Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)腋芽成長におけるサイトカイニンの役割

2015-06-28 08:46:09 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin is required for escape but not release from auxin mediated apical dominance
Müller et al.  The Plant Journal (2015) 82:874-886.

doi: 10.1111/tpj.12862

腋芽の成長はサイトカイニンによって促進され、サイトカイニンの生合成はオーキシンによって阻害されることから、摘心によって頂芽優勢から解放されると腋芽へのサイトカイニン供給が増加し、腋芽の成長が始まると考えられている。腋芽の成長過程におけるサイトカイニンの作用を遺伝子レベルで解析するために、英国 ケンブリッジ大学Leyser らは、シロイヌナズナにおけるサイトカイニン生合成とシュート分枝の関係を調査した。シロイヌナズナにはサイトカイニン生合成の初期課程を触媒するイソペンテニルトランスフェラーゼ(IPT)をコードする遺伝子が9つあり、このうちIPT1IPT3IPT5IPT7 は根と栄養成長期のシュートで発現していることから、シュート分枝に関与していることが推測される。そこで、単離二節系を用いて、これら4遺伝子の発現を解析した。その結果、摘心によってIPT3 遺伝子の発現量が8倍に増加し、他のIPT 遺伝子は発現量が殆ど変化していないことがわかった。次にこれらIPT 遺伝子の機能喪失変異体の分枝形成を観察したところ、4つのIPT 遺伝子の単独変異体は分枝が有意に減少し、ipt1,3,5,7 四重変異体は分枝が形成されなかった。ipt3,5,7 三重変異体と野生型との間の接木試験から、野生型の台木(根)もしくは穂木(シュート)に変異体を接ぐことで野生型と同等に分枝することがわかった。よって、根で生産されたサイトカイニンは変異体穂木のサイトカイニン生合成の低下を相補し、植物体の全体で生産されたサイトカイニンが分枝形成に貢献していることが示唆される。摘心後の分枝形成数を見たところ、4つのIPT 遺伝子の単独変異体の分枝形成数は野生型と同等となり、ipt3,5,7 三重変異体やipt1,3,5,7 四重変異体の分枝形成数は減少した。ipt3,5,7 三重変異体やipt1,3,5,7 四重変異体では腋芽のない葉腋が多く見られることから、これらの変異体では腋芽の発達自体が低下していることにより摘心後の分枝形成数が減少していると考えられる。したがって、サイトカイニン生合成は無傷植物の分枝形成に必要であるが、摘心後の腋芽の活性化には必要ではないことが示唆される。野生型もipt3,5,7 三重変異体も摘心後に腋芽が成長し、摘心部にオーキシン(NAA)を与えると腋芽の成長が遅延するるが、腋芽の成長速度やオーキシン処理による成長遅延の程度は野生型とipt3,5,7 三重変異体の間で違いは見られなかった。よって、ipt3,5,7 三重変異体の腋芽は野生型と同じように成長し、オーキシンに対する応答性も示すことが示唆される。茎頂部から供給されるオーキシンによって成長が阻害されている腋芽でのサイトカイニンの効果を見るために、茎頂部からオーキシンを与えるのと同時に基部からサイトカイニン(BA)を与えて、腋芽の転写産物量の変化を包括的に解析した。オーキシンとサイトカイニンを同時処理した腋芽は、サイトカイニンオキシダーぜ(CKX5 )と芽の休眠関連遺伝子(DRM2 )の発現量が無処理の腋芽よりも高くなっていた。対照と比較してオーキシン供給によって発現量が減少し、オーキシンとサイトカイニンの同時処理によってオーキシン単独処理よりも発現量が増加する遺伝子は220あり、変化の大きい上位12遺伝子のうち11は、プロモーター領域にARR1 応答エレメント(AAGATT)を含んでいた。12遺伝子にはCKX5 および5つのタイプA ARR 遺伝子(ARR4ARR5ARR6ARR7ARR15 )が含まれていた。タイプA ARR 遺伝子が機能喪失したarr3,4,5,6,7,15 六重変異体は、ipt 変異体と同様に、無傷個体の分枝数が野生型よりも少なくなるが、摘心後の分枝形成数は野生型と同等であった。単離した節を用いた試験において、arr3,4,5,6,7,15 六重変異体の腋芽の成長速度や茎頂部オーキシン処理による腋芽成長阻害の程度は野生型と同等であったが、サイトカイニン同時添加による腋芽成長阻害の克服は六重変異体では低下していた。しかし、この時のサイトカイニン応答遺伝子の転写産物量は野生型と同じように増加していた。したがって、タイプA ARR 遺伝子はサイトカイニンによる腋芽の活性化には関与しているが、サイトカイニンに応答した転写の変化には関与していないことが示唆される。また、サイトカイニンは、オーキシンによる頂芽優勢からの開放に関与しているのではなく、茎頂部から供給されるオーキシンによる腋芽成長阻害を克服するように作用し、無傷植物の分枝を促進していると考えられる。腋芽の成長はサイトカイニンとストリゴラクトン(SL)の比によって制御されており、両者はオーキシンの影響を受けている。よって、低オーキシン条件でSLによる腋芽成長の阻害が見られないのは、サイトカイニン供給の増加がSLの効果を消しているとも考えられる。そこで、単離した節の基部から合成SLのGR24を与えてみたところ、野生型もarr3,4,5,6,7,15 六重変異体も同じように腋芽が成長した。したがって、これらの結果から、腋芽の活性化には茎頂部からのオーキシン供給が喪失すれば十分であり、SLの低下やサイトカイニンの増加は必要ではないことが示唆される。分枝形成は植物に供給される窒素量によっても変化し、高窒素条件で腋芽は活性化する。一方、窒素はサイトカイニン生合成を促進するので、高窒素条件での腋芽の活性化はサイトカイニンによって引き起こされているとも考えられる。そこで、窒素条件を変えてサイトカイニン変異体を育成し、分枝数を調査したところ、高窒素条件ではipt3,5,7 変異体、arr3,4,5,6,7,15 六重変異体の分枝数は野生型よりも少なく、低窒素条件では野生型と同等であった。したがって、サイトカイニンは低窒素条件での分枝には関与していないが、高窒素条件では分枝の増加にとって重要であることが示唆される。以上の結果から、サイトカイニンは、オーキシンによる腋芽成長抑制や頂芽優勢からの開放の際に作用しているというよりも、オーキシン存在下で頂芽優勢を回避して腋芽を活性化させる作用があると考えられる。

