Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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植物観察)箱根

2023-03-30 20:59:46 | 植物観察記録

今日から箱根でのバイケイソウ観察を始めました。バイケイソウは草丈が40㎝程度に成長していました。今年は桜の開花が早かったので、バイケイソウの発芽・成長も例年より早めのようです。昨年花成した11個体の出芽した子ラメット数を見ると、1芽が3個体、3芽が1個体で、残り7個体は2芽出芽していました。花成後のクローン繁殖で約2倍個体数が増加する勘定です。箱根の調査地では2020年に一斉開花が起こり、非常に多くの個体が花成しましたが、その後花成個体数は減少し、2022年は花成個体数が少ない年でした。調査地の一斉開花周期(要因)はまだつかめていませんので、もう数年は調査が必要です。

 

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論文)イネ概日時計因子Nhd1によるC-Nバランスの調節

2023-03-26 10:05:44 | 読んだ論文備忘録

Rice circadian clock regulator Nhd1 controls the expression of the sucrose transporter gene OsSUT1 and impacts carbon–nitrogen balance
Li et al.  Journal of Experimental Botany (2023) 74:1460-1474.

doi:10.1093/jxb/erac494

植物の炭素代謝と窒素利用は密接に関連し、概日時計の影響を受けている。イネN-mediated heading date-1(Nhd1)は、シロイヌナズナCircadian clock associated-1(CCA1)/Late elongated hypocotyl(LHY)ホモログの概日時計タンパク質で、成長期間中の窒素の取り込みと同化を制御する機能を持つ。しかしながら、Nhd1が炭素代謝に影響しているかは明らかとなっていない。中国 南京農業大学のXu らは、nhd1 変異体の葉身のショ糖濃度は野生型と同等であるが、葉鞘のショ糖濃度は野生型と比較して約22%減少していることを見出した。この結果は、nhd1 変異体では葉身から葉鞘へのショ糖輸送が抑制されていることを示している。また、nhd1 変異体は光合成速度とクロロフィル含量が低下していた。nhd1 変異体は全窒素濃度が減少しているが、全炭素濃度に大きな変化は見られなかった。したがって、nhd1 変異体はC/N比が野生型植物よりも有意に高く、ショ糖輸送が抑制されているためにソース器官の炭素蓄積量が相対的に高くなっている。Nhd1によるC-Nバランスの制御を分子レベルで解析するために、野生型植物とnhd1 変異体のトランスクリプトーム解析を行なった。その結果、nhd1 変異は、概日時計遺伝子に加えて、デンプン、ショ糖、アミノ酸の代謝に関わる遺伝子の発現量にも影響していることが判った。これらの結果は、Nhd1がイネの炭素と窒素の両方の代謝を制御していることを示唆している。炭素および窒素の代謝に関わる鍵酵素の発現量を見たところ、nhd1 変異はカルビン回路やTCA回路の酵素遺伝子の発現量に大きな変化を与えてはいなかった。一方で、nhd1 変異は、光呼吸によって放出されたアンモニアを再同化するためのプラスチド局在グルタミン合成酵素(GS)のGS2 やNAD(P)H依存性の硝酸還元酵素NR2 の発現を抑制し、根から獲得した硝酸塩やアンモニウムの一次同化とタンパク質分解によって放出されたアンモニアの再同化を行う細胞質GSのGS1;1 および葉の老化期に維管束における窒素再利用に働くFd-GOGAT の発現を促進していた。そこで、nhd1 変異体地上部の遊離アミノ酸や有機酸を測定したところ、リジン、アルギニン、スレオニン、γ-アミノ酪酸、セリン、アラニンの6種類の主要な遊離アミノ酸と総アミノ酸量が野生型植物よりも有意に高くなっていた。他にも、シュウ酸や酒石酸の量は比較的少なく、シキミ酸量が多くなっていた。これらの結果から、Nhd1はC-Nの代謝バランスを制御していると思われる。nhd1 変異体では葉身と葉鞘のショ糖分布に変化が生じているので、ショ糖トランスポーターの発現に変化がないかを調査した。その結果、nhd1 変異体ではOsSUT1 の発現量が大きく減少していることが判った。OsSUT1 遺伝子のプロモーター領域にはNhd1結合配列(AAA/CAACT)が見られ、Nhd1はこの配列に結合して直接OsSUT1 の発現を活性化することが確認された。nhd1 変異体では日中のOsSUT1 発現量が低下していたが、発現は依然として周期変動をを保っていた。ossut1 変異体は、nhd1 変異体と同様に、草丈が低く、バイオマスが少なく、葉鞘のショ糖濃度が低下していた。しかしながら、光合成速度やクロロフィル含量に有意な変化は見られなかった。nhd1 変異体でOsSUT1 を過剰発現させると、ショ糖輸送の欠陥は回復したが、草丈やバイオマス減少の表現型は部分的に回復しただけであった。以上の結果から、Nhd1は、窒素の取り込みと同化を制御する因子として働くだけでなく、OsSUT1 の発現を活性化することでショ糖輸送を制御し、イネのC-Nバランスに影響を与えていると考えられる。

