Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 礼文島

2019-06-30 22:46:51 | 植物観察記録

今年の北海道バイケイソウ花成個体数調査の締括りとして、礼文島の草原の定点観察地に行ってきました。バイケイソウは既に花が終わって果実の成熟が始まっていました。礼文島での定点観察は2016年から行なっており、2017年の花成個体数のピークの後、昨年は花成個体数が1/10に激減したのですが、今年はなんと2017年よりも1.5倍多くの個体が花成しました。他のエリアでの年変動からすると、今年は昨年よりも花成個体数が減少するのではないかと思っていたのですが、期待を裏切りました。礼文島の調査エリアは、他のエリアのような林床ではなく、風当たりの強い草原なので環境要因が異なっています。草原と林床ではバイケイソウの花成誘導に関与する環境要因が異なっていたので、このような違いが生じたのかもしれません。

 

バイケイソウは花が終わって果実の成熟期に入った

調査エリアのバイケイソウ花成個体数はこれまでで最大

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論文)籾の大きさを制御するサイトカイントランスポーター

2019-06-27 05:35:53 | 読んだ論文備忘録

Big Grain3, encoding a purine permease, regulates grain size via modulating cytokinin transport in rice
Xiao et al. JIPB (2019) 61:581-597.

doi: 10.1111/jipb.12727

中国科学院遺伝与発育生物学研究所Chu らは、イネT-DNA挿入アクティベーションタギング集団の中から籾が大きくなるbig grainbg)変異体を複数単離している。今回、このうちのbg3-D 変異体について解析を行なった。この変異体ではプリンパーミアーゼ(PUP)をコードするOsPUP4 の発現量が増加していた。野生型イネでのBG3 の発現量は非常に低いが、多くの組織で発現が見られ、維管束組織で発現していた。BG3/OsPUP4は細胞膜に局在しており、サイトカイニンの輸送に関与していることが確認された。野生型植物でのBG3 の発現はサイトカイニン処理によって阻害された。bg3-D 変異体は、イソペンテニルアデニン(iP)含量がシュートで低く根で高く、トランスゼアチン(tZ)、シスゼアチン(cZ)含量はシュート、根ともに野生型よりも高くなっていた。よって、BG3はシュートから根へのiPの輸送を促進しており、根に蓄積したiPはtZに変換されて植物体全体でtZ量が増加すると考えられる。実際に、bg3-D 変異体の根ではiPをtZに転換するCYP735A4 やサイトカイニン応答遺伝子のタイプA RESPONSE REGULATOR(OsRR)の発現量が増加していた。イネの12のPUPのうち、OsPUP4 と最も類似性の高いOsPUP7 を過剰発現させたところ、bg3-D 変異体やBG3 過剰発現個体と類似した表現型を示した。しかし、OsPUP7は、OsPUP4とは異なり、小胞体に局在していた。以上の結果から、OsPUP4およびOsPUP7はサイトカイニンの細胞間輸送系として機能し、OsPUP4はサイトカイニンをアポプラストから細胞質へ輸送し、OsPUP7はサイトカイニンを小胞体内に取り込んでプラズモデスマータを介して細胞間輸送することで、サイトカイニンの長距離輸送、局在、応答性に影響していると考えられる。

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 野幌

2019-06-18 22:16:13 | 植物観察記録

今日は野幌森林公園の定点観察エリアへ行きました。ここでのバイケイソウ花成個体は4個体でした。ということで、2017年に一時花成個体数が37個体に増加し、2018年が10個体でしたので、今年は更に減少したことになります。やはり、2017年はバイケイソウ花成の小さなピークであったと思われます。2017年は礼文島と箱根でも花成個体数が増加し、2018年に減少しました。今年の礼文島と箱根の花成個体数については別途調査します。公園内は昨年の台風による倒木が目立ちました。倒木によってギャップが形成されて林床の環境が変化しており、バイケイソウの繁殖にも影響があると思われます。北大植物園内の植栽バイケイソウは花成個体なし、シュロソウは花成個体5個体でした。これは昨年と同じ結果です。

 

野幌森林公園のバイケイソウ花成個体は昨年よりも減少

 

昨年9月の台風の影響 倒木が目立つ

 