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論文)ストリゴラクトンによるイネの不定根形成制御

2015-06-19 20:33:08 | 読んだ論文備忘録

A strigolactone signal is required for adventitious root formation in rice
Sun et al.  Ann Bot (2015) 115:1155-1162.

doi: 10.1093/aob/mcv052

不定根の形成は植物ホルモンによる制御を受けており、その中でもオーキシンが重要な役割を演じている。ストリゴラクトン(SL)も不定根形成を制御しており、シロイヌナズナやエンドウのSL欠損変異体やSL非感受性変異体は不定根の発達が旺盛となることから、SLは不定根形成に対して抑制的に作用すると考えられている。しかしながら、単子葉植物のイネではSLが不定根の伸長に対して促進的に作用することが報告されている。中国 南京農業大学Zhang らは、イネのSL生合成変異体d10 とSLシグナル伝達変異体d3 は野生型よりも分けつあたりの不定根数が少なく、不定根長も短いことを見出した。イネの成長過程を追って調査すると、成長初期からd 変異体の不定根数は野生型よりも少ないが、d 変異体の分けつ数が増加する成長後期では不定根数は野生型よりも多くなっていた。よって、d 変異体成熟個体の全不定根数は野生型よりも多くなるが、d 変異体は分けつ数が増加するので、分けつあたりの不定根数は野生型の1/3となった。野生型イネに合成SLのGR24を与えても効果は見られないが、d10 変異体に与えると分けつあたりの不定根数が野生型と同等にまで回復した。d 変異体では苗のシュートと根の接続部の内生オーキシン(IAA)含量が野生型よりも高く、GR24処理をすることによって、d10 変異体の接続部のオーキシン含量はGR24処理をしていない野生型と同程度になった。よって、SLはイネのオーキシン極性輸送を阻害していることが示唆される。d 変異体の接続部ではオーキシン極性輸送に関与しているPINファミリータンパク質をコードする遺伝子の発現量が野生型よりも高く、PIN 遺伝子の発現は、GR24処理をすることで、野生型においてもd10 変異体においても減少した。したがって、SLはPIN 遺伝子の転写を調節することでオーキシン極性輸送を阻害していると考えられる。野生型イネに合成オーキシンのNAAを処理したところ、不定根数と分けつあたりの不定根数が増加したが、d 変異体では変化は見られなかった。オーキシン極性輸送の阻害剤のNPAを処理すると、野生型もd 変異体も不定根数が減少した。接続部でのオーキシンレポーターDR5::GUS のNAA処理やNPA処理による発現パターンの変化は、野生型とd 変異体との間で違いは見られなかったが、いずれの処理においても不定根数は常に野生型の方が多かった。よって、d 変異体におけるオーキシン含量の増加は、不定根形成の抑制とは関連していないことが示唆される。以上の結果から、イネにおいてストリゴラクトンはオーキシンの極性輸送を阻害することで不定根形成を制御していると考えられる。

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論文)インドール酢酸の非トリプトファン生合成経路

2015-06-11 05:31:55 | 読んだ論文備忘録

Tryptophan-independent auxin biosynthesis contributes to early embryogenesis in Arabidopsis
Wang et al.  PNAS (2015) 112:4821-4826.

doi:10.1073/pnas.1503998112

