Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)C末端ドメインフォスファターゼによる花成制御

2022-02-23 08:37:47 | 読んだ論文備忘録

A Molecular switch for FLOWERING LOCUS C activation determines flowering time in Arabidopsis
Shen et al.  Plant Cell (2022) 34:818-833.

doi:10.1093/plcell/koab286

RNAポリメラーゼⅡ(PolⅡ)C-末端ドメイン(CTD)フォスファターゼは、PolⅡ最大サブユニットのC-末端ドメインのSer残基を脱リン酸化する。シロイヌナズナC-TERMINAL DOMAIN PHOSPHATASE-LIKE 3(CPL3)は、PolⅡ CTDフォスファターゼファミリーに属し、植物免疫応答の制御に関与していることが報告されている。シンガポール テマセク生命科学研究所Shen らは、T-DNA挿入cpl3 変異体は日長に関係なく早期花成することを見出した。cpl3 変異体での花成制御遺伝子の発現を見ると、FLOWERING LOCUS TFT )やSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1SOC1 )の発現量が増加し、FLOWERING LOCUS CFLC )の発現量が劇的に減少していた。一方で、SHORT VEGETATIVE PHASESVP )やMADS AFFECTING FLOWERING 1MAF1 )~MAF5 の発現量に変化は見られなかった。FLC の発現は、FRIGIDA(FRI)、FLC EXPRESSOR(FLX)、FLX-LIKE 4(FLX4)、FRI-ESSENTIAL 1(FES1)などからなるFRI-Cアクチベーター複合体によって活性化されるが、cpl3 変異はFRIによるFLC の発現活性化と花成遅延を抑制した。よって、CPL3はFLC の発現にとって不可欠であると考えられる。CPL3はFRI-C複合体のコンポーネントであるFLXと相互作用をすることが確認され、flx 変異体とcpl3 変異体は花成時期とFLC 発現量が類似していた。FLXはFRI-C複合体内でFLX4およびFES1と相互作用をしており、酵母three-hybrid(Y3H)アッセイから、CPL3はFLX存在下でFLX4と相互作用をすることが確認された。そして、flx4 変異体もcpl3 変異体と同じような花成とFLC 発現量を示した。また、CPL3 、FLX 、FLX4 のシロイヌナズナ植物体での発現プロファイルは類似していた。CPL3が複合体を形成するFLXとFLX4のうち、FLX4は生体内でリン酸化され、リン酸化型FLX4量はcpl3 変異体、flx 変異体で増加していた。よって、CPL3はFLX4を脱リン酸化し、FLXはCPL3とFLX4の相互作用に関与していることが示唆される。FLX4の226番目のSer残基(S226)をAla残基に置換して疑似脱リン酸化したFLX4S226Acpl3 変異体で発現させると花成の早期化が部分的に抑制された。また、S226をAsp残基に置換して疑似リン酸化したFLX4S226Dは、野生型FLX4やFLX4S226Aと比較してFLC 遺伝子座への結合量が減少していた。以上の結果から、CPL3はFLXを介してFLX4と相互作用してFLX4を脱リン酸化し、脱リン酸化されたFLX4がFLC 遺伝子座に結合してFLC の発現を活性化し、開花時期を調節していると考えられる。

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論文)根での避陰反応

2022-02-19 08:20:11 | 読んだ論文備忘録

WRKY transcription factors and ethylene signaling modify root growth during the shade-avoidance response
Rosado et al. Plant Physiology (2022) 188:1294-1311.

