Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)温度形態形成の概日変化

2017-01-09 08:19:19 | 読んだ論文備忘録

TOC1-PIF4 interaction mediates the circadian gating of thermoresponsive growth in Arabidopsis
Zhu et al. Nature Communications (2016) 7:13692.

DOI: 10.1038/ncomms13692

夕方に発現する概日時計タンパク質のTIMING OF CAB EXPRESSION1(TOC1)は、PIF4等の幾つかのフィトクロム相互作用因子と相互作用をすることが知られている。しかしながら、TOC1-PIF4相互作用の生理的機能は明らかとなっていない。米国 カーネギー研究所Wang らは、クロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP-Seq)アッセイから、TOC1がターゲットとする遺伝子の約半数はPIF4のターゲット遺伝子でもあることを明らかにした。さらに、ターゲット遺伝子におけるPIF4とTOC1の結合部位は近接していることがわかった。したがって、TOC1とPIF4はゲノム上の同じ領域に結合していることが示唆される。PIF4が結合するG-boxモチーフは、TOC1とPIF4の両方が結合するターゲット遺伝子のTOC1結合領域に多く見られるが、TOC1のみが結合するターゲット遺伝子では殆ど見られなかった。TOC1のホモログであるPSEUDORESPONSE REGULATOR5(PRR5)も、TOC1と同様に、PIF4と相互作用をし、PIF4とターゲット遺伝子が重複し、結合部位が近接していた。シロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストを用いいた一過的発現解析試験から、PIF4によって転写活性が促進されるIAA19 プロモーターは、TOC1の共発現によって活性促進が抑制されることがわかった。この時、PIF4 の発現量やPIF4のターゲット遺伝子への結合には変化は見られないことから、TOC1はPIF4と相互作用をすることで直接PIF4の転写活性化の能力を抑制していると考えられる。PIF4は高温下での胚軸伸長促進のような温度形態形成に関与していることが知られている。toc1-2 変異体は高温(29℃)条件下で野生型よりも胚軸が伸長し、この促進効果はpif4 変異が導入されることによって打ち消された。したがって、TOC1はPIF4の上流で高温による胚軸伸長を抑制していると考えられる。TOC1PRR5 の過剰発現個体は高温処理による胚軸伸長が見られなかった。さらに、TOC1やPRR5が蓄積するzeitlupeztl-105 )変異体は高温に対する感受性が低下していた。したがって、TOC1とPRR5は温度形態形成を抑制していると考えられる。YUC8IAA29 といったPIF4ターゲット遺伝子の高温による活性化は、TOC1PRR5 の過剰発現によって打ち消された。したがって、TOC1はPIF4の活性を抑制することで温度形態形成を抑制していると考えられる。TOC1PRR4 はそれぞれツァイトゲーバー時間(ZT)のZT12-14とZT10-12に発現のピークが見られる。ZT0-4に高温処理をした植物体はPIF4 RNA量は25%程度増加しているが、YUC8 RNA量は3倍以上増加していた。一方、ZT8-12およびZT12-16に高温処理した植物体ではPIF4 RNA量が5倍以上増加しているが、YUC8 の発現量に変化は見られなかった。そして、ZT16-20とZT20-24に高温処理をした場合にはPIF4YUC8 の発現量が共に増加していた。高温処理によってPIF4 の発現量が増加するZT8-16にYUC8 の発現量が増加していないのは、TOC1のような夕方に特異的な因子がPIF4によるターゲット遺伝子の発現活性化を抑制していることによるものと考えられる。夜遅くにTOC1量が減少すると、おそらく高温処理で増加したPIF4がYUC8 を活性化し、温度に応答した成長が高まると考えられる。toc1 変異体、toc1 prr5 二重変異体ではZT12、ZT16でのPIF4 の発現量が野生型よりも増加していることから、TOC1とPRR5は夜の始めのPIF4 の発現直接抑制していると考えられる。夕方のYUC8 の発現量はtoc1 変異体、toc1 prr5 二重変異体においても低いが、高温処理による発現量の増加については幾分かは見られた。したがって、TOC1とPRR5はPIF4による転写活性化活性と温度形態形成の概日リズムによる制御を行なっていると考えられる。29℃で育成した芽生えは20℃で育成した芽生えよりも45℃の熱ストレスに対する耐性を示すようになるが、そのような適応効果はpif4 変異体では低下しており、PIF4 過剰発現個体では20℃で育成した植物体も熱ストレス耐性が高くなっていた。また、TOC1 過剰発現個体は29℃育成による熱耐性獲得の程度が野生型よりも低く、toc1 prr5 二重変異体は高くなっていた。しがし、20℃で育成した個体の熱ストレス感受性はTOC1 過剰発現個体もtoc1 prr5 二重変異体も同程度であった。これらの結果から、高温耐性の獲得にはPIF4の活性化とTOC1量の減少が必要であり、TOC1量が低下している日中に受けた高温によるPIF4の活性化が、熱ストレスからの植物の生存を高めていると思われる。以上の結果から、TOC1とPIF4との相互作用は、温度変化に応答した成長の概日リズムによる調節を行なっており、温度や光量の日変化に合わせて植物の成長を適応させる作用があると考えられる。

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論文)微生物が放出する揮発性物質による植物の成長促進

2016-12-27 05:46:08 | 読んだ論文備忘録

Volatile compounds emitted by diverse phytopathogenic microorganisms promote plant growth and flowering through cytokinin action
Sanchez-Lopez et al. Plant, Cell and Environment (2016) 39:2592-2608.

