Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)マイクロRNAによる葉の老化促進

2022-01-28 21:28:42 | 読んだ論文備忘録

MicroRNA840 (MIR840) accelerates leaf senescence by targeting the overlapping 3'UTRs of PPR and WHIRLY3 in Arabidopsis thaliana
Ren et al.  Plant Journal (2022) 109:126-143.

doi: 10.1111/tpj.15559

シロイヌナズナのマイクロRNA miR840は葉の老化に関与していることが報告されている。MIR840 遺伝子(AT2G02741)はタンパク質をコードするPPR 遺伝子(AT2G02750)の3'UTR領域内にあり、反対鎖にコードされているWHIRLY3WHY3 )遺伝子(AT2G02740)の3'UTRの遠位部分とも重なっている。どちらの遺伝子もMIR840 の産物であるmiR840*とmiR840のターゲットと推測されている。中国 福建農林大学のMiao らは、miR840の前駆体pre-miR840 およびターゲット遺伝子のPPRWHY3 の発現プロファイルを調査し、3遺伝子とも花と長角果で高い発現を示すこと、ロゼット葉での発現を経時的に追うと、miR840とmiR840*の発現量は葉の老化開始時に増加し、PPR の発現とmiR840*の発現は負の相関があるが、WHY3 の発現とmiR840の発現との間には相関が見られないことを明らかにした。MIR840 の発現量が低下した系統は葉の老化が遅延し、MIR840 の発現量を増加させた系統は葉の老化が促進された。また、MIR840 過剰発現系統では老化関連遺伝子の発現量が増加していた。PPR 転写産物量とMIR840 (miR840*)発現量との間には負の相関が見られたが、WHY3 転写産物量はMIR840 の発現量の影響を受けていなかった。しかしながら、WHY3タンパク質量はMIR840 過剰発現系統で減少しており、miR840はWHY3 転写産物の翻訳抑制効果があることが判った。これらの結果から、WHY3PPR はそれぞれ3'UTRのmiR840とmiR840*の標的となっており、PPR mRNAとmiR840*の対合はその分解をもたらすが、miR840はWHY3のタンパク質蓄積を阻害すると考えられる。T-DNA挿入によってWHY3 発現量が低下した系統(kdwhy3 )、アンチセンス鎖によってPPR 発現量を減少させた系統(appr )の老化の進行は野生型と同等であったが、kdwhy3 appr 二重変異体はMIR840 過剰発現系統のように老化が促進され、老化関連遺伝子の発現プロファイルも類似していた。また、MIR840 過剰発現系統でPPRWHY3 を過剰発現させることで老化は野生型と同等になった。以上の結果から、MIR840 の転写産物は葉の老化開始時に蓄積し、老化促進は、主に隣接する遺伝子のPPRWHY3 の重複する3' UTR部分を標的として、mRNAと翻訳レベルでこれら2遺伝子の発現を阻害すると考えられる。miR840*-PPRとmiR840-WHY3は、相乗的に植物の老化関連遺伝子の発現を再プログラムし、結果として植物を老化の開始へと導くと考えられる。

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論文)サイトカイニンによる芽生えフック形成制御

2022-01-19 22:21:42 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin regulates apical hook development via the coordinated actions of EIN3/EIL1 and PIF transcription factors in Arabidopsis
Aizezi et al.  Journal of Experimental Botany (2022) 73:213–227.

