Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)WRKY転写因子による側根形成の制御

2018-11-28 05:49:02 | 読んだ論文備忘録

TaWRKY51 promotes lateral root formation through negative regulation of ethylene biosynthesis in wheat (Triticum aestivum L.)
Hu et al. The Plant Journal (2018) 96:372-388.

doi: 10.1111/tpj.14038

中国農業大学のSun らは、以前にコムギのWRKY 遺伝子の単離を行ない、今回、TaWRKY51 遺伝子について詳細な解析を行なった。コムギTaWRKY51 遺伝子は3つのホモログ(TaWRKY51-2ATaWRKY51-2BTaWRKY51-2D )があり、いずれの遺伝子も調査した全ての器官で発現し、特に根での発現が強くなっていた。RNAiでTaWRKY51 をノックダウンした系統(TaWRKY51-RNAi)は側根数が減少した。TaWRKY51のアミノ酸配列はシロイヌナズナのAtWRKY11やAtWEKY17と類似性が高く、シロイヌナズナwrky11 変異体、wrky17 変異体も側根数が減少した。コムギtawrky51-2a 変異体、tawrky51-2b 変異体も側根数が減少した。これらの結果から、TaWRKY51はコムギの側根形成を正に制御していることが示唆される。TaWRKY51-2B を過剰発現させたコムギ(TaWRKY51-OE)およびシロイヌナズナ(35S:TaWRKY51-2B )は側根数が増加した。35S:TaWRKY51-2B では、野生型と比較して56遺伝子の発現が増加し、274遺伝子の発現が減少していた。発現量が減少した遺伝子にはACC合成酵素(ACS)が含まれており、35S:TaWRKY51-2B はエチレン生産量が減少していた。コムギにおいても、ACS遺伝子のTaACS2TaACS7TaACS8 の発現量およびエチレン生産量が、TaWRKY51-RNAiで増加し、TaWRKY51-OEで減少していた。TaACS2 遺伝子、TaACS7 遺伝子、TaACS8 遺伝子のプロモーター領域にはWRKYタンパク質が結合するW-boxエレメントTTGAC(C/T)が存在し、TaWRKY51はこのエレメントに結合してTaACS 遺伝子の発現を負に制御していることが判った。35S:TaWRKY51-2B にエチレン前駆体ACCを処理すると側根数が減少した。また、コムギにACC処理をすることで側根数が減少した。野生型シロイヌナズナおよび35S:TaWRKY51-2B においてACS遺伝子AtACS2 を過剰発現させたところ、側根数が減少し、特に35S:TaWRKY51-2B において顕著な減少が見られた。よって、TaWRKY51ACS 遺伝子を発現抑制することで側根形成を促進していることが示唆される。シロイヌナズナではETO1タンパク質がACS活性およびエチレン生産を負に制御しており、eto1-1 変異体はエチレンを過剰生産して、主根が短くなり、側根数が減少する。eto1-1 変異体でTaWRKY51 を過剰発現させると変異体の表現型が野生型と同等になった。よって、TaWRKY51 はエチレン生産を負に制御することで側根形成を調節していると考えられる。CTR1 はエチレンシグナル伝達経路の負の制御因子をコードしており、シロイヌナズナctr1-1 変異体は恒常的に三重反応を示す。35S:TaWRKY51-2B/ctr1-1 は、側根数や主根長に関してctr1-1 変異体の根の表現型を回復させなかった。よって、TaWRKY51による側根形成促進にはCTR1を介したエチレンシグナル伝達経路が必要であることが示唆される。側根形成誘導にはオーキシンが関与しており、オーキシン応答転写活性化因子ARF7、ARF19が機能喪失したarf7/arf19 二重変異体は側根数が減少する。arf7/arf19 二重変異体でTaWRKY51 を過剰発現させても側根数の増加は見られないことから、TaWRKY51による側根形成促進にはARF7/ARF19の機能が必要であることが示唆される。オーキシン流入キャリアのAUX1は、エチレンとオーキシンの相互作用において重要であり、AUX1 の発現はエチレンによって誘導されることが知られている。35S:TaWRKY51-2BTaWRKY51-OEの根ではAUX1 の発現量が減少し、TaWRKY51-RNAiでは増加していた。以上の結果から、TaWRKY51 による側根形成の促進は、ACS遺伝子の発現抑制によるエチレン生産量の減少と、そのことによるオーキシン流入キャリアAUX1 遺伝子の発現量の減少が関与していると考えられる。AUX1 の発現量低下は主根の分化領域でのオーキシン輸送の低下をもたらし、この領域での局所的なオーキシン蓄積が側根形成を誘導しているものと思われる。

