Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)SPL転写因子とマイクロRNAによる成長転換

2009-08-30 17:38:04 | 読んだ論文備忘録

miR156-Regulated SPL Transcription Factors Define an Endogenous Flowering Pathway in Arabidopsis thaliana
Wang et al.  Cell (2009) 138:738-749.
doi:10.1016/j.cell.2009.06.014

The Sequential Action of miR156 and miR172 Regulates Developmental Timing in Arabidopsis
Wu et al.  Cell (2009) 138:750-759.
doi:10.1016/j.cell.2009.06.031

The MicroRNA-Regulated SBP-Box Transcription Factor SPL3 Is a Direct Upstream Activator of LEAFY, FRUITFULL, and APETALA1
Yamaguchi et al.  Developmental Cell (2009) 17:268-278.
doi:10.1016/j.devcel.2009.06.007

Repression of Flowering by the miR172 Target SMZ
Mathieu et al.  PLoS Biol (2009) 7:e1000148.
doi:10.1371/journal.pbio.1000148

Preview
Plant Phase Transitions Make a SPLash
Fabio Fornara and George Coupland  Cell (2009) 138:625-627.
doi:10.1016/j.cell.2009.08.011

シロイヌナズナが幼植物から成熟個体へ、栄養成長から生殖成長へと転換する際には様々な形態変化を示す。このような成長過程の変化の過程において、SQUAMOSA PROMOTER BINDING-LIKESPL )転写因子の転写産物量増加とSPL のターゲットとなるマイクロRNAのmiR156 量の減少が確認されており、成長の転換に関与していると考えられている。miR156は幼植物での発現が強く、植物体が成熟するにつれて弱くなる発現パターンを示し、シロイヌナズナに16個存在するSPLのうちの10個をターゲットとしている。このmiR156 の発現パターンと逆の挙動を示すマイクロRNAとしてmiR172が知られており、このmiRNAは6個のAP2様転写因子(APETALA2TARGET OF EAT123SCHLAFMÜTZESCHNARCHZAPFEN )をターゲットとしている。最近、SPL転写因子とマイクロRNAによる成長転換に関する論文がペンシルバニア大学とマックスプランク発生生物学研究所の4つのグループから発表された。


ペンシルバニア大学のPoethig らのグループは、SPL9とSPL10がmiR172 前駆体をコードする遺伝子の発現を活性化し、SPL9がこの前駆体遺伝子のプロモーター領域に結合することを見出した [Wu et al. Cell (2009)138:750-759.]。また、SPL9とSPL10はmiR156 前駆体の転写も促進しており、自らの発現に対して負のフィードバックループを形成していることもわかった。よって、SPL9とSPL10は直接miR172 の発現を活性化することで、幼植物期から成熟期への転換を促進しているものと考えられる。


シロイヌナズナを短日条件から長日条件へ移すと葉においてFLOWERING LOCUS TFT )が発現する。FTタンパク質は茎頂へと輸送され、bZIP型転写因子のFLOWERING LOCUS D (FD)と複合体を形成して花成に関与するMADS box転写因子のAPETALA1 AP1 )、SUPPRESSOR OF CONSTANS OVEREXPRESSION SOC1 )、FRUITFULL FUL )の発現を誘導する。マックスプランク発生生物学研究所のSchmid らのグループは、miR172のターゲットとなるSCHLAFMÜTZE(SMZ)によるFT 発現の制御について調査し[Mathieu et al.  PLoS Biol (2009) 7:e1000148.]、SMZは直接FT の発現を抑制し、さらに茎頂部においてFT のシグナル伝達の下流に位置するAP1SOC1 の発現も抑制していることを明らかにした。また、SMZがFT の発現を抑制するためには花成を抑制するMADS box転写因子であるFLOWERING LOCUS M(FLM)が必要であることがわかった。よって、miR172/SMZは複数の花成誘導転写因子の発現を制御することで花成の微調整を行なっているものと考えられる。


マックスプランク発生生物学研究所のWeigel らのグループは、miR156 を過剰発現させた個体ではSLP3SLP9 の転写産物量が減少してFULSOC1 の発現誘導に遅れが生じること、誘導型プロモーターの制御下でSLP9 を発現させると誘導とともにFUL の発現誘導が起こること、SLP3がFUL のプロモーター領域に、SPL9がSOC1 およびSOC1 ホモログのAGAMOUS-LIKE42 AGL42 )のプロモーター領域に結合することを見出した[Wang et al.  Cell (2009) 138:738-749.]。このことから、SLPはFT/FD複合体とは独立して自ら直接花成に関与するMADS box転写因子の発現を制御しているものと考えられる。


ペンシルバニア大学のWagner らのグループは、花成の際にSPL3がFULAP1LEAFYLFY )の発現を直接活性化してしており、SPL4とSPL5もSPL3と機能重複していることを見出した[Yamaguchi et al.  Developmental Cell (2009) 17:268-278.]。よって、SPL転写因子はFT/FD複合体の経路と並行して花成を制御する調節ネットワークにおいて中心的な役割を果たしていると考えられる。

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論文)KNOTTED1ホメオボックス転写因子によるジベレリン量の制御機構

2009-08-25 23:09:42 | 読んだ論文備忘録

The Maize Transcription Factor KNOTTED1 Directly Regulates the Gibberellin Catabolism Gene ga2ox1
Bolduc and Hake  Plant Cell (2009) 21:1647-1658.
doi:10.1105/tpc.109.068221

分裂組織的細胞がその活性を維持するためにはクラスⅠKNOTTED1様ホメオボックス(KNOX)転写因子の発現が必要で、シロイヌナズナではSHOOT MERISTEMLESