Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)PIFタンパク質を脱リン酸化して光形態形成を抑制するフォスファターゼ

2019-10-24 05:46:05 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis PP6 phosphatases dephosphorylate PIF proteins to repress photomorphogenesis
Yu et al. PNAS (2019) 116:20218-20225.

doi:10.1073/pnas.1907540116

bHLH型転写因子のPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)は光形態形成の抑制因子として機能している。脱黄化によって活性化されたフィトクロムは細胞質から核へ移動してPIFと相互作用をし、PIFのリン酸化と分解が誘導される。PIFをリン酸化するキナーゼについては様々な研究がなされているが、PIFを脱リン酸化するフォスファターゼについてはあまり知られおらず、唯一、PIF5を脱リン酸化、安定化するTOPP4が知られている。シロイヌナズナSer/Thr-specific phosphoprotein phosphatase(PPP)ファミリーのPP6サブユニットに属するFyPP1、FyPP3はフィトクロムA、Bと相互作用をし、光シグナル伝達に関与していることが知られている。中国 北京大学のDeng らは、これらのPP6フォスファターゼは光形態形成に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。暗所で育成したfypp1f1fypp3f3)二重変異体芽生えは、光形態形成の表現型を示し、胚軸が短くなり子葉が展開した。よって、PP6は光形態形成を負に制御していると考えられる。pif1 pif3 pif4 pif5pifq)四重変異体は暗所で恒常的に光形態形成を起こすが、pifq f1 f3 変異体は、pifq 変異体、f1 f3 変異体よりも胚軸が短くなった。よって、PP6フォスファターゼとPIFは、光形態形成における胚軸伸長抑制に対して相乗的に作用していると考えられる。幾つかの実験から、FyPPとPIF3、PIF4が直接相互作用をすることが確認された。また、FyPPはPIF3、PIF4の脱リン酸化に関与していることが示された。野生型と比較して、暗所で育成したf1 f3 二重変異体芽生えのPIF4タンパク質量はわずかに減少しており、光照射によるPIF4タンパク質の分解が促進された。赤色光下で育成したf1 f3 二重変異体芽生えは野生型よりも胚軸が短いが、PIF4 を過剰発現させることで胚軸長が部分的に回復した。これらの結果から、PP6はPIF4の安定性を制御していることが示唆される。変異体を用いたトランスクリプトーム解析から、PIF4の直接のターゲットとなっている遺伝子のうちの266遺伝子はPP6によっても発現が制御されていることがわかった。以上の結果から、PP6によるPIFタンパク質の脱リン酸化は、PIFタンパク質を安定化させることで暗所での光形態形成を抑制していると考えられる。

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論文)UV-Bによる被陰反応の阻害

2019-10-20 15:16:22 | 読んだ論文備忘録

UVR8 disrupts stabilisation of PIF5 by COP1 to inhibit plant stem elongation in sunlight
Sharma et al. Nature Communications (2019) 10:4417.