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論文)JAZタンパク質のSUMO化によるジャスモン酸シグナル伝達の制御

2018-11-21 22:53:42 | 読んだ論文備忘録

SUMO Suppresses the Activity of the Jasmonic Acid Receptor CORONATINE INSENSITIVE1
Srivastava et al. The Plant Cell (2018) 30:2099-2115.

doi:10.1105/tpc.18.00036

タンパク質はSUMO(small ubiquitin-related modifier)による修飾を受けることで安定化する。SUMO化されたタンパク質はSUMO特異的プロテアーゼによってSUMOが切断される。英国 ダラム大学Sadanandom は、シロイヌナズナSUMOプロテアーゼOVERLY TOLERANT TO SALT1(OTS1)とOTS2の二重変異体ots1 ots2 は病毒細菌のPseudomonas syringae pv tomato DC3000(Pst )に対して抵抗性を示し、内生サリチル酸(SA)量が増加していることを過去に見出した。そこで、今回はSAと拮抗的に作用するジャスモン酸(JA)の生理作用とOTSとの関係を調査した。その結果、ots1 ots2 二重変異体は病原真菌のBotrytis cinerea や食植昆虫のハダニ(Tetranychus urticae )に対する抵抗性が低下し、JAによる根の伸長阻害の程度が低下していることがわかった。したがって、ots1 ots2 二重変異体は病虫害応答と根の成長においてJA感受性が低下しており、SUMO化とJAシグナル伝達は関連していると考えられる。JAシグナル伝達はJAZリプレッサータンパク質により制御されており、根の成長制御はJAZ1、病虫害応答はJAZ6が関与している。そこで、これらのJAZタンパク質量について調査したところ、ots1 ots2 二重変異体ではJAZタンパク質とSUMO化したJAZタンパク質の両方が野生型よりも多くなっていることが確認された。よって、ots1 ots2 二重変異体ではJAZタンパク質とSUMO化JAZタンパク質の安定性が高いことが示唆される。マススペクトル解析から、SUMOはJAZ6のLys-221に付加すること確認され、Lys-221をArgに置換(JAZ6K221R)することでJAZ6の安定性が低下した。したがって、ots1 ots2 二重変異体ではJAZタンパク質のSUMO化によってJAZタンパク質が蓄積し、JAシグナル伝達が変化していると考えられる。JA存在下でJAZ6K221RはJAZ6よりも速く分解され、JA処理はOTS1タンパク質の蓄積を促進し、JAZ6の脱SUMO化を高めた。JAZ6量およびSUMO化JAZ6量は、Pst が感染することで減少し、B. cinerea 感染によって増加した。また、B. cinerea 感染によってOTS1タンパク質量が減少した。JA処理をすることによってJAZ6量およびSUMO化JAZ6量はPst 感染時と同じように減少した。F-boxタンパク質でJA受容体であるCORONATINE INSENSITIVE1(COI1)は、C末端領域にSUMOとの相互作用に関与するSUMO-interacting motif(SIM)を有している。SUMOおよびSUMO化JAZタンパク質はSIMを介してCOI1と結合し、SUMOはJAZタンパク質のCOI1への結合を阻害した。また、SUMO化JAZ6はJA非存在下でもCOI1と相互作用をした。SIMに変異の入ったCOI1は通常のCOI1よりもJAZ6の分解能力が高くなっていた。これらの結果から、SUMO化JAZタンパク質はCOI1と非SUMO化JAZタンパク質との相互作用を妨げ、JAZタンパク質の蓄積をもたらすと考えられる。また、SUMO化JAZタンパク質とCOI1はJA非存在下でも相互作用をするのでSUMOによるCOI1の阻害はJA非依存的に起こる。ots1 ots2 二重変異体でSIMに変異の入ったCOI1を過剰発現させたところ、野生型のCOI1を過剰発現させた場合よりもJA感受性が高くなった。したがって、SUMO化JAZタンパク質はCOI1による非SUMO化JAZタンパク質の分解を阻害することでJAシグナル伝達を抑制していると考えられる。