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論文)アブシジン酸によるイネの根の伸長阻害の分子機構

2023-03-23 13:15:06 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid promotes auxin biosynthesis to inhibit primary root elongation in rice
Qin et al.  Plant Physiology (2023) 191:1953-1967.

doi:10.1093/plphys/kiac586

根の成長は様々な要因の影響を受けている。土壌の圧縮は、根の成長や資源獲得にとって大きな制約となり、作物の収量を減少させる。中国農業科学院 生物技術研究所のHuang らは、イネ幼苗を圧縮土壌で育成すると、非圧縮状態で生育した幼苗と比較して、根の分裂組織の大きさ(約13%)、分裂領域の細胞数(約15%)、成熟領域の細胞長(約21%)が著しく減少し、根径(約19%)が増加することを見出した。このことは、土壌圧縮が根の伸長抑制と根の膨張促進という二相性の効果を持つこと、土壌圧縮による根の伸長抑制は、分裂組織の細胞分裂と成熟領域の細胞伸長の減少に起因することを示している。根の成長はアブシジン酸(ABA)によって阻害されることから、幼苗をABA処理したところ、根長(約33%)、分裂組織サイズ(約26%)、分裂領域細胞数(約20%)、成熟領域細胞長(約33%)が減少し、根径(約27%)が増加し、圧縮土壌での成長を再現していることがわかった。さらに、イネABA生合成変異体mhz5 は、圧縮土壌で栽培した場合の根の伸長抑制が野生型よりも小さいことがわかった。これらの結果から、ABAが土壌の圧縮条件に応じた根の成長に必要であることが示唆される。根の成長においてオーキシンが重要な役割果たしていることから、オーキシンレポーターDR5-GUS を導入したイネ幼苗をABA処理したところ、分裂領域、伸長領域、分化領域のGUS活性が上昇した。これに対応して、ABA処理後にオーキシン生合成遺伝子の発現およびIAA含量が増加したことから、ABAはオーキシン生合成遺伝子の発現を活性化することにより、根にオーキシンの蓄積を誘導することが示唆される。ABAによる根の伸長阻害は、オーキシン生合成阻害剤(yucasin、L-Kyn)処理によって回復すること、オーキシン生合成変異体(taa1rein7-1 )はABAに対する感受性が低下していることから、ABAは、局所的なオーキシン生合成に依って根の伸長を抑制し、根の膨張を促進していることが示唆される。オーキシン生合成変異体の根は、圧縮土壌条件下で生育しても根の長さが有意に減少しなかったことから、オーキシンは土壌圧縮時に根の成長応答を引き起こすのに重要であると考えられる。さらに、圧縮土壌で生育した野生型の根では、オーキシン生合成遺伝子の発現量やIAA含量が増加したが、mhz5 変異体の根ではこの傾向が弱まっていた。これらの結果から、土壌圧縮条件下でのABAを介した根の成長にはオーキシンが必要だと考えられる。ABAシグナルによる遺伝子発現制御には、bZIP型転写因子が関与しており、OsbZIP46はイネのABAシグナル伝達と乾燥耐性の制御因子であることが知られている。そこで、CRISPR–Cas9で作出したosbzip46 変異体、OsbZIP46CaMV35S プロモーターで過剰発現させた系統の根の成長を観察した。ABA非存在下では、osbzip46 変異体および過剰発現系統の根の長さは野生型と同程度であったが、ABA処理後、osbzip46 変異体は根の直径の増加率が野生型の根よりも低く、過剰発現系統は分裂組織の大きさと分裂領域細胞数が野生型の根よりも大きく減少し、根の直径は増加した。これらの結果から、OsbZIP46が根のABA応答を積極的に制御し、根の分裂を抑制して根の直径を増加させていると考えられる。これまでの研究で、野生型OsbZIP46には転写活性がなく、OsbZIP46のDドメインを欠失させると恒常的な転写活性が生じることが明らかになっている。そこで、ドメインDを欠失させた恒常的活性型のOsbZIP46-CA1 を過剰発現させたイネのABA感受性を調査した。その結果、OsbZIP46-CA1 過剰発現イネ幼苗の根は、通常条件下で野生型の根より有意に短く、ABA処理に対する感受性は増加していることが判った。よって、OsbZIP46は根の伸長制御においてABAシグナル伝達の正の制御因子として機能していることが示唆される。osbzip46 変異体幼苗は、土壌圧縮での根の伸長抑制の表現型が穏やかで、OsbZIP46 およびOsbZIP46-CA1 の過剰発現系統ではより顕著な表現型を示した。このことから、土壌圧縮による根の成長阻害の制御にOsbZIP46を介した経路が一部必要であると考えられる。OsbZIP46がオーキシン生合成を制御しているかを調査した結果、OsbZIP46は、OsYUCCA8OsYUC8 )/rice ethylene-insensitive 7REIN7 )遺伝子のプロモーター領域に直接結合して発現を活性化することが確認された。OsbZIP46OsYUC8/REIN7 の関係を調査するために変異体を用いて解析を行なったところ、rein7-1 変異体、bzip46-1 変異体、rein7-1 bzip46-1 二重変異体は、ABA未処理下での根の長さ、ABAに対する感受性低下が同等であることがわかった。また、rein7-1 変異体およびOsbZIP46 を過剰発現させたrein7-1 変異体は、野生型および OsbZIP46 過剰発現系統よりもABA処理による根の伸長抑制の程度が少なく、分裂組織が大きく、細胞数が多く、根径が小さかった。これらの結果から、OsYUC8/REIN7 は、ABAを介した根の成長制御においてOsbZIP46 の下流で作用していることが示唆される。以上の結果から、ABAはオーキシンを下流シグナルとして、土壌圧縮に応答して根の伸長を抑制し、根の膨張を促進していると考えられる。ABAシグナル伝達の転写因子OsbZIP46は、オーキシン生合成遺伝子OsYUC8/REIN7 の発現を直接活性化することで、ABAとオーキシンのクロストークの交点として機能していると考えられる。