サイハイラン

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 道北

2019-06-17 22:07:18 | 植物観察記録

今日は道北方面でバイケイソウ、コバイケイソウ花成個体の観察をしてきました。まず、兜沼近くの林床のコバイケイソウ群落ですが、今年は例年になく非常に多くの花成個体(280個体)が見られました。この群落での花成個体数調査はまだ4年目ですが、今年は例年の3倍以上は咲いていました。コバイケイソウはここ以外のサロベツ原野でも花成個体が多く見られ、今年は当たり年だと思われます。ということで、花成個体数の年変動はバイケイソウとコバイケイソウでは異なっているようです。サロベツ原野では、今年はエゾカンゾウの花成個体数も多いように感じました。この後、サロベツからオホーツク海側のベニヤ原生花園へ行きました。ここは草原性のバイケイソウが多く、今年もたくさんの花成個体が見られました。ここでも花成個体数の年変動を調査しようかと思います。

 

林床のコバイケイソウは例年になく花成個体数が多かった

 

サロベツ原野でもコバイケイソウは多く見られた(サロベツ湿原センター)

 

エゾカンゾウも花盛り(サロベツ湿原センター)

 

ベニヤ原生花園のバイケイソウ

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 旭川

2019-06-15 20:56:35 | 植物観察記録

恒例となった北海道バイケイソウ花成個体数調査を、旭川の群落から始めました。この調査地では、2013年の一斉開花で257個体が花成し、その後は2014年、2015年と花成個体なし、2016年から2018年にかけては2、3個体花成しました。同じような環境条件の野幌では2017年に花成個体数のわずかな増加(2016年一斉開花の1/10程度)が見られたのですが、旭川では観察されませんでした。そして今年の花成個体数は4個体でした。定点観察している群落以外の同じエリア内において花成個体は1個体見られただけでした。したがって、今年も花成個体数は極僅かで、この調査地ではバイケイソウの今年の花成誘導はされなかったと考えられます。

調査群落での花成個体は3個体

 

調査エリア外で見つけた花成個体 見つけたのこの1個体のみ

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論文)脱黄化芽生えでの子葉展開の制御

2019-06-14 06:19:08 | 読んだ論文備忘録

The Transcription Factors TCP4 and PIF3 Antagonistically Regulate Organ-Specific Light Induction of SAUR Genes to Modulate Cotyledon Opening during De-Etiolation in Arabidopsis
Dong et al. The Plant Cell (2019) 31:1155-1170.

doi:10.1105/tpc.18.00803

TEOSINTE BRANCHED1, CYCLOIDEA, and PCF(TCP)は植物に特異的な転写因子ファミリーであり、様々な成長発達過程の制御に関与している。TCP4 は主に子葉や若い葉で発現しており、これらの器官の形態形成を制御している。米国 イェール大学Wei らは、TCP4-like遺伝子(TCP3TCP4TCP10 )はシロイヌナズナ芽生え脱黄化時の子葉の展開に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。黄化芽生えを明所に移すと5時間以内に子葉が展開するが、tcp3 tcp4 tcp10 三重変異体黄化芽生えは野生型よりも展開が遅れた。また、miRNAによる抑制を受けない変異型TCP4(mTCP4)を過剰発現させた芽生えは暗所で子葉が展開した。したがって、TCP4-like遺伝子は、脱黄化時の光誘導子葉展開必要であることが示唆される。mTCP4を過剰発現させた暗所育成芽生えでは、2446遺伝子の発現量が変化しており、このうち781遺伝子のプロモーター領域にTCP4が結合し、この中には6つのSMALL AUXIN UPREGULATED RNASAUR )遺伝子(SAUR14SAUR50SAUR16SAUR62SAUR77SAUR78 )が含まれていた。saur16 saur50 二重変異体は光誘導子葉展開が野生型よりも遅くなり、SAUR50 を過剰発現させた芽生えは暗所で子葉が展開した。mTCP4 過剰発現系統にsaur50 変異やsaur16 変異を導入することで暗所での子葉展開が抑制され、saur16 saur50 saur77 saur78 もしくはsaur16 saur50 saur62 saur77 saur78 の多重変異が導入されるとほぼ完全に暗所での子葉展開が見られなくなった。SAUR14SAUR50SAUR16 の子葉での発現は、光照射3時間後までに誘導されるが、tcp3 tcp4 tcp10 三重変異体ではSAUR50SAUR16 の光照射発現誘導が見られなかった。また、tcp3 tcp4 tcp10 三重変異体でSAUR50 を過剰発現させることで光照射後の子葉展開が促進された。TCP 遺伝子の発現量はTCP10 以外は光照射による変化が見られず、TCP4タンパク質量の変化も光照射後の急速なSAUR 遺伝子の発現誘導や子葉展開を説明できない。解析の結果、暗所ではTCP4タンパク質のSAUR 遺伝子プロモーター領域への結合が阻害され、この阻害にはPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)が関与していることがわかった。PIFとTCP4は結合するDNAモチーフが異なっているが、SAUR 遺伝子プロモーター領域でのPIF3とTCP4の結合領域は重なり合っていた。PIF3がどのようにしてTCP4のSAUR 遺伝子プロモーター領域への結合を阻害しているのかは不明だが、脱黄化芽生えでのTCP4によるSAUR 遺伝子の発現活性化は、光照射によるPIF3タンパク質の分解によってもたらされていると考えられる。以上の結果から、脱黄化芽生えでの子葉の展開はTCP4とPIF3によるSAUR 遺伝子発現の拮抗的な制御によって調節されていると考えられる。

