Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)トレハロース‐6-リン酸による側根形成の制御

2023-12-26 10:57:23 | 読んだ論文備忘録

Trehalose-6-phosphate signaling regulates lateral root formation in Arabidopsis thaliana
Morales-Herrera et al.  PNAS (2023) 120:e2302996120.

doi:10.1073/pnas.2302996120

真核生物のエネルギセンサーであるSnf1関連タンパク質キナーゼ1(SnRK1)は、エネルギー消費過程を阻害することで細胞内のエネルギー量を維持している。一方で、ラパマイシン標的(TOR)タンパク質キナーゼは窒素や炭素の代謝産物によって活性化され、細胞分裂等のエネルギー消費過程を促進する。したがって、SnRK1とTORは植物の成長・発達において拮抗的な役割を担っている。植物の糖シグナルとして機能しているトレハロース6-リン酸(T6P)は、植物の様々な発生・代謝過程において成長調節因子として機能することが示されており、T6PはSnRK1活性を阻害する。側根形成は多くのエネルギーを必要とする過程であるが、最近、SnRK1やTORが側根形成に関与していることが報告されている。ベルギー ゲント大学Beeckmanらは、側根形成においてSnRK1、T6P、TORがどのように炭素やエネルギーのシグナルと植物ホルモン(オーキシン)シグナルを統合しているのかを解析した。T6Pのシグナル活性において、T6P分解酵素のトレハロース6-リン酸フォスファターゼ(TPP)活性が1つの指標となることから、シロイヌナズナの側根形成過程でのTPP の発現パターンをプロモーター‐GUSレポーター系統を用いて解析した。その結果、TPPATPPBTPPHTPPI は側根原基(LRP)の細胞で発現し、TPPDTPPGTPPJ は側根周辺組織で発現していることが判った。TPPB は側根形成初期から発現しており、重要な役割を担っている可能性が示唆された。そこで、T-DNA挿入tppb 変異体の表現型を観察したところ、野生型植物よりも側根密度が高く、特にLRP密度が高いことが判った。また、TPPB を過剰発現させた系統(TPPBOE)は側根密度が低下した。これらの結果から、T6Pは側根形成の初期過程に関与しており、この過程はTPPBによって負に制御されていることが示唆される。T6Pもしくは強光誘導性T6P前駆体のDMNB-T6Pの添加や大腸菌T6PシンターゼのLRP特異的発現(pGATA23:otsA)により、植物体内のT6P含量を高めることで側根形成が促進されることが確認された。また、主根において将来的に側根が発達するprebranch sites(PBS)をDR5:LUC を発現させて可視化したところ、T6PはPBS形成を促進することが判った。これらの結果から、T6Pは側根形成の促進において重要であることが示唆される。In silico 解析から、SnRK1の触媒サブユニットをコードするKIN10KIN11 の発現がLRP細胞で低下していることが判明し、kin10 変異体、kin11 変異体では側根密度が増加し、KIN10 過剰発現系統では減少することが確認された。また、LRP特異的にKIN10 をノックアウトした系統(TSKO-KIN10)は側根形成が促進された。これらの結果から、側根形成初期段階における(T6Pによって引き起こされるような)SnRK1活性の低下が、側根形成に必要な炭素エネルギーバランスのシグナル伝達をもたらしていることが示唆される。T6PまたはDMNB-T6Pで処理した根において、SnRK1の標的遺伝子であるUDPGDHTPS5bZIP11(SnRK1により抑制)、ASN1TPS8(SnRK1により誘導)は、T6PがSnRK1活性を阻害するのと一致する形で、発現が増加/減少していた。興味深いことに、T6Pによる側根形成誘導はSnRK1活性の僅かな低下しか必要としないようで、kin 変異体にDMNB-T6P処理をしても側根密度に変化は無かった。また、KIN の過剰発現によるSnRK1の活性化はT6Pによる側根形成誘導をもたらさなかった。糖により発現が誘導され、成長促進に関与しているTORの複合体サブユニットをコードするRAPTOR1ARAPTOR1B は、LRP細胞で強い発現を示し、LRP特異的にTOR をノックアウトした系統(TSKO-TOR)は側根密度が低下した。したがって、側根形成の促進にはTOR活性が必要である。T6P添加は、わずかにTORのリン酸化、TOR の転写を促進した。また、raptor1b 変異体やTOR 過剰発現系統では、T6P量を高めても側根形成の促進は見られなかった。側根形成の重要な制御因子であるオーキシンは、TPPB の発現を強く抑制した。TPPB 遺伝子のプロモーター領域にはオーキシン応答エレメント(TGTCTC)があり、オーキシンシグナル伝達に関与しているINDOLE-3- ACETIC ACID 14 (IAA14)/SOLITARY ROOT 1 (SLR1)、AUXIN-RESPONSIVE FACTOR (ARF)7/19が機能喪失したslr1 変異体、arf17 arf19 変異体ではオーキシン処理によるTPPB 発現量の低下が見られなくなっていた。これらのことから、オーキシンシグナルが直接TPPB の発現を抑制してT6P量を制御していると考えられる。以上の結果から、T6PはSnRK1の阻害とTORの活性化によりエネルギーバランスを調節することで側根形成を促進しており、側根形成の重要な制御因子であるオーキシンは、T6P分解酵素の発現を抑制することでT6Pシグナルに影響していると考えられる。