doi: 10.1111/pce.12759

植物の葉圏、根圏および内部に生息する微生物は様々な物質を放出し、植物の成長や形態形成に影響をおよぼしている。スペイン 農業バイオテクノロジー研究所のPozueta-Romero らは、寒天培地で育成しているシロイヌナズナの傍らに様々な真菌や細菌をお互いが物理的に接触しないようにセットし、微生物から放出される揮発性物質(VC)によるシロイヌナズナ成長を調査した。その結果、試験した微生物が放出するVCはシロイヌナズナの生重量を2~5倍増加させることがわかった。また、殆どの微生物が放出するVCは花成誘導やデンプン蓄積を促進した。放出されるVCに対する応答の程度は微生物種によって異なっており、微生物から放出される様々なVCの混合物に植物の様々なシグナル伝達経路が応答していると考えられる。このような微生物由来VCによる成長促進は、トウモロコシやピーマンを用いた実験においても観察された。代表的な土壌菌で植物病原菌として知られているアルテルナリア(Alternaria alternata )が放出するVCに晒されたシロイヌナズナの葉は、対照よりも炭酸同化効率が向上しており、糖類やカルビン‐ベンソン回路の中間代謝産物の含量が増加していた。アルテルナリアのVC処理によって葉のアブシジン酸含量がやや減少し、イソペンテニルアデニンリボシド(iPR)やtrans-ゼアチン(tZ)といった色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路で合成されるサイトカイニン類の含量が増加した。そこで、サイトカイニン酸化酵素を過剰発現させた形質転換体(35S:CKX1)やサイトカイニン感受性が低下した変異体akh2/3 をVC処理したところ、ロゼット葉の生重量の増加、花成誘導、デンプン蓄積の促進といった効果が見られなくなっていた。しかし、ahk2/4 変異体やahk3/4 変異体は野生型と同じようにVCに応答した。したがって、アルテルナリアのVCによる種々の効果はサイトカイニンによって制御されており、この応答は主にAHK2、AHK3を介してなされていると考えられる。植物体を16時間明期/8時間暗期で育成し、アルテルナリアのVCに明期もしくは暗期にのみ晒して応答性を見たところ、明期に処理した場合にのみ成長促進、デンプン蓄積、花成誘導が見られ、暗期に処理した場合には効果は見られなかった。したがって、アルテルナリアのVCによる植物の変化は光に依存していると考えられる。シロイヌナズナをアルテルナリアのVCで処理することで、530遺伝子の発現量が増加し、496遺伝子の発現量が減少した。発現量の変化した遺伝子は、光捕獲、デンプン合成および分解、花成、細胞壁合成、アントシアニンおよびカロテノイドの代謝、酸化ストレス防御等、様々な過程のものが含まれていた。VCに応答する遺伝子の多くは、光、オーキシン、エチレン、ジャスモン酸、ジベレリン、硝酸、糖類による制御を受けるものであった。細菌と真菌では放出する揮発性物質が異なることから、アルテルナリアのVCで処理した葉と、植物の成長に促進的に作用する根圏細菌の枯草菌(Bacillus subtilis )GB03のVCで処理した葉で遺伝子発現を比較した。その結果、枯草菌のVCによって発現量が低下した254遺伝子のうち101遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が低下し、枯草菌のVCによって発現量が増加した378遺伝子のうち99遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が増加した。また、枯草菌とアルテルナリアのどちらのVCで処理しても発現量が変化した遺伝子の25%はサイトカイニン応答遺伝子であった。以上の結果から、微生物が放出する揮発性物質は、それが植物病原菌由来のものであっても、植物の成長にとって有益な効果をもたらし、この過程にはサイトカイニンが関与していると考えられる。

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論文)シスに作用する非コードアンチセンス転写産物による種子休眠の制御

2016-12-23 09:21:51 | 読んだ論文備忘録

Control of seed dormancy in Arabidopsis by a cis-acting noncoding antisense transcript
Fedek et al. PNAS (2016) 113:E7846-E7855.

