Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)緑の香りによるカルシウムシグナルの誘導

2024-01-31 12:58:55 | 読んだ論文備忘録

Green leaf volatile sensory calcium transduction in Arabidopsis
Aratani et al.  Nature Communications (2023) 14:6236.

doi:10.1038/s41467-023-41589-9

植物は、機械的にあるいは植食者によって傷害を受けた近隣植物が放出する揮発性有機化合物(VOC)や緑の香り(GLV)を感知し、様々な防御反応を引き起こす。このような植物間の情報伝達は、植物を環境の脅威から保護している。これまでの研究で、VOCの植物組織内への取込みに気孔が関与していること、ストレス応答のシグナル伝達において細胞質カルシウムイオン濃度([Ca2+]cyt)が重要な役割を果たしていることが知られており、トマトの葉においてGLV処理が[Ca2+]cytを増加させることが報告されている。しかしながら、無傷植物でGLVが誘導するCa2+シグナルをリアルタイムで観察することには技術的な制約があり、GLVの感知伝達の時空間ダイナミクスについてはほとんど知られていない。埼玉大学豊田らは、Ca2+の蛍光バイオセンサーGCaMP3を発現させた形質転換シロイヌナズナを用いて、傷害を受けた植物が放出するVOCに曝露した無傷植物の[Ca2+]cyt変化をリアルタイムで観察した。GCaMP3発現(受信)シロイヌナズナをハスモンヨトウ(Spodoptera litura)幼虫の食害を受けたシロイヌナズナNo-0系統が放出するVOCに曝したところ、Ca2+シグナルは20分以内に植物体全体に急速に伝達された。同様の結果は、食害を受けたトマトの葉が放出するVOCに曝露した場合にも得られた。さらに、磨砕したシロイヌナズナまたはトマトの葉が発するVOCを受信シロイヌナズナに近づけると、いくつかの葉で[Ca2+]cytの増加が観察され、トマト磨砕葉はシロイヌナズナ磨砕葉よりもシグナル変化が強く現れた。これらの結果から、シロイヌナズナやトマトの傷害葉が発するVOCは、近隣の無傷シロイヌナズナの[Ca2+]cyt変化を引き起こしていることが示唆される。[Ca2+]cyt変化を引き起こすVOCを同定するために、5種類のVOC、3種類のテルペン、メチルジャスモン酸による[Ca2+]cyt変化を経時的に測定した。その結果、GLVの (Z)-3-ヘキセナール(Z-3-HAL)と (E)-2-ヘキセナール(E-2-HAL)が急速な[Ca2+]cyt上昇を引き起こし、Z-3-HALが誘導するシグナル伝達はE-2-HALよりも速いことが判った。磨砕葉の発するVOCを測定したところ、トマト磨砕葉はシロイヌナズナ磨砕葉よりも多くのZ-3-HALとE-2-HALを含んでいた。また、GLV生合成の鍵酵素であるヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)をコードする遺伝子に欠損があるためにGLV生産量が少ないシロイヌナズナCol-0系統の磨砕葉が発するVOCは、Ca2+シグナルを誘導しなかった。これらの結果から、[Ca2+]cytの変化を誘導する植物間の空気中シグナル伝達は、HPLを介したGLV形成に依存していることが示唆される。Z-3-HAL、E-2-HALを曝露すると、葉の表面電位が急速に変化し、[Ca2+]cytの変化と時空間的に連関していたが、表面電位変化はCa2+シグナルの発生に先行していた。また、Z-3-HAL、E-2-HAL暴露によって、熱および酸化ストレス応答マーカー遺伝子のHSP90.1ZAT12、ジャスモン酸関連遺伝子のOPR3JAZ7 の発現量が上昇した。芽生えをCa2+チャンネルブロッカー(LaCl3)もしくはカルシウムキレート剤(EGTA)で処理すると、[Ca2+]cytの増加とマーカー遺伝子の発現が抑制された。そして、これらの薬剤を洗い流すことでCa2+シグナルは回復した。これらの結果から、植物の防御反応に関わる遺伝子の発現誘導には、[Ca2+]cytの増加が必要であることが示唆される。Z-3-HALによる[Ca2+]cytの増加は、暴露する濃度に依存して強くなった。Z-3-HALに曝露する葉を植物体の他の部分と隔離すると、遠位の非刺激葉でのCa2+シグナルの変化は観察されなかった。したがって、Z-3-HALは局所的に[Ca2+]cytの増加を引き起こすが、全身葉に向かって長距離のCa2+シグナル伝播はしないと考えられる。GCaMP3を組織特異的プロモーター制御下で発現させ、Z-3-HAL応答を見たところ、孔辺細胞(pGC1::GCaMP3)と葉肉細胞(pRBCS1A::GCaMP3)では[Ca2+]cytが急速に増加したが、維管束細胞(pSULTR2;2::GCaMP3)と表皮細胞(pATML1::GCaMP3)では徐々に増加した。したがって、植物のGLV感受性の伝達は、GLVが気孔を介して組織内部に流入することによって開始されるものと思われる。そこで、葉をアブシジン酸(ABA)で前処理して気孔を閉鎖させたところ、Z-3-HALによる[Ca2+]cytの増加は、対照に比べて遅延した。また、ABA存在下で気孔閉鎖を示さないslac1-2 変異体、ost1-3 変異体の[Ca2+]cyt変化は、ABA前処理の有無で差異が見られなかった。これらの結果から、GLVが大気から気孔を介して組織に取り込まれることが、植物における迅速なGLV感覚伝達の主要な経路であり、その結果、植物の防御反応が活性化されると考えられる。以上の結果から、傷害葉が発するZ-3-HALやE-2-HALは、近隣無傷植物の気孔を介して組織内に取り込まれて[Ca2+]cytの急激な上昇を引き起こし、これによって防御応答が活性化されると考えられる。