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論文)アンキリンリピートタンパク質によるコムギ分けつ数の制御

2023-03-20 10:08:29 | 読んだ論文備忘録

Tiller Number1 encodes an ankyrin repeat protein that controls tillering in bread wheat
Dong et al.  Nature Communications (2023) 14:836.

doi:10.1038/s41467-023-36271-z

中国農業科学院 作物科学研究所のLiu らは、コムギ品種Yanzhan4110(YZ4110)のEMS処理変異体集団から、分けつ数の少ないtiller number1tn1 )変異体を単離した。YZ4110は登熟期に15本以上の分けつを生じるが、tn1 変異体では1~4本しか発達しなかった。また、tn1 変異体の草丈、穂長、小穂数、1穂あたりの穀粒数は、YZ4110と比較して有意に低い値であった。解剖学的および組織学的観察の結果、tn1 変異体でも分けつ芽が形成されるが、そのほとんどはその後の伸長が見られないことが判った。したがって、tn1 変異体の低分けつ表現型は、分けつ芽の成長が抑制されていることに起因すると考えられる。tn1 変異体とYZ4110との交雑後代の解析から、tn1 変異体の低分けつ表現型は、1つの劣性遺伝子によって制御されていることが示された。マップベースクローニングから、TraesCS6B02G013100 の第1エクソンにおいて、tn1 変異体とYZ4110との間に2つのSNP(SNPG373AおよびSNPG392A)を検出し、この2つのSNPと低分けつ表現型は共分離していた。この塩基置換によって、Ala-125-ThrおよびSer-131-Asnのアミノ酸置換が生じることが判った。TraesCS6B02G013100 は、9つのANKドメインと4つの膜貫通ドメインを含むアンキリンリピート(ANK)ファミリータンパク質をコードしており、2つのSNPは、3番目のANKモチーフをコードする領域に位置していた。tn1 変異を導入したコムギ品種Fieldertn1TraesCS6B02G013100 ゲノム断片を導入すると、低分けつ表現型が回復した。TraesCS6B02G013100 に1つのSNPのみを含んだゲノム断片コンストラクトをFieldertn1 に導入したところ、SNPG392Aを含むコンストラクトは低分けつ性を回復させたが、SNPG373Aを含むコンストラクトでは回復が見られなかった。また、CRISPR/Cas9で作出したTraesCS6B02G013100 のノックアウト変異体は、tn1 変異体と同じように分けつ数が減少した。これらの結果から、TraesCS6B02G013100TN1 遺伝子であり、SNPG373Aが低分けつ表現型を引き起こすこと考えられる。TN1 は、主に茎頂分裂組織と分けつ芽分裂組織で発現し、TN1は膜局在タンパク質であることが確認された。コムギゲノムにはTN1 と類似性が高い3種類のANKタンパク質遺伝子があり、このうちTraesCS6B02G437600TN1-like-6BL )が系統樹上でTN1 と同じクレイドに属していた。しかしながら、TN1-like-6BL はシュート基部や分けつ芽ではほとんど発現しておらず、TN1 が分けつ発達の制御において重要であると考えられる。