Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)DELLAタンパク質とFLOWERING LOCUS Cとの相互作用

2016-07-26 05:49:13 | 読んだ論文備忘録

DELLA proteins interact with FLC to repress flowering transition
Li et al. J Integr Plant Biol (2016) 58:642-655.

doi: 10.1111/jipb.12451

DELLAタンパク質はジベレリン作用における転写制御の主要な因子として作用しているが、それ以外にも様々な転写因子と相互作用をして遺伝子発現の制御に関与している。中国 北京大学Guo らはDELLAタンパク質と相互作用をする新規因子を探索するために、シロイヌナズナRGAをベイトに用いて酵母two-hybrid法により転写因子ライブラリーをスクリーニングした。その結果、タイプⅡ MADS-box転写因子で、SUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS1SOC1 )やFLOWERING LOCUS TFT )といった幾つかの花成遺伝子のプロモーター領域に結合して転写を抑制することで花成に対して抑制的に作用することが知られているFLOWERING LOCUS C(FLC)タンパク質がRGAと結合することを見出した。FLCはシロイヌナズナのRGA以外のDELLAタンパク質とも相互作用をし、プルダウンアッセイ、BiFC法、共免疫沈降法からも両者の相互作用が確認され、相互作用は細胞核内で見られることがわかった。また、FCLのMADSドメインのC末端側領域とRGAのLHRⅠドメインが相互作用に関与していた。ChIP-qPCRの結果、FLCのSOC1 およびFT 遺伝子への結合はジベレリン処理によって低下することがわかった。また、SOC1 プロモーターもしくはSEPALLATA3SEP3 )プロモーターでルシフェラーゼ(LUC)を発現させるレポーター遺伝子を用いた試験から、LUCの発現量はFLC を発現させることで低下し、FLCRGA を同時に発現させると発現量はさらに低下することが確認された。したがって、DELLAタンパク質はFLCと相互作用をすることでFLCによるターゲット遺伝子の発現抑制能力を増強していることが示唆される。FLC 過剰発現個体もflc-3 変異体もジベレリン処理に応答して花成が促進されるが、FLC 過剰発現個体は野生型よりもジベレリン感受性が高く、flc-3 変異体は低くなっていた。よって、FLCによる花成時期制御において、部分的にジベレリンが関与していると考えられる。これまでに報告されたChIP-seqデータから、464のFLCの直接のターゲットのうち163(35.1%)はdella 変異体において発現が変化する遺伝子であることがわかった。FLCとDELLAの両方で制御を受けている遺伝子は花成時期制御遺伝子の他にも様々なものが見られた。以上の結果から、DELLAタンパク質はFLCと結合して複合体を形成することでFLCの転写抑制能力を強めていると考えられる。今回の発見により、花成誘導において春化/自律的促進経路とジベレリン促進経路がFLCとDELLAタンパク質でお互いに関連していることが明らかとなった。

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論文)低温湿層処理による発芽誘導

2016-07-18 11:36:48 | 読んだ論文備忘録

A role for jasmonates in the release of dormancy by cold stratification in wheat
Xu et al. Journal of Experimental Botany (2016) 67:3497-3508.