doi:10.1038/s41467-019-12369-1

被陰反応での周囲の植物の感知は、葉端部の接触やR/FR比の低下に加えて、青色光/緑色光比やUV-Bシグナルの低下によってもなされる。UV-Bは bHLH 型転写因子PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)の存在量と活性を低下させて被陰反応を阻害しているが、その機構は明らかではない。英国 ブリストル大学Franklin らは、UV-B受容体UV RESISTANCE LOCUS 8(UVR8)とPIFとの関係を調査した。PIF5 を過剰発現させたシロイヌナズナ芽生えは白色光下で胚軸伸長が促進されるが、白色光に弱いUV-Bが加わると伸長が抑制される。しかしながら、uvr8 変異体でPIF5 を過剰発現させた芽生えは、白色光にUV-Bが加わっても胚軸伸長の阻害が見られなかった。よって、UV-B照射による胚軸伸長阻害はUVR8に依存して起こる現象である。UV-B光照射はPIF5タンパク質のプロテアソーム系による分解を引き起こし、この過程にはUVR8が関与していた。高F/FR光条件でのPIF5タンパク質の分解には、N末端側の活性型フィトクロムB結合(APB)ドメインが関与しているが、UV-B照射によるPIF5の分解においてもこの領域が関与していた。UVR8は生体内においてPIF5と相互作用を示さず、光形態形成の抑制因子として作用するE3リガーゼのCONSTITUTIVELY PHOTOMORPHOGENIC 1(COP1)とUV-B照射量に依存して相互作用をする。PIF5とCOP1は複合体を形成し、UV-B照射によって複合体の量は減少した。しかしながら、uvr8 変異によって複合体の減少が抑制された。以上の結果から、UV-B照射によってもたらされるUVR8とCOP1の相互作用は、PIF5とCOP1の相互作用を妨げ、このことによってPIF5の分解が促進され被陰反応が阻害されると考えられる。

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論文)被陰による花成促進機構

2019-10-12 10:04:49 | 読んだ論文備忘録

PIF transcription factors link a neighbor threat cue to accelerated reproduction in Arabidopsis
Galvāo et al. Nature Communications (2019) 10:4005.
doi:10.1038/s41467-019-11882-7

シロイヌナズナは、周囲の植物によって被陰されてR/FR比が低下すると、FLOWERING LOCUS T (FT ) やTWIN SISTER of FT (TSF ) の発現が誘導され、花成を促進させる。しかしながら、被陰によるFTTSF の発現誘導機構は明らかとなっていない。低R/FR条件では、活性型フィトクロムB(phyB)が減少することでPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)のリン酸化と分解が抑制され、被陰に応答する遺伝子の発現が誘導される。スイス ローザンヌ大学Fankhauser らは、PIFが低R/R条件での花成制御をしているのではないかと考え、PIF 機能喪失変異体を用いて解析を行なった。その結果、PIF7が低R/FR条件での花成促進にとって重要であり、PIF4PIF5 の変異もpif7 変異体の花成遅延を高めることがわかった。pif4 pif5 pif7 三重変異体は高R/FR条件では野生型と比較して僅かに花成遅延する程度であったが、低R/FR条件では大きく遅延した。恒常的に被陰反応を示すphyB 変異体の花成促進は、PIF の変異によって抑制された。phyB pif4 pif5 pif7 四重変異体の花成時期はpif4 pif5 pif7 三重変異体と同程度あった。これらの結果から、PIF4、PIF5、PIF7はphyBの下流で作用して低R/FR条件での花成を制御していると考えられる。FT およびTSF の発現は夕方に最大となり、高R/FR条件では野生型とpif4 pif5 pif7 変異体の間で発現量は同等だが、低R/FR条件でのFTTSF の発現量増加はpif4 pif5 pif7 変異体では見られなかった。phyB 変異体では恒常的にFTTSF の発現量が高くなっているが、pif 変異によって発現量が減少した。PIF4PIF5PIF7FTTSF の発現している葉の維管束でも発現が見られた。また、低R/FR条件でのPIFタンパク質の蓄積は、夕方に最大となり、FTTSF の発現のピークと一致していた。PIF4やPIF5はG-box(CACGTG)やPBE-box(CATGTG)に結合することが知られている。低R/FR条件での花成促進において重要な役割を示すPIF7は、高い親和性をもってG-boxに結合し、PBE-boxに結合することも確認された。FT 遺伝子はターミネータ領域にG-boxとPBE-boxがあり、そこにPIF4が結合することが知られている。今回、TSF 遺伝子について調査しところ、プロモーター領域にPBE-boxが存在し、そこにPIF4、PIF7が結合してTSF の発現を誘導することが確認された。以上の結果から、シロイヌナズナの被陰に応答した花成促進は、PIFによって直接FTTSF の発現が誘導されるることによって引き起こされると考えられる。

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