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論文)エチレンによるキュウリ果実の伸長制御

2019-06-11 05:41:06 | 読んだ論文備忘録

Genetic Regulation of Ethylene Dosage for Cucumber Fruit Elongation
Xin et al. The Plant Cell (2019) 31:1063-1076.

doi:10.1105/tpc.18.00957

ウリ科植物の果実は下位子房が発達して形成され、形や大きさは種によって異なる。しかしながら、果実の形や大きさを制御する機構は明らかではない。中国農業科学院蔬菜花卉研究所のYang らは、果実の長さが短いキュウリshort fruit 1sf1 )変異体を用いて果実の伸長機構について解析した。sf1 変異体の果実の直径は野生型と同等であり、果実の細胞の大きさも野生型と変わりがない。したがって、果実縦方向の細胞数の減少によって果実が短くなっている。sf1 変異体と野生型とのF2個体のバルクDNAを全ゲノムシークエンスして短果実表現型と連鎖するSNPを探索した。その結果、RING型E3リガーゼをコードする遺伝子の塩基置換(G-to-A)により230番目のArg(R)残基がLys(K)残基に置換するSNPが果実長と連鎖することがわかった。このE3リガーゼはXBATファミリーのウリ科特異的なブランチに属しており、R230は他植物においても保存されていた。CRESPR/Cas9でSF1 を機能喪失させた変異体は、sf1 変異体と同じように果実が短くなった。SF1 mRNAは恒常的に発現しているが、SF1タンパク質は受粉0日(0 DAA)の果実と茎でのみ検出されることから、SF1は転写後制御を受けていると考えられる。SF1は自己ユビキチン化し、R230K変異は自己ユビキチン化と26Sプロテアソームによる分解が強くなる機能喪失変異であることがわかった。0 DAA sf1 変異体果実ではエチレン生産に関与している遺伝子の発現量が高くなっており、ACC合成酵素をコードするACS2 の発現量やエチレン生産量が野生型よりも高くなっていた。sf1 変異体をエチレン合成阻害剤1-アミノエトキシビニルグリシンやエチレン受容阻害剤1-メチルシクロプロパンで処理することで短果実表現型が部分的に回復した。よって、sf1 変異体の表現型はエチレンの過剰生産によってもたらされていると考えられる。点変異によってACS活性が低下したキュウリasc2 変異体果実は、エチレン生産量が減少し、野生型よりも短くなった。SF1およびSF1R230KはACS2と特異的に相互作用をし、ACS2をユビキチン化した。SF1R230Kは自己ユビキチン化して分解されるため、sf1 変異体はACS2が蓄積してエチレンを過剰生産する。SF1は自らとACS2をユビキチン化による分解のターゲットとし、キュウリ果実のエチレン量と細胞分裂を調節していると考えられる。sf1 変異体はエチレンの過剰生産によって果実が短くなるが、acs2 変異体はエチレン生産量が減少して果実が短くなる。したがって、キュウリ果実の伸長はエチレン生産の厳格な管理に応答していることが示唆される。野生型とacs2 変異体を同じチャンバーに入れて各種濃度のエチレン処理をしたところ、果実の伸長や細胞分裂に対するエチレンの効果は同じであった。以上の結果から、キュウリ果実の長さはエチレン濃度に応じた二相性の応答によって制御されていると考えられる。

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