Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)エチレンによる根毛成長促進

2021-05-20 11:58:28 | 読んだ論文備忘録

MYB30 and ETHYLENE INSENSITIVE3 antagonistically modulate root hair growth in Arabidopsis
Xiao et al.  Plant Journal (2021) 106:480-492.

doi: 10.1111/tpj.15180

シロイヌナズナR2R3タイプMYB転写因子のMYB30は様々な生理・成長過程に関与していることが報告されている。中国 四川大学のZhou らは、myb30 変異体は根毛の成長が促進され、野生型植物よりも根毛が長いことを見出した。また、MYB30 過剰発現系統(MYB30-OX)は根毛成長が抑制されていた。これらの結果から、MYB30は根毛成長の負の制御因子であると考えられる。MYB30と相互作用をする因子を探索したところ、エチレンシグナル伝達に関与している転写因子ETHYLENE INSENSITIVE3(EIN3)が見出された。そして、MYB30-EIN3相互作用はエチレン前駆体のACC処理によって高まることが判った。野生型植物、myb30 変異体、MYB30-OXの芽生えをACC処理したところ、いずれの植物においても処理濃度に応じて根毛伸長が促進された。また、エチレン作用阻害剤の硝酸銀処理をしたところ、いずれの植物も同程度に根毛伸長が強く抑制された。これらの結果から、MYB30は少なくとも部分的にはエチレンシグナルを介して根毛成長を調節していることが示唆される。MYB30とEIN3の変異体の解析から、myb30 ein3 二重変異体の根毛はmyb30 変異体の根毛よりも短く、ein3 変異体の根毛よりも長いことが判った。同様に、myb30 ein3 eil1 三重変異体の根毛はein3 eil1 変異体の根毛よりも長いが、myb30 変異体の根毛よりも短くなっていた。よって、MYB30とEIN3/EIL1はシロイヌナズナの根毛成長を拮抗的に制御している。RSL クラスⅡ遺伝子のRSL2RSL5 は根毛の発達に関与しており、このうちRSL4EIN3/EIL1 の下流に位置していることが知られている。解析の結果、RSL4 遺伝子プロモーター領域にはMYB30結合サイトがあり、MYB30はRSL4 プロモーター領域と直接相互作用をしてRSL4 の発現を抑制していることが判った。myb30 ein3 eil1 三重変異体のRSL4 転写産物量はein3 eil1 二重変異体よりも多く、myb30 変異体よりも少なくなっていた。よって、MYB30とEIN3は拮抗的にRSL4 の発現を調節していると考えられる。また、ACC処理はMYB30によるRSL4 発現の抑制をEIN3/EIL1に依存して負に制御した。EIN3/EIL1は直接MYB30と相互作用をすることでMYB30によるRSL4 の転写抑制を低減しているものと思われる。MYB30とEIN3/EIL1による拮抗的な制御は、根毛成長に関与する各種遺伝子においても観察された。以上の結果から、MYB30とEIN3/EIL1は根毛成長に関与する遺伝子群の発現を拮抗的に制御しており、エチレンはEIN3とMYB30の複合体形成を促進することで根毛成長を促進していると考えられる。

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論文)エチレンと熱ストレス応答

2021-05-17 21:45:27 | 読んだ論文備忘録

Two interacting ethylene response factors regulate heat stress response
Huang et al.  Plant Cell (2021) 33:338-357.

doi:10.1093/plcell/koaa026

エチレンは熱ストレス応答に関与していることが知られているが、その分子機構は明らかとなっていない。米国 ソーク研究所Chory らは、シロイヌナズナのエチレンシグナル伝達に関与する因子の機能喪失変異体や過剰発現個体の芽生えに熱処理をしてその後の生存率を調査し、エチレンシグナル伝達経路は熱耐性に対して正に作用することを確認した。そこで、エチレンシグナル伝達の正の制御因子EIN3の直接のターゲットであるERF95 に着目して解析を行なった。ERF95 を恒常的に過剰発現させたp35S:ERF95 植物は熱耐性が向上し、T-DNA挿入erf95 変異体の熱耐性は野生型と同等であった。ERF95はERF97とヘテロ二量体を形成し、この相互作用は熱処理によって増加することが判った。ERF97 を過剰発現させたp35S:ERF97 植物も熱耐性が高まり、erf97 変異体、erf95 erf97 二重変異体の熱耐性は野生型と同等であった。ERF95、ERF97は、2つの近いホモログであるERF96とERF98とともに、AP2/ERFファミリーのsmall IXcサブグループに属しており、これら4つのERF 遺伝子が機能喪失したerfq 変異体は熱処理に対する感受性が高くなった。よって、ERF95、ERF96、ERF97、ERF98は、熱ストレス応答に関して機能重複していることが示唆される。ERR97 遺伝子のプロモーター領域にはEIN3が結合するシスエレメントATGTAが存在し、EIN3が直接結合することが確認された。また、ERF97 転写産物量はエチレン処理によって増加し、この発現誘導はエチレンシグナル伝達を介していることが判った。よって、ERF97もEIN3の下流で機能していると考えられる。p35S:ERF95 植物やp35S:ERF97 植物のRNA-seq解析から、ERF95もしくはERF97によって制御されている遺伝子は、その大部分が熱によって同じように制御されていた。また、いくつかの熱ストレス応答遺伝子やPLANT DEFENSINPDF )遺伝子の熱処理による発現誘導は、p35S:ERF95 植物やp35S:ERF97 植物では野生型植物よりも高く、erfq 変異体では低くなっていた。ChIP-seq解析の結果、ERF95とERF97が共通して熱処理に応答したターゲットとしていて発現量が変化する遺伝子が320個見出され、この中には熱ストレス応答遺伝子のHSFA2 が含まれていた。そして、hsfa2 変異体芽生えは熱ストレスに対する感受性が高くなっていた。以上の結果から、EIN3-ERF95/ERF97-HSFA2転写カスケードは、熱ストレス応答においてエチレンと熱耐性を繋ぐ重要な役割を演じていると考えられる。