doi:10.1093/plphys/kiab493

避陰反応(SAR)の特徴的な表現型として、茎や葉柄の急速な伸長、葉の下偏成長、生殖成長の促進、頂芽優勢、根の成長・発達の低下などが挙げられる。シロイヌナズナでは、SARでのシュート器官の表現型変化に繋がる遺伝子発現変化を制御する分子機構の解析は進んでいるが、SARによる根系での成長変化の分子機構については十分に解明されていない。米国 コールド・スプリング・ハーバー研究所Pedmale らは、日陰処理(低R:FR光照射)でシロイヌナズナとトマトの芽生えの根において発現誘導される遺伝子を同定し、それらの遺伝子オントロジー(GO)分析をした。その結果、見出された遺伝子にストレス応答、病原体に対する防御、自然免疫応答に関連するものが多く含まれていることが判った。また、シロイヌナズナをエリシター(3-OH-FA、flg22、elf18、nlp20、CO8、OGs、Pep1)処理した際に発現誘導される776遺伝子のうち半分(396遺伝子)は日陰処理で誘導される遺伝子と重複することが判った。このことから、長時間日陰に晒されると根では病原体が存在しなくても防御応答が活性化されることが示唆される。日陰処理で発現誘導される遺伝子のプロモーター領域に含まれるシスエレメントとしては、WRKY転写因子が結合するW-boxモチーフ[TTGACC/T]が最も多く見られ、WKKY転写因子によって直接発現制御を受ける遺伝子の48%は日陰処理によっても発現が誘導された。シロイヌナズナの74のWRKY 遺伝子のうちの33遺伝子、トマトの83のWRKY 遺伝子のうちの21遺伝子は、日陰処理した根で発現量が増加しており、処理後30分以内に誘導される遺伝子(WRKY8WRKY70WRKY75 )、3~7時間後に誘導される遺伝子(WRKY25WRKY26WRKY33WRKY45WRKY51 )、24時間後に誘導される遺伝(WRKY13WRKY29WRKY31WRKY58 )に分類された。これらのWRKY 遺伝子(WRKY8WRKY33 を除く)をユビキチン10(UBQ10 )プロモーター制御下で過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは、地上部の形態変化は見られなかったが、WRKY26 およびWRKY45 の過剰発現は非日陰条件下で一次根の成長および側根数の減少をもたらし、WRKY75 の過剰発現は日陰条件での側根出現抑制効果が強まった。日陰処理で発現誘導される遺伝子のOGには「エチレン応答」もあり、エチレン前駆体(ACC)処理をすることで非日陰条件の芽生えの一次根伸長が抑制された。また、エチレンシグナル伝達が機能喪失したein2 変異体およびein3 eil1 二重変異体の一次根は日陰処理による成長阻害が見られず、側根の数や密度が減少した。ACC処理はWRKY45 の発現量を増加させた。また、WRKY26WRKY45 の過剰発現系統は、ACC処理による根の成長変化において野生型よりも感受性が高くなっていた。したがって、エチレンとWRKYは並行して根の成長を抑制しているものと思われる。以上の結果から、避陰反応による根の遺伝子発現の変化はWRKY転写因子とエチレンシグナルによって制御されていると考えられる。

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論文)避陰反応における葉の成長抑制機構

2022-02-16 06:35:28 | 読んだ論文備忘録

PIF7 controls leaf cell proliferation through an AN3 substitution repression mechanism
Hussain et al.  PNAS (2022) 119:e2115682119.