doi:10.1093/jxb/erab403

双子葉植物芽生えのフック形成は、複数の植物ホルモンや環境因子によって協調的に制御されている。その中でもエチレンはフック形成を誘導する因子として知られており、エチレンシグナル伝達経路の転写因子ETHYLENE INSENSITIVE 3(EIN3)とそのホモログEIN3-LIKE 1(EIL1)が機能喪失したein3 eil1 二重変異体はエチレン非感受性となりフックが形成されない。中国 南方科技大学Jiang らは、EIN3/EIL1とは独立したフック形成経路を探索することを目的に、シロイヌナズナein3 eil1 二重変異体黄化芽生えのフック形成を変化させる化学物質のスクリーニングを行なった。その結果、カイネチンリボシド(KR)が、ein3 eil1 二重変異体および野生型植物の黄化芽生えのフック屈曲を強めることが判った。また、リボシドが外れた活性型サイトカイニンのカイネチン(KT)もKRと同等の効果を示した。サイトカイニン受容体の変異体ahk2/3ahk2/4ahk3/4 および受容体の下流に位置するレスポンスレギュレーターの変異体arr1/11/12 はフック形成におけるKRやKTに対する感受性が低下していた。しかしながら、これらの変異体はエチレン(ACC)処理によるフック屈曲に対しては応答した。さらに、ein3 eil1 二重変異体および野生型植物は6-ベンジルアミノプリンやトランスゼアチンといった他のクラスのサイトカイニン処理でもフック屈曲が強まった。これらの結果から、サイトカイニンはEIN3/EIL1とは一部独立してサイトカイニンシグナル伝達経路を介してフックの屈曲を促進することが示唆される。サイトカイニンはエチレン生産を促進することが知られており、KT処理をした芽生えはエチレン生産量が増加した。また、エチレン生合成酵素遺伝子acs 八重変異体やein3 eil1 二重変異体は野生型植物と比較してKT処理によるフック屈曲が低下した。しかしながら、依然としてフック屈曲の促進は見られた。以上のことから、サイトカイニンのフック屈曲に対する効果は、部分的にはエチレン生合成とエチレンシグナル伝達に依存するが、EIN3/EIL1非依存の経路も存在すると考えられる。フックはオーキシンの極性輸送による不均等分布によって形成される。KT処理はオーキシンの不均等分布を強め、オーキシンの生合成もしくは輸送を阻害することでKT処理によるフック形成は弱められた。フック形成に関与しているEIN3/EIL1のターゲット遺伝子HOOKLESS1HLS1 )の機能喪失変異体は、KTに応答したフック形成が見られなかった。したがって、サイトカイニンによるフック形成にはオーキシンの不均等分布とHLS1が関与していると考えられる。PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)はEIN3/EIL1と並行してフック形成を制御している。そこで、ein3 eil1 二重変異体、pif1 pif3 pif4 pif5pifq )四重変異体、pif1 pif3 pif4 pif5 ein3 eil1pee )六重変異体のフック形成におけるACCとKTの効果を見た。ACC処理はpifq 変異体でフック形成を促進したが、ein3 eil1 変異体とpee 変異体では効果は見られなかった。一方で、KT処理はein3 eil1 変異体とpifq 変異体で促進効果を示し、HLS1 転写産物量が増加したが、pee 変異体では効果が見られず、HLS1 の発現も誘導されなかった。このことから、KTはEIN3/EIL1とPIFの2種類の並行したシグナル伝達経路を介してフックの屈曲を促進していることが示唆される。PIF4 もしくはPIF5 の過剰発現系統はKT処理によるフック屈曲がさらに強まり、KT処理はPIFタンパク質の安定性を増加させる効果があった。このことから、サイトカイニンによるPIFの転写後制御がEIN3/EIL1とは独立したフック形成促進に貢献していると思われる。フック形成過程のタイムラプスイメージング観察から、サイトカイニンは主にフック屈曲を長く維持することでフック形成を促進し、これはPIFに依存した機構であることが判った。PIF 過剰発現系統のKT処理によるフック形成の促進は、エチレン生合成阻害剤を同時に処理することによってPIFタンパク質の安定化とは関係なく緩和された。したがって、フック形成はPIFではなく、EIN3/EIL1が主要な役割を果たしている可能性があり、EIN3/EIL1およびPIFを介したシグナル伝達経路は、それぞれ異なる機構でフック形成を制御し、サイトカイニンはこれら2つのシグナル伝達経路を統合していることが示唆される。光照射した黄化芽生えにKT処理をしても無処理のものと同じようにフックが開くが、ACC処理をした芽生えはフックの開きに遅れが見られた。PIF4 過剰発現系統の黄化芽生えはKT処理をしても光照射によってPIFが分解されフックが開くが、ACC処理をするとPIFの安定性に差異はないが光応答性が低下した。よって、サイトカイニンによるフックの屈曲はエチレンによる屈曲よりも光に敏感である。CKX3 を過剰発現させたサイトカイニン欠損系統は暗黒条件で野生型よりも早くフックが開いた。よって、内生サイトカイニンはフックの維持にとって重要であると考えられる。以上の結果から、サイトカイニンはエチレンシグナルと光シグナルをそれぞれEIN3/EIL1およびPIFを介して統合し、芽生えの初期発生におけるフックの形成を動的に制御していると考えられる。