doi:10.1093/jxb/erw172

種子の休眠を打破する処理として用いられる低温湿層処理(低温下での水分補給)は、埋土種子が秋から冬にかけての季節を経験することを模していると考えられている。コムギの場合、暗所4℃で48時間の低温湿層処理をすると、休眠の強い栽培品種であっても発芽が誘導される。低温処理による休眠打破については多くの解析がなされているが、低温湿層処理過程の分子機構については不明な点が残されている。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のGubler らは、休眠しているコムギ種子を様々な時間(12~84時間)で低温湿層処理をした後に室温に戻し、7日後の発芽率を調査した。その結果、過去知見が示すように、48時間までは処理時間に応じて発芽率が高くなり、それよりも長く処理をしても発芽率の増加は僅かであることがわかった。種子休眠にはジャスモン酸(JA)やアブシジン酸(ABA)が関与していることが知られている。種子胚に含まれるJA量を調査したところ、乾燥種子で最も高く、水分補給をすると室温でも低温でも処理6時間後には減少し、その後、低い状態が96時間後まで維持された。様々な時間で低温湿層処理をした後に室温に戻してJA量を測定したところ、12時間以上処理をすると室温に戻した後のJA量が増加し、48時間以上の処理で増加量は最大となった。室温に戻した際のJA量の増加は、移行して4~8時間後に見られ、その後は急速に減少した。同様の変化は活性型JAの1つであるJA-Ileにおいても見られた。低温湿層処理から室温に戻して8時間以内にJA生合成酵素をコードするTaAOSTaAOC の発現量が増加した。よって、このことがJA量の増加に関与していると考えられる。JA生合成を抑制するアセチルサリチル酸(ASA)処理をすると、処理濃度に応じて低温湿層処理による発芽誘導効果が抑制された。また、ASAと同時にメチルジャスモン酸(MeJA)を添加することでASAによる発芽阻害効果が抑制された。したがって、JA生合成が低温湿層処理における発芽誘導に関与していることが示唆される。ASA処理は低温湿層処理によるJA量の増加とTaAOC の発現誘導を抑制した。次に、低温湿層処理に対するABAの効果を見た。コムギ種子胚は、水分補給をすると、室温でも低温でもABA量が増加し、室温では浸漬24時間後から増加して48時間後に最大となった。低温では48時間後から増加が始まり84時間後まで継続して増加した。低温湿層処理を24時間よりも長く行なうと、室温に戻した際にABA量が減少し、24時間よりも短いとABA量は増加した。低温湿層処理後のABA量の減少は、室温移行4時間後から始まり、8時間後には最低となった。このABA量の減少は、ABA生合成酵素をコードするTaNCED1TaNCED2 の発現量の減少と連動していた。また、低温湿層処理の際にASAを添加してJA量の増加を抑えると、ABA量やTaNCED1TaNCED2 の発現量が増加した。低温湿層処理によるJA量の増加はABAを添加しても見られることから、この処理過程においていJAはABAよりも上位に位置していると考えられる。コムギ種子の登熟から乾燥にかけての間の胚のJA、JA-Ile、ABA量は殆ど変化は見られないことから、JAは登熟後の種子休眠には関与しているないと考えられる。以上の結果から、低温湿層処理によるコムギの発芽誘導はジャスモン酸が関与していると考えられる。

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植物観察)箱根

2016-07-10 20:38:01 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行きました。調査している3つのエリアのうち、標高の低いエリアのバイケイソウはさく果が登熟過程にあり、葉は枯れてしまっていました。標高の高いエリアでは開花が進んでいる最中で、複数種の昆虫が訪花し、背中にたくさんの花粉を付けていました。訪花昆虫の同定が出来ていません。どなたが昆虫名がわかる方、教えて下さい。

 

標高の低いエリアのバイケイソウはさく果の登熟が進み、葉は枯れてしまっていた。

 

訪花昆虫その1 背中にたくさんの花粉をつけている

 

訪花昆虫その2

 

訪花昆虫その3

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植物観察)北海道バイケイソウ稔実調査 旭川

2016-07-04 16:42:26 | 植物観察記録

今日は旭川の林床のバイケイソウ群生地で稔実の確認をしました。この群生地では、今年、3個体が花成しました。群生地以外にもバイケイソウは生えているのですが、半径500m程のエリアを遊歩道に沿って歩いた限りでは、ここ以外に花成個体は見つけられませんでした。3個体のうち2個体は1m以内に生えているので、同じジェネットかもしれません。何れの個体とも稔実しているさく果の数は少なく(それぞれも個体の稔実さく果数:2、8、32)、さく果の大きさもまちまちでした。また、稔実しなかった両性花もあるようでした。やはり、花成個体が少ないと他家受粉の確率が下がり、稔実率が低くなるのかもしれません。これらの個体が子ラメットを幾つ形成するのか、来春に調査しようと考えています。