インドール-3-酢酸(IAA)はトリプトファン(Trp)から生合成される経路が広く知られている。一方、Trpを介さない経路(非トリプトファン経路)の存在も提唱されているが詳細は明らかとなっていない。中国科学院遺伝及び発育生物学研究所Li らは、細胞質に局在するインドールシンターゼ(INS)がTrpを介さないインドール化合物生合成に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。シロイヌナズナTrpシンターぜαサブユニット(TSA)の変異体trp3 およびTrpシンターぜβサブユニット(TSB)の変異体trp2 はTrp含量が低いが、INS のヌル変異体はTrp含量は正常であった。TSAとTSBは葉緑体に局在することから、クロロプラストトランジットペプチド(cTP)を付加したINS(cTP-INS)をtrp3 変異体で過剰発現させたところ、Trp含量が回復した。しかし、INSを過剰発現させたtrp3 変異体では回復の程度は部分的であった。よって、INSは細胞質でインドールを生産しており、葉緑体で発現させることによってTrp生合成経路に基質を供給しうることが示唆される。trp3 変異体、trp2 変異体は野生型よりもIAA含量が高いが、ins 変異体はIAA含量が減少していた。よって、INSはオーキシン生合成に関与していると考えられる。trp3 変異体をTrp処理すると、根端部でのオーキシンレポーターDR5:GUS の発現パターンや根の成長が野生型と同等となり、IAA蓄積量の野生型との差異が縮まった。一方、ins 変異体をTrp処理してもDR5:GUS の発現パターンは完全には回復せず、IAA蓄積量の増加は野生型よりも少なかった。アントラニル酸はTrp経路と非Trp経路の両方においてIAA生合成の基質となっている。芽生えを標識したアントラニル酸で処理し、その際にTrpを与えることで標識されるIAA量を比較したところ、野生型とins 変異体では標識IAA量が減少したが、trp3 変異体では減少は見られなかった。よって、ins 変異体では非Trp経路によるIAA生合成が欠失しており、trp3 変異体ではTrp経路によるIAA生合成が欠失していることが示唆される。ins 変異体の芽生えは高温(28 ℃)処理による胚軸伸長促進が低下しており、Trp経路においてIAA生合成に関与しているTAA1 のヌル変異wei8-1ins 変異体の伸長促進低下に対して相加的に作用した。したがって、高温による胚軸伸長制御においてINSとTAA1は並行して作用していると考えられ、INSは非Trp経路によるIAA生合成に関与していることが示唆される。ins 変異体の胚発生は初期の細胞分裂に異常が見られ、ins trp3 二重変異体は胚性致死となった。trp3 変異体やtrp2 変異体の胚発生は野生型と同等であった。ins 変異体の胚珠のIAA含量は野生型よりも低く、trp3 変異体ではやや高くなっていた。trp2 変異体はIAA含量が高く、ins trp2 二重変異体もIAA含量が高くなっていた。これはtrp2 変異によって葉緑体内に蓄積したインドールが細胞質へ拡散してins 変異を相補しているためだと思われる。INS は胚発生過程の初期の1細胞期から強い発現が見られたが、TSA は4細胞期以降から発現が見られるようになった。DR5:GFP の胚での発現パターンを見ると、trp3 変異体は野生型と同等であったが、胚の形態が異常なins 変異体では発現パターンが乱れ、ins trp3 変異体では発現が見られなかった。よって、非Trp経路によるIAA生合成は胚発生初期のオーキシンの重要な供給源として機能していると考えられる。Trp経路のIAA生合成に関与しているYUCCA(YUC)の二重変異体yuc4 yuc6 は、胚の形態に程度の軽い異常が見られ、ins yuc4 yuc6 三重変異体ではins 変異体よりも胚の形態異常やIAA含量の低下が悪化した。ins 変異体もyuc4 yuc6 二重変異体も分枝が増加するが、ins yuc4 yuc6 三重変異体では分枝数が相加的に増加した。よって、INSとYUC並行した独立の経路で胚発生や分枝を制御していると考えられる。以上の結果から、細胞質に局在するINSは非Trp経路によるIAA生合成の主要な構成要素であり、シロイヌナズナの胚発生初期過程パターン形成にとって重要であることが示唆される。