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論文)アブシジン酸を介した葉の老化や種子発芽の制御のVQタンパク質による調節

2022-01-13 07:08:30 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis SIGMA FACTOR BINDING PROTEIN1 (SIB1) and SIB2 inhibit WRKY75 function in abscisic acid-mediated leaf senescence and seed germination
Zhang et al.  Journal of Experimental Botany (2022) 73:182-196.

doi:10.1093/jxb/erab391

シロイヌナズナSIGMA FACTOR BINDING PROTEIN1(SIB1)とSIB2は、VQモチーフ(FxxhVQxhTG)を含んだ植物特異的タンパク質で、WRKYファミリー転写因子のWRKY33と相互作用をして病原菌に対する防御を活性化することが報告されている。中国科学院 シーサンパンナ熱帯植物園Chenらは、SIB1SIB2 は老化葉での発現量が高く、アブシジン酸(ABA)処理によって発現誘導されることを見出した。そこで、sib 変異体、SIB1 過剰発現系統を用いて各種解析を行ない、SIBs はABAが誘導する葉の老化に対して負に作用すること、ABAによる種子発芽や芽生え初期成長の抑制に対しても負に作用することが判った。Y2HアッセイやLCIアッセイから、SIBsはWRKY転写因子のWRKY75と物理的に相互作用をすることが確認された。WRKY75 は老化葉での発現量が高く、葉をABA処理することによって発現が誘導された。そこで、wrky75 変異体とWRKY75 過剰発現系統を用いて解析を行なったところ、WRKY75 はABAが誘導する葉の老化に対して正に作用し、種子発芽や芽生えの初期成長に対するABAの作用に対しても正に制御していることが判った。WRKY転写因子はターゲット遺伝子プロモーター領域のW-box(T/CTGACC/T)に特異的に結合することが知られている。葉の老化や種子発芽におけるABAの作用を負に制御しているGARPファミリー転写因子遺伝子GOLDEN 2-LIKE1GLK1 )とGLK2 のプロモーター領域はW-boxを含んでおり、この領域にWRKY75が結合することが確認され、一過的発現解析からWRKY75はGLK1 の発現を抑制することが判った。GLK1GLK2 の発現はwrky75 変異体で高く、WRKY75 過剰発現系統で低く、また、sib 変異体で低く、SIB1 過剰発現系統で高くなっていた。したがって、WRKY75とSIBsはGLK1GLK2 を通じてABAを介した応答を制御していると思われる。sib 変異体にwrky75 変異を導入したところ、sib 変異体でのABAによる葉の老化誘導の促進が見られなくなった。よって、ABAが誘導する葉の老化のSIBs による遅延はWRKY75 に依存していることが示唆される。SIB1 もしくはSIB2WRKY75 の一過的共発現解析から、SIB1とSIB2はWRKY75の負の相互作用因子として機能することが確認された。glk1/glk2/wrky75 三重変異体およびGLK1/WRKY75 過剰発現系統の表現型の解析から、WRKY75GLKs の上流で作用し、GLKs の発現を抑制することでABAを介した葉の老化と種子発芽の制御に対して促進的に機能することが判った。以上の結果から、VQタンパク質のSIB1とSIB2は、WRKY75の抑制因子として機能してGLKs の発現を制御することでABAを介した葉の老化と種子発芽の調節ネットワークとして機能していると考えられる。

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論文)オーキシンの不活性化経路

2022-01-07 22:08:54 | 読んだ論文備忘録

The main oxidative inactivation pathway of the plant hormone auxin
Hayashiet al.  Nature Communications (2021) 12:6752.