doi:10.1073/pnas.2115682119

植物は隣接する植物からの遠赤色(FR)光に応答して葉柄の伸長、葉の下偏成長や小型化といった避陰反応(SAS)を示す。SASに応答した葉の成長制御はフィトクロムによって行われているが、その詳細な機構は明らかではない。英国 エディンバラ大学Halliday らは、夕刻にFR光照射(EODFR)処理をすることでSASを誘導させたシロイヌナズナを用いてロゼット葉の成長を観察し、EODFR処理は葉の細胞分裂を阻害していることを明らかにした。EODFR処理によって発現量が変化する遺伝子の中には細胞周期に関連する遺伝子が14個含まれており、その中には葉の成長を制御しているANGUSTIFOLIA3AN3 )遺伝子が含まれていた。an3 変異体はEODFR処理に対して応答して葉が小型化するが、その効果は野生型よりも弱くなっていた。EODFR処理により野生型植物では葉の細胞数が減少するが、an3 変異体ではEODFR処理をしても葉の細胞数に変化は見られなかった。また、an3 変異体の細胞は白色光条件では野生型よりもやや大きいが、EODFR処理をすると野生型と同等の大きさになった。AN3と複合体を形成するGROWTH-REGULATING FACTOR(GRF)が機能喪失したgrf1 grf3 ger5 三重変異体やgrf1 grf3 grf4 grf5 四重変異体は、EODFR処理に対してan3 変異体と同じ様な応答を示した。したがって、an3 変異体とgrf 多重変異体はEODFR処理非感受性であり、AN3複合体はフィトクロムの下流で葉身の細胞分裂を促進していると考えられる。PHYTOCHROME-INTERACTING FACTORのPIF7はEODFR処理に対する応答とって重要であることが知られており、pif7 変異体の葉身の細胞数と大きさは野生型と同等だが、EODFR処理による細胞分裂阻害を起こさない。AN3による細胞分裂促進はEODFR処理によって抑制されることから、PIF7はAN3の負の制御因子であることが推測される。そこで、an3 phyBan3 pif7an3 phyB pif7 の各種多重変異体のEODFR処理に対する応答性を調査した。その結果、AN3による葉の細胞分裂制御にはphyB-PIF7モジュールが関与しており、白色光下でのphyBによる細胞分裂促進にAN3が必要であること、EODFR処理はPIF7を活性化してAN3の量もしくは活性を抑制することで細胞分裂を制限していること、AN3の不活性化によってもたらされた細胞拡張をPIF7が制限していることが判った。AN3 転写産物量はEODFR処理によって減少するが、pif7 変異体ではそのような変化は見られなかった。解析の結果、PIF7はAN3 遺伝子プロモーター領域のG-boxに結合してAN3 の発現を直接抑制していることが判った。AN3 を過剰発現させた系統は、EODFR処理に対して野生型と同じような応答を示したことから、PIF7はAN3 の転写調節だけでなく、AN3活性も調節している可能性がある。AN3は自身の遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を促進することが報告されており、EODFR処理はAN3の自身のプロモーターへの結合を減少させたが、pif7 変異体では減少しなかった。したがって、PIF7はEODFRに応答してAN3の自身のプロモーターへの結合を妨げていることが示唆される。AN3がターゲットとしている遺伝子のプロモーター領域には、AN3が結合するGAGA、PEB-box、G-boxといったモチーフが含まれており、白色光条件ではこの領域にAN3が多く結合しているが、EODFR処理によってAN3の結合量が減少してPIF7の結合量が増加した。したがって、AN3とPIF7は葉の細胞分裂を制御する共通の遺伝子群を拮抗的に制御していると考えられる。以上の結果から、PIF7とAN3は幾つかの葉の細胞分裂に関与する遺伝子を共通のシス領域を介して拮抗的に制御しており、EODFR処理はターゲット遺伝子プロモーター領域でAN3からPIF7への分子置換を引き起こして遺伝子発現を促進から抑制へ添加することで葉の成長を抑制していると考えられる。

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論文)RCC1タンパク質によるイネ主根伸長制御

2022-02-13 08:42:47 | 読んだ論文備忘録

OsRLR4 binds to the OsAUX1 promoter to negatively regulate primary root development in rice
Sun et al.  JIPB (2022) 64:118-134.