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植物観察)北海道バイケイソウ観察 野幌

2015-06-02 21:11:15 | 植物観察記録

今日は野幌森林公園でバイケイソウ花成個体調査を行ないました。ここでは、500m程の遊歩道の間で目視された花成個体数を数えており、2013年の一斉開花では410個体、昨年は2個体でしたが、今年は1個体を確認できただけとなりました。調査している遊歩道以外のエリアについても目視できる範囲で探したところ、5個体の花成個体を確認できました。したがって、今年の花成個体数も公園全域で非常に少なくなっていると言えます。バイケイソウは自家不和合性の植物なので、ポツンと1個体咲いても他家受粉は見込めないように思われます。これらの個体は稔実するのでしょうか。ちなみに、北大植物園の植栽バイケイソウも花成個体はありませんでした。

 

野幌森林公園の調査エリアではバイケイソウ花成個体は殆ど見られなかった

 

調査エリアで1株だけ見つけた花成個体。まだ開花していない

 

調査エリア外で見つけた花成個体の花。花序はそこそこ大きかった。

 

北大植物園のバイケイソウも花成していなかった。

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植物観察)北海道バイケイソウ観察 旭川

2015-06-01 21:03:26 | 植物観察記録

今日は旭川の調査地へ行きました。ここの調査エリアでは2013年の一斉開花の際に大量の花成個体(260個体程度)が見られたのですが、昨年は1個体も花成個体が確認されませんでした。今年も花成個体は無く、調査エリア以外のバイケイソウでも花成個体は見られませんでした。よって、この調査地全体で一斉開花後2年連続「花成個体なし」ということになります。一斉開花の前年(2012年)も花成個体が見られませんでしたので、このエリアでは一斉開花年以外の年はバイケイソウの花は咲いていないということになります。よって、バイケイソウの花成・未花成の同調性は非常に高いと思われ、何らかの要因が花成を強く制御していることが想像されます。

 

旭川の調査地ではバイケイソウ花成個体が1株も見られなかった。

 

バイケイソウは咲いていなかったけどランは咲いていました。サルメンエビネ

 

コケンラン

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