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論文)植物から昆虫へ水平伝播した解毒酵素遺伝子

2021-05-07 22:22:26 | 読んだ論文備忘録

Whitefly hijacks a plant detoxification gene that neutralizes plant toxins
Xia et al.  Cell (2021) 184:1693-1705.

doi:10.1016/j.cell.2021.02.014

植物は有毒な二次代謝産物で植食生物の摂食から自らを守っているが、殆どの植物は昆虫の餌となってしまっている。しかし、植食性昆虫が植物の防御力に対抗してきた進化の過程については明らかとなっていない。中国農業科学院蔬菜花卉研究所のZhang らは、タバココナジラミ(Bemisia tabaci )の隠蔽種Mediterranean(MED)のゲノムに存在する植物二次代謝産物のフェノール配糖体をマロニル化して無毒化するフェノールグルコシドマロニルトランスフェラーゼ遺伝子BtPMaT1 に着目して解析を行なった。BtPMaT1は最も類似性が高いホモログが植物に存在し、タバココナジラミの他の隠蔽種(B. tabaci MEAM1)以外に節足動物にはホモログが存在しなかった。また、BtPMaT1をInterProScanで検索したところ、PANTHERドメインPTHR31625の存在が明らかになった。このドメインはこれまでに植物と菌類および細菌1種のタンパク質でのみ検出されている。さらに、系統樹解析から、BtPMaT1はPTHR31625ドメインとYXGNCモチーフを含む植物のBAHDアシルトランスフェラーゼのグループに属することがわかった。これらの結果から、BtPMaT1 は植物からコナジラミへ水平伝播したことが強く示唆される。BtPMaT1 はコナジラミのすべての発生段階ですべての組織で発現しており、腹部、特に腸で高い発現を示した。よって、BtPMaT1 は解毒過程に重要な役割を果たす腸特異的な遺伝子であることが示唆される。驚くべきことに、BtPMaT1 の発現は、わずかではあるが卵でも検出され、このことはBtPMaT1 遺伝子が植物遺伝子のコンタミではないことを示している。トマトの葉から同定された290のフェノール配糖体を9つのカテゴリーに分類し、各カテゴリーから11の化合物についてコナジラミに対する影響を調査したところ、5つの化合物(ケンペロール 3-O-グルコシド、ケンペロール 7-O-グルコシド、フェニルβ-D-グルコシド、フロリジン、ラポンチシン)が毒性を示した。フェノール配糖体の解毒におけるBtPMaT1 の役割を評価するために、コナジラミ成虫にBtPMaT1 の二本鎖RNA(dsBtPMaT1)を与えてRNAiを起こさせたところ、ケンペロール 3-O-グルコシド、ケンペロール 7-O-グルコシド、ラポンチシンを与えた際の死亡率が増加した。また、VIGS技術によりトマトの葉でBtPMaT1 のサイレンシング断片を発現させてコナジラミに摂食させたところ、BtPMaT1 の発現量が減少して死亡率が増加、生殖能力が低下した。BtPMaT1タンパク質はケンペロール 3-O-グルコシド、ケンペロール 7-O-グルコシド、ラポンチシンをマロニル化することが確認され、ケンペロール 3-O-グルコシドを与えたコナジラミの甘露からはマロニル化されたケンペロール 3-O-グルコシドが検出された。また、ケンペロール 3-O-(6-マロニル‐グルコシド) を与えたコナジラミはケンペロール 3-O-グルコシドを与えた場合よりも致死率が大きく低下した。コナジラミの甘露から2966種類の代謝物が検出され、94種類のフラボノイド配糖体と4種類のフラボノイドマロニルグルコシド化合物が同定された。そのうち、50種類のフラボノイド配糖体の相対濃度は、dsBtPMaT1を発現する形質転換トマトを摂食したコナジラミの甘露で高く、4種類のフラボノイドマロニルグルコシドは低くなっていた。また、形質転換トマトはコナジラミに対する抵抗性が高まった。一方で、非標的生物のモモアカアブラムシ(Myzus persicae )やハダニ(Tetranychus urticae)に対しては抵抗性を示さなかった。以上の結果から、タバココナジラミは植物から獲得したフェノールグルコシドマロニルトランスフェラーゼにより植物の二次代謝産物を解毒していることが示唆される。