doi: 10.1073/pnas.1608827113

シロイヌナズナのQTL解析から種子休眠を制御しているDelay of Germination 1DOG1 )遺伝子が同定された。種子休眠におけるDOG1タンパク質の機能は不明だが、DOG1 の発現量と種子休眠の強度には相関がある。DOG1 の発現は種子特異的であり、休眠が確立する種子成熟の間に発現量が最大となる。DOG1 転写産物は、3つのエクソンからなる長いmRNA lgDOG1 と2つのエクソンの短いmRNA shDOG1 のポリアデニル化部位が異なる2種類のmRNAが存在している。shDOG1 は翻訳され種子休眠に関与していることが確認されているが、lgDOG1 は生体内では翻訳されす、dog1 変異体の弱い種子休眠を相補しない。ポーランド科学院生化学生物物理学研究所Swiezewski らは、アブラナ科植物のDOG1 遺伝子の塩基配列を比較し、第3エクソンと第2イントロンに保存性の高い領域があることを見出した。しかしながら、第3エクソンがコードするポリペプチド配列には保存性は見られなかった。したがって、DOG1 の第2イントロンから第3エクソンにかけての領域はDNAレベルで進化的に保存されおり、何らかの機能があるものと推測される。DOG1 遺伝子を詳細に解析したところ、アンチセンス鎖に幾つかのポリアデニル化部位が存在し、5’RACEから、DOG1 遺伝子第2イントロン内から転写が始まりキャップ構造を持ったアンチセンス転写産物asDOG1 を発見した。asDOG1 の転写開始点は、shDOG1 のポリアデニル化部位と一致しており、前述した第2イントロンから第3エクソンにかけての保存領域にあった。asDOG1 の3’末端はDOG1 センスmRNAの転写開始点まできており、シスに作用する機構によってDOG1 遺伝子の発現を制御する可能性が推測される。asDOG1 の半減期は約46分で、タンパク質をコードしている半減期の短い転写産物と同程度であり、ncRNAとしては比較的長い。DOG1 のアンチセンスとセンスの発現プロファイルは相反しており、asDOD1 は種子での発現よりも芽生えでの発現が高くなっていた。DOG1 遺伝子のセンスプロモーター領域およびアンチセンス側のプロモーター領域と推測される第2エクソンから第3エクソンまでの領域にレポーターとしてLUC 遺伝子を融合したコンストラクトを導入した形質転換体でLUCシグナルを観察したところ、両プロモーターともそれぞれの転写産物の発現プロファイルと同じパターンでLUCシグナルが検出された。したがって、DOG1 遺伝子下流領域ではアンチセンス鎖の転写が行われ、独立したプロモーターを有していることが示唆される。DOG1 遺伝子センスプロモーター領域にT-DNAが挿入された機能喪失変異体dog1-3 は、センス転写産物量が減少しているが、asDOG1 転写産物量は野生型と同等であった。よって、センスプロモーター活性はアンチセンスプロモーターによる転写には影響しないと考えられる。これらの結果から、DOG1 アンチセンス転写産物は独立したプロモーターによって転写されており、このプロモーター領域において塩基配列が保存されていることは、このプロモーターが進化的に保存されていることを示唆している。dog1-5 変異体は機能獲得変異体で、shDOD1 転写産物量とDOG1タンパク質量が野生型よりも多くなっている。dog1-5 変異体はDOG1 遺伝子の第3エクソンにT-DNAが挿入されており、新鮮種子中のasDOG1 転写産物量が野生型よりも少なくなっていた。したがって、dog1-5 変異体での強い種子休眠の表現型、shDOG1 転写産物量の増加は、DOG1 アンチセンスの機能喪失の二次的な効果であると推測される。種子成熟過程におけるDOG1 遺伝子の発現を経時的に追ったところ、shDOG1 転写産物もasDOG1 転写産物も種子が成熟するにつれて徐々に増加し、shDOG1 は種子が成熟しただ段階で転写産物量が最大となりその後急速に減少したが、asDOG1 は長角果の成熟後期まで増加が継続した。shDOG1 転写産物量は種子を浸漬させることで減少するが、asDOG1 も同様の変化を示した。dog1-5 変異体の種子成熟過程ではasDOG1 転写産物量の増加が殆ど見られず、成熟後期の転写産物量は野生型の1/5程度になっていた。一方、shDOG1 転写産物量は野生型の5倍に増加していた。LUC 遺伝子を完全長のDOG1 ゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(pDOG1-LUC::DOG1 )とDOG1 アンチセンスプロモーター領域を欠いたゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(psDOG1::DOG1 )でLUC の発現量を比較したところ、psDOG1::DOG1 の方がpDOG1-LUC::DOG1 よりもはるかに高い発現を示した。したがって、T-DNAの挿入やプロモーター領域の欠失によってasDOG1 の発現が抑制されるとDOG1 センス転写産物が増加する。よって、asDOG1DOG1 発現の負の制御因子として作用し、種子休眠を抑制していると考えられる。dog1-5 変異体と野生型とのヘテロ接合F1種子はdog1-5 変異体よりも僅かに種子休眠が弱くなった。したがって、野生種親由来のアンチセンス転写産物が存在していても変異体由来の種子休眠は強く作用していることが示唆される。dog1-3 変異体とdog1-5 変異体とのF1種子は、shDOG1 の発現量がdog1-5 変異体の半分以下にはなっておらず、センスDOG1 遺伝子が1コピー欠失した際に推測される転写産物量とほぼ一致していた。また、asDOG1 をトランスに発現させた系統でセンスDOG1 の転写産物量に変化は見られなかった。したがって、別の対立遺伝子からトランスとして発現したasDOG1 はセンスDOG1 転写産物量を低減させる能力はなく、asDOG1 はシスに作用し、転写そのものがセンスDOG1 の転写制御にとって重要であると考えられる。

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論文)フィトクロムBは光だけでなく温度も感知する

2016-12-11 15:42:37 | 読んだ論文備忘録

Phytochromes function as thermosensors in Arabidopsis
Jung et al. Science (2016) 354:886-889.

DOI: 10.1126/science.aaf6005

Phytochrome B integrates light and temperature signals in Arabidopsis
Legris et al. Science (2016) 354:897-900.

DOI: 10.1126/science.aaf5656

PERSPECTIVE
Light-sensing phytochromes feel the heat
Karen J. Halliday, Seth J. Davis Science (2016) 354:832-833.

DOI: 10.1126/science.aaj1918

植物は温度に応答して成長を調節する能力を持っている。シロイヌナズナでは、暖かい条件では花成や伸長成長が促進されることが知られているが、どのようにして温度シグナルを受容しているのかは明らかとなっていない。Science誌11月18日号に、フィトクロムB(phyB)が温度を感知するとうい報告が2報出された。

英国 ケンブリッジ大学Wigge ら[Jung et al. Science (2016) 354:886-889.]は、フィトクロム活性が欠失しているシロイヌナズナphyABCDE 五重変異体の芽生えは12℃や17℃といった低い温度でも胚軸の伸長抑制が起こらないことを見出した。phyABCDE 変異体と野生型植物を22℃もしくは27℃で育成し、1日の転写産物の変化をRNA-seqで調査し、転写産物を日変化パターンから20のグループに分類した。温度形態形成は主に夜に起こり、フィトクロム相互作用因子4(PIF4)やPIF5が関与しているとされている。PIF4 は20のグループの中のクラスター20に属し、27℃育成条件の夜間に発現量が高くなっていた。クラスター15および16に属する遺伝子は、27℃の夜間に発現量が高い上にphyABCDE 変異体で強く発現誘導されており、ここにはホルモンシグナルや伸長成長に関与する遺伝子が含まれていた。したがって、27℃の夜間に発現している遺伝子はフィトクロム活性の影響を受けていることが示唆される。主成分分析の結果、夜間に温度に応答して発現が変化する遺伝子とphyABCDE 変異に応答して発現が変化する遺伝子の間には正の相関があり、この関係は日中には失われることがわかった。アミノ酸置換によって恒常的に活性型となったphyB を発現するYHB 系統は、27℃の夜間に発現する遺伝子の発現が抑制されており、温度に応答した胚軸伸長も殆ど見られなかった。温度によって発現が変化する遺伝子の79%は、phyABDE 変異体、YHB 系統もしくは両者で発現量変化を示していた。ChIP-seqから、phyBは100以上のサイト(およそ95のプロモーター領域)に結合し、27℃よりも17℃の方が結合するターゲットが多いことがわかった。そして多くのphyBターゲット遺伝子は温度に応答して夜間にphyB活性が低下した際に発現し、日中にはそのような関係は見られなくなっていた。phyBが結合する部位の多くにB-boxが含まれており、PIFタンパク質が結合する部位と重複していた。先のRNA-seq解析で、PIF4のターゲット遺伝子が属するクラスターの転写産物量はPIF4 の発現とは対応しておらず、フィトクロムシグナルに対して高い応答性を示していた。したがって、フィトクロムは温度に依存してPIF4活性を制御し、活性型フィトクロム(Pfr)がPIF4活性を抑制することでターゲット遺伝子の発現が抑制されると考えられる。活性型phyBの暗反転速度は温度によって変化し、22℃でのPfrの半減期が2.09時間であるのに対して、27℃では1.53時間であった。これらの結果から、Pfrの暗反転速度は温度差に応答した成長制御に関与していると考えられる。