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HP更新)バイケイソウ考 その16 2023年度箱根バイケイソウ花成個体数調査

2023-12-25 09:23:47 | ホームページ更新情報

私のHPに、2023年の箱根でのバイケイソウ花成個体数調査の考察を、「バイケイソウプロジェクト」「バイケイソウ考 その16 2023年度箱根バイケイソウ花成個体数調査」として掲載いたしました。2023年の箱根のバイケイソウ定点観察個体群は一斉開花を示し、①箱根の一斉開花は北海道での一斉開花(2022年)から1年遅れているが、それ以前の花成個体数の変動では北海道と箱根で同調性が見られること、② 花成個体数が少なかった2017年、2019年に花成した個体の子ラメットで今年花成しているものが見られたこと、を記述しています。

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論文)ストリゴラクトンによる根粒発達の制御

2023-12-20 11:05:01 | 読んだ論文備忘録

Strigolactones repress nodule development and senescence in pea
Van Dingenen et al.  Plant Journal (2023) 116:7-22.

doi:10.1111/tpj.16421

根粒形成は、植物ホルモンや環境要因によって厳密に制御されている。植物ホルモンのうち、サイトカイニン、オーキシンは根粒形成に対して促進的に作用し、エチレン、アブシジン酸、ジャスモン酸は抑制的に作用することが知られている。しかし、ストリゴラクトンがどのように根粒形成に影響を及ぼすのかは完全には解明されておらず、根粒形成を促進するのか抑制するのかはいまだに謎のままである。ベルギー ゲント大学Goormachtigは、エンドウ矮性品種「Terese」のストリゴラクトン生合成欠損変異体rms1rms5 と、ストリゴラクトンシグナル欠損変異体rms3rms4 を用いて、ストリゴラクトンが根粒形成にどのような影響をおよぼすか解析を行なった。根にエンドウ根粒菌Rhizobium leguminosarum bv. viciae CIAM1026 を感染させ、4週間後(4wpi)に根粒を観察した。その結果、野生型植物とrms 変異体の間で根粒数に差は見られなかった。しかし、rms 変異体では、窒素固定活性を有する赤色の根粒が多く、根粒自体が大きくてよく発達していた。したがって、ストリゴラクトンの生合成とシグナル伝達は、窒素固定能を有する根粒の数と大きさを制御していると考えられる。4wpiの根粒を縦方向に切断して形態を観察したところ、rms 変異体の根粒は、先端部のmeristematic(M)+ infection(I) ゾーンの割合が減少し、基部側のfixation(F、赤色の領域) + senescence(S、灰色/褐色の領域) ゾーンが増加していた。そして、rms 変異体では、根粒の老化に関与しているマーカー遺伝子(CYP15TPPATB2GA2oxAO3ACO1)の発現が増加していたが、窒素固定に関与するレグヘモグロビン遺伝子(PsLb5-10PsLb120-1PsLb120-8PsLb120-29PsLb120-34)の発現は減少していた。窒素固定活性をアセチレン還元で測定したところ、rms1rms3rms4 変異体でわずかに増加していた。これらのことから、rms 変異体では、根粒の発達が促進され、早期に老化していることが示唆される。根粒の細胞分化や分裂組織の活性を調査する目的で、rms 変異体根粒の倍数性レベルを見たところ、野生型植物の根粒と比較して核内倍加の程度が低く、2Cレベルが高くなっていた。よって、rms 変異は根粒の細胞周期活性に対して正に作用していると考えられる。また、rms 変異体の根粒では、サイトカイニンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子(IPT3IPT4LOG1LOG2RR4RR8)、オーキシン輸送に関与するPIN 遺伝子(PsPIN2PsPIN4)、細胞分裂や分裂組織の分化に関与する遺伝子(WOX5ENOD40ENOD12AENOD12BCLE13aCLE13b)の転写産物量が野生型植物の根粒よりも高くなっていた。したがって、rms 変異体の根粒はM+I ゾーンが相対的に小さいが、分裂組織の活性は高いと考えられる。rms 変異体の根粒で発現誘導されている遺伝子は、根粒形成を制御している転写因子NODULE INCEPTION (NIN) によって制御されている。そこで、根粒のPsNIN 転写産物量を見たところ、全てのrms 変異体で野生型植物よりも高くなっていた。ストリゴラクトンは、糖類を含む栄養のシグナルと成長・発達を調整するホルモンとして知られている。また、窒素固定は植物体からの炭素源供給に依存しており、炭素源供給の減少は根粒の老化を引き起こす。解析の結果、根粒形成初期の時点の根ではrms 変異体と野生型植物との間で糖類含量の差は見られなかったが、rms 変異体ではリンゴ酸含量がわずかに高くなっていた。そして、根粒が形成された根では、rms 変異体の糖類含量が有意に減少していることが判った。これはおそらく、rms 変異体の根粒は肥大しているために炭素源使用量が増加しており、このことが根粒の老化促進を引起しているものと思われる。以上の結果から、ストリゴラクトンは、根粒の細胞分裂の抑制と、根粒の発達と糖類とのバランスをとることによる根粒の老化抑制の2つの異なる機構でエンドウの根粒発達を制御していると考えられる。

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論文)SPL転写因子によるトマト分枝形成の制御

2023-12-14 11:42:38 | 読んだ論文備忘録

The transcription factor SPL13 mediates strigolactone suppression of shoot branching by inhibiting cytokinin synthesis in Solanum lycopersicum
Chen et al.  Journal of Experimental Botany (2023) 74:5722–5735.