doi:10.1111/jipb.13183

PRAF(PH、RCC1、FYVE)ファミリータンパク質は、RCC1(regulator of chromosome condensation 1)タンパク質ファミリーに属する植物特有のタンパク質で、4つの特徴的なドメイン構造を持つが、生理的な機能は知られていない。中国 浙江大学のQi らは、イネのPRAFタンパク質をコードするOsRLR4Os04g58960 )のT-DNA挿入変異体osrlr4 および過剰発現系統OE-OsRLR4 の表現型を観察し、osrlr4 変異体実生は野生型と比較して主根が30-40%長くなること、OE-OsRLR4 では短くなることを見出した。OsRLR4 の根での発現パターンを見ると、主根や側根の根端、主根の中心柱、側根原基で発現していた。また、様々な他の組織でもOsRLR4 は発現しており、OsRLR4タンパク質は核と原形質膜に局在していた。イネ実生を合成オーキシンの2,4-D処理をすると根でのOsRLR4 発現量が3倍増加した。また、osrlr4 変異体は、2,4-D処理による主根伸長阻害に対する感受性が低下しており、osrlr4 変異体根端のIAA含量は野生型の50%程度に減少していた。osrlr4 変異体の根ではオーキシントランスポーターをコードするOsAUX1 の発現量が低下し、OsAUX1タンパク質量も減少していた。また、osrlr4 変異体でOsAUX1 を過剰発現させることで主根の表現型が野生型と同等になった。根端分裂組織の活性を見ると、osrlr4 変異体やosaux1 変異体は野生型よりも活性が高く、OE-OsRLR4OsAUX1 過剰発現系統では低くなっていた。これらの結果から、OsRLR4OsAUX1 は根端分裂組織の活性を負に制御することで主根の伸長に影響していることが示唆される。OsRLR4はOsAUX1 遺伝子プロモーター領域に直接結合して発現を高める効果があった。そして、OsRLR4はH3K4me3メチルトランスフェラーゼのTRITHORAX‐likeタンパク質OsTrix1((LOC_Os09g04890)と相互作用をしてOsAUX1 遺伝子プロモーター領域でヒストンH3K4のトリメチル化を促進することが判った。以上の結果から、OsRLR4はOsTrx1と相互作用してH3K4me3レベルを調節することでOsAUX1 の発現を調節し、根端のIAA蓄積量と根端分裂組織の活性を制御することで主根の伸長を調節していると考えられる。

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論文)フィトシアニンによる葉の老化促進

2022-02-10 08:24:54 | 読んだ論文備忘録

The PCY-SAG14 phytocyanin module regulated by PIFs and miR408 promotes dark-induced leaf senescence in Arabidopsis
Hao et al.  PNAS (2022) 119:e2116623119.

doi:10.1073/pnas.2116623119

3週齢のシロイヌナズナを3日間暗黒化で栽培するとロゼット葉に老化が誘導され、クロロフィル量が著しく減少し、イオン漏出量が増加する。中国 北京大学Li らは、イオン漏出が老化進行の特徴であることに着目し、シロイヌナズナを二価金属イオンで処理することで葉の老化に影響を与えるかを調査した。その結果、銅が葉の老化を誘導することを見出し、この効果を銅誘導性老化(CIS)と命名した。暗黒処理と銅処理は、葉緑体の老化の兆候であるチラコイド膜の合体やプラストグロビュルの蓄積が見られた。暗黒処理および銅処理によって老化した葉緑体は、銅含量が減少しており、同時にクロロフィル量も減少していた。RNA-seq解析から暗黒誘導性老化(DIS)とCISで共通して発現量が変化する遺伝子が1840個見出され、このうち315遺伝子は共通して発現量が増加、1069遺伝子は共通して発現量が減少していた。発現量が変化する遺伝子には、クロロフィルの生合成や分解、光化学系に関連する遺伝子が含まれており、老化関連遺伝子(SAG)も多く含まれていた。銅は酸化還元反応の反応性が高いため、シャペロンや他の銅タンパク質にリガンドとして強固に捕捉されている。シロイヌナズナの114種類の銅結合タンパク質を細胞内局在により6つのグループに分け、その転写産物量から、老化による細胞内銅分布の変化を推測した。その結果、葉緑体、細胞質、細胞内膜系に銅は多く分布するが、老化によって葉緑体の銅は減少し、内膜の銅が増加することが判った。葉緑体ではプラストシアニンが主な銅含有タンパク質であり、老化の際に劇的に減少した。内膜系の老化関連フィトシアニン遺伝子としてはSAG14 とプランタシアニン(PCY )があり、両者は老化進行中に強い発現を示し、最終的に内膜の銅のほぼ半分を占めていた。このことから、PCYとSAG14は葉の老化制御に関与していると考えられる。PCYとSAG14は内膜上で相互作用をしてフィトシアニンモジュールを形成していることが確認された。PCY もしくはSAG14 が機能喪失した変異体は暗黒処理による葉の老化や葉緑体からの銅の減少が野生型よりも遅延し、PCY もしくはSAG14 を過剰発現させた系統では促進された。したがって、PCY-SAG14は細胞内の銅の再分配を促進することでDISを促進していると考えられる。マイクロRNA miR408はPCY をターゲットとしていることが知られており、miR408を過剰発現させたmiR408-OX ではPCYSAG14 の発現量が減少し、miR408をサイレンシングさせたSTTM408 では増加していた。また、miR408-OX はDISが遅延し、葉緑体の形態と銅含量が維持されていたが、STTM408 ではDISや葉緑体の劣化が促進された。これらの結果から、miR408はPCY-SAG14モジュールへの葉緑体銅の流出を阻害することにより老化を遅延させていることが示唆される。miR408発現量は老化誘導時に劇的に減少し、暗黒処理や銅処理はmiR408発現を抑制した。bHLH型転写因子phytochrome-interacting factor(PIF)は様々な光応答を制御しており、PIF3/4/5はDISを促進することが知られている。解析の結果、PIF3/4/5はMIR408 遺伝子プロモーター領域のG-boxに直接結合してmiR408の発現を抑制することが判った。以上の結果から、PIF3/4/5-miR408によるPCY-SAG14の制御は、PCY-SAG14モジュールによる内膜系への銅転位がもたらす老化を制御していると考えられる。