アルゼンチン ルロワール研究所財団 ブエノスアイレス生化学研究所Casal ら[Legris et al. Science (2016) 354:897-900.]は、温度が高くなるにつれて活性型のPfr phyB量が減少して不活性型のPr phyB量が増加する熱反転についてin vitroin vivo で解析を行ない、Pfr:Prヘテロ二量体からPr:Prホモ二量体への移行速度は温度が上昇するにつれて速くなることを明らかにした。Pfr phyBは核内で顆粒の構造体を形成するが、顆粒の大きさは温度によって変化し、20℃の時に最大となった。そして高温は光条件に関係なくPfr:Pfrホモ二量体を減少させた。これらの結果は、phyBの活性は温度が上昇するに連れて低下することを示している。シロイヌナズナ芽生えの胚軸伸長について、野生型、phyB 変異体、アミノ酸置換により熱によるPfrからPrへの反転が抑制されたphyBを発現する系統を用いて、様々な光条件や温度条件で解析した結果、phyBは温度変化による胚軸伸長に関与しており、この関与は低光照射下で大きいことがわかった。以上の結果から、温度はphyB Pfr:Pfrホモ二量体の量を制御しており、phyBは光受容体に加えて温度センサーとしても機能していると考えられる。

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論文)ヒストン脱アセチル化酵素結合因子による種子発芽の制御

2016-11-30 21:48:44 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis seed germination speed is controlled by SNL histone deacetylase-binding factor-mediated regulation of AUX1
Wang et al. Nature Communications (2016) 7:13412.

DOI: 10.1038/ncomms13412

SWI-INDEPENDENT3(SIN3)-LIKE1(SNL1)とSNL2はヒストン脱アセチル化酵素結合因子で、SNL-HDA19ヒストン脱アセチル化複合体を形成している。この複合体はアブシジン酸(ABA)やエチレンのシグナル伝達に関与する遺伝子のヒストンH3K9/18を脱アセチル化することで種子休眠を制御していることが知られている。中国科学院 植物研究所Liu らは、snl1 およびsnl2 単独変異体、snl1 snl2 二重変異体は、野生型よりも発芽の際の幼根の突出が早いことを見出した。この効果は種子を休眠打破処理しても見られることから、SNL1とSNL2は種子休眠とは独立して種子発芽を制御していることが示唆される。RNA-seq解析から、snl1 snl2 二重変異体種子ではオーキシン関連遺伝子の転写産物量が有意に増加していることがわかった。そこで、種子を浸漬する際にオーキシン合成阻害剤アミノエトキシビニルグリシン(AVG)やオーキシン輸送阻害剤の2,3,5-トリヨード安息香酸や1-ナフトキシ酢酸(1-NOA)を添加したところ、snl1 snl2 二重変異体も野生型も種子の発芽速度が低下した。このことから、snl 変異体はオーキシン応答が高まったことにより発芽速度が加速したと推測される。snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体の乾燥種子や浸漬8時間後の種子は、オーキシンの生合成、輸送、シグナル伝達に関与する遺伝子の発現量が野生型よりも高くなっていたが、浸漬24時間後には幾つかの遺伝子の発現量は野生型と同等になっていた。snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体でのオーキシンレポーターDR5::GUS の発現は、発芽時の胚では野生型よりも高くなっていたが、成長した芽生えでは差は見られなかった。また、snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体のIAA量は野生型よりも高くなっていた。これらの結果から、SNL1SNL2 は種子発芽時のオーキシン量を負に制御しており、このことが発芽速度に影響しているものと思われる。種子発芽の際に低濃度のオーキシンを与えると発芽速度が促進されたが、高濃度で処理すると発芽速度は低下した。また、低濃度のオーキシン処理をすることで幼根において4Cや8Cといった多倍体の核が増加した。したがって、オーキシンは細胞分裂やエンドサイクルを刺激して発芽速度を促進しているものと思われる。snl1 snl2 二重変異体で転写産物量が増加しているオーキシン関連遺伝子(PIN2PIN3CYP79B2CYP79B3YUC3 )の機能喪失変異体は発芽速度に明確な変化は見られなかったが、オーキシントランスポーターAUX1の変異体aux1-21aux1-22 の新鮮な種子は野生型よりも僅かに発芽が遅延した。この表現型は休眠打破処理をした種子では見られなくなることから、AUX1は種子の休眠を弱く調節していることが示唆される。種子で高い転写活性を示す12Sプロモーター制御下でAUX1 を発現させた形質転換体(12Spro::AUX1 )の休眠打破処理をした種子は幼根の突出が野生型よりも促進され、snl1 snl2 二重変異体にaux1-21 変異を導入すると発芽速度が野生型と同程度に戻った。これらの結果から、AUX1はSNL1、SNL2の下流での発芽速度の制御において重要な役割を演じていると思われる。AUX1 過剰発現系統の種子は内生オーキシン量が高く、幼根でのDR5::GUS の発現も高くなっていた。よって、AUX1は、オーキシンを輸送して幼根部分のオーキシン蓄積を調節することで幼根の成長と種子発芽に関与しているものと思われる。種子の発芽が進むにつれて幼根にAUX1タンパク質が蓄積していくが、snl1 snl2 二重変異体での蓄積量は野生型よりも多くなっていた。このことから、AUX1はsnl1 snl2 二重変異体の発芽速度を促進していることが示唆される。snl1 snl2 二重変異体は、AUX1 遺伝子のC末端コード領域、PIN2 遺伝子、CYP79B2 遺伝子のプロモーター領域のアセチル化の程度が野生型よりも高く、これらの遺伝子領域とSNL1は相互作用をすることが確認された。これらの結果から、snl1 snl2 二重変異体でのAUX1 遺伝子や他のオーキシン関連遺伝子の発現量の増加は、SNL1、SNL2の機能喪失によるヒストンH3K9K18のアセチル化の増加と強く関連していることが示唆される。12Spro::AUX1 形質転換体やsnl1 snl2 二重変異体は幼根の細胞数が野生型よりも多く、4Cや8Cの核が多くなっていた。また、サイクリンD1;1(CYCD1;1 )やCYCD4;1 の転写産物量が野生型よりも多くなっていた。12Spro::AUX1 形質転換体にCYCD4;1 の機能喪失変異を導入すると発芽速度が野生型と同程度になることから、CYCD1;1CYCD4;1 は幼根の成長に対してAUX1やSNL1/SNL2の下流において重要な役割を演じていることが示唆される。以上の結果から、SNL-HDA19ヒストン脱アセチル化複合体は、オーキシン関連遺伝子のヒストンを脱アセチル化して発現抑制することで種子発芽を抑制しており、AUX1はSNL1/SNL2の下流において種子発芽を制御する重要な因子であることが示唆される。

