The auxin response factor TaARF15-A1 negatively regulates senescence in common wheat (Triticum aestivum L.)
Li et al. Plant Physiology (2023) 191:1254-1271.
doi:10.1093/plphys/kiac497
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Wheat AUXIN RESPONSE FACTOR 15 delays senescence through competitive interaction at the TaNAM1 locus
G. Alex Mason Plant Physiology (2023) 191:834-836.
doi:10.1093/plphys/kiac535
コムギ(Triticum aestivum L.)にはauxin response factor(ARF)をコードする遺伝子が69個あり、その多くは機能が明らかとなっていない。中国農業科学院 作物科学研究所のZhang らは、コムギ実生をオーキシン処理するとTaARF15 の発現量が3時間で5倍増加することを見出した。TaARF15 遺伝子には3つのホモログがあり、6A、6B、6D染色体に局在している。何れの遺伝子も様々な組織で恒常的に発現し、特に茎と若い穂での発現量が高い。TaARF15-A1は、核に局在し、転写活性化因子として機能することが確認された。TaARF15の生物学的機能を解析するために、TaARF15-A1 過剰発現(OE)系統、RNAi発現抑制系統、CRIPR-Cas9ノックアウト(arf15 )系統を作出し、表現型を観察した。その結果、野生型植物と比較して、OE系統は植物全体、止葉、穂の老化と、穀粒の成熟が遅延し、RNAi系統とarf15 系統は老化と成熟が早まることが判った。また、arf15 系統は、籾千粒重と草丈が野生型植物よりも減少した。さらに、暗所老化誘導試験を行なったところ、RNAi系統とarf15 系統は暗所で誘発される葉の黄変が加速されたのに対し、OE系統の葉身は緑色のままであった。これらの結果から、TaARF15-A1 は齢依存性および暗所誘発性の両方の葉の老化を負に制御していることが示唆される。野生型植物とOE系統のRNA-seq解析から、TaARF15-A1は、老化促進プロセスに関連する遺伝子を負に、老化遅延遺伝子を正に調節することで、葉の老化を遅延させることが判った。老化促進に関連するNACファミリー転写因子遺伝子TaNAM-1 の発現量は、調査したほぼ全てのステージにおいてOE系統では減少し、RNAi系統とarf15 系統では増加していた。また、TaARF15-A1はTaNAM-1 ホモログ遺伝子(TaNAM-A1 、TaNAM-D1 )のプロモーター領域に直接結合することが確認された。葉の老化は、アブシジン酸(ABA)、ジャスモン酸(JA)、エチレン、サリチル酸、ストリゴラクトンによって促進され、ジベレリン(GA)、サイトカイニンによって抑制される。TaARF15 と植物ホルモンとの関係を調査したところ、TaARF15 の発現はサイトカイニン(6-BA)やGA処理後に増加したが、ABAやJA(MeJA)処理後に減少し、特にMeJA処理後の減少は継続することか判った。そこで、JAシグナル伝達に関与しているTaMYC2との関係を調査したところ、TaMYC2とTaARF15-A1は生体内で相互作用をすることが確認された。また、4倍体デュラムコムギ(Triticum turgidum L.)のmyc2 変異体(ttmyc2-a1 、 ttmyc2-b1 )およびコムギtamyc2-d1 変異体は、植物体の老化や成熟が遅延することが判った。したがって、TaMYC2は葉の老化の正の制御因子として機能しているものと思われる。TaNAM-1 ホモログ遺伝子のプロモーター領域にはTaMYC2がターゲットとするG-box-likeモチーフ(CACGCG)が存在し、TaMYC2はTaNAM-1 ホモログ遺伝子のプロモーター領域に直接結合して発現を活性化すること、TaARF15-A1はTaMYC2によるTaNAM-1 の活性化を抑制することで、TaNAM-1 の転写を抑制し、葉の老化を負に制御していることが判った。世界のコムギコレクションからTaARF15-A1 の自然変異を検出するため、遺伝的多様性の高い代表的な32品種について、ATG上流-2kbから停止コドンまでの塩基変異を解析した。その結果、合計20カ所の変異部位が同定された。これらの変異は2つのハプロタイプを形成しており、それぞれをTaARF15-A1-HapI 、TaARF15-A1-HapII と命名した。中国の在来種157品種と現代品種348品種についてTaARF15-A1 のハプロタイプと農業形質を調査したところ、TaARF15-A1-HapI を保有する品種はTaARF15-A1-HapII を保有する品種よりも成熟が早いことが判った。TaARF15-A1 の平均発現量は、TaARF15-A1-HapI 系統ではTaARF15-A1-HapII 系統に比べ有意に低いことから、TaARF15-A1 プロモーター領域の変異がハプロタイプの表現型と密接に関連していると思われる。中国のコムギ栽培地域での在来種と現代品種におけるハプロタイプの地理的分布を見たところ、在来種ではTaARF15-A1-HapII が優勢であったが、現代品種では、中国の南部3地域の冬コムギを除いて、TaARF15-A1-HapI の頻度が高かった。しかし、ヨーロッパの現代品種では、ほとんどの国でTaARF15-A1-HapII が優勢であり、TaARF15-A1-HapI は主にイタリア、旧ユーゴスラビア、ブルガリアの品種などの南ヨーロッパの品種に見られた。一方で、世界的には、TaARF15-A1-HapI はオーストラリア、中国、旧ソビエト連邦、国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)の近代的な品種に主に存在していた。よって、TaARF15-A1-HapI が中国や世界のコムギ育種において選抜されてきたと思われる。以上の結果から、TaARF15-A1はコムギの老化の負の制御因子として機能しており、植物の老化を制御するオーキシンとジャスモン酸のシグナル伝達経路のクロストークの役割を担っていると考えられる。