埼玉大学 研究トピックス
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論文)イネにおける典型的ストリゴラクトンの機能

2024-01-27 11:28:53 | 読んだ論文備忘録

Disruption of the rice 4-DEOXYOROBANCHOL HYDROXYLASE unravels specific functions of canonical strigolactones
Chen et al.  PNAS (2023) 120:e2306263120.

doi:10.1073/pnas.2306263120

ストリゴラクトン(SL)は、カロテノイドに由来する植物ホルモンで、シュート分枝を含む植物の成長制御、根寄生植物種子の発芽促進、アーバスキュラ菌根菌(AMF)との共生に関与している。SLは、カルラクトン(CL)を前駆体としており、MORE AXILLARY GROWTH1(MAX1)を含む幾つかのチトクロームP450(CYP)や他の酵素によって様々な構造の誘導体が生合成される。イネからは、4-デオキシオロバノール(4DO)とオロバノール(Oro)という2つの典型的SLと、非典型的SLと推測されるCL+14、CL+30、methyl 4-oxo-carlactonoate(4-oxo-MeCLA)が見出されており、MAX1 ホモログ遺伝子は、Os01g0700900OsMAX1-900)、Os01g0701400OsMAX1-1400)、Os02g0221900OsMAX1-1900)、Os06g0565100OsMAX1-5100)、Os01g0701500OsMAX1-1500)の5コピーが存在している。サウジアラビア アブドラ王立科学技術大学(KAUST)Al-Babiliらは、以前の研究において、イネOsmax1-900 変異体は、4DOとOroが欠損し、根寄生植物種子の発芽率の低下とAMFのコロニー形成の遅延は起こるが、分けつの増加や矮化といったd17 イネSL欠損変異体で観察されるような表現型を示さないことを見出した。これらの結果は、2つの典型的SLがイネ分けつ制御の主要な因子ではないことを示唆しており、植物ホルモンとして作用しているか疑問が生じる。そこで、新たにOsmax1-1400 変異体とOsmax1-900/1400 二重変異体を作出し、4DOとOroのイネにおける役割の解明を試みた。各変異体の根組織、根滲出液のSL量を見たところ、d17 変異体からは典型的SLも非典型的SLも検出されなかった。Os1400 変異体からは、Oroは検出されなかったが、4DOと4-oxo-MeCLAは野生型植物の2倍程度検出された。Os900/1400 二重変異体では、4DOとOroは検出されず、滲出液の4-oxo-MeCLA量は野生型植物の半分程度になっていた。各変異体を温室で栽培したところ、Os1400 変異体、Os900 変異体、Os900/1400 変異体は、d17 変異体で観察されるような分けつ数の増加や矮化といった典型的なSL欠損表現型を示さなかった。しかしながら、Os1400 変異体の草丈、穂長、穂首長は、野生型植物、Os900 変異体、Os900/1400 変異体と比較して有意に減少していた。また、水耕栽培したOs1400 変異体の根は、野生型植物と比較して、長さと直径が減少し、リン酸(Pi)欠乏条件で栽培した場合には逆の表現型を示した。4DOとOroが欠損しているOs900/1400 変異体はこのような表現型を示さないことから、Os1400 変異体で観察される表現型は4DO蓄積量の増加によるものであることが示唆される。そこで、野生型植物とOs1400 変異体の実生に4DOを添加したところ、対照と比較して、シュート長は減少し根長は増加した。OsMAX1-900、OsMAX1-1400の阻害剤であるTIS108をOs1400 変異体の実生に添加したところ、根滲出液の4DO量が減少し、非典型的SLのCL+30とOxo-CLが増加した。そして根長と冠根数が野生型植物と同程度に回復した。このことから、OsMAX1-1400による4DOの転換は、イネの根の至適成長にとって重要であることが示唆される。Os1400 変異体と野生型植物のRNA-seq解析を行なったところ、Os1400 変異体ではGH3 auxin-amido synthetases などの多くのオーキシン関連遺伝子の発現低下が観察された。オーキシンは、分裂組織の活性やシュートと根の成長を制御する上で重要な役割を果たしていること、他の植物ホルモン量に影響を与えていることを考慮すると、Os1400 変異体で観察された表現型は、オーキシン含量の変化に関連している可能性があると考えられた。そこで、Os1400 変異体の植物ホルモン含量を調査したところ、ジベレリン、アブシジン酸、サリチル酸、ジャスモン酸の含量に変化見られなかったが、オーキシン(IAA)含量は増加していることが判った。各変異体の根滲出液のストライガ種子の発芽に対する影響を見たところ、Os900 変異体滲出液で処理した場合の発芽率は、野生型植物滲出液で処理した場合と比較して40%以上低下し、Os900/1400 変異体滲出液ではさらに低下した。このことから、Os900/1400 変異体滲出液に多く含まれている4-oxo-MeCLAは、ストライガ種子の発芽シグナルとしては有力ではないことが示唆される。Os1400 変異体滲出液は高い発芽活性を示すことから、4DOはOroよりもストライガ種子発芽誘導活性が高い。AMFの菌糸分岐誘導についてはOroが効果的なSLであることが示されており、各変異体の根でのAMFコロニー形成を見ると、Os1400 変異体、Os900/1400 変異体のコロニー形成は、野生型植物やOs900 変異体と比較して低くなっていた。以上の結果から、イネの典型的ストリゴラクトンである4DOとOroは根寄生植物種子の発芽やアーバスキュラ菌根菌との相互作用において重要であるが、分けつの抑制といった一般的に知られているSLの機能は示さないことが確認された。しかし、4DOは、蓄積することでオーキシン量の調節に関与し、根、シュート、穂の成長に対して多面的な効果を示すことが判った。

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論文)RALFペプチドによるアブラナ科植物属間交雑の制御

2024-01-22 11:43:35 | 読んだ論文備忘録

Antagonistic RALF peptides control an intergeneric hybridization barrier on Brassicaceae stigmas
Lan et al.  Cell (2023) 186:4773-4787.

doi:10.1016/j.cell.2023.09.003

花粉と雌ずいの相互作用は、種間/属間交雑の障壁を形成しており、異系交雑を避けるために極めて重要である。一方で、柱頭に異種花粉と同種花粉を一緒につけると、認識の障壁が破れ、異種花粉の花粉管が柱頭に侵入できるようになる。この現象は「メンターポーレン効果」と呼ばれ、種間/属間の交配種を作り出すことを可能にする。しかし、その根底にある分子メカニズムや花粉の因子が何であるかは不明である。中国 北京大学Quらは、メンターポーレン効果に関与する因子を同定するために、シロイヌナズナ成熟花粉のRNA-seq解析を行ない、花粉-柱頭間の情報伝達に関与すると考えられるタンパク質候補の探索を行なった。その結果、花粉特異的に発現する複数のRAPID ALKALINIZATION FACTOR(RALF)ペプチド遺伝子が見出され、これらは系統樹上で5つのクレイドにクラスター化された。このうち3つのクレイドのRALFペプチドにつていは機能が知られていることから、他の2つのクレイドに属するペプチド遺伝子についてCRISPR-Cas9技術により変異体を作出して表現型を観察した。作出した変異体は、同じクレイドに属するRALF8、9、15がノックアウトされたr8 r9 r15 三重変異体と、他方のクレイドに属するRALF遺伝子のr10 r11 r12 r13 四重変異体、r25 r26 r30 三重変異体およびr10 r11 r12 r13 r25 r26 r30 七重変異体(ralf sept)である。観察の結果、r8 r9 r15 三重変異体、 r10 r11 r12 r13 四重変異体の花粉を野生型植物の柱頭に交配しても、明らかな表現型の変化は見られなかった。しかし、r25 r26 r30 三重変異体とralf sept 変異体の花粉は、柱頭上で正常に吸水、発芽したが、花粉管が乳頭細胞を貫通することが出来なかった。ralf sept 変異体花粉管の侵入不全は、r25 r26 r30 三重変異体花粉よりも有意に深刻であり、7つの花粉特異的RALF(pRALF)は遺伝的冗長性を示すことが示唆される。ralf sept 変異体花粉管の侵入欠損は、pRALF11 またはpRALF26 を発現させる、合成したpRALF11ペプチド、pRALF26ペプチドを柱頭に添加することによって回復した。これらの結果から、pRALFペプチドが花粉-柱頭間の情報伝達において非常に重要な役割を果たしていることが示唆される。RALFペプチドは、Catharanthus roseus receptor-like kinase 1–like(CrRLK1L)ファミリー受容体と相互作用することが知られている。7つのpRALFペプチドの受容体を同定するために、柱頭組織のRNA-seq解析を行なったところ、FERONIA(FER)と、FERとは別のクレイドに属するCURVY1(CVY1)、ANJEA(ANJ)、HERCULES RECEPTOR KINASE 1(HERK1)の4つのCrRLK1L受容体が柱頭乳頭細胞で発現していることが判った。そこで、それぞれの受容体の変異体の表現型を観察した。野生型植物の花粉は何れの変異体の柱頭も貫通し、ralf sept 変異体の花粉はcvy1 変異体の柱頭を貫通できなかったが、fer-4 変異体の乳頭細胞を完全に貫通し、anj herk1 二重変異体の乳頭細胞を部分的に貫通、cvy1 anj herk1 三重変異体の乳頭細胞を完全に貫通した。これらの結果から、CrRLK1L受容体は、傍分泌pRALFシグナルの特異的感知において重要な役割を担っていると考えられる。また、CVY1、ANJ、HERK1の3つ受容体は冗長的に機能して花粉管の侵入を制御しており、FERはCVY1/ANJ/HERK1とは異なる機能を有していることが示唆される。これらの受容体が花粉管の貫通において抑制的に作用するためには、雌ずい側からの自己分泌シグナルとして他のペプチドリガンドが関与しているのではないと考え、解析を行なった結果、4つの柱頭特異的RALF(sRALF1、22、23、33)を同定した。それぞれのsRALFの変異体の表現型を解析したところ、ralf sept 変異体の花粉管は、r33 変異体、r22 r33二重変異体、r1 r22 r33 三重変異体の乳頭細胞に部分的に侵入、r1 r22 r23 r33 四重変異体(ralf quad)の乳頭細胞には完全に侵入するというCrRLK1L受容体変異体と類似した表現型を示した。したがって、4つのsRALFは冗長的に作用して柱頭での「ゲート(門)」として機能してと考えられる。