doi:10.1093/jxb/erad303

ストリゴラクトン(SL)は、シュートの分枝形成を阻害する植物ホルモンで、わき芽成長を阻害する転写因子BRANCHED 1BRC1)の発現を促進することが知られている。また、サイトカイニン(CK)はBRC1 の発現を抑制し、SLとCKはわき芽成長において拮抗的に作用をしている。しかしながら、両者の相互作用については不明な点が残されている。中国 浙江大学Xiaは、SL生合成遺伝子CAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE 7CCD7)もしくはCCD8 をCRISPR/Cas9でノックアウトしたトマトを作出し、両変異体ではわき芽の成長が促進されること、BRC1 の発現が抑制されていることを確認した。この変異体の節のCK含量を調査したところ、isopentenyladenosine(iP)、iPリボシド(iPR)、trans-zeatin(tZ)、tZリボシド(tZR)がいずれも増加しており、CK生合成酵素ISOPENTENYL TRANSFERASE(IPT)をコードするIPT1IPT2IPT4 の茎での発現量が増加していることが判った。これらの結果から、SLによるトマトのわき芽成長制御にCK生合成が関与していることが示唆される。シロイヌナズナやイネにおいてSQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE(SPL)ファミリー転写因子が分枝(分けつ)形成を阻害ことが報告されているので、ccd7 変異体でのSPLファミリー遺伝子の発現を見たところ、転写産物量が減少しており、特にSPL13 の発現量が大きく減少していた。SPL13 は、わき芽で強く発現しており、rac-GR24(合成SLアナログ)処理によって発現量が増加した。CRISPR/Cas9で作出したspl13 変異体トマトは、ccd 変異体と同じように、わき芽の伸長が促進し、BRC1 転写産物量が減少していた。また、SPL13 の転写はSPL13自身によって活性化されることが判った。rac-GR24処理をすると、野生型植物やccd7 変異体ではわき芽の成長が抑制されたが、spl13 変異体では抑制されなかった。これらの結果から、SPL13はSLの下流で作用し、トマトのわき芽成長を抑制していることが示唆される。spl13 変異体の節は、野生型植物よりもCK含量やIPT1IPT2 転写産物量が増加していた。野生型植物ではrac-GR24処理によってIPT1 の発現が阻害され、CK含量が減少するが、spl13 変異体ではそのような変化は見られなかった。また、spl13 変異体では、生物活性のあるCKの生合成に関与しているLONELY GUY 3LOG3)、LOG4LOG6CYP35A1 の発現量が高く、CKの不活性化に関与しているCYTOKININ OXIDASE 2CKX2)、CKX6 の発現量が減少していた。野生型植物やspl13 変異体は、ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)によってIPT1 遺伝子をサイレンシングさせることでわき芽の成長が強く阻害され、BRC1 転写産物量が増加した。BRC1 転写産物量はrac-GR24処理によって増加するが、IPT1 をサイレンシングさせた植物では増加しなかった。よって、IPT1 はSLによるBRC1 の発現制御に関与している。一方で、spl13 変異体ではrac-GR24処理によるBRC1の発現促進が見られなかった。IPT1 遺伝子プロモーター領域にはSPLが結合するGTACモチーフが5つ存在し、解析の結果、SPL13はIPT1 遺伝子プロモーター領域に結合して発現を抑制することが判った。これらの結果から、SPL13はCK生合成遺伝子の発現を抑制することでトマトのわき芽成長を阻害していることが示唆される。spl13 変異体の根では、野生型植物と比較して、SL生合成遺伝子のCCD7MORE AXILLARY GROWTH 1MAX1)、DWARF 27D27)の転写産物量が増加していた。野生型植物をrac-GR24処理するとCCD7MAX1 の転写産物量が減少するが、spl13 変異体ではそのような変化は見られなかった。解析の結果、SPL13はCCD7MAX1 遺伝子のプロモーター領域と相互作用をして発現を抑制することが判った。よって、SPL13はCCD7MAX1 の発現抑制因子であり、SL生合成のフィードバック制御に関与していることが示唆される。以上の結果から、SPL13は、ストリゴラクトンシグナルの下流において、サイトカイニン生合成を阻害することでトマトのわき芽の成長を抑制しており、同時にストリゴラクトン生合成のフィードバック制御にも関与していると考えられる。

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論文)側根の傾斜重力屈性の分子機構

2023-12-10 10:43:25 | 読んだ論文備忘録

Antigravitropic PIN polarization maintains non-vertical growth in lateral roots
Roychoudhry et al.  Nature Plants (2023) 9:1500-1513.