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論文)トマトの葉における植食生物の食害によるジャスモン酸生合成誘導機構

2021-05-01 16:37:02 | 読んだ論文備忘録

Ethylene response factors 15 and 16 trigger jasmonate biosynthesis in tomato during herbivore resistance
Hu et al.  Plant Physiology (2021) 185:1182-1197.

doi:10.1093/plphys/kiaa089

トマトの葉は、オオタバコガ(Helicoverpa armigera )幼虫の食害を受けるとエチレンの放出量とジャスモン酸類(JA、JA-Ile)の蓄積量が増加する。また、それぞれの生合成酵素遺伝子の発現量も増加する。中国 浙江大学Yu らは、トマトのエチレン受容体変異体Never ripeNr )では、葉に傷(W)をつけてオオタバコガ幼虫の口内分泌物(OS)をつける疑似食害(W+OS)によるJAやJA-Ileの蓄積量増加が野生型よりも少ないことを見出した。この変化に呼応して、Nr 変異体の葉ではJA生合成酵素遺伝子(LOXDAOCOPR3AOS )の発現量が低下していた。また、野生型植物の葉にエチレンシグナル伝達阻害剤の1-メチルシクロプロペン(1-MCP)を前処理するとW+OS処理によって誘導されるJA類の蓄積とLOXDAOCOPR3 の発現が減少した。一方で、植物体をエチレン暴露すると僅かながらJA類の蓄積量が増加し、オオタバコガに対する抵抗性が高まった。このエチレン暴露によって誘導されるJA類の蓄積はJA受容体の変異体であるJA–insensitive1jai1 )においてもみられることから、エチレンによるJA生合成の活性化にJAシグナルは関与していないことが示唆される。RNA-seq解析の結果、W+OS処理後の1-MCP処理の有無で発現量が変化する遺伝子にはJAの生合成、代謝、シグナル伝達に関与する遺伝子、他生物からの刺激応答に関連す遺伝子が多く含まれていた。よって、エチレンシグナルは植食生物によって誘導されるJA生合成の制御に関与していることが示唆される。トマトには137のERF遺伝子があり、このうち72遺伝子はW+OS処理で、25遺伝子は1-MCP処理で発現量が変化した。そして21遺伝子はどちらの処理でも発現量が変化した。このうち、ERF15 (Solyc06g054630)およびERF16 (Solyc12g009240)はW+OS処理で発現誘導され、ERF15 は処理から60分後にERF16 は15分後に発現量が最大となった。また、この発現誘導は1-MCPの前処理により抑制された。CRISPR/Cas9技術で作出したerf15 変異体、erf16 変異体はオオタバコガに対する抵抗性が低下していた。野生型植物ではW+OS処理の15分後にはJA類の蓄積とJA生合成酵素遺伝子の発現誘導が観察されるが、erf16 変異体では15分後から、erf15 変異体では60分後からJA類蓄積・酵素遺伝子発現誘導が野生型よりも低下し始めた。よって、ERF15ERF16 は共にJA生合成の制御に関連していると考えられる。erf15 変異体、erf16 変異体をMeJA処理することでオオタバコガに対する抵抗性が回復した。また、erf15 erf16 二重変異体はそれぞれの単独変異体よりも抵抗性が低下していた。トマトのLOXDAOCAOSOPR3 のプロモーター領域にはERF結合モチーフがあり、ERF15、ERF16はこれらのモチーフに結合して遺伝子発現を活性化しいていた。MeJA処理によってERF16 の発現量は5倍増加するが、この増加はJAシグナル伝達の調節因子であるMYC2のCRISPR/Cas9変異体myc2 では見られなかった。また、ERF16は自身の発現も活性化することが判った。一方で、ERF15 の発現は野生型植物、myc2 変異体ともMeJA処理によって誘導され、ERF16、ERF15による活性化は見られなかった。よって、食害によって誘導されたJA類はMYC2非依存的にERF15 の発現を、MYC2に依存してERF16 の発現を活性化し、ERF16については自身によっても活性化されると考えられる。以上の結果から、トマトの葉の植食生物による食害によって生産されたエチレンは、ERF15、ERF16を介してジャスモン酸類の生合成を誘導していると考えられる。

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