いことに、野生型植物とtml 変異体は根粒菌共生感染によって側根発生が減少する。よって、共生条件下ではmiR2111-TML依存的な側根原基制御に、TML非依存的な制御が重なっていることが示唆される。シロイヌナズナには、ミヤコグサLjmiR2111a と同じアイソフォームを生成する2つのMIR2111 前駆体遺伝子座(MIR2111a/b)がある。また、TML オルソログと推定される遺伝子が1つ見つかり、コード配列中にmiR2111相補部位を持つことから、これをHOMOLOGUE OF LEGUME TMLHOLT)と命名した。ミヤコグサと同様に、シロイヌナズナの側根発生数は窒素供給量に依存しており、1 mM 硝酸塩付近で最大となり、飢餓または飽和条件下で生育すると側根発生数が減少した。miR2111 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた形質転換シロイヌナズナ(2111ox)は、HOLT 転写産物量が減少した。holt 変異体および2111ox は、野生型植物と比較して、低濃度(0.1 mM)および中濃度(1 mM)の硝酸塩条件下での側根の発生が有意に減少した。野生型植物のmiR2111量は硝酸塩濃度と正の相関があり、硝酸塩供給量が多いときにHOLT 量は低下した。また、HOLT 量は側根発生数と正の相関があった。2111ox と野生型植物の接ぎ木試験から、miR2111は側根形成の制御因子として作用し、移動可能であることが確認された。以上の結果から、シュート由来のマイクロRNA miR2111は、根系の構築と側根数の制御における重要な因子であると考えられる。

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論文)新たに見出された細胞外オーキシン受容体

2024-04-07 10:27:13 | 読んだ論文備忘録

ABLs and TMKs are co-receptors for extracellular auxin
Yu et al.  Cell (2023) 186:5457-5471.

doi:10.1016/j.cell.2023.10.017

Auxin-binding protein 1(ABP1)は、膜貫通型キナーゼ(TMK)の細胞外ドメインとオーキシン依存的に物理的に相互作用し、細胞外オーキシン受容体として働くことが知られている。しかしながら、シングルコピーのABP1 遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナに明らかな形態異常が見られないことから、その役割については論争が続いていた。一方で、機能的に冗長な4つのTMK 遺伝子をすべてノックアウトすると、シロイヌナズナの胚や芽生えの致死を含む様々な表現型が誘導される。中国 福建農林大学のYangらは、TMKとともに細胞外オーキシンを感知するABP1以外の細胞外ABPが存在すのではないかと考えた。そこで、TMKと相互作用する他のABPの存在を確認するために、まず、オーキシン結合とオーキシンによるTMK1との相互作用を低下させるH94Y変異を持つABP1-5abp1 変異体で発現させ、その影響を調べた。その結果、ABP1-5;abp1 は、ABP1;abp1 や野生型植物とは異なり、tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体と類似した様々な生長・発達異常表現型を示し、オーキシン応答性が損なわれていることが判った。このことから、ABP1-5タンパク質の蓄積は、TMKが調節するオーキシン応答に影響を与え、おそらくABP1の欠損を機能的に補う他のABPに対してドミナントネガティブな効果をもたらすことが示唆された。アミノ酸配列のホモロジー検索からはABP1 遺伝子ホモログは見出されなかったので、免疫沈降解析によりTMK1と相互作用するタンパク質の探索を行なったところ、ABP1が属するGLPファミリーのメンバーが見出され、これをABP1-like protein 1(ABL1)と名付けた。ABL1AT1G72610)とその近縁ホモログABL2AT5G20630)は、それぞれ208残基と211残基のポリペプチドをコードしており、互いに高いアミノ酸配列類似性(64.42%の同一性)があった。