 

今年花成したバイケイソウ

 

稔実したさく果はまばらで、大きさも様々

 

花成しなかったバイケイソウは既に枯死していた

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植物観察)北海道バイケイソウ稔実調査 サロベツ

2016-07-03 20:31:30 | 植物観察記録

今日は豊富町 兜沼周辺のコバイケイソウとサロベツ湿原センターのバイケイソウ、コバイケイソウを見てきました。今回調査した兜沼周辺の林床のコバイケイソウ群生地は、今年100株程度が花成しました。いずれの株もさく果が沢山付いており高い稔実率を示していました。次にサロベツ湿原センターのコバイケイソウ、バイケイソウの稔実状態を見に行きました。花成個体数はコバイケイソウが圧倒的に多く、さくの稔実率も高くなっていました。しかし、バイケイソウは花成個体が数個体しかなく、花序を見ると、稔実したさく果がまばらについているような状態でした。充分な稔実のためにはもっと花成個体が必要なのかもしれません。花序にカタツムリがいたので、花やさく果が食害を受けたためにさく果が少ないのかもしれません。このあと、バイケイソウとコバイケイソウが数多く混生しているベニヤ原生花園まで足を伸ばしたのですが、原生花園内でヒグマの足跡と糞が見つかったために立入禁止になっていました。残念。

 

兜沼周辺の林床に生えるコバイケイソウ さく果がよく稔実している

 

サロベツ湿原センターのコバイケイソウ こちらも稔実率は高い

 

サロベツ湿原センターでは、まだ花の白い色が見られるコバイケイソウも生えていた。

 

サロベツ湿原センターのバイケイソウの花序 コバイケイソウに比べると個体数が少なく、稔実しているさく果も少ない

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植物観察)北海道バイケイソウ稔実調査 礼文島

2016-07-02 21:40:21 | 植物観察記録

今年、そこそこ花成した北海道のバイケイソウの稔実の程度がどのくらいなのかが知りたくて、再度北海道へ行きました。今日のターゲットは礼文島の草原性バイケイソウ。どの花序もが良く膨らんださく果をたくさんつけており、殆どの両性花が稔実したものと思われます。道内の他の場所の林床のバイケイソウと違って、礼文島の草原では花成した個体が多かったので、自家不和合のバイケイソウであっても充分に他家受粉は可能であったものと思われます。礼文島自体は初夏の花のシーズンで、レブンキンバイ、エゾカンゾウ、オオカメノキ、オオハナウド、オオカサモチ、ヤマブキショウマ、ヨツバシオガマ、ハマナス、タカネナデシコ、イブキトラノオ、レブンソウ、ヒオウギアヤメ、センダイハギ、レブンウスユキソウ、ギョウジャニンニク、チシマフウロ、ミソガワソウなどの花が見られました。

 

バイケイソウのさく果は良く充実していた

 

イブキトラノオ

 

レブンウスユキソウ

 

ヨツバシオガマ

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論文)子葉と胚軸の光応答成長制御

2016-06-30 19:16:08 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis SAURs are critical for differential light regulation of the development of various organs
Sun et al. PNAS (2016) 113(21):6071-6076.