doi:10.1038/s41477-023-01478-x

根は重力に応答して成長方向を変化させる重力屈性を示す。この過程は、コルメラ平衡細胞内でのアミロプラストの沈殿による重力方向の検知(デンプン‐平衡石モデル)とオーキシンの不均等分布による上下の細胞での細胞伸長の差(Cholodny-Wentモデル)によってもたらされる。シロイヌナズナの根が屈曲する際のオーキシン不均等分布は、コルメラ細胞で発現しているPINファミリーオーキシン排出キャリアタンパク質、特にPIN3とPIN7の重力に応答した細胞内局在変化によるオーキシン流量の調節によって引き起こされている。一方、側根は通常、重力に対して垂直ではない一定の角度を保って成長する傾斜重力屈性を示す。このような重力方向に対する一定の角度(gravitropic setpoint angle;GSA)は、根が重力に対応して、あるいは重力に逆らって成長反応を起こしていること示している。英国 リーズ大学Kepinskiらは、側根が傾斜重力屈性を示す分子機構の解析を行なった。シロイヌナズナ芽生えをオーキシン輸送阻害剤のNPAで処理し、側根のGSAに対して30度上方もしくは下方に傾斜させたところ、側根は重力方向の変化に対応できず、24時間後も元のGSAに戻らなかった。したがって、側根のGSA決定においてオーキシン輸送が重要であることが示唆される。側根でのオーキシン分布をオーキシンレポーター(DII-Venus、R2D2)を用いて可視化したところ、GSAで成長する側根の上側と下側の間でオーキシンレベルに有意な差がないことが判った。また、TIR1/AFBオーキシ受容体も側根全体で均等に分布していた。GSAより上方に向きを変えた側根(下方に屈曲)では、向きを変えてから90分後に側根の下側にオーキシンがより多く蓄積した。逆に、GSAより下方に向きを変えた(上方に屈曲)場合、側根の上側にオーキシンが蓄積した。これらの結果から、側根のGSAの維持はオーキシン輸送に依存しており、Cholodny-Wentモデルと完全に一致してることが判った。GSAで成長する側根にオーキシンの不均等分布がないことと同様に、側根の上側と下側で非根毛形成細胞の長さに有意な差は見られなかった。下向きに曲がった側根では、下側の細胞は上側の細胞よりも有意に短かく、オーキシンの非対称な蓄積と、その結果生じる根の下半分におけるオーキシンを介した成長抑制と一致する。一方で、上向きに曲がった側根では、下側の細胞が上側の細胞よりも有意に長く、通常のGSAで成長する側根の細胞よりも長かった。したがって、側根を上向きまたは下向きに屈曲成長させても上側の細胞は長さの変化を起こさない。これらの結果から、側根の屈曲成長は主として根の下側の細胞伸長によって制御されており、側根のGSAは下側の細胞の重力応答によって維持されいることが示唆される。側根の屈曲速度は上側も下側もほぼ同じで、角度に依存して屈曲速度が変化し、これはオーキシン不均等分布の程度が反映されていた。通常のGSAにある側根のPINタンパク質の分布をみると、PIN3は、コルメラ細胞の上部と下部の両方の細胞膜に局在していたが、下部細胞膜側がやや多くなっていた。PIN7は明らかに異なるパターンを示し、細胞膜上部側に多く局在していた。GSAの上下に30°ずつ向きを変えたところ、pin3 pin7 二重変異体の側根は、野生型植物の側根に比べてGSAに戻るのが著しく遅れた。また、pin3 pin4 pin7 三重変異体では重力応答がほとんど見られなかった。