ABL1とABL2は、ABP1との類似性は低い(それぞれ26.26 %と18.44 %)が、オーキシン結合に関与すると予測されるアミノ酸残基を持つ保存された金属イオン結合モチーフを有していた。また、ABL1とABL2のAlphaFoldによるタンパク質立体構造シミュレーションでは、ABP1に非常に類似した立体構造が予測された。さらに、ABL1およびABL2タンパク質の構造に基づくブラインド・ドッキングにより、ABP1と同様にオーキシン結合モチーフが保存されていることが予測され、ABL1およびABL2が新たなABPとして機能する可能性が示唆された。免疫電顕観察により、ABL1はアポプラストに局在することが確認され、共免疫沈降(coIP)アッセイや蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)解析により、TMK1の細胞外ドメインとABL1/ABL2は植物細胞において複合体を形成し、この相互作用はオーキシン濃度に依存して高まることが判った。ABL1/2の機能喪失による表現型の変化を観察したところ、abl1 変異体、abl2 変異体では、生長・発達において明確な異常は見られなかったが、abl1/2 二重変異体では、芽生えが矮化し、葉の湾曲、敷石細胞の形状の変化など、明らかな形態異常がみられ、ABL1とABL2の機能重複が示唆された。abp1;abl1 二重変異体は明らかな表現型の変化を示さなかったが、abp1;abl2 二重変異体の芽生えはわずかな生長低下を示した。abp1;abl1/2 三重変異体は、abl1/2abp1;abl1abp1;abl2 の各二重変異体のいずれよりも重篤な生長・発達障害を示し、ABP1がABL1/2を介する過程に寄与していることが示唆された。三重変異体の生長障害は、pABL1::ABL1 を導入することでほぼ完全に相補されたが、pABP1::ABP1 またはpABL1::ABP1 の導入では部分的に相補された。さらに、葉の湾曲などのいくつかの表現型は、pABP1::ABP1 でもpABL1::ABP1 でも相補されなかったが、pABL1::ABL1 では完全に相補された。これらの結果から、冗長的に作用するABL1とABL2は、ABP1と機能重複してはいるが、ABP1とは独立した生理機能も持っていることが示唆される。abp1;abl1/2 三重変異体は、ABP1-5;abp1tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体に類似したオーキシン応答性の欠損を示し、ABL1/2は植物の生長・発達とオーキシンシグナル伝達においてABP1と機能重複していると考えられる。abp1 変異体、abl1 変異体、abp1;abl1 二重変異体と、軽度の生長障害を示すtmk1-/+;tmk4 ヘテロ接合二重変異体をそれぞれ交配して変異を集積した変異体の表現型を解析し、ABP1、ABL1が、植物の発達とオーキシン応答の制御においてTMK1、TMK4と遺伝的に相互作用することが確認された。よって、ABLs/ABP1とTMKは、オーキシン応答の制御において同じ経路で作用していると考えられる。オーキシン結合アッセイから、ABL1タンパク質はIAAやNAAと結合し、オーキシン結合モチーフが変異したABL1-M2は結合しないことが確認された。ABP1-5やABL1-M2をabp1;abl1/2 三重変異体で発現させても生長障害が相補されないことから、ABP1、ABL1がオーキシンと結合することは生理機能にとって必要であることが示唆される。TMK1タンパク質細胞外ドメイン(TMK1-ex)もオーキシンと直接結合し、TMK1-exとABP1またはABL1の混合物は、ABP1/APL1またはTMK1-ex単体と比較してオーキシン親和性が高く、TMK1とABP1/APL1は相乗的なオーキシン結合を示した。このことから、ABL1/ABP1とTMKは、アポプラストのオーキシンコレセプターとして作用していると考えられる。以上の結果から、今回新たに見出されたABL1とABL2は、ABP1と重複するが異なる機能を持ち、TMKとともに細胞外オーキシンのコレセプターとして機能していると考えられる。