doi:10.1073/pnas.1604782113

暗所で育成したシロイヌナズナ芽生えを明所に移すと、子葉は展開し、胚軸は伸長が抑制される。中国 北京大学のChen らは、器官特異的な光応答に関与している遺伝子を解析するために、シロイヌナズナ暗所育成芽生えに光照射した後の子葉と胚軸での遺伝子発現の変化を網羅的に調査した。器官特異的光応答遺伝子群(OLRs)のうち、子葉のみで光に応答する遺伝子(OLR1)、胚軸のみで光に応答する遺伝子(OLR2)、子葉と胚軸で逆の応答をする遺伝子(OLR3)の3つのグループについて詳細な解析を行なった。これら3つのグループとも、ホルモン刺激に応答する遺伝子が多く含まれており、それらのうち37%はオーキシン経路に関与するものであった。特にOLR2で発現量が低下する遺伝子はオーキシン刺激に応答する遺伝子が多く含まれていた。オーキシンに関連した器官特異的光応答遺伝子では、Small Auxin Up RNASAUR )遺伝子が特に多く含まれていた。SAUR ファミリー遺伝子は、シロイヌナズナには79遺伝子あり、これらすべてのSAUR 遺伝子の発現パターンを解析すると4つのクラスに分類された。クラス1は子葉では光に応答して発現量が増加するが、胚軸では光応答を示さない。クラス2は光に応答して子葉で発現量が増加するが、胚軸では減少する。クラス3は光に応答して胚軸で発現量が減少するが、子葉では一定の発現を維持する。クラス4は子葉、胚軸ともに常に発現量が一定となる。クラス2の遺伝子は子葉と胚軸で光に応答して逆の制御がかかるので興味深い。また、このような遺伝子は芽生え全体を解析した場合には光応答遺伝子としては同定されないと思われる。SAUR 遺伝子の80%はこの4つのクラスに分類され、クラス1~3に分類される32のSAUR 遺伝子をlirSAURlight-induced in cotyledons and/or repressed in hypocotyls SAUR )と命名した。クラス1、2、3に分類される遺伝子として、それぞれSAUR14SAUR50SAUR65 を選び、これらを過剰発現させた形質転換体芽生えの表現型を観察した。いずれの過剰発現個体も暗所育成3日目の胚軸が野生型よりも長く、さらに育成すると子葉が開いた。また、SAUR50SAUR65 の過剰発現個体は子葉が野生型よりも大きくなっていた。明所で育成した形質転換体は、野生型よりも胚軸が長く、SAUR50SAUR65 の過剰発現個体の子葉は野生型よりも大きくなった。過剰発現個体の子葉や胚軸の表皮細胞は野生型のものよりも大きいことから、lirSAURは細胞拡張を促進することで子葉や胚軸の成長を促進していると考えられる。こられの結果から、lirSAURは暗所と明所の両方で子葉と胚軸の成長を促進していることが示唆される。クラス2遺伝子のSAUR50 と、この遺伝子と発現パターンが類似しているクラス2遺伝子のSAUR16 とをCRISPR/Cas9でゲノム編集したsaur50saur16 二重変異体の暗所育成芽生えは、野生型よりも胚軸が短く、明所育成芽生えの子葉は野生型よりも小さくなった。また、暗所から明所へ移した際の子葉の展開が遅かった。光照射による各器官のオーキシン量の変化を見たところ、子葉では僅かに増加し、胚軸では減少していた。また、暗所育成芽生えをIAA処理したところ、lirSAUR 遺伝子の発現は胚軸のみで誘導され、子葉では誘導されなかった。これらの結果から、子葉でのlirSAUR の光照射による発現誘導はオーキシン以外のシグナルによって引き起こされ、胚軸ではオーキシンがlirSAUR の発現を正に制御していると考えられる。芽生えを暗所から明所へ移すと胚軸でのSAUR50SAUR65 の発現は速やかに減少するが、オーキシンアナログのピクロラムをを添加すると発現量の減少が緩やかになり、胚軸は対照よりも長くなった。したがって、オーキシン量の低下が光照射による急速なlirSAUR の発現量低下と胚軸身長阻害に関与していると考えられる。しかし、オーキシンを添加しても光照射による胚軸でのlirSAUR 発現量の低下は見られることから、光照射によるlirSAUR 発現はオーキシンによって部分的に制御されるが、胚軸においてSAUR を特異的に発現抑制する別の機構が存在すると考えられる。ChIP-qPCRアッセイから、光形態形成の抑制因子として作用するフィトクロム相互作用因子(PIF)のPIF3とPIF4は、SAUR14SAUR50SAUR65 のプロモーター領域に結合することがわかった。また、pif1pif3pif4pif5pifq )変異体の暗所育成芽生えでは、子葉でのSAUR14SAUR50SAUR65 の発現量が増加し、胚軸での発現量が減少していた。よって、PIFは暗所育成芽生えの子葉でのlirSAUR の発現を抑制し、胚軸では発現を促進していることが示唆される。このことは、暗所育成pifq 変異体芽生えは子葉が展開、拡大して胚軸が短くなることと一致している。pifq 変異体の胚軸が短い表現型は、lirSAUR を過剰発現させることによって部分的に回復した。したがって、PIFがlirSAUR 遺伝子のプロモーターに直接結合して、子葉や胚軸での発現を直接制御していることが示唆される。以上の結果から、以下の作業モデルが考えられる。子葉では、PIFがlirSAUR のプロモーターに結合して暗所での発現を抑制しているが、光照射によってPIFが分解されると抑制から解放されてlirSAUR 転写産物が蓄積し、子葉の拡張が促進される。胚軸では、PIFと高濃度内生オーキシンが暗所でのlirSAUR の発現を活性化し、蓄積したlirSAURが胚軸の伸長を促進する。光照射によってPIFが分解され内生オーキシン量が減少することでlirSAUR 転写産物量が減少し、胚軸伸長が減速する。