ralf sept 変異体花粉管のralf quad 変異体柱頭への侵入は合成sRALF33ペプチドを添加することで阻害された。しかし、fer-4 変異体やcvy1 anj herk1 三重変異体の柱頭への侵入は阻害されなかった。したがって、CrRLK1L受容体とsRALFの間に自己分泌シグナル伝達経路が存在していると考えられる。興味深いことに、sRALF33ペプチド添加による貫通阻害は、pRALF26ペプチドの添加量を上げることで徐々に解除された。このことから、これら2つのグループのRALFペプチドは拮抗的に作用することが示唆される。解析の結果、sRALF33、pRALF11、pRALF26は、FER、CVY1、ANJ、HERK1と相互作用すること、pRALF26とsRALF33は受容体結合で競合することが確認された。これらの結果から、以下のことが推測される。 柱頭において、sRALFはFER-CVY1/ANJ/HERK1受容体複合体と結合し、花粉管が乳頭細胞に侵入するのを防ぐ「ロック(施錠)」を確立する。一方、適合花粉から分泌されるpRALFは、自己分泌sRALFと競合し、柱頭のロックを解除する「キー(鍵)」の役割を果たし、それによって花粉管の侵入を可能にする。しかし、適合性のある傍分泌pRALFを欠いた花粉は、花粉管侵入を妨げる自己分泌リガンド‐受容体のシグナル伝達ゲートのロックを開けることができず、花粉管が侵入できない。過去の研究において、sRALF23/33とFER/ANJは活性酸素種(ROS)量を制御して柱頭での花粉の吸水を制御していることが報告されているが、ROSはpRALF‐sRALFを介した花粉管侵入の制御には関与していなかった。RALFペプチドは、柱頭のleucine-rich repeat-extensin(LAX)細胞壁タンパク質と相互作用をすることが報告されており、柱頭で発現している3つのLAX 遺伝子が欠損したlrx3 lrx4 lrx5 三重変異体(lrx345)の柱頭はralf sept 変異体の花粉管を貫通させた。さらに、ralf sept 変異体花粉管のralf quad 変異体の柱頭貫通は合成sRALF33の添加によって阻害されるが、lrx345 変異体の柱頭貫通は阻害しなかった。これらの結果から、LRX3/4/5タンパク質は、sRALF-FER-CVY1/ANJ/HERK1を介するシグナル伝達経路による柱頭のロックを確立するのに必要であることが示唆される。sRALF22/33ペプチドとpRALF11/26ペプチドは、どちらもLRX4のロイシンリッチリピート(LRR)ドメインと相互作用をした。しかしながら、sRALFとpRALFはLRX結合に関して競合していなかった。pRALFとsRALFを介したCrRLK1Lシグナル伝達の拮抗作用が種間/属間交雑の障壁となっているかを検証するために、Arabidopsis lyrata(シロイヌナズナ属)、Capsella rubella(ナズナ属)、Erysium cheiranthoides(エリシマム属)、Cardamine flexuosa(タネツケバナ属)、Rorippa indica(イヌガラシ属)、Descurainia sophia(クジラグサ属)といった異なる属のアブラナ科植物の花粉をシロイヌナズナの柱頭に受粉させ、花粉管の侵入を観察した。その結果、A. lyrataC. rubella の花粉管は侵入できたのに対し、E. cheiranthoidesC. flexuosaR. indicaD. sophia の花粉管は侵入できず、これはこれらの種の進化的分岐時間と一致していた。しかし、柱頭ロックが破壊されているfer-4 変異体、cvy1 anj herk1 変異体、ralf quad 変異体、lrx345 変異体では、C. flexuosaE. cheiranthoidesR. indicaD. sophia の花粉の侵入が可能となり、E. cheiranthoidesC. flexuosaR. indicaD. sophia の花粉は、pRALF26で処理したシロイヌナズナ柱頭乳頭細胞に効率よく侵入できるようになった。さらに、E. cheiranthoidesD. sophia の花粉を、pRALF26で前処理、あるいは柱頭ロックを破壊したシロイヌナズナの雌しべに付着させることで、雑種胚を得ることに成功した。この結果は、柱頭が主要な生殖障壁となっている植物では、この障壁を除去することで受精が起こり、雑種胚ができる可能性があることを示している。以上の結果から、FER-CVY1/ANJ/HERK1-RALF複合体とLRXタンパク質が、アブラナ科におけるメンターポーレン効果の主要な分子構成要素であることか明らかとなった。