コムギ遺伝資源の解析でTN1 遺伝子に多型は見出されなかったことから、TN1 の機能はコムギの分けつ数を適切に維持するために必要である可能性が示唆される。TN1による分けつの制御を分子レベルで解析するために、YZ4110とtn1 変異体のシュート基部と分けつ芽を用いたトランスクリプトーム解析を行なった。その結果、YZ4110とtn1 変異体の間で、シュート基部と分けつ芽においてそれぞれ5372個と4672個の発現差のある遺伝子が同定された。シュート基部と分けつ芽に共通する1876個のDEGについて遺伝子オントロジー(GO)解析を行ったところ、植物ホルモンを介したシグナル伝達経路、植物ホルモン代謝/生合成過程、シュート発達、アブシジン酸(ABA)への応答、ABA酸代謝過程にに関与する遺伝子に富んでいることがわかった。一方で、植物の分けつや分枝を制御しているTB1/BRC 遺伝子のコムギホモログTaTB1 の発現量はYZ4110とtn1 変異体の間で差異は見られなかった。DEGとしてABAの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子が見られ、RT-qPCR解析の結果、tn1 変異体ではABA生合成遺伝子のTaNCED3-5BTaNCED3-5D の転写産物量が野生型植物に対して有意に高いことが確認された。さらに、PYR-LIKEPYL )、PROTEIN PHOSPHATASE 2CPP2C )、SNF1-REGULATED PROTEIN KINASE2SnRK2 )などの多くのABAシグナル関連遺伝子も、tn1 変異体で著しく発現が上昇していた。また、TaNCED3 の転写を直接活性化する転写因子遺伝子のTabZIP-5A/5B/5D の発現量もtn1 変異体で高くなっていた。そこで、内生ABA量を調査したところ、tn1 変異体のABA量はYZ4110に比べてシュート基部で30%高く、分けつ芽では2倍程度高いことが判った。ABAは分けつや分枝の形成を阻害することが知られており、TaNCED3-5D を過剰発現させた形質転換コムギは分けつ数が減少した。また、YZ4110にABAを添加することで分けつの成長が抑制され、tn1 変異体にABA生合成阻害剤のタングステン酸ナトリウムを添加することで低分けつ表現型が部分的に回復した。CRISPR/Cas9でFieldertn1TaNCED3 遺伝子をノックアウトしたところ、ホモログ6遺伝子をノックアウトした変異体では分けつ数が部分的に回復した。これらの結果から、tn1 変異体の低分けつ表現型は、少なくとも部分的には、シュート基部と分けつ芽におけるABA量の増加によって引き起こされていると考えられる。さらに、TN1は細胞膜に局在するABA受容体のTaPYLと物理的に相互作用をするとことが確認され、この相互作用はTaPYLとTaPP2Cとの相互作用を阻害することが判った。したがって、TN1は、TaPYLとTaPP2Cの結合を阻害することによって、少なくとも部分的にABAシグナル伝達経路に関与している可能性がある。以上の結果から、TN1は、ABA生合成の抑制とTaPYLとTaPP2Cの結合を阻害することによるABAシグナルの抑制という二段階の分子機構により、少なくとも部分的にコムギの分けつを促進していると考えられる。TB1/BRC1タンパク質は、植物の分けつ・分枝を制御するために重要な役割を担っているが、tn1 変異体ではTaTB1 の発現パターンに影響がなかったことから、TN1はTB1経路とは独立してコムギ分けつを制御していることが示唆される。