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植物観察)箱根

2016-06-26 20:43:43 | 植物観察記録

箱根へ行ってきました。箱根のバイケイソウはいよいよ開花が始まりました。今年の調査は、標高の異なる3ヵ所の群生地を中心に行なっているのですが、一番低い標高940mの群生地では花成した4株とも開花しており、5~8分咲となっていました。2番目の標高1060mの群生地では20株の花成個体があるのですが、一部の個体はまだ1輪も花を咲かせていませんでした。そして最も標高の高い1100mの群生地では15株の花成個体のうち開花した花をつけているのは1株だけでした。いずれの群生地も成育環境に大きな違いは見られないので、開花状況の違いは標高の違いなのかもしれません。この時期に開花している花の殆どが両性花でした。

花成しなかったバイケイソウは朽ちて溶けてしまいました

 

標高の低い群生地のバイケイソウは花序の半分以上が開花し、独特の臭気を発していました

 

この時期開花している花は大部分が両性花でした

 

標高の高い群生地では開花していない個体が大部分でした

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論文)極長鎖脂肪酸によるカルス化の抑制

2016-06-22 22:36:07 | 読んだ論文備忘録

Very-long-chain fatty acids restrict regeneration capacity by confining pericycle competence for callus formation in Arabidopsis
Shang et al. PNAS (2016) 113:5101-5106.