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論文)サイトカイニンによる根の伸長制御

2016-11-24 05:04:43 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin acts through the auxin influx carrier AUX1 to regulate cell elongation in the root
Street et al. Development (2016) 143:3982-3993.

doi: 10.1242/dev.132035

サイトカイニンは主根の成長を細胞の分裂と伸長の両方を阻害することで制御しており、このサイトカイニンシグナルの伝達にはタイプB レスポンスレギュレーターのARR1、ARR10、ARR12が関与している。これらの因子は機能重複しており、単独の機能喪失変異体では表現型は殆ど変化しないが、aar1 arr12 二重変異体はサイトカイニン処理をしても主根の伸長阻害が起こらない。米国 ダートマス大学Schaller らは、サイトカイニンによる根の成長制御に関与する他の因子を同定するために、変異原(EMS)処理したarr1 変異体、arr12 変異体の集団からサイトカイニン(6-BA)処理をしても根の伸長阻害が起こらない変異体を単離し、それらをenhancer of response regulatorerr )と命名した。そしてこのうちのerr3 変異体について詳細な解析を行なった。err3-1 単独変異体は部分的なサイトカイニン非感受性を示すが、arr12 変異、arr1 arr12 二重変異が加わることで非感受性が強くなった。err3-1 変異体は重力屈性が低下しており、このことからオーキシン流入キャリアをコードするAUX1 に変異があるのではないかと考えて調査したところ、err3-1 変異体のAUX1 遺伝子のコード領域にはPro371Leuミスセンス変異が存在することを見出した。また、err3-2 変異体ではAUX1 遺伝子にGly374Ser変異が見られた。err3-1 変異、err3-2 変異は共にAUX1の第9-第10膜貫通ドメインの間の細胞外ループのアミノ酸置換変異であり、この領域はシロイヌナズナ アミノ酸/オーキシンパーミアーゼスーパーファミリーにおいて高度に保存されている。AUX1 の機能喪失変異体aux1-21err3-1 変異体と同様にサイトカイニンに対して非感受性であった。よって、err3-1err3-2AUX1 の対立遺伝子であり、それぞれをaux1-121aux1-122 と命名した。AUX1は4つのAUX/LAXオーキシン流入キャリアファミリーのうちの1つであり、他の3つのキャリアの機能喪失変異体lax1lax2lax3 のサイトカイニン応答性は野生型と同等であった。また、aux1-21 lax1 lax2 lax3 四重変異体のサイトカイニン応答性はaux1 単独変異体と同等であった。これらの結果から、AUX1はサイトカイニンによる根の成長を正に制御しており、他のファミリーとはこの点に関して機能重複していないことが示唆される。サイトカイニンは根端分裂組織での細胞分裂と伸長帯での細胞伸長に影響を及ぼすことで根の成長を制御しており、arr1 arr12 二重変異体は細胞分裂と細胞伸長の両方がサイトカイニン非感受性を示す。aux1-121 単独変異体はサイトカイニンの有無に関係なく根端分裂組織の大きさが野生型と同等であり、arr1 arr12 変異を導入しても分裂組織の大きさに相加的な効果は見られなかった。したがって、根端分裂組織の細胞分裂は、AUX1ではなくタイプB ARRが制御していることが示唆される。aux1-121 変異体、aux1-121 arr12 変異体、aux1-121 arr1 arr12 変異体は、全て伸長帯の細胞伸長においてサイトカイニン非感受性であり、このことから、AUX1はサイトカイニンによる細胞伸長の制御において重要な役割があると考えられる。AUX1 はエチレンによる根の伸長阻害に関与しており、サイトカイニンはエチレン生合成を促進している。エチレン非感受性変異体ein2-5 はサイトカイニンによる伸長阻害を抑制したが、aux1 変異体が完全に伸長阻害を抑制することと比較するとein2-5 変異体の抑制の程度は弱かった。したがって、サイトカイニンはエチレンに依存した機構と依存しない機構によって根の細胞伸長を阻害しており、2つの機構においてAUX1は重要な因子として機能していることが示唆される。aux1 変異体ではタイプB ARRのうちのARR10 の発現量が低下しており、オーキシン(NAA)処理によってこの減少は回復した。ARR10 の発現はサイトカイニン処理によって減少し、この減少はaux1 変異体においても観察された。したがって、オーキシンがARR10 の発現を正に制御し、逆にサイトカイニンがARR10 の発現を抑制する調節機能が存在すると考えられる。DR5:GFP オーキシンレポーターを導入した野生型植物をサイトカイニン処理すると根冠近傍の表皮細胞でDR5:GFP 活性が増加するが、arr1 arr12 変異体とaux1 変異体ではそのような増加は観察されなかった。したがって、根の表皮細胞でのサイトカイニンによるオーキシン活性の誘導はタイプB ARRとAUX1の両方に依存していると考えられる。ChIP-qPCRアッセイからARR12はAUX1 遺伝子の第8イントロンに結合することが確認された。よって、サイトカイニンはタイプB ARRの直接の作用を介してAUX1 の発現を抑制し、オーキシン活性の制御に関与していると考えられる。以上の結果から、サイトカイニンによる根の伸長阻害にはオーキシン排出キャリアのAUX1が関与していると考えられる。