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論文)オーキシンによる胚軸伸長制御におけるアブシジン酸の関与

2024-04-02 14:54:01 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid biosynthesis is necessary for full auxin effects on hypocotyl elongation
Emenecker et al.  Development (2023) 150:dev202106.

doi:10.1242/dev.202106

オーキシンは、状況に応じて細胞増殖を促進したり抑制したりする。細胞拡大を促進するオーキシン濃度には最適な範囲が存在し、オーキシン濃度が最適を超えると細胞拡大が抑制される。米国 デューク大学Straderらは、シロイヌナズナ変異体集団の中から、暗黒下で育成した芽生えのインドール-3-酪酸(IBA)処理による胚軸伸長阻害に対して抵抗性を示す変異体を単離した。このうちのhypocotyl resistant 12(HR12)は、IBA以外のインドール-3-酢酸(IAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、2,4-ジクロロフェノキシ酪酸(2,4-DB)による胚軸伸長阻害に対しても抵抗性を示した。このことから、HR12の欠損は胚軸のオーキシン応答性に影響を与えていることが示唆される。HR12の原因変異を同定するために、変異体の戻し交雑F3世代のバルクDNAの全ゲノムシークエンスを行ない、アブシジン酸(ABA)生合成経路の最終過程を触媒するABSCISIC ALDEHYDE OXIDASE 3(AAO3)をコードするAt2g27150 に未成熟終止コドンをもたらす変異を見出した。この変異(aao3-12 と命名)がHR12に見られるオーキシン抵抗性の原因であるかどうかをさらに調査し、aao3 変異の他の複数の対立遺伝子が黄化芽生えの胚軸伸長におけるオーキシン感受性を低下させ、これらの対立遺伝子は互いに相補的でないこと、野生型AAO3 を導入することでaao3-12 変異表現型が相補されること見出した。よって、HR12(aao3-12)におけるオーキシン応答の欠損は、AAO3の機能低下に起因すると考えられる。AAO3はABA生合成経路の酵素なので、ABA生合成の阻害がaao3-12 変異体に見られるオーキシン抵抗性を引き起こすのであれば、ABA生合成経路の他の過程に欠損を持つ変異体も胚軸伸長のオーキシン抵抗性を示すはずだと考え、ABA DEFICIENT 2ABA2)とABA DEFICIENT 3ABA3)のT-DNA挿入変異体について解析を行なった。その結果、ABA2ABA3 のどちらの変異体もオーキシン抵抗性を示した。また、ABAシグナル伝達の変異体abi1-1 も部分的にオーキシン抵抗性示した。したがって、ABAの生合成と応答は、黄化芽生えの胚軸におけるオーキシンの効果に対する完全な感受性に必要であると考えられる。ABA生合成変異体は野生型植物よりも弱い程度にオーキシンに対して応答していることから、オーキシンによる胚軸伸長制御機構には、ABA依存的なものとABA非依存的なものが存在することが示唆される。黄化芽生えをオーキシン処理すると2時間後には内生ABA量の増加が確認された。また、aba2 変異体黄化芽生えのオーキシンによる胚軸伸長阻害は、ABA処理をすることで野生型植物と同等にまでに回復した。これらの結果から、ABAが黄化芽生え胚軸のオーキシン応答を調節していることが示唆される。野生型植物の芽生えを合成オーキシンpicloramで処理すると、明所で育成した芽生えでは胚軸伸長が促進され、暗黒下で育成した芽生えでは阻害される。picloram処理による明所育成芽生えの胚軸伸長促進は、aao3-12 変異体では野性型植物と同等に見られたが、ABA生合成が強く抑制されたaao3-4 変異体、aba2-3 変異体、aba3-1 変異体、gin1-3 変異体(ABA2 の変異体)では伸長促進の程度が弱くなっていた。また、aba2-3 変異体では育成温度の上昇による胚軸伸長促進が見られなかった。したがって、オーキシンによる胚軸伸長制御のABA依存性は芽生えを育成する光条件とは関係がないこと、ABA生合成変異体の胚軸伸長はオーキシンや温度上昇に対しての応答性が低いことが示唆される。芽生えの根はオーキシンによって伸長が阻害されるが、ABA生合成変異体の根のオーキシン感受性は野生型植物と同等であった。したがって、ABA生合成の変化は、胚軸伸長のオーキシン応答性のみ弱めている。RNA-seq解析の結果、黄化芽生えをオーキシン処理することによって発現量が変化する遺伝子(DEG)は、根とシュートの間で殆ど重複しておらず、オーキシンがこれら2つの組織において異なる効果を持つというモデルと一致していた。対照的に、ABA処理によって誘導されたDEGの多くは根とシュートで重複していた。ABA生合成の第一段階を制御している9-CISEPOXYCAROTENOID DIOXYGENASE(NCED)ファミリー遺伝子の転写産物の蓄積を調べたところ、NCED5 転写産物のみがオーキシン処理したシュートにおいて発現上昇しており、オーキシン処理によってシュートの内生ABA量が増加するという結果と一致していた。オーキシンとABAの転写に対する作用は、シュートでも根でもほとんど重複しておらず、多くの転写産物において相反する効果を示していた。オーキシン処理とABA処理で共通して発現量が低下している遺伝子に胚軸伸長に関連しているものは見られなかったが、発現上昇する遺伝子には胚軸伸長制御に関連するものが含まれており、例えば、胚軸伸長を抑制すると考えられているOVATE FAMILY PROTEIN 1AT5G01840OFP1)、SHI-RELATED SEQUENCE 5AT1G75520SRS5)、IAA METHYLTRANSFERASE 1AT5G55250、IAMT1)、胚軸伸長を促進すると考えられているSHORT HYPOCOTYL 1AT1G52830IAA6)、CYCLING DOF FACTOR 5AT1G69570CDF5)があった。これらの共通の標的は、ABAとオーキシンの処理による黄化芽生え胚軸伸長に対する共通のメディエーターである可能性がある。ABA生合成の欠損がオーキシンによって制御を受ける遺伝子の発現にどのように影響しているか解析するために、野生型植物とaba2-3 変異体の黄化芽生えシュートのRNA-seq解析を行なったところ、両者の間ではオーキシンの制御を受ける遺伝子の発現に顕著な違いがあり、オーキシン処理に応答して蓄積量が減少した野生型植物黄化芽生え胚軸の転写産物のうち、71 %はaba2 変異体でオーキシン応答性を示さなかった。逆に、野生型植物でオーキシン処理に応答して蓄積量が増加した転写産物のうち、aba2 変異体で応答性を示さなかった転写産物はわずか22 %であり、ABA生合成は胚軸においてオーキシンが発現を抑制している遺伝子に対して大きく影響していることが示唆される。したがって、オーキシンによる転写産物の蓄積量の制御は、野生型植物とaba2-3 変異体とでは異なっており、このことが野生型植物とaba2-3 変異体での生理作用の違いに反映されている可能性がある。aba2 変異体で特異的に発現量が変化するオーキシン誘導遺伝子には、細胞壁修飾、成長調節、細胞増殖、ホルモンへの応答、生合成過程の調節に関連するものが含まれていた。しかし、オーキシンによって蓄積量が増加する転写産物のほとんどは、aba2 変異体では変化していないので、オーキシンによる胚軸伸長の制御のある側面がABAの影響を受けており、ABAに完全に依存してはいないと考えられる。以上の結果から、オーキシンは、胚軸伸長制御のいくつかの側面においてアブシジン酸生合成に依存していると考えられる。

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