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論文)植物科学論文の不均衡性

2023-03-17 23:21:01 | 読んだ論文備忘録

A critical analysis of plant science literature reveals ongoing inequities
Marks et al.  PNAS (2023) 120:e2217564120.

doi:10.1073/pnas.2217564120

植物科学の分野は過去20年で飛躍的に成長したが、研究における世界的な格差や制度的不平等が根強く残っている。米国 ミシガン州立大学Marks らは、2000~2021年に発表された296,447件の植物科学論文を分析し、国、性別、植物分類の違いによる格差を定量化した。論文は、5大陸26カ国、21の異なる分野をカバーする127誌の植物科学雑誌から収集した。これらの論文の27%がヨーロッパ、18%が北アメリカ、37%がアジアを拠点とする著者が執筆したもので、残りの17%は、アフリカ、ラテンアメリカ、オセアニアの著者が発表した論文であった。各大陸では、米国、中国、西ヨーロッパが植物科学の中心地となっており、著者は研究活動の重要な拠点に集約されていた。各国の論文発表率は、国内総生産(GDP)および研究開発への投資と高い相関があった。過去20年間に発表された論文の61%は、高所得国の著者が執筆したもので、32%は中所得国の著者が執筆し、残りの7%は中低所得国の著者が執筆していた。低所得国の著者が執筆した論文は1%未満であった。過去20年間の論文発表数の変化を見ると、高所得国の論文数が比較的横ばいで推移しているのに対し、上位中所得国の論文数は20年間で10倍に増加していた。実際、2021年までに、高所得国の著者による論文よりも、高中所得国の著者による論文の方が多くなっている。しかし、この増加は主に中国が牽引しており、2020年には高所得国からの発表数の60%以上を占めている。インド、ブラジル、イラン、南アフリカ、メキシコ、アルゼンチンなどの他の新興国も、高中所得国の論文数の増加に顕著な貢献をしていた。論文の3分の2以上(71%)は、単一の国に拠点を置く著者によって書かれたもので、2国間の共同研究は22%、3国間の共同研究はわずか5%であった。国際的な共同研究が行われる場合、大陸内よりも大陸を越えて行われる傾向があり、ヨーロッパを拠点とする著者のみが、大陸内での共同研究の頻度が高かった。論文が掲載された雑誌の平均インパクトファクターは、サハラ以南のアフリカの著者による論文の2.92±0.017から北アメリカの4.06±0.011まで、大陸間で1ポイント強の幅が見られた。一方、インパクトファクターが同程度の雑誌に掲載されたにもかかわらず、南半球の論文は北半球の論文よりも引用回数が劇的に少なかった。著者名を男性と思われる名前、女性と思われる名前に分けることで、植物科学論文発表における男女差を見ると、男性著者が率いる論文の方が女性著者が率いる論文よりはるかに多いが、男女差の程度は大陸や国によってかなり異なっていた。論文発表率の高い20カ国のうち、最も男性著者に偏った国は、日本(女性14%)、インド(女性21%)、オランダ(女性23%)、スイス(女性24%)、イスラエル(女性25%)であった。一方、男性著者の偏りが少ない国は、ポーランド(女性61%)、アルゼンチン(女性57%)、イタリア(女性41%)、ブラジル(女性41%)、スペイン(女性38%)であった。大陸レベルでは、中南米とヨーロッパは女性著者が率いる論文の割合が最も高く、北アメリカ、アジア、オセアニアは女性著者の割合が最も低かった。女性著者の割合は時代とともに緩やかに増加してはいるが、男女比は世界の多くの地域で平等とは言い難い状況であった。最も研究された上位20種の植物はすべて、経済的に重要な作物種、または植物研究コミュニティによって開発されたモデル植物であった。モデル植物のシロイヌナズナは、過去20年間で圧倒的に研究が進んだ植物で、次に多いコムギ(Triticum aestivum )の4倍の頻度で研究論文に登場した。論文発表率の高い高所得国の多くは、シロイヌナズナ、穀物作物、野菜、果物、モデル植物に焦点を当てる傾向があった。一方、発表率が低い国の多くは、あまり知られていない種やマイナーな作物、地域的に重要な作物に焦点を当ていた。以上の結果から、植物科学分野の論文は、科学的知識と生物学的多様性の世界的価値を十分に享受できてない不均衡が生じていると考えられる。

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論文)CTR1はエチレン応答の正の制御因子としても機能する

2023-03-13 11:50:47 | 読んだ論文備忘録

Ethylene-triggered subcellular trafficking of CTR1 enhances the response to ethylene gas
Park et al.  Nature Communications (2023) 14:365.