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論文)WRKY転写因子による花成制御

2016-11-16 20:39:36 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis WRKY Transcription Factors WRKY12 and WRKY13 Oppositely Regulate Flowering under Short-Day Conditions
Li et al. Molecular Plant (2016) 9:1492-1503.
DOI: 10.1016/j.molp.2016.08.003

中国科学院 シーサンパンナ熱帯植物園Yu らは、WRKY転写因子の成長過程での役割を解析するために、シロイヌナズナのWRKY 遺伝子T-DNA挿入変異体の表現型を解析し、wrky12 変異体とwrky13 変異体は花成時期が変化していることを見出した。両変異体は長日条件下での花成時期は野生型と同等だが、短日条件下では、wrky12 変異体は花成が遅延し、wrky13 変異体は花成が促進した。また、WRKY12 を過剰発現させた系統は花成が早まり、WRKY13 を過剰発現させた系統は花成が遅延した。これらの結果から、WRKY12とWRKY13は短日条件下での花成時期の制御において正反対の機能を有していることが示唆される。WRKY12WRKY13 の発現を植物体の成長を追って追跡すると、WRKY12 の発現は徐々に増加していくのに対して、WRKY13 の発現は減少していった。両者は主に葉の維管束走行で発現しており、花成前後の分裂組織においても発現が見られた。花成を制御しているMADS box遺伝子FRUTIFULL (FUL )とSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANSSOC1 )の両変異体での発現量を見たところ、花成の表現型と一致して、wrky12 変異体ではFULSOC1 の発現量が低く、wrky13 変異体では高くなっていた。また、WRKY12 過剰発現個体ではFULSOC1 の発現量が高く、WRKY13 過剰発現個体では発現が抑制されていた。花成制御に関与しているLEAFYLFY )遺伝子の発現はwrky 変異体と野生型で差異は見られなかった。よって、WRKYはMADS box遺伝子を介して花成を制御していると考えられる。WRKY転写因子はW-boxエレメントに特異的に結合することが知られている。クロマチン免疫沈降(ChIP)解析から、WRKY12とWRKY13はFUL 遺伝子プロモーター領域のW-boxに結合することが確認された。興味深いことに、W-boxはWRKY12 遺伝子、WRKY13 遺伝子のプロモーター領域にも存在しており、WRKY12は自身の遺伝子およびWRKY13 遺伝子のプロモーター領域に結合し、WRKY13はWRKY12 遺伝子のプロモーター領域に結合した。したがって、WRKY12 遺伝子とWRKY13 遺伝子の間にはフィードバック制御ループが存在すると考えられる。WRKY12、WRKY13はSOC1 遺伝子とLFY 遺伝子のプロモーターには結合しなかった。FUL を過剰発現させたwrky12 変異体および野生型植物は短日条件下での花成が促進され、wrky12 変異体の花成遅延表現型が回復した。また、WRKY13 過剰発現個体でFUL を過剰発現させることで、FUL 過剰発現個体と同程度に花成が促進された。これらの結果から、FUL はWRKY12、WRKY13の直接のターゲットであることが示唆される。WRKY12、WRKY13と相互作用をする因子を酵母two-hybrid系で探索したところ、DELLAタンパク質のGIBBERELLIN INSENSITIVE(GAI)およびRGA-LIKE1(RGL1)をコードするクローンが単離された。BiFCアッセイやCoIPアッセイからWRKY12、WRKY13とGAI、RGL1は生体内の核で複合体を形成することが確認され、他のDELLAタンパク質RGA、RGL2、RGL3とは複合体形成しないことが判った。WRKY12、WRKY13とDELLAタンパク質との相互作用がFUL の発現に与える影響を見るために、FUL プロモーター制御下でGUS を発現するレポーターを用いた一過的発現解析を行なった。その結果、WRKY12はGUS の発現を誘導し、WRKY13は抑制するが、GAI を同時に発現させることでそれらの効果が弱まることが判った。よって、GAIとWRKYとの相互作用はWRKYの転写因子としての活性を妨げていると考えられる。ジベレリン(GA)は花成を促進する効果があるが、wrky12 変異体をGA処理しても花成促進の程度は野生型よりも低く、wrky13 変異体では野生型よりも促進効果が強く現れた。また、野生型植物をGA処理するとWRKY12 の発現が誘導され、WRKY13 の発現は抑制された。これらの結果から、WRKY12、WRKY13は短日条件下でのGAによる花成誘導に部分的に関与していると考えられる。

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論文)活性酸素種による重力屈性と水分屈性の制御

2016-11-11 22:02:52 | 読んだ論文備忘録

Reactive Oxygen Species Tune Root Tropic Responses
Krieger et al. Plant Phsiology (2016) 172:1209-1220.