pin3 変異体の側根は、下方よりも上方への屈曲速度が速く、逆に、pin7 変異体の側根は、程度は低いが、下方への屈曲のほうが早かった。側根が屈曲する際のオーキシン分布の変化とPINタンパク質の局在変化を見たところ、GSAより上方に向きを変える(下方に屈曲)ことにより、PIN3とPIN7は、主根の場合と同様に、主に基底部に局在するように移動した。GSAより下方に向きを変えた場合(上方に屈曲)は、PIN3とPIN7の両方が細胞膜の上側へと移動した。このようなPINタンパク質の局在変化は、角度依存的に起こり、特にGSAの上方に向きを変えて下方に屈曲する側根において顕著であった。PINタンパク質の細胞内分布は、エンドサイトーシスと極性または無極性の細胞膜への再分配を繰り返すことによって制御されている。解析の結果、コルメラ細胞の下側の細胞膜は上側よりもPINタンパク質のエンドサイトーシスが速く、PINタンパク質は上側の細胞膜に長く保持される傾向にあることが判った。PINタンパク質の細胞内分布は、PID/WAGキナーゼ、D6PK、PP2AA/RCN1フォスファターゼ等によるPINタンパク質のリン酸/脱リン酸化によって変化する(リン酸化されると上側、脱リン酸化されると下側)ことが知られている。PID/WAGがターゲットとしているSer残基(S316、S317、S321)をAlaに置換したPIN3 を発現する系統(PIN3S>A:YFP)は側根のGSAが対照よりも垂直になり、Aspに置換したPIN3 を発現する系統(PIN3S>D:YFP)では側根のGSAがより水平になった。そして、rcn1 変異体では側根のGSAが著しく水平となり、ARL2 プロモーター制御下でRCN1 をコルメラ細胞特異的に発現させた形質転換体(ARL2::RCN1)は、側根のGSAが著しく垂直になった。wag1 wag2 二重変異体では側根のGSAがより垂直となった。また、対照(PIN3:YFP)と比較して、PIN3S>D:YFPの分布はコルメラ細胞上部の細胞膜側に有意に偏り、PIN3S>A:YFPの分布は有意ではないが下部細胞膜側にわずかに偏っていた。rcn1 変異体のコルメラ細胞ではPIN3は上部の細胞膜に局在していたが、pid+ wag1 wag2 変異体のPIN3の局在は野生型植物と同等であった。rcn1 変異体の側根はオーキシン処理に反応しなかったが、wag1 wag2 二重変異体の側根は、野生型植物の側根と同様に、より垂直なGSA方向へシフトした。このことは、オーキシンがRCN1依存的な経路で側根のGSAを制御している可能性を示している。解析の結果、オーキシンはRCN1 の発現に影響してはいないが、RCN1の安定性もしくは翻訳に対して促進的に作用していることが判った。ARL2::RCN1 系統やオーキシン(IAA、5F-IAA)処理をした植物の側根では、PIN3は対照と比較して有意にコルメラ細胞下部の細胞膜に局在していたが、PIN7の局在に変化は見られなかった。以上の結果から、側根のGSAは、コルメラ細胞からのPIN3、PIN7を介したオーキシン輸送の上向きと下向きのバランスによって維持されており、GSAの上方または下方に向きが変化した場合の屈曲応答は、RCN1によるPIN3の細胞内局の在変化によって引き起こされる角度依存的に変化する下側のオーキシンの流れと、角度に依存せず一定している上側のオーキシンの流れが相互作用することによって駆動されると考えられる。