doi:10.1038/s41467-023-35975-6

CONSTITUTIVE TRIPLE RESPONSE1(CTR1)タンパク質キナーゼは、エチレンシグナル伝達の負の制御因子として機能している。エチレン非存在下では、CTR1は小胞体に局在するエチレン受容体によって活性化され、小胞体膜に局在するETHYLENE INSENSITIVE 2(EIN2)をリン酸化する。受容体がエチレンに応答するとCTR1は不活性化され、EIN2のリン酸化が減少して蓄積量が増加する。その後、EIN2のC末端ドメイン(EIN2-CEND)が切断されて核内に移動し、エチレンシグナル伝達の中心的な転写因子であるETHYLENE INSENSITIVE 3(EIN3)およびEIN3-like(EIL)を間接的に活性化する。米国 パデュー大学Yoon らは、シロイヌナズナ芽生えを暗所でエチレン曝露した後のCTR1の細胞内局在を調査し、CTR1はエチレン処理によって小胞体から核内へ移動することを見出した。また、CTR1の核内移動にEIN2やEIN3/EILは関与していないこと、エチレンを除去すると核内のCTR1は速やかに減少することが判った。CTR1はN末端ドメインを介してエチレン受容体と相互作用をしており、このドメインを欠いたCTR1(ΔNT-CTR1)は、恒常的に核内に局在した。しかし、エチレン受容体ETR1との相互作用が失われたctr1-8 (G354E)変異を有したCTR1-8タンパク質は、小胞体に局在し、エチレン処理をしても核内移動しなかった。一方で、5つあるエチレン受容体のうち3つが機能喪失したetr2-3 ers2-3 ein4-4 三重変異体ではCTR1は恒常的に核内に局在していた。これらの結果から、エチレン非存在下では、CTR1はエチレン受容体と直接相互作用して小胞体に留まり、核内移動が妨げられていると考えられる。キナーゼ活性が失われたCTR1-1変異タンパク質はエチレン処理によって核内移動した。CTR1には自己リン酸化するSer残基が4つ存在し、リン酸化はキナーゼ活性とホモ二量体形成にとって重要である。4つのSer残基のうち3つをAlaに置換したΔNT-CTR1AAAは、EIN2-CENDをリン酸化できず、ホモ二量体を形成しないが、恒常的に核内に局在していた。したがって、CTR1の核内移動には、キナーゼ活性と恐らくホモ二量体化は関与していないと考えられる。ctr1-1 変異体とctr1-8 変異体はどちらも恒常的エチレン応答性の表現型を示すが、CTR1-1タンパク質はエチレン処理によって核内移動し、CTR1-8タンパク質は小胞体に留まる。このことから、CTR1の核内移動は、一次的なエチレン応答を制御するのではなく、核内エチレンシグナルの微調整を行なうことでエチレン応答速度に影響を与える可能性があると考えられる。シロイヌナズナ胚軸のエチレンによる成長阻害には2つのフェーズがあり、フェーズⅠはエチレン処理後10分で始まり、成長速度が急激に減速する。成長速度が一時的(15分)に停滞した後、フェーズⅡの成長抑制が起こり、成長速度が新たに低い定常状態に達するまで30分間程さらなる成長抑制が継続する。そして、EIN2は両フェーズの成長抑制に関与しており、EIN3/EILはフェーズⅡのみに関与している。興味深いことに、フェーズⅡでエチレンを除去すると、胚軸の成長は90分以内に処理前の成長速度まで急速に回復する。これは、エチレン応答を急速に遮断する機構の存在を示している。CTR1の核内局在がエチレンによる成長阻害やエチレン除去による成長回復に関与しているかを調査した結果、ΔNT-CTR1、ΔNT-CTR1-1は共に野生型CTR1と比較してエチレン除去後の成長回復が遅いことが判った。これらの結果から、核内に局在するCTR1はエチレン除去後の芽生えの成長回復を遅延させており、CTR1は核でのエチレン応答を正に制御していることが示唆される。これはCTR1が核内でEIN3の機能を調節しているのではないかと考え、CTR1とエチレンシグナル伝達に関与する因子との相互作用を調査した。その結果、ΔNT-CTR1、ΔNT-CTR1-1は、EIN2-CENDや、EIN3をターゲットとしているF-boxタンパク質のEIN3-BINDING F-box 1(EFB1)、EFB2と相互作用をし、EIN3とはしないことが判った。エチレンはEIN3を安定化するが、ΔNT-CTR1‐1はこの安定化をさらに高め、エチレン除去後も安定性が持続した。CTR1はEFB2をリン酸化しないので、CTR1のキナーゼ活性は、CTR1の核内移動とEIN3タンパク質の安定性の調節には関与していない。これらの結果から、CTR1は核に移動した後、EBFと直接相互作用し、EBFを介したEIN3の分解を阻害していると考えられる。CTR1の核内局在量が増加すると、EIN3タンパク質を安定化させることでエチレンシグナルを強化し、塩、乾燥といった外来ストレスに対する耐性が向上することが判った。以上の結果から、エチレンシグナルの負の制御因子であるCTR1は、受容体がエチレンを感知すると核内に移動し、エチレン応答の正の制御因子としても機能することが判った。CTR1の核内移動はEIN2を必要としないが、核内に入るとEIN3を安定化させてEIN2非依存的にエチレンシグナルを活性化している。CTR1を介した核でのエチレン応答の活性化は、植物が負の制御因子を正の制御因子に変えることでエチレン応答を最大化し、ストレスへの迅速な適応を可能にする巧妙な仕組みであると考えられる。

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論文)長鎖非コード内因性アンチセンスRNAによる葉の大きさの制御

2023-03-08 10:30:52 | 読んだ論文備忘録

Altered expression levels of long non-coding natural antisense transcripts overlapping the UGT73C6 gene affect rosette size in Arabidopsis thaliana
Meena et al.  Plant Journal (2023) 113:460-477.