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論文)SHORT-ROOTパラログによるダイズ根粒形成誘導

2022-02-07 22:36:32 | 読んだ論文備忘録

SHORT-ROOT paralogs mediate feedforward regulation of D-type cyclin to promote nodule formation in soybean
Wang et al.  PNAS (2022) 119:e2108641119.

doi:10.1073/pnas.2108641119

ダイズの根粒は、根粒菌の感染と根の皮層での細胞分裂の2つの協調的な過程によって形成される。根粒形成を制御している初期ノジュリン遺伝子は幾つか見出されているが、根粒形成時に皮層細胞の分裂が誘導される機構については完全には解明されていない。中国 福建農林大学Wu らは、ダイズの6個のSHORT-ROOTSHR )パラログのうち、GmSHR4GmSHR5 は根粒菌感染後に発現量が増加し、根粒形成初期に皮層組織において発現が誘導されていることを見出した。そこで、GmSHR4/5 の過剰発現系統(OX-GmSHR4/5 )およびノックダウン系統(GmSHR4-amiRGmSHR5-amiRGmSHR4/5-amiR )を作出して根の組織を観察したところ、過剰発現系統では皮層組織の細胞層の数が増加し、ノックダウン系統では減少していることが確認された。よって、GmSHR4/5 は皮層細胞の分裂を誘導していることが示唆される。また、根粒菌感染後の根粒数と根粒乾燥重量は、過剰発現系統で有意に増加し、ノックダウン系統で減少していた。したがって、GmSHR4/5 はダイズ根粒形成の正の制御因子として機能していると考えられる。GmSHR4-amiR の根での根粒形成過程に大きな変化は見られなかったが、GmSHR5-amiR の根は皮層の細胞分裂が低下して分裂パターンに乱れがあった。そして、GmSHR4/5-amiR の根は皮層の分裂パターンに異常が見られ、根粒原基での維管束の発達が遅延した。このことから、GmSHR5 は皮層の細胞分裂にとってより重要であるが、GmSHR4GmSHR5 は冗長的に作用していると考えられる。皮層細胞の分裂はサイトカイニンよって促進されることが知られている。解析の結果、サイトカイニン受容体HK1 ホモログのGmHK1-1GmHK1-3 の発現がGmSHR4/5によって活性化され、GmSHR4/5はGmHK1-3 プロモーター領域に直接結合することが確認された。また、サイトカイニン異化酵素CKX3 の発現量は、OX-GmSHR4/5 の根で減少し、GmSHR4/5-amiR の根で増加していた。よって、GmSHR4/5 はサイトカイニンシグナルの活性化を介して根粒形成を促進していることが示唆される。サイトカイニン(6-BA)処理は根粒数を増加させ、GmSHR4/5-amiR の根に6-BA処理をすることで根粒形成の表現型が完全に回復した。HK1類をノックダウンしたGmHK1-1,1-2,1-3-amiR は、根粒数が減少し、GmHK1-1,1-2,1-3-amiRGmSHR5 を過剰発現させても根粒数の増加は見られなかった。よって、HK1はGmSHR5に対して上位性がある。OX-GmSHR4/5 の根では初期ノジュリン遺伝子(GmNINGmNSP1GmENOD40 )の発現量が高く、GmSHR4/5-amiR の根では低くなっていた。一方で、GmENOD40 もしくはGmNSP1 を過剰発現させた系統の根ではGmSHR5 の発現量が減少していた。よって、GmSHR4/5 は初期ノジュリン遺伝子の上流で機能しているが、GmSHR5 の発現は初期ノジュリン遺伝子によるフィードバック阻害を受けていると考えられる。シロイヌナズナのSHRはD-typeサイクリンのCYCD6;1 の発現を特異的に促進することが知られている。ダイズ成熟根粒柔組織ではGmCYCD6;1-6 が発現しており、GmSHR4/5はGmCYCD6;1-6 遺伝子プロモーター領域に直接結合し、GmSCR共存下でGmCYCD6;1-6 の発現を活性化することが確認された。初期ノジュリン遺伝子を過剰発現させた系統ではGmCYCD6;1s の発現量が増加しており、GmCYCD6;1 遺伝子は初期ノジュリン遺伝子の下流で機能していると考えられ、GmSHR4/5はGmCYCD6;1 の発現においてフィードフォワードループを形成している。GmCYCD6;1s を過剰発現させた系統は根粒の数、生重量、大きさが増加し、ノックダウンした系統では根粒形成が阻害された。したがって、GmCYCD6;1 遺伝子は初期ノジュリン遺伝子の下流において根粒形成の正の制御因子として機能していると考えられる。以上の結果から、GmSHR4/5を介した経路は、ダイズの根粒形成時にサイトカイニンシグナル伝達を誘発し、D-typeサイクリンを活性化する重要なモジュールであると考えられる。