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論文)ブラシノステロイドとアブシジン酸による気孔の閉鎖

2018-11-15 05:36:41 | 読んだ論文備忘録

OST1 Activation by the Brassinosteroid-Regulated Kinase CDG1-LIKE1 in Stomatal Closure
Kim et al. Plant Cell (2018) 30:1848-1863.

doi:10.1105/tpc.18.00239

シロイヌナズナCONSTITUTIVE DIFFERENTIAL GROWTH1(CDG1)とそのホモログのCDG1-LIKE1(CDL1)は、受容体様タンパク質・キナーゼのRLCKVII サブファミリーに属するブラシノステロイド(BR)シグナル伝達の正の制御因子である。しかしながら、CDG1とCDL1は発現する組織や、核タンパク質フォスファターゼBRI1 SUPPRESSOR1(BSU1)との結合親和性が異なっている。韓国 漢陽大学校のKim らは、CDL1 が孔辺細胞で高い発現を示すことを見出し、CDL1キナーゼは気孔の運動に関与しているのではないかと考えて詳細な解析を行なった。cdl1 ノックアウト変異体は、気孔の開閉においてアブシジン酸(ABA)感受性が低下しており、ABAが促進する孔辺細胞での活性酸素種(ROS)の生産が低下し、気孔の閉鎖が損なわれているために水分損失が多く、葉の表面温度が低くなっていた。したがって、CDL1は孔辺細胞でのABAに対する生理応答を制御していることが示唆される。気孔の運動に対するBRの作用を見たところ、BRは気孔の閉鎖を促進し、孔辺細胞でのROS生産を増加させ、水分損失速度を低下させることがわかった。一方、BRのこのような効果はcdl1 変異体では見られなかった。ABAが誘導する気孔の閉鎖は、BRを同時に添加すると促進された。したがって、BRは気孔の閉鎖制御においてABAと相乗的に作用することが示唆される。cdl1 変異体はABAとBRの両方に対して非感受性であった。cdl1 変異体以外にも、BR受容変異体であるbri1 変異体やbak1 変異体もABAによる気孔閉鎖に対する感受性が低下していた。BR欠損変異体は正常にABAに応答して気孔が閉じることから、ABAは内生BR量に関係なく直接BRシグナル伝達系を活性化しているものと思われる。ABAによって誘導される気孔の閉鎖を正に制御しているSNF1-関連タンパク質キナーゼのOPEN STOMATA1(OST1)の変異体ost1 は、ABAと同様にBRに対しても完全に非感受性であり、BRによる気孔閉鎖もOST1に依存していることが示唆される。OST1 を過剰発現させた形質転換体は、気孔閉鎖においてABAとBRの両方に対して感受性が高くなっていた。cdl1 変異体のABA非感受性はOST1 を過剰発現させることで抑えられ、OST1 過剰発現個体と同等になったが、OST1 を過剰発現させたcdl1 変異体のBRに対する感受性はOST1 過剰発現個体よりも低くなっていた。よって、CDL1はOST1よりも上流で作用していると考えられる。OTS1はCDL1と相互作用をし、両者の結合はBRやABA処理によって強まることがわかった。また、CDL1はOST1のSer-7ををリン酸化し、このリン酸化によってOST1が活性化されることが気孔閉鎖に必要であることがわかった。BR処理はOST1の活性を大きく高めるが、cdl1 変異体ではBRによるOST1の活性増加が見られなかった。また、cdl1 変異体ではABAによるOST1の活性化が低下した。したがって、ABAによるOST1の活性化にはCDL1が必要である。BRによるCDL1の活性化にOST1は関与しておらず、ost1 変異体のBR非感受性はCDL1 を過剰発現させても抑制されなかった。一方、ost1 変異体ではABAによるCDL1の活性化が見られず、CDL1の過剰発現はost1 変異体のABA非感受性を回復させなかった。これらの結果から、ABAはOST1によるトランスリン酸化を介してCDL1を活性化していることが示唆される。以上の結果から、BRによって活性化されるCDL1キナーゼとABAシグナル伝達因子のOST1キナーゼのクロストークを介してBRとABAは気孔の閉鎖を相乗的に制御していることが示唆される。

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論文)ブラシノステロイドシグナル伝達とジベレリン生合成を制御するMYB型転写因子

2018-11-10 07:44:46 | 読んだ論文備忘録

A brassinosteroid responsive miRNA-target module regulates gibberellin biosynthesis and plant development
Gao et al. New Phytologist (2018) 220:488-501.