doi:10.1104/pp.16.00660

植物の根の成長パターンは、基本的には重力に支配されているが、他にも様々な化学的、物理的刺激を受容し、それに応答している。イスラエル テルアビブ大学Fromm らは、以前に、根が水ポテンシャルの高い方へ屈曲する水分屈性ではオーキシン分布の変化は起こらず、オーキシン極性輸送阻害剤やオーキシンシグナル伝達の拮抗物質を処理することによって屈曲が促進されることを見出した。この結果は、重力屈性と水分屈性は競合もしくは干渉関係にあることを示している。今回、屈曲応答における活性酸素種(ROS)の役割に着目して解析を行なった。寒天上で育成したシロイヌナズナ芽生えを90度回転させて重力刺激し、ジヒドロローダミン-123(DHR)を添加してROSの分布変化を追跡した。刺激を与える前では、コルメラ、側根の根冠、伸長帯(EZ)の表皮、維管束走向が染色され、根端メリステムも弱く染色された。刺激を与えて1-2時間後にROSの非対称分布が生じ、屈曲が生じる先端部伸長帯(DEZ)の凹(下)側の表皮が濃く染まった。そしてこのROSの非対称分布は刺激を与えて4時間後には消失した。水分勾配をつけた条件で芽生えを育成すると、根は重力刺激を与えた際に屈曲した部分よりも根端から離れた領域で屈曲した。そこで、この水分屈性を起こす領域を中央部伸長帯(CEZ)と命名した。水分刺激による屈曲ではCEZでもDEZでもROSの非対称分布は生じなかった。アスコルビン酸等の抗酸化剤処理によって重力屈性は阻害されるが、水分屈性は促進された。細胞質型アスコルビン酸ペルオキシダーゼの変異体apx1-2 の芽生えは野生型よりも水分屈性が低下していた。これらの結果から、細胞質の過酸化水素を除去する能力が低下すると水分屈性が阻害されることが示唆される。ROSの生成に関与するNADPHオキシダーゼの阻害剤であるジフェニレンヨードニウム(DPI)は水分屈性を促進し、重力屈性を抑制した。また、DPI添加時の水分屈性の屈曲は通常よりも根端に近い領域で起こった。シロイヌナズナでは植物NADPHオキシダーゼのRBOHが10種類存在し、発現の組織特異性から3つのクラスに分類されている。原根毛や伸長帯の表皮で発現しているRBOH Cの変異体rbohC の芽生えは、根の過酸化水素量が減少し、水分屈性が促進された。また、植物組織全体で発現し、主に茎や葉での発現が強く、ROSの全身性シグナル伝達に関与しているRBOH Dの変異体rbohD の芽生えは、根の過酸化水素料に変化が見られず、水分屈性と根の成長は野生型と同等であった。水分屈性と重力屈性の関係を双方の刺激を組合せて与えることで調査したところ、2時間水分刺激を与えた後に1時間重力刺激を与えるとEZ屈曲部でのROSの非対称分布を生じたが、3時間水分刺激を与えた後ではROSの非対称分布は弱まり、4時間与えた後ではROSの非対称分布は形成されず重力刺激に応答した屈曲も起こらなくなった。したがって、水分刺激による屈曲が促進されるにつれて重力刺激によるROSの非対称分布の誘導が十分にできなくなり、水ポテンシャルの高い方向への成長が優先されると考えられる。この時のオーキシンの分布をDⅡ-VENUSを発現する芽生えで調査したところ、水分刺激を長く与えることで重力刺激に応答した根端部のオーキシンの非対称分布の形成も妨げられることがわかった。よって、水分刺激はオーキシン非対称分布を妨げることで重力屈性のROSシグナルを低下させていることが示唆される。以上の結果から、活性酸素種は根の重力屈性を促進し水分屈性を負に制御しており、根が水分刺激に応答して成長する際には重力屈性を誘導するオーキシンや活性酸素種のシグナルを抑えて重力刺激に応答した成長を克服していると考えられる。

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論文)デンプン粒合成に関与する酵素

2016-11-05 07:54:04 | 読んだ論文備忘録

Degradation of Glucan Primers in the Absence of Starch Synthase 4 Disrupts Starch Granule Initiation in Arabidopsis
Seung et al. Journal of Biological Chemistry (2016) 291:20718-20728.

doi: 10.1074/jbc.M116.730648

シロイヌナズナの葉緑体は5~7個のデンプン粒を含んでいる。しかしながら、デンプン粒合成がどのようにして開始され、デンプン粒の数を決めている要因が何であるかは明らかとなっていない。デンプン合成酵素4(SS4)が機能喪失したシロイヌナズナ変異体の葉緑体はデンプン粒が1~2個に減少することから、SS4はデンプン粒合成の開始に関与していると考えられている。他のSSの変異体ではデンプン粒数に変化は見られず、ss1 ss2 ss3 三重変異体でもデンプン粒数に変化は見られない。しかし、ss3 ss4 二重変異体は完全にデンプン粒が消失することから、SS3もデンプン粒合成の開始に幾分かは関与しているものと思われる。スイス チューリッヒ工科大学Zeeman らは、デンプン粒合成の開始におけるデンプン分解酵素の関与を調査し、ss4 変異体やss3 ss4 変異体ではα-アミラーゼのAMY3タンパク質が大きく減少していることを見出した。ss4 変異体、ss3 ss4 変異体ともAMY3 遺伝子の転写物量や転写産物量の日変化は野生型と同等であることから、これらの変異体でのAMY3タンパク質の減少は転写後に生じているものと思われる。ss4 変異体は若い葉よりも古い葉でデンプンを多く蓄積しているが、両者のAMY3タンパク質量に差は見られなかった。これらの結果から、SS4の機能喪失はAMY3タンパク質の量を変化させることで、AMY3活性を低下させていることが示唆される。ss4 変異体は成長が野生型よりも遅く、葉色が淡い。ss3 ss4 二重変異体は成長が著しく悪く、葉色はss4 変異体よりも淡い。一方、amy3 変異体の表現型は野生型と同等である。amy3 ss4 二重変異体は、ss4 変異体のように葉色が淡くならず、ロゼット葉はss4 変異体よりも大きく、野生型やamy3 変異体よりもやや小さくなった。amy3 ss3 ss4 三重変異体は野生型よりも成長が悪化したが、ss3 ss4 変異体よりは大きく、葉色も濃かった。よって、AMY3の変異はss4 変異体やss3 ss4 変異体の成長や形態に関する表現型を部分的に抑制しているといえる。植物体のデンプン量をヨード染色によって調査すると、野生型とamy3 変異体で染色パターンに違いは見られなかった。ss4 変異体は若い葉よりも古い葉が濃く染色された。amy3 ss4 二重変異体は野生型と同じように染色されたが、amy3 ss3 ss4 三重変異体は染色が薄く、ss3 ss4 二重変異体は全く染色されなかった。デンプン量の日変化を見たところ、日中の終わりのss4 変異体のデンプン量は野生型の70%程度であったが、夜間の終わりの時点でのデンプン量は野生型よりも多くなっていた。amy3 ss4 二重変異体は、何れの時間帯においても、ss4 変異体や野生型よりもデンプン含量が高くなっていた。したがって、AMY3の機能喪失はss4 変異体のデンプン含量を高めており、AMY3は変異体での澱粉蓄積を抑制していることが示唆される。デンプン合成の基質であるADP-グルコースの蓄積量を見ると、ss3 ss4 二重変異体の蓄積量が最も高く、野生型やamy3 変異体の蓄積量は極僅かであった。amy3 ss4 二重変異体の蓄積量はss4 変異体よりも低くなっていた。amy3 ss3 ss4 三重変異体はss3 ss4 二重変異体よりも成長が改善されるが、両者のADP-グルコース蓄積量は同程度であった。全体的にはADP-グルコース含量と成長量の間には強い負の相関が見られた。葉緑体内のデンプン粒を詳細に観察すると、野生型では扁平なデンプン粒が複数観察され、その数は若い葉と古い葉で違いは見られないが、ss4 変異体では円形のデンプン粒がゼロもしくは1つ、希に2個見られ、デンプン粒の無い葉緑体は若い葉において多く観察された。amy3 ss4 二重変異体では、小さな円形のデンプン粒が多数見られ、ss4 変異体で観察されたような大きな円形のデンプン粒も幾つか観察された。ss3 ss4 二重変異体の葉緑体はデンプン粒を含んでいないが、amy3 ss3 ss4 三重変異体は小さな円形のデンプン粒を多数含んでおり、幾つかの大きなデンプン粒も観察された。amy3 変異体、amy3 ss3 二重変異体のデンプン粒は野生型との大きな違いは見られなかった。以上の結果から、AMY3はデンプン粒合成の開始を妨げ、SS3とSS4はデンプン粒合成の開始を誘導していると考えられる。