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論文)ストリゴラクトンによる二次成長の制御

2022-02-04 22:24:44 | 読んだ論文備忘録

Strigolactone signaling regulates cambial activity through repression of WOX4 by transcription factor BES1
Hu et al.  Plant Physiology (2022) 188:255-267.

doi:10.1093/plphys/kiab487

ストリゴラクトン(SL)シグナルは、形成層細胞の増殖を促進することで植物の二次成長を制御している。また、BRI1-EMS-SUPPRESSOR1(BES1)は、木部や篩部の分化を促進することで維管束の発達を制御していることが報告されている。中国 河南大学Wang らは、二次成長での維管束形成層細胞増殖におけるSLとBES1の関係を解析した。シロイヌナズナbes1-D 機能獲得変異体とRNA干渉でBES1 をノックダウンした系統(BES1-RNAi)の茎基部の組織切片を観察したところ、BES1-RNAiの形成層は野生型よりも幅があり、bes1-D 変異体の維管束形成層領域は狭くなっていることが判った。よって、BES1は形成層の活性を負に制御していることが示唆される。SLシグナル伝達に関与しているMORE AXILLARY SHOOT2(MAX2)の機能喪失変異体max2 は維管束形成層の活性が低下するが、max2 BES1-RNAiの形成層活性はBES1-RNAiと同等であった。したがって、BES1はSLシグナルの下流で作用していると考えられる。形成層での細胞分裂は、TRACHEARY ELEMENT DIFFERENTIATION INHIBITORY FACTOR (TDIF)–TDIF RECEPTOR (TDR)–WUSCHEL-related HOMEOBOX4 (WOX4) 経路によって制御されている。また、BES1活性はTDIFに依存してGLYCOGEN SYNTHASE KINASE3 (GSK3) によって抑制されている。よって、BES1はWOX4を介して形成層活性を制御している可能性があり、調査の結果、WOX4 転写産物量はBES1-RNAiで高く、bes1-D 変異体で減少していることが判った。BES1-RNAiにwox4 変異を導入したところ、BES1-RNAiよりも形成層が狭くなった。よって、BES1はWOX4 の発現を抑制することで維管束形成層細胞の増殖を阻害していると考えられる。解析の結果、BES1はWOX4 遺伝子のプロモーター領域に結合して転写を直接阻害することが確認された。WOX4 の発現量はSL生合成変異体のmax3 やシグナル伝達変異体のmax2Atd14 で減少していた。また、max2 変異体でWOX4 を発現させることで維管束形成層の発達が改善された。合成ストリゴラクトンアナログGR24処理によりWOX4 の転写産物量やタンパク質量が増加した。このことから、SLシグナルは、MAX2を介したBES1の分解を誘導することでWOX4 の転写を高め、形成層細胞を活性化して細胞増殖を促進していると考えられる。以上の結果から、BES1の活性とWOX4 の発現が形成層細胞の分化と増殖のバランスを制御していると考えられる。