doi:10.1111/nph.15331

miRNAのmiR159はジベレリン(GA)シグナルに関与するMYB型転写因子をターゲットにしている。イネでは、OsmiR159dはOsGAMYB-like2OsGAMYBL2 )をターゲットとしているが、OsGAMYBL2の機能は明らかとなっていない。中国科学院 華南植物園のLi らは、OsmiR159dとOsGAMYBL2 の機能を解析するために、short tandem target mimic(STTM)法によるOsmiR159dの機能抑制形質転換体(STTM159d)、OsGAMYBL2 の過剰発現形質転換体(OE-L2)およびRNAi発現抑制形質転換体(RNAi-L2)を作出して表現型を観察した。その結果、野生型(ZH11)と比較して、STTM159dとOE-L2は矮化して葉が直立し、ブラシノステロイド(BR)変異体に類似した表現型を示した。一方、RNAi-L2は草丈が高くなった。RNAi-L2は最上位とその下の節間が野生型よりも長く、このことがRNAi-L2の高い草丈をもたらしていた。そして、STTM159dとOE-L2ではこれらの節間が野生型よりも短くなっていた。STTM159dとOE-L2の穂は葉鞘から完全には突出せず、GA応答が欠失したような表現型を示したが、RNAi-L2の穂は高く突出してGA応答性が高い表現型に類似していた。また、STTM159dとOE-L2は葉身の屈曲角度が小さく葉が立っているが、RNAi-L2は野生型よりも葉身屈曲角度が大きくなっていた。RNAi-L2の葉の形態は正常だが、STTM159dとOE-L2の葉は縮れており、BR非感受性変異体に類似していた。さらに、STTM159dとOE-L2の最上位の節間は波打っており、このような表現型はシロイヌナズナのBR欠損変異体においても報告されている。STTM159dとOE-L2の籾は野生型よりも小さく、RNAi-L2の籾は大きい。これらの結果から、STTM159dとOE-L2の表現型は類似しており、RNAi-L2とは逆の表現型となり、BRとGAの両方の特徴が現れていると言える。ラミナジョイント屈曲試験の結果、RNAi-L2はBR感受性が野生型よりも高く、STTM159dとOE-L2は低いことがわかった。BR処理をすることでOsmiR159d量は減少し、OsGAMYBL2 転写産物量は増加した。GA処理によってOsGAMYB は発現誘導されるが、OsGAMYBL2 の発現は誘導されなかった。よって、OsmiR159d-OsGAMYBL2 はBRシグナルのモジュールとして機能し、GAシグナル伝達には関与していないと考えられる。STTM159dではBRシグナル伝達に関与しているBRI1-ASSOCIATED RECEPTOR KINASEBAK1 )やBR生合成酵素遺伝子の発現量が増加していた。また、CYP734A2CYP734A4CYP734A6 といったBRを不活性化する遺伝子の発現量がSTTM159dやOE-L2で増加していることが確認された。BRシグナル伝達に関与しているBR UPREGULATED1BU1 )の発現はSTTM159dとOE-L2で抑制され、RNAi-L2では増加しており、OsGAMYBL2はBU1 のプロモーター領域に結合してBU1 の発現を抑制することが確認された。BRシグナル伝達の負の制御因子であるOsGSK2は、OsGAMYBL2をリン酸化することでBR存在下でOsGABYML2を安定化し、BRシグナル伝達を抑制していることがわかった。STTM159dとOE-L2ではGA生合成に関与しているCPS1GA3ox2 の発現量が減少しており、RNAi-L2では増加していた。さらに解析を行なったところ、STTM159dではKAOGA20ox1 といったGA生合成遺伝子の発現量が減少し、GA不活性化遺伝子のGA2ox1 やDELLA分解に関与しているF-boxをコードしているGID2 の発現量は増加していた。OsGAMYBL2はGA3ox2 遺伝子、CPS1 遺伝子のプロモーター領域に結合することが確認された。また、OsGAMYBL2はGAシグナル伝達の負の制御因子であるSLENDER RICE1(SLR1)と相互作用をすることが確認された。OsGAMYBL2はGA3ox2CPS1 のプロモーター領域に結合することで遺伝子発現を抑制し、SLR1はOsGAMYBL2のターゲット遺伝子への結合に対して拮抗的作用していた。SLR1はGA処理によって速やかに分解されるが、OsGAMYBL2もGA処理によって分解された。以上の結果から、OsmiR159dとOsGAMYBL2 はブラシノステロイドシグナル伝達とジベレリン生合成を制御することでイネの成長を調節していると考えられる。