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論文)強光による花成促進機構

2016-10-30 10:56:11 | 読んだ論文備忘録

Chloroplast retrograde signal regulates flowering
Feng et al. PNAS (2016) 113:10708-10713.

doi: 10.1073/pnas.1521599113

光は花成を制御する重要な環境要因の1つであり、光強度も重要な因子となっている。シロイヌナズナをはじめ多くの高等植物は強光に応答して栄養成長が進み、生殖成長への移行が早まるが、その機構は明らかとなっていない。中国科学院植物研究所のZhang らは、シロイヌナズナの57の野生系統を異なる光強度で育成した場合の花成時期を調査し、殆どの系統が強光条件で花成時期が早まるのに対して、Landsberg erecta (Ler )、Da(1)-12、ShakdaraといったFLC 遺伝子が機能していない系統では強光による花成促進が起こらないことを見出した。このことから、強光が誘導する花成はFLC 活性が関与していることが推測される。そこで、flc-3 機能喪失変異体の花成を調査したところ、この変異体は強光処理による花成時期の変化を示さなかった。また、flc-3 変異体でFLC 遺伝子を自身のプロモーター制御下で発現させると強光に対する応答性を示した。FLC 発現量の高いFRI-Colは、低温春化処理をしてFLC の転写を抑制した場合のみ強光応答性を示し、Col-0を強光処理をすることでFLC の転写産物量が減少した。これらのことから、強光はFLC の転写抑制を介して花成を促進していることが示唆される。葉緑体包膜に結合しているPHD型転写因子のPTM(PHD type transcription factor with transmembrane domains)は、強光シグナルを伝達して光合成やストレス応答遺伝子の発現を制御している。ptm 変異体は強光処理による花成促進が殆ど見られず、FLC 発現量の変化も僅かであった。ptm flc-3 二重変異体の花成時期はflc-3 変異体と同程度であり、強光に応答した花成時期変化は起こらなかった。これらの結果から、PTM から発せられるプラスチドのシグナルがFLC の発現を抑制して強光による花成促進をもたらしていると考えられる。主要な光合成産物の1つである糖は、強光条件で蓄積して花成制御に関与しているが、強光処理によるショ糖の蓄積やショ糖添加に対する花成応答において野生型とflc-3 変異体の間で差が見られないことから、FLC を介した強光による花成制御には糖生産の増加は関与していないと考えられる。PTMタンパク質は強光を受けるとタンパク質分子が切断され、58-kDa N末端領域(N-PTM)が核に蓄積する。N-PTMは、FLC 遺伝子プロモーター領域の転写開始点に近い39 bpの領域に結合することが各種アッセイから確認され、この結合はFLC クレイドの他の遺伝子のプロモーターでは見られないFLC 遺伝子に特異的なものであった。デュアルルシフェラーゼアッセイの結果から、N-PTMはFLC 遺伝子の特定領域に結合することで遺伝子発現を抑制することが判った。PHD-タイプの転写因子はヒストン修飾によって遺伝子発現を制御しているとされている。FLC 染色体では活性ヒストン示すH3acやH3K4me3が強光処理によって減少した。一方、抑制ヒストンを示すH3K27me3は殆ど変化しなかった。さらに、強光処理によるH3acやH3K4me3量の減少はptm 変異体では殆ど減少しなかった。強光処理によるH3ac、H3K4me3、H3K27me3の全体的な変化は、野生型もptm 変異体も明確には見られないことから、PTMは強光応答に際して一部の遺伝子のみをターゲットとしていると考えられる。これらの結果から、強光はPTMの作用によってFLC 染色体のH3acやH3K4me3の量を制御することでFCL 遺伝子をサイレンシングしていることが示唆される。PHD型転写因子はクロマチン再構成タンパク質と結合してヒストン修飾を行なうとされている。各種アッセイから、PTMは、FLC の抑制を介して花成を促進することが知られているFVEと相互作用をすることが判った。fve-3 変異体は、ptm 変異体と同様に、強光処理による花成促進が見られなかった。ptm fve-3 二重変異体はptm 単独変異体よりも花成が遅延するが、花成時期はfve-3 単独変異体と同程度であり、相加的な効果は見られなかった。PTM を恒常的に発現させると花成が促進されるが、fve-3 変異体でPTM を発現させても花成促進は起こらなかった。これらの結果から、PTMFVE に依存して花成を制御しているものと思われる。共免疫沈降アッセイの結果、FVEはN-PTMと相互作用をし、複合体の量は光照射量が増えるにつれて増加することが判った。光照射量の増加に伴ってFVEのFLC 遺伝子プロモーター領域への結合量は増加したが、この増加はptm 変異体では見られなかった。したがって、強光下でのFLC 染色体へのFVEの蓄積にはPTMが関与していると考えられる。以上の結果から、強光による花成促進は、葉緑体から逆行シグナルとして放出されたN-PTMとFVEとの複合体がFLC 染色体を修飾してFLC の発現を抑制することでなされると考えられる。

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