doi: 10.1073/pnas.1522466113

植物組織培養における植物体再生の初期過程は、カルスと呼ばれる分化多能性を有した細胞塊の誘導から始まることがある。カルスは植物体の組織片をオーキシンを多く含むカルス誘導培地(CIM)で培養することで形成され、シロイヌナズナを用いた研究から、CIMでのカルス誘導にはオーキシン応答因子ARF7、ARF19の下流において作用しているLATERAL ORGAN BOUNDARIES DOMAIN(LBD)転写因子が関与していることが報告されている。ARF7、ARF19はAux/IAAタンパク質のIAA14と相互作用をし、IAA14の安定化変異体solitary-rootslr )は主根の根端分裂組織以外はCIM上でのカルス誘導が見られない。中国科学院 植物研究所Hu らは、slr 変異体をEMS処理した集団からCIMでカルス誘導するcallus formation-relatedcfr )変異体を複数単離した。そのうちの3系統は類似した表現型を示し、遺伝解析から単遺伝子の劣性変異であることが判明したことから、これらをcfr1-1cfr1-2cfr1-3 と命名した。cfr1 変異体の芽生えはCIM上で主根全体がカルス化するが、ホルモンを含まない培地上ではslr 変異体と同様に側根が形成されず、オーキシン添加による側根形成誘導も見られない。土壌育成したcfr1 変異体は、ロゼット葉が小さく、花序茎が短く、頂芽優勢が強まるといったslr 変異体と類似した表現型を示した。これらの結果から、CFR1 の変異はslr 変異によって阻害されているカルス形成能を回避させていることが示唆される。cfr1 変異体、slr 変異体、野生型の根は、細胞層の構成は同じであり正常な構造をしている。これらの芽生えをCIMで培養すると、野生型では側根の始原細胞群のように一定の間隔で内鞘細胞からカルス形成が起こるが、cfr1 変異体の内鞘細胞は根の全域で細胞が分裂して連続してカルス層を形成した。内鞘細胞のマーカー遺伝子であるJ0121の発現は、CIMへ移植する前のcfr1 変異体、slr 変異体では野生型と同等だが、CIMで培養するとslr 変異体では発現が維持され、野生型では始原細胞群様の構造が形成されたところから徐々に消失し、cfr1 変異体では内鞘全域で発現が消失した。これらの結果から、cfr1 変異体のカルスは内鞘細胞から形成され、cfr1 変異体の内鞘細胞はカルス形成課程への移行能が高いことが示唆される。根分裂組織で発現するマーカー遺伝子の解析から、cfr1 変異体由来のカルスは野生型のカルスと同様に根分裂組織の特性を有していることがわかった。cfr1 変異体由来のカルスをシュート誘導培地(SIM)に移植すると不定芽を形成した。cfr1-1 遺伝子の塩基配列を解読したところ、3‐ケトアシルCoAシンターゼ(KCS1)遺伝子の開始コドンから1472番目のGがAに置換し、KCS1タンパク質の491番目のGlyがAspに置換することがわかった。cfr1-2 変異体、cfr1-3 変異体のKCS1 遺伝子もコード領域にアミノ酸置換を生じる塩基置換が起こっていた。cfr1 変異体のKCS1 遺伝子の発現量は野生型と同等であった。cfr1-1 変異体で野生型KCS1 ゲノムを発現させることで根のカルス形成表現型が完全に抑制された。これらの結果から、KCS1 遺伝子の変異がcfr1 変異体で観察されるカルス形成表現型をもたらしていると考えられる。cfr1 変異体と野生型とを交雑してslr 変異を欠いたkcs1 変異体やKCS1 遺伝子にT-DNAが挿入されて機能喪失した変異体の芽生えは、CIMで培養した際の主根のカルス形成能が高くなっていた。これらの変異体の側根形成は正常であり、slr 変異体でのKCS1タンパク質の蓄積は野生型と同等であることから、KCS1による内鞘のカルス形成能の制御はSLRによる側根形成制御とは別のものであると考えられる。KCS1は脂肪酸エロンガーゼ複合体の一部であり、極長鎖脂肪酸(VLCFA)生合成の律速過程を触媒している。kcs1 変異体やkcs1 slr 変異体の飽和VLCFA(C18:0、C20:0、C22:0、C24:0)量は野生型やslr 変異体の30-60%程度となっていた。野生型植物やslr 変異体の根をVLCFA生合成の阻害剤であるメタザクロールを添加したCIMで培養すると、kcs1 変異体やksc1 slr 変異体の内鞘で観察されるようなカルス形成する表現型を再現した。C16:0脂肪酸以外のVLCFAを添加することでkcs1 変異体のカルス形成能はほぼ完全に抑制された。