doi: 10.1111/tpj.16058

長鎖非コード内因性アンチセンスRNA(lncNAT)は、タンパク質コード遺伝子のアンチセンスDNA鎖から生成され、少なくとも1つのコード領域のエクソンを含んでいる転写物で、遺伝子発現の制御に関与し、様々な発生過程や刺激に対する応答を調節していることが知られている。ドイツ ライプニッツ植物生化学研究所Gago-Zachert らは、シロイヌナズナTAIR10データベースから、ウリジン二リン酸(UDP)グリコシルトランフェラーゼをコードするUGT73C6 遺伝子と重複している2つの内因性アンチセンス転写産物At2g36792.1At2g36792.2 を見出し、それぞれをNAT1UGT73C6NAT2UGT73C6 と命名した。これらには幾つかのORFが存在するが、翻訳されるペプチドがデータベースに見られないことからlncNATと判断した。両者のプロモーター領域にGUS 遺伝子を接続して芽生えでの発現パターン見ると、NAT1UGT73C6 は根でのみ発現していたが、NAT2UGT73C6 は地上器官、特に若葉で発現が検出された。両者のプロモーター配列は3’末端の526 bpを除いて完全に重なっていることから、3’末端領域に存在するモチーフが、発現部位の特異性に関与していると思われる。センス遺伝子のUGT73C6 は根と子葉で発現し、UGT73C6 の隣に位置するホモログ遺伝子UGT73C5 は子葉と根で発現しており、どちらも若い発達中の葉では発現していなかった。解析の結果、NATUGT73C6 遺伝子にはイントロンがあり転写産物は選択的スプライシングされること、転写産物は比較的高い安定性を示すことが判った。このことから、NATsUGT73C6 は転写後レベルで機能している可能性が示唆される。NATsUGT73C6 をターゲットとした人工マイクロRNA(amiRNA)を過剰発現させた形質転換体は、ロゼット葉が13~20%小さくなり、これは葉の細胞数が減少したことによるものであることが判った。また、NATsUGT73C6 を過剰発現させた形質転換体は葉のサイズが14~32%大きくなった。NATsUGT73C6 には4つのORFがあるが、これらはNATsUGT73C6 過剰発現形質転換体の表現型に関与しておらず、表現型はRNA分子そのものに関連する性質に依存していることが確認された。また、過剰発現形質転換体の葉の葉肉細胞や表皮細胞は野生型植物の細胞よりも有意に大きくなっていた。これらの結果かから、NATsUGT73C6 の発現量は細胞数を調節することで葉の大きさを調節し、一方で、細胞サイズの増加も表現型に寄与しているものと考えられる。NATsUGT73C6 の過剰発現は、UGT73C6UGT73C5 の転写産物量に影響してはいなかった。UGT73C6 はブラシノステロイド(BR)の制御に関与していることが報告されているので、BRとNATsUGT73C6 との関係を調査した。しかしながら、BR処理はNATsUGT73C6 転写物量に影響を与えず、BRマーカー遺伝子(ROTUNDIFOLIA3EXPANSIN 8 )の発現はNATsUGT73C6 発現量の変化に伴って変化することはなかった。したがって、NATsUGT73C6 発現量の変化による表現型の変化にBRは関与していないと考えられる。NAT2UGT73C6 は若い葉の基部で発現し、葉が発達するにつれて発現量は減少していく。この発現パターンは、シロイヌナズナの葉の成長を制御しているGROWTH REGULATORY FACTORGRF )ファミリー遺伝子の発現パターンと類似している。GRFは転写コアクティベーターのANGUSTIFOLIA 3/GRFINTERACTING FACTOR 1(AN3/GIF1)とモジュールを形成し、葉の細胞増殖を調節することで葉の成長を制御している。また、幾つかのGRF 遺伝子はmiR396による転写後制御を受けている。NATsUGT73C6 の塩基配列を調査したところ、miR396の結合部位が確認されたことから、NATsUGT73C6 転写産物が内因性の標的模倣物として機能する可能性があると考え、GRFGIF1 の転写産物量とNATsUGT73C6 発現量との関係を調査した。その結果、NAT2UGT73C6 過剰発現系統では、GRF469 を含む幾つかのGRFGIF1 の転写産物量が増加し、amiRNAによってNATsUGT73C6 が減少した系統では、葉の基部でGRF6 転写物量が有意に減少していることが判った。これらの結果から、NATsUGT73C6GIF1GRF 転写産物量を調節して細胞増殖に影響を与え、葉の大きさを変化させることが示唆される。以上の結果から、NATsUGT73C6 は、葉の細胞増殖の制御に関与するGRF-GIFモジュール遺伝子の転写産物量を調節することにより、センス遺伝子から独立してトランス的に機能を発揮して、葉の成長に影響を与えていると考えられる。

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論文) AUXIN RESPONSE FACTORによるコムギの老化制御

2023-03-02 10:25:38 | 読んだ論文備忘録

The auxin response factor TaARF15-A1 negatively regulates senescence in common wheat (Triticum aestivum L.)
Li et al.  Plant Physiology (2023) 191:1254-1271.

doi:10.1093/plphys/kiac497

News and Views
Wheat AUXIN RESPONSE FACTOR 15 delays senescence through competitive interaction at the TaNAM1 locus
G. Alex Mason  Plant Physiology (2023) 191:834-836.