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論文)F-boxタンパク質SKIP31による種子の成熟や活力の制御

2023-12-02 14:48:12 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis F-box protein SKP1-INTERACTING PARTNER 31 modulates seed maturation and seed vigor by targeting JASMONATE ZIM DOMAIN proteins independently of jasmonic acid-isoleucine
Varshney et al.  Plant Cell (2023) 35:3712–3738.

doi:10.1093/plcell/koad199

インド 国立植物ゲノム研究所(NIPGR)Majeeらは、以前に、シロイヌナズナF-boxタンパク質SKP1-INTERACTING PARTNER 31(SKIP31)がSKP1-LIKEタンパク質のARABIDOPSIS SKP1-LIKE PROTEIN 13(ASK13)と相互作用をすることを見出した。ASK13は、種子の発芽や芽生えの成長に対して、特に非生物ストレス条件下で正に作用することが報告されている。このことから、SKIP31は種子の成熟や発芽に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。SKIP31 は主に種子で発現しており、成熟種子の全ての組織で発現が見られた。種子の発達過程での発現を見ると、S1からS4の発達初期ステージ(開花0~12日)では転写産物量は少ないが、S5(開花13~15日)からS7(開花19~21日)にかけて急速に増加した。そして、種子が発芽すると転写産物は徐々に減少していった。SKIP31の生物学的機能を解析するために、T-DNA挿入skip31 変異体、SKIP31 RNAi系統(SKIP31-RNAi)および種子特異的過剰発現系統(SKIP31-OE)の表現型を観察した。その結果、skip31 変異体やSKIP31-RNAiの種子は野生型植物種子よりも発芽率が低下しており、テトラゾリウム染色から、種子の活力が低下していることが判った。skip31 変異体とSKIP31-RNAiは、S5ステージまでの種子発達過程は野生型植物と同等であったが、成熟後期に種子の褐変や収縮が起こり、成熟種子の形状や表皮の異常、発芽能力の低下が観察された。また、skip31 変異体やSKIP31-RNAiの種子は、貯蔵期間中に発芽率が徐々に低下していった。種子に加齢処理(45 ℃、70 % RH、4日間)をしたところ、野生型植物とSKIP31-RNAiの種子は殆ど発芽しなくなった(0~2 %)が、SKIP31-OE種子は15~20 %の発芽率を示した。また、skip31 変異体やSKIP31-RNAiの種子にジベレリン処理をしても発芽率は回復しなかった。SKIP31の基質となるタンパク質を同定するために、シロイヌナズナY2H cDNAライブラリーのスクリーニングを行なったところ、JAZファミリータンパク質のJAZ6とJAZ11が見出された。JAZタンパク質はジャスモン酸(JA-Ile)存在下でF-boxタンパク質のCOI1と相互作用をする。しかし、SKIP31は、JA-Ile非依存的にJAZ6、JAZ11と物理的相互作用をし、この相互作用には、JAZタンパク質のJasドメインとSKIP31のC末端側領域が関与していた。さらに、SKIP31はJAZ6、JAZ11をユビキチン化し、プロテアソーム系での分解へと導くことが確認された。