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論文)PIL/PIF転写因子による分けつ・分枝の抑制

2022-02-01 06:38:16 | 読んだ論文備忘録

PIL transcription factors directly interact with SPLs and repress tillering/branching in plants
Zhang et al.  New Phytologist (2022) 233:1414-1425.

doi: 10.1111/nph.17872

中国農業科学院 作物科学研究所Sun らは、コムギPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR-LIKE(PIL)転写因子のTaPIL1(TraesCS5D02G386500)を過剰発現させた形質転換コムギは、野生型と比較して分けつ数が減少して草丈が高くなることを見出した。この形質転換体では、分けつ形成を負に制御しているTEOSINTE BRANCHED1TaTB1 )の転写産物量が増加していた。また、TaPIL1は生体内において二量体を形成し、TaTB1 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を活性化することが判った。これらの結果から、TaPIL1はTaTB1 の発現を活性化することでコムギの分けつ形成を抑制していると考えられる。TaPIL1に強力な転写抑制モチーフSRDXを融合したTaPIL1-SRDXを過剰発現させた形質転換コムギは、TaTB1 発現量が低下し、分けつ数が増加して矮化した。よって、TaPIL1の転写活性化活性はコムギの分けつ抑制に必須であると考えられる。これまでの研究で、SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE転写因子のTaSPL3/17は、TaTB1 の発現を直接活性化してコムギの分けつ形成を抑制していることが報告されている。そこで、TaPIL1との関係を調査したところ、TaPIL1はN末端側領域を介してTaSPL3/17と相互作用をすることが判った。次に、イネのPILタンパク質の分けつに対する効果を調査したところ、OsPIL11 を過剰発現させた形質転換体イネは、分けつ数が減少し、OsTB1 転写産物量が増加していることが判った。また、CRISPR-Cas9法で作出したOspil11 変異体は、野生型と比較して分けつ数が増加しOsTB1 転写産物量が減少していた。系統樹においてOsPIL11と同じクレイドに属するOsPIL12の過剰発現形質転換体や変異体もOsPIL11と同様の分けつ数の変化が観察された。よって、OsPIL11とOsPIL12はコムギTaPIL1と同じようにイネの分けつ形成を抑制していると考えられる。イネではOsSPL14がOsTB1 の発現を活性化して分けつ抑制していることが報告されていることから、OsPILとの関係を調査し、OsPIL11とOsSPL14は生体内において相互作用をすることが確認された。さらに、双子葉植物のシロイヌナズナで同様の解析を行なったところ、PHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR 4PIF4 )を過剰発現させたシロイヌナズナは分枝が減少しTB1 ホモログのBRANCHED 1BRC1 )発現量が増加すること、PIF4とSPL9は生体内で相互作用をすることが判った。以上の結果から、単子葉植物、双子葉植物ともにPIF/PIL転写因子はSPLと相互作用をして分けつ・分枝を抑制していると考えられる。

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