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論文)ブラシノステロイドによる花成阻害

2018-11-03 16:46:28 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroid Signaling Recruits Histone 3 Lysine-27 Demethylation Activity to FLOWERING LOCUS C Chromatin to Inhibit the Floral Transition in Arabidopsis
Li et al. Molecular Plant (2018) 11:1135-1146.

doi:10.1016/j.molp.2018.06.007

ブラシノステロイド(BR)の欠損変異体や非感受性変異体は、成長が遅れて花成遅延を起こす。しかしながら、BR受容体BRASSINAZOLE-RESISTANT1(BZR1)の機能獲得変異体bzr1-1D は花成の抑制に関与しているFLOWERING LOCUS CFLC )の発現量が高いことが報告されている。よって、BRの花成に対する効果は不明である。中国科学院 上海生命科学研究院 分子植物科学研究センターのHe らは、シロイヌナズナBR非感受性bri 変異体の花成時期を開花までに形成された葉数で評価し、長日条件下でbri 変異体は野生型よりも花成が早まることを見出した。また、BR生合成経路の酵素DE-ETIOLATED2(DET2)、CONSTITUTIVE PHOTOMORPHOGENIC DWARF(CPD)、DWARF4(DWF4)が機能喪失したBR欠損変異体も花成が促進された。さらに、cpd 変異体やdet2 変異体にBRを添加することで花成促進が抑制された。花成のマーカー遺伝子であるAPETALA1AP1 )、LEAFYLFY )の発現を見ると、bri1cpddwf4 の各変異体では野生型よりも早い発達過程でこれらの遺伝子の発現が誘導されていた。これらの結果から、BRシグナルは花成に対して抑制的に作用すると考えられる。bri1cpddwf4det2 の各変異体の芽生えではFLC の発現が抑制されており、FLC ホモログのFLOWERING LOCUS MFLM )、MADS AFFECTING FLOWERING4MAF4 )、MAF5 の発現量も低下していた。また、野生型植物にBRを添加するとFLCFLMMAF4MAF5 の発現量が増加し、花成遅延した。FLC はFLOWERING LOCUS TFT )の発現を直接抑制して花成遅延を引き起こしているが、bri1cpddwf4det2 の各変異体ではFT の発現量が増加していた。これらの結果から、BRシグナルはFLC 、FLM 、MAF4 、MAF5 の発現を促進することで花成を阻害していると考えられる。BZR1のホモログであるBR-INSENSITIVE1-EMS-SUPPRESSOR 1(BES1)の機能獲得変異bes1-D の花成は、bri1-1D 変異体とは異なり、野生型と同等であった。よって、BRシグナルによる花成制御はBZR1によって制御されていることが示唆される。BZR1はbHLH型転写因子のBES1-INTERACTING MYC-LIKE PROTEIN 1(BIM1)と物理的に相互作用をすることが確認され、bim1 bim2 bim3 三重変異体は花成が促進された。よって、BZR1はBIM転写因子と相互作用をして花成を阻害していると考えられる。FLCFLMMAF4MAF5 の発現は、bim1 bim2 bim3 三重変異体で抑制され、bzr1-1D 変異体では増加していた。したがって、BZR1とBIMsはFLCFLMMAF4MAF5 の発現を促進することで花成を阻害していると考えられる。FLC の発現はFRIGIDA(FRI)によって活性化されるが、BRシグナルはこの活性化に関与していることがわかった。FLC の発現は自律促進経路(AP)遺伝子のFLOWERING LOCUS DFLD )やLUMINIDEPENDENSLD )によって抑制される。bzr1-1D 変異体でFLDLD が機能喪失してもFLC の発現量の増加は見られないことから、BRシグナルはAP遺伝子を介してFLC の発現を抑制していると考えられる。クロマチン免疫沈降試験から、BIM1はFLC 遺伝子の第1イントロンに結合してFLC の発現を制御していることがわかった。また、BZR1はFLC 遺伝子第1イントロンのBRREシスエレメントに結合して遺伝子発現を活性化することが確認された。BZR1はヒストン3リシン27(H3K27)デメチラーゼのEARLY FLOWERING6(ELF6)と相互作用をしてFLC 遺伝子第1イントロンのH3K27me3量を低下させていた。以上の結果から、ブラシノステロイドは花成抑制因子FLC の発現を活性化することで花成を阻害していると考えられる。

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