SKIP31によるJA-Ile非依存的なJAZタンパク質の分解が種子成熟や発芽能力に影響しているのかを調査するために、Jasドメインを欠いたJAZ6およびJAZ11を過剰発現させた形質転換体(JAZ6Δjas-OE、JAZ11Δjas-OE)を作出して表現型を観察した。その結果、JAZΔjas-OEは、SKIP31-RNAiと同様に、種子成熟の後期段階の異常、発芽能力の低下、種子形態異常を示すことが判った。一方で、jaz6 変異体やjaz11 変異体では発芽能力や種子形態に異常は見られなかった。興味深いことに、JAZタンパク質をJA-Ile依存的にターゲットとしているCOI1の変異体(coi1-16coi1-1)では、発芽能力や種子形態に異常は見られなかった。これらの結果から、SKIP31はJA-Ile非依存的にJAZ6とJAZ11を標的とし、シロイヌナズナの種子成熟、乾燥耐性、発芽能力を正に制御しており、COI1を介する経路は、種子成熟や発芽能力には直接関与していないものと思われる。JAZタンパク質は、bZIP 型転写因子ABSCISIC ACID-INSENSITIVE 5(ABI5)と相互作用をして転写活性を抑制することで種子の成熟や発芽を制御していることが知られている。そこで、SKIP31-JAZ-ABI5モジュールが種子の成熟や乾燥耐性に関与している遺伝子の発現を制御しているかを調査した。その結果、SKIP31-RNAiやJAZΔjas-OEでは、種子成熟後期に乾燥マーカー遺伝子(RD29ARD29BDREB2ARAB18)、LEA遺伝子(EM1EM6)、ABI遺伝子(ABI3ABI4ABI5)の発現量が低下し、SKIP31-OEでは僅かに増加していることが判った。また、SKIP31-RNAi種子は、野生型植物やSKIP31-OEの種子よりもアブシジン酸(ABA)蓄積量が少なく、ABA生合成遺伝子(NCED3NCED6)の発現量も低下していた。SKIP31-RNAi、JAZΔjas-OEの種子は、ショ糖といった可溶性糖類、種子貯蔵タンパク質を含む可溶性タンパク質、myo-イノシトールやガラクチノールといった乾燥耐性にとって重要な物質の量が野生型植物種子よりも少なく、これらの生合成に関与する遺伝子(SUS3CRU32S2GolS1)の発現量も低くなっていた。したがって、SKIP31-JAZモジュールは、種子の成熟と活力に必要な遺伝子の発現と物質の蓄積を直接的または間接的に促進していると考えられる。SKIP31 遺伝子のプロモーター領域には、ABI5がターゲットとしているABA応答配列(ABRE)が2つ存在し、ABI5はSKIP31 の発現を正に制御していることが判った。ABI5の転写活性はJAZタンパク質によって抑制されることから、ABI5を介したSKIP31 の発現とJAZタンパク質の分解が正のフィードバック制御をしている可能性がある。abi5 変異体種子では、野生型植物種子と比較して、LEA遺伝子、DREB2ASKIP312S2 の発現量が減少していた。一方で、ABI3ABI4CRU3 の発現には変化は見られなかった。また、SKIP31-RNAiでABI5 を過剰発現させることで発芽率の低下が幾分回復した。よって、種子の成熟や活力において、SKIP31-JAZモジュールにABI5が部分的に関与しており、このモジュールには他の転写因子または制御タンパク質が関与している可能性もある。以上の結果から、シロイヌナズナF-boxタンパク質のSKIP31は、JA-Ile非依存的にJAZタンパク質のプロテアソーム系による分解に導くことでbZIP型転写因子ABI5の転写活性の抑制を解除し、下流のシグナル伝達を活性化することで種子の成熟、乾燥耐性、種子活力の確立にとって重要な役割を果たしていると考えられる。

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