doi:10.1093/plphys/kiac535

コムギ(Triticum aestivum L.)にはauxin response factor(ARF)をコードする遺伝子が69個あり、その多くは機能が明らかとなっていない。中国農業科学院 作物科学研究所のZhang らは、コムギ実生をオーキシン処理するとTaARF15 の発現量が3時間で5倍増加することを見出した。TaARF15 遺伝子には3つのホモログがあり、6A、6B、6D染色体に局在している。何れの遺伝子も様々な組織で恒常的に発現し、特に茎と若い穂での発現量が高い。TaARF15-A1は、核に局在し、転写活性化因子として機能することが確認された。TaARF15の生物学的機能を解析するために、TaARF15-A1 過剰発現(OE)系統、RNAi発現抑制系統、CRIPR-Cas9ノックアウト(arf15 )系統を作出し、表現型を観察した。その結果、野生型植物と比較して、OE系統は植物全体、止葉、穂の老化と、穀粒の成熟が遅延し、RNAi系統とarf15 系統は老化と成熟が早まることが判った。また、arf15 系統は、籾千粒重と草丈が野生型植物よりも減少した。さらに、暗所老化誘導試験を行なったところ、RNAi系統とarf15 系統は暗所で誘発される葉の黄変が加速されたのに対し、OE系統の葉身は緑色のままであった。これらの結果から、TaARF15-A1 は齢依存性および暗所誘発性の両方の葉の老化を負に制御していることが示唆される。野生型植物とOE系統のRNA-seq解析から、TaARF15-A1は、老化促進プロセスに関連する遺伝子を負に、老化遅延遺伝子を正に調節することで、葉の老化を遅延させることが判った。老化促進に関連するNACファミリー転写因子遺伝子TaNAM-1 の発現量は、調査したほぼ全てのステージにおいてOE系統では減少し、RNAi系統とarf15 系統では増加していた。また、TaARF15-A1はTaNAM-1  ホモログ遺伝子(TaNAM-A1TaNAM-D1 )のプロモーター領域に直接結合することが確認された。葉の老化は、アブシジン酸(ABA)、ジャスモン酸(JA)、エチレン、サリチル酸、ストリゴラクトンによって促進され、ジベレリン(GA)、サイトカイニンによって抑制される。TaARF15 と植物ホルモンとの関係を調査したところ、TaARF15 の発現はサイトカイニン(6-BA)やGA処理後に増加したが、ABAやJA(MeJA)処理後に減少し、特にMeJA処理後の減少は継続することか判った。そこで、JAシグナル伝達に関与しているTaMYC2との関係を調査したところ、TaMYC2とTaARF15-A1は生体内で相互作用をすることが確認された。また、4倍体デュラムコムギ(Triticum turgidum L.)のmyc2 変異体(ttmyc2-a1ttmyc2-b1 )およびコムギtamyc2-d1 変異体は、植物体の老化や成熟が遅延することが判った。したがって、TaMYC2は葉の老化の正の制御因子として機能しているものと思われる。TaNAM-1 ホモログ遺伝子のプロモーター領域にはTaMYC2がターゲットとするG-box-likeモチーフ(CACGCG)が存在し、TaMYC2はTaNAM-1 ホモログ遺伝子のプロモーター領域に直接結合して発現を活性化すること、TaARF15-A1はTaMYC2によるTaNAM-1 の活性化を抑制することで、TaNAM-1 の転写を抑制し、葉の老化を負に制御していることが判った。世界のコムギコレクションからTaARF15-A1 の自然変異を検出するため、遺伝的多様性の高い代表的な32品種について、ATG上流-2kbから停止コドンまでの塩基変異を解析した。その結果、合計20カ所の変異部位が同定された。これらの変異は2つのハプロタイプを形成しており、それぞれをTaARF15-A1-HapITaARF15-A1-HapII と命名した。中国の在来種157品種と現代品種348品種についてTaARF15-A1 のハプロタイプと農業形質を調査したところ、TaARF15-A1-HapI を保有する品種はTaARF15-A1-HapII を保有する品種よりも成熟が早いことが判った。TaARF15-A1 の平均発現量は、TaARF15-A1-HapI 系統ではTaARF15-A1-HapII 系統に比べ有意に低いことから、TaARF15-A1 プロモーター領域の変異がハプロタイプの表現型と密接に関連していると思われる。中国のコムギ栽培地域での在来種と現代品種におけるハプロタイプの地理的分布を見たところ、在来種ではTaARF15-A1-HapII が優勢であったが、現代品種では、中国の南部3地域の冬コムギを除いて、TaARF15-A1-HapI の頻度が高かった。しかし、ヨーロッパの現代品種では、ほとんどの国でTaARF15-A1-HapII が優勢であり、TaARF15-A1-HapI は主にイタリア、旧ユーゴスラビア、ブルガリアの品種などの南ヨーロッパの品種に見られた。一方で、世界的には、TaARF15-A1-HapI はオーストラリア、中国、旧ソビエト連邦、国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)の近代的な品種に主に存在していた。よって、TaARF15-A1-HapI が中国や世界のコムギ育種において選抜されてきたと思われる。以上の結果から、TaARF15-A1はコムギの老化の負の制御因子として機能しており、植物の老化を制御するオーキシンとジャスモン酸のシグナル伝達経路のクロストークの役割を担っていると考えられる。

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