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論文)サリチル酸とRNA干渉による茎頂分裂組織幹細胞からのウイルス排除

2024-01-14 10:19:06 | 読んだ論文備忘録

Salicylic acid and RNA interference mediate antiviral immunity of plant stem cells
Incarbone et al.  PNAS (2023) 120:e2302069120.

doi:10.1073/pnas.2302069120

植物ウイルスの多くは、茎頂分裂組織(SAM)の幹細胞では増殖しないことが古くから知られている。これまでの研究から、分裂組織転写因子WUSCHELやRNA干渉(RNAi)が幹細胞からのRNAウイルス排除に関与していることが示唆されているが、詳細な分子機構はまだ解明されていない。オーストリア グレゴール・メンデル分子植物生物学研究所Incarboneらは、SAM幹細胞でのウイルスフリー状態の維持機構を解明するために、RNAi経路の構成要素を欠くシロイヌナズナ変異体に蛍光タンパク質(Scarlet)を発現するカブモザイクウイルス(TuMV-6K2:Scarlet)を感染させ、ウイルスの侵入を観察した。その結果、RNA依存性RNAポリメラーゼ1(RDR1)が欠損したrdr1 変異体で幹細胞へのTuMVの侵入が確認された。ウイルス伝播を時系列的に観察したところ、野生型植物では接種13〜15日後に幹細胞層最上部のL1〜L2層にTuMVが一時的に侵入し、その後排除されたが、rdr1 変異体では幹細胞へのウイルス感染が終始一貫して見られた。この現象は、rdr1/rdr6 二重変異体ではさらに早い時期に起こり、二本鎖RNA切断酵素Dicer-like(DCL)が欠損して短鎖干渉RNA(siRNA)を生成できないdcl2/dcl3/dcl4dcl234)三重変異体の幹細胞では最も高いレベルのウイルス蛍光が観察された。TuMV感染は頂芽優勢の喪失を引き起こし、野生型植物では稔性のある花を咲かせたが、rdr1 変異体は不稔となった。植物のRNAiには、局所的サイレンシングと移動性の遠隔性サイレンシングがある。rdr1 変異体でRDR1 を幹細胞特異的に発現(pCLV3:RDR1)させたところ、TuMVの排除を回復することができた。しかし、RDR1 プロモーター活性を見ると、TuMV非感染植物でも感染植物でも分裂組織ドームの下部とその下の組織では発現していたが、幹細胞のウイルス排除の中心領域(L1+L2層)では発現していなかった。このことから、RDR1は幹細胞では産生されず、遠隔活性によりTuMVの増殖を妨げていることが示唆される。rdr1 変異体で抗ウイルスsiRNA(siScar:Scarlet特異的短鎖ヘアピン型RNA)を幹細胞特異的に発現させると、TuMV排除が回復した。同様に、RDR1 プロモーターにより非幹細胞組織でsiScar を発現させても同じ結果が得られた。これらの結果から、RDR1は、遠隔からウイルスRNA配列情報をRNAi機構に提供することにより幹細胞からTuMVを排除していると考えられる。ウイルス由来のRNAi抑制タンパク質であるP19をRDR1 プロモーター制御下で発現(pRDR1::P19)させた植物の幹細胞ではTuMVウイルスが排除されるが、全身で過剰発現(pUBI::P19)させると抗ウイルス経路が抑制され、幹細胞でTuMVが増殖した。