脂肪酸エロンガーゼ複合体の骨格タンパク質をコードするPASTICCINO1PAS1 )のT-DNA挿入変異体pas1-4 の芽生えをCIMで育成すると、kcs1 変異体のようにカルス形成能が高い表現型を示した。したがって、VLCFAは内鞘のカルス形成能を抑制する作用があると考えられる。kcs1 変異体やpas1-4 変異体の胚軸や子葉もCIMで培養した際のカルス形成能が野生型よりも高く、VLCFAは地上部器官のカルス形成能に対しても効果があることが示唆される。VLCFAは側根形成におけるオーキシンの極性輸送を制御していることが報告されていることから、DR5:GFPPIN1:GFP をレポーターに用いて根のオーキシン蓄積を見たが、kcs1 変異体、kcs1 slr 変異体と野生型やslr 変異体との間で差異は見られなかった。同様に、SLR-ARF7/ARF19のターゲットであるLBD16LBD17LBD18LBD29 のオーキシンによる発現誘導もkcs1 変異の有無による違いは見られなかった。したがって、VLCFAによる内鞘のカルス形成能の制御は内生オーキシンの安定性や蓄積によるものではないことが示唆される。CIMで誘導されるカルス形成において、Aberrant Lateral Root Formation 4(ALF4)が重要であることが報告されている。kcs1 変異体、kcs1 slr 変異体のALF4 発現量は野生型、slr 変異体よりも2倍高くなっていた。また、ALF4 の発現量は野生型とslr 変異体で同等であることから、ALF4 の発現量変化はkcs1 変異によるものであると考えられる。また、野生型植物をメタザクロール処理することでALF4 の発現量が増加し、kcs1 変異体をC16:0以外のVLCFAで処理するとALF4 の発現量が減少した。したがって、VLCFAはALF4 の転写を抑制していると考えられる。alf4 kcs1 二重変異体は内鞘細胞からのカルス形成が抑制され、ALF4 過剰発現形質転換体はCIMでのカルス形成能が高くなり、slr 変異体のカルス形成抑制を部分的に回復させた。これらの結果から、VLCFAによる内鞘のカルス形成能阻害の一部はALF4 転写の制御を介してなされていると考えられる。過去知見において、VLCFAはサイトカイニン生合成を抑制し、エチレン生合成活性化することが示されているが、ALF4 の転写は両植物ホルモンによる影響を受けなかった。シロイヌナズナKCS1 は根、茎、葉、花を含む殆ど全ての組織で発現している。KCS1 プロモーター制御下でKCS1:GFP融合タンパク質を発現させたところ、GFPシグナルは主根の内皮、側根原基の増殖している細胞、出現過程にある側根において見られたが、内鞘細胞では検出されなかった。よって、内皮で合成されたVLCFAが細胞層のシグナルとして作用して内鞘でのALF4 の発現に影響し、内鞘のカルス形成能を制限しているものと思われる。kcs1 変異体においてKCS1 を根の皮層特異的に発現させると、カルス形成能の高い表現型は抑制されたが、細胞層の構成やカルスの内鞘からの形成に関しては変化は見られなかった。以上の結果から、極長鎖脂肪酸は内鞘がカルス化するのを抑制するシグナルとして機能していると考えられる。

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植物観察)箱根

2016-06-12 20:55:08 | 植物観察記録

箱根へ行ってきました。バイケイソウは葉の黄変~褐変が進み、花成しなかった個体は偽茎が倒れ、林床がややすっきりしてきました。花成した個体は茎が伸び、草丈が100cm以上になりました。花序は発達の途上にあり、蕾はまだ硬い状態です。箱根でのバイケイソウの開花は北海道よりも遅く、7月に入ってからになります。ただ、バイケイソウハバチが花芽を食べてしまうので、開花期までにどのくらいの花芽が残っているかが心配です。特に花序の基部に位置する最初に咲く花は両性花なので種子繁殖にとって重要なのですが、幼虫はそういった花芽から先に食べ始めます。ですので、箱根ではバイケイソウハバチによる食害を受けるため、そこそこ花成した年の種子生産量は北海道よりも少ないかもしれません。

 

バイケイソウは葉の黄変~褐変が進んだ バイケソウハバチの食痕も目立つ

 

花序は発達の途中 開花はまだ先になる

 

バイケイソウハバチ若く柔らかい組織を好むようだ

 

ハバチに食べられてしまった基部の花芽

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