doi:10.1038/s41467-021-27020-1

シロイヌナズナでは4種類のインドール-3-酢酸(IAA)の不活性化経路[DIOXYGENASE FOR AUXIN OXIDATION1(DAO1)による酸化、IAA CARBOXYL METHYLTRANSFERASE1(IAMT1)によるメチルエステル化、UDP-グルコシルトランスフェラーゼUGT84B1による配糖体化、GH3によるアミノ酸付加]が報告されている。IAAの代謝産物として2-オキソインドール-3-酢酸(oxIAA)が最も多いことから、IAAの酸化が主要な不活性化経路であると考えられている。in vitroの解析では、DAO1がIAAをoxIAAに転換することが確認されているが、シロイヌナズナDAO1 過剰発現系統はオーキシン欠損型のような表現型を示さない。岡山理科大学らは、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を用いてシロイヌナズナIAA不活性化経路の各種変異体を作出して解析を行なった。その結果、dao1 dao2 二重変異体、iamt1 ugt84b1 dao1 dao2 四重変異体の芽生えに形態異常は見られなかったが、gh3.1 2 3 4 5 6 17 七重変異体(gh3-sept )は主根が短くなり不定根が多く発生するオーキシン過剰蓄積型の表現型を示した。また、GH3阻害剤kakeimide(KKI)処理をすることによっても同様の形態異常が生じた。gh3-sept 変異体では内生IAA量が増加し、IAA-Asp、IAA-Gluは検出されなかった。一方で、iamt1 ugt84b1 dao1 dao2 四重変異体の内生IAA量は野生型と同等であった。これらの結果から、IAAの不活性化においてGH3経路が中心的役割を演じていると考えられる。gh3-sept 変異体ではoxIAAが蓄積しているのではないかと推測したが、意外にもoxIAA量は野生型植物よりも減少した。[13C6]IAAを添加した実験から、dao1 dao2 二重変異体やgh3-sept 変異体ではoxIAAやoxIAA酸化産物のdioxIAAが生成されないことが判った。これらの結果から、oxIAAの生成はGH3の存在に依存しており、AtDAO1はGH3と同一経路の下流において機能していることが推測される。AtDAO1やイネOsDAOの基質特異性解析や結晶構造解析から、DAOは従来考えられていたIAAを基質としてoxIAAに変換する酸化酵素ではなく、IAA-アミノ酸オキシダーゼとしてoxIAA-アミノ酸結合体を生成する酵素であることが判明し、そのような活性が生体内においても確認された。IAA-AspやIAA-Gluは植物体に添加してもオーキシン活性を示さないことから不可逆的な代謝産物であると考えられていたが、細胞膜透過型のIAA-Asp-ジメチルエステル(IAA-Asp-DM)やIAA-Glu-DMを用いた解析の結果、細胞内に取り込まれたIAA-アミノ酸結合体はIAA-Leu-Resistant1(ILR1)/ILR1-like(ILL)によって遊離IAAに転換されることが判った。したがって、IAA-アミノ酸結合体は植物体において貯蔵型IAAとして機能していることが示唆される。ilr1/ill 変異体はIAA-Glu-DM処理による一次根の伸長阻害に対して抵抗性を示した。また、ilr1/ill 変異体は胚軸伸長や側根形成においてオーキシン欠損型の表現型を示した。dao1 変異体は根毛の伸長、側根の増加、子葉の拡大、稔実低下といった高オーキシン型の表現型を示すが、ilr1/ill 変異を導入することで改善された。ilr1 変異体では内生のoxIAA、dioxIAA量が大きく減少し、oxIAA-Gluが蓄積していた。野生型植物にIAAもしくはIAA-Glu-DMを添加するとoxIAA、dioxIAA量が増加するが、ilr1 変異体ではoxIAA-Glu量が増加し、oxIAA、dioxIAA量は変化しなかった。したがって、oxIAA-ApsやoxIAA-GluはILR1 によってoxIAAに転換されることが示唆される。以上の結果から、IAAの不活性化は、GH3-ILR1-DAOを介したIAAのリサイクルと分解により協調的に制御され、オーキシンのホメオスタシスが維持されていると考えられる。

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謹賀新年

2022-01-01 08:45:05 | Weblog

明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。

リンドウ(竜胆)Gentiana scabra var. buergeri  リンドウ科リンドウ属
2021年11月5日 神奈川県鎌倉市

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