このことから、RDR1由来の移動性抗ウイルスシグナルはsiRNAではない、もしくはウイルス由来siRNA(vsiRNA)量が多いため抗ウイルス経路を抑制するには大量のP19タンパク質を必要とするかのどちらかであることが示唆される。RDR1 の発現はサリチル酸(SA)によって増加することが知られているので、幹細胞からのTuMV排除におけるSAの役割を調査した。細菌由来のSA分解酵素NahGを発現させた植物では幹細胞にTuMVが侵入した。TuMV感染植物はSA蓄積量が増加し、感染によるRDR1 発現の増加にはSAによる誘導が必要であった。また、SA分解酵素をコードするDMR6 遺伝子が欠損して定常状態のSA量が増加している植物ではRDR1 発現量が増加していた。一方で、SA受容体が欠損したnpr1 変異体の幹細胞ではTuMVの侵入が抑制された。したがって、幹細胞でのウイルス排除は典型的なNPR1を介したSAシグナルとは異なる機構によるものであると思われる。TuMV感染によるSA蓄積はrdr1 変異体においても観察されることから、RDR1 の活性化がSAに依存しており、その逆ではない。NahG植物でRDR1 を過剰発現させても幹細胞からTuMVは排除されず、TuMV量も減少しなかった。したがって、SAは、RDR1タンパク質の活性/安定性などの付加的な手段によってRDR1経路に正の影響を与えているか、RDR1 の恒常的な過剰発現ではSA依存的なウイルス排除を再現しないかのいずれかであると思われる。カブクリンクルウイルス(TCV、トンブスウイルス科)とカブイエローモザイクウイルス(TYMV、ティモウイルス科)は、TuMV(ポティウイルス科)とは分類学的に異なる種であるが、SA蓄積を誘導することがわかった。TCVは、SAをより強く誘導し、RDR1 の発現も上昇させた。In situ ハイブリダイゼーションにより、TYMVとTCVは幹細胞から排除されていることが確認された。逆に、タバコ茎えそウイルス(TRV、ビルガウイルス科)は、SA蓄積を誘導せず、幹細胞から排除されなかった。これらの結果から、SA活性化がSAM幹細胞のウイルスフリー維持と相関していることが示唆される。TYMVとTCVはdcl234 変異体の幹細胞に侵入することから、排除には小分子RNAが必要であることが示唆される。さらに、時間経過に伴うTCV排除領域の拡大も、小分子RNAに依存していた。両ウイルスは、rdr1 変異体、NahG植物の幹細胞へは侵入しないので、SA/RDR1経路はこれら2つのウイルスの排除には必要ないと考えられる。これらの結果から、TCVとTYMVの幹細胞から排除には、DCLの一次産物で十分であり、RDR1依存的なvsiRNA産生の増幅は必要ないか、他のRDR酵素が関与していることが示唆される。dcl234 変異体でのウイルスRNAの蓄積は、野生型植物と比較してわずかに増加した程度であり、宿主のRNAiはTCVやTYMVの複製・増殖にはほとんど影響しないことが示唆される。しかし、TYMVやTCVに感染したdcl234 変異体では種子生産されなかった。ウイルスの幹細胞排除と稔性が関連しているかは不明だが、rdr1 変異体においてRDR1 またはsiScar を発現させて幹細胞からTuMVを排除しても種子生産は回復しなかった。以上の結果から、ウイルス感染によって増加したサリチル酸がRNA依存性RNAポリメラーゼを活性化し、感染組織において抗ウイルスRNAiを増幅、幹細胞は小分子RNAのウイルス配列情報を獲得してウイルスの増殖を防いでいると考えられる。

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論文)シロイヌナズナFLC遺伝子プロモーター領域の一塩基多型による花成制御

2024-01-07 11:26:28 | 読んだ論文備忘録

Causal role of a promoter polymorphism in natural variation of the Arabidopsis floral repressor gene FLC
Zhu et al.  Current Biology (2023) 33:4381-4391.

doi:10.1016/j.cub.2023.08.079

シロイヌナズナは世界中に分布し、開花する時期に大きな変異がある。シロイヌナズナの花成は、花成抑制遺伝子座FLOWERING LOCUS CFLC)とその転写活性化因子FRIGIDA(FRI)の2つの主要な決定因子によって制御されている。特に、FLC の発現は花成に大きく影響し、FLC 低発現系統は夏生一年生を示し、低温にさらされることなく花成する。対照的に、FLC 高発現系統は越冬一年生となり、花成前に冬越し(低温春化処理)が必要となる。英国 ジョン・イネス・センターDeanらは、春化応答において重要な秋のFLC 発現について、Col-0(fri)、Col FRI(SF2系統のFRI をCol-0に導入)、およびFLC 発現の高いスウェーデンの系統Var2-6のFLC をCol FRI に導入したVar2-6近同質遺伝子系統(Var2-6 NIL)を用いて調査した。Col-0は夏生一年生で、花成に春化処理を必要としない。Col FRI は花成が遅いが、迅速な春化応答を示す。Var2-6 NIL は春化応答が遅く、完全に花成を促進するためには8週間の低温暴露が必要である。温暖(非春化)および低温(春化処理)条件下で育成した芽生えを用いて5' RACE解析を行ったところ、FLC の転写開始点(TSS)のほとんどがATGから-60 bpから-120 bpの間に分布していたが、Col FRI(温暖および低温育成)とVar2-6 NIL(低温育成)では、主要なTSS(mTSS)の100 bp上流に上流転写開始点(uTSS)のクラスターがマッピングされた。Col-0はFLC 発現が低くく、uTSSはCAGEseq等によって検出された。uTSSからの転写産物は、完全長FLC mRNAで、選択的スプライシングは検出されず、5' UTRにORFはなかった。FRIは、FLC のuTSSとmTTSの両方からの転写を、uTTS使用率に影響することなく促進した。温暖育成したVar2-6 NIL芽生えでは5' RACEにおいてuTSS FLC が検出されなかったが、その後の解析の結果、Var2-6 NILのFLC RNA総量はCol FRI と比較して3倍近く多いが、uTSSからのFLC 発現は半分程度であることが判った。他のFLC ハプロタイプの解析からも、uTSS使用率の減少とFLC 発現量の増加との間に関連があることが判った。uTSSコアプロモーターの塩基配列を見たところ、一塩基多型(FLC ATGの上流230bp、以下SNP-230と命名)が存在し、Col-0ではAであったが、他のFLC ハプロタイプではGであった。配列決定されたシロイヌナズナ1135系統のうち、1.6%(18系統)がAバリアントであり、88.2%がGバリアントで、10.2%はその配列に様々な欠失を有していた。Aバリアント系統の地理的分布を見たが、Aバリアントと気候条件との間に関連はなかった。さらに、アブラナ科のほとんどの種はこの部位がGであり、Gバリアントが祖先型であると考えられる。Aバリアント系統は、FLC 発現が低く、花成や春化応答が早かった。SNP-230の変異がTSS選択とFLC 発現の変化の原因であるかを調べるため、SNP-230にAからGへの点変異(A-230G)を持つCol FLC を導入した形質転換体を作出して解析を行なった。その結果、G置換は、FRIfri の両バックグランドでuTSS使用率を有意に低下させたが、FLC 発現レベルは特にfri バックグランドで上昇した。この結果、A-230G fri はCol-0より花成がかなり遅れたが、A-230G FRI はCol FLC FRI と同じ時期に開花した。これらの結果から、SNP-230がVar2-6 NILにおけるuTSS使用の減少の原因となるSNPであると考えられる。GバリアントによるuTSS使用の減少はFRIとは無関係であることから、SNP-230はFRIの遺伝的上流で作用してFLC 発現を上昇させており、GバリアントとFRIは冗長的にFLC 発現を促進していることが示唆される。Var2-6 NILはCol FRI よりも高いFLC 量を示すが、A-230G を導入したCol FRI のFLC 量はCol FRIと同等であった。Var2-6 FLC 遺伝子の第1イントロンにはSNP+259(TからGへの置換)が存在し、Var2-6でのFLC 高発現に貢献している。Col FLC のSNP+259をGに置換した系統とVar2-6 FLC をGに置換した系統を用いた解析から、Var2-6 NILではSNP+259に起因する高いFLC 発現と、SNP-230によるuTSS利用の低下が相乗的に作用してFLC 発現を高め、花成に影響していることが判った。uTSS使用と低温春化処理との関係を見たところ、uTSSおよびmTSSから発現されるFLC は、試験したすべての遺伝子型において低温処理とともに徐々に減少したが、uTSSの相対的な使用量は低温処理後に増加することが判った。Col FLCA-230G との間のuTSSからのFLC 発現の差は、非春化処理や2週間春化処理後と比較して5週間春化処理後のほうが小さくなっていた。したがって、SNP-230を介したTSS選択は、主に温暖な条件下または短期間の低温処理後のFLC 発現に影響していた。また、SNP+259によるFLC の高発現は、春化処理とは無関係であった。これらの結果から、SNP-230は、寒冷によるFLC のエピジェネティックなサイレンシングではなく、秋のFLC 発現に影響を与えていると考えられる。以上の結果から、シロイヌナズナFLC 遺伝子のプロモーター領域のSNP(SNP-230)は、転写開始点の選択に関与しており、他のSNP(SNP+259)や転写活性化因子(FRIGIDA)の変異と組み合わさることでFLC 発現の量的変異を引き起こし、開花時期の変異に寄与していると考えられる。

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謹賀新年

2024-01-01 00:00:00 | Weblog

明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。

イワタバコ(岩煙草)Conandron ramondioides
イワタバコ科イワタバコ属
2023年5月30日 神奈川県鎌倉市建長寺

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