TaWRKY51 promotes lateral root formation through negative regulation of ethylene biosynthesis in wheat (Triticum aestivum L.)
Hu et al. The Plant Journal (2018) 96:372-388.
doi: 10.1111/tpj.14038
中国農業大学のSun らは、以前にコムギのWRKY 遺伝子の単離を行ない、今回、TaWRKY51 遺伝子について詳細な解析を行なった。コムギTaWRKY51 遺伝子は3つのホモログ(TaWRKY51-2A 、TaWRKY51-2B 、TaWRKY51-2D )があり、いずれの遺伝子も調査した全ての器官で発現し、特に根での発現が強くなっていた。RNAiでTaWRKY51 をノックダウンした系統(TaWRKY51-RNAi)は側根数が減少した。TaWRKY51のアミノ酸配列はシロイヌナズナのAtWRKY11やAtWEKY17と類似性が高く、シロイヌナズナwrky11 変異体、wrky17 変異体も側根数が減少した。コムギtawrky51-2a 変異体、tawrky51-2b 変異体も側根数が減少した。これらの結果から、TaWRKY51はコムギの側根形成を正に制御していることが示唆される。TaWRKY51-2B を過剰発現させたコムギ(TaWRKY51-OE)およびシロイヌナズナ(35S:TaWRKY51-2B )は側根数が増加した。35S:TaWRKY51-2B では、野生型と比較して56遺伝子の発現が増加し、274遺伝子の発現が減少していた。発現量が減少した遺伝子にはACC合成酵素(ACS)が含まれており、35S:TaWRKY51-2B はエチレン生産量が減少していた。コムギにおいても、ACS遺伝子のTaACS2 、TaACS7 、TaACS8 の発現量およびエチレン生産量が、TaWRKY51-RNAiで増加し、TaWRKY51-OEで減少していた。TaACS2 遺伝子、TaACS7 遺伝子、TaACS8 遺伝子のプロモーター領域にはWRKYタンパク質が結合するW-boxエレメントTTGAC(C/T)が存在し、TaWRKY51はこのエレメントに結合してTaACS 遺伝子の発現を負に制御していることが判った。35S:TaWRKY51-2B にエチレン前駆体ACCを処理すると側根数が減少した。また、コムギにACC処理をすることで側根数が減少した。野生型シロイヌナズナおよび35S:TaWRKY51-2B においてACS遺伝子AtACS2 を過剰発現させたところ、側根数が減少し、特に35S:TaWRKY51-2B において顕著な減少が見られた。よって、TaWRKY51 はACS 遺伝子を発現抑制することで側根形成を促進していることが示唆される。シロイヌナズナではETO1タンパク質がACS活性およびエチレン生産を負に制御しており、eto1-1 変異体はエチレンを過剰生産して、主根が短くなり、側根数が減少する。eto1-1 変異体でTaWRKY51 を過剰発現させると変異体の表現型が野生型と同等になった。よって、TaWRKY51 はエチレン生産を負に制御することで側根形成を調節していると考えられる。CTR1 はエチレンシグナル伝達経路の負の制御因子をコードしており、シロイヌナズナctr1-1 変異体は恒常的に三重反応を示す。35S:TaWRKY51-2B/ctr1-1 は、側根数や主根長に関してctr1-1 変異体の根の表現型を回復させなかった。よって、TaWRKY51による側根形成促進にはCTR1を介したエチレンシグナル伝達経路が必要であることが示唆される。側根形成誘導にはオーキシンが関与しており、オーキシン応答転写活性化因子ARF7、ARF19が機能喪失したarf7/arf19 二重変異体は側根数が減少する。arf7/arf19 二重変異体でTaWRKY51 を過剰発現させても側根数の増加は見られないことから、TaWRKY51による側根形成促進にはARF7/ARF19の機能が必要であることが示唆される。オーキシン流入キャリアのAUX1は、エチレンとオーキシンの相互作用において重要であり、AUX1 の発現はエチレンによって誘導されることが知られている。35S:TaWRKY51-2B やTaWRKY51-OEの根ではAUX1 の発現量が減少し、TaWRKY51-RNAiでは増加していた。以上の結果から、TaWRKY51 による側根形成の促進は、ACS遺伝子の発現抑制によるエチレン生産量の減少と、そのことによるオーキシン流入キャリアAUX1 遺伝子の発現量の減少が関与していると考えられる。AUX1 の発現量低下は主根の分化領域でのオーキシン輸送の低下をもたらし、この領域での局所的なオーキシン蓄積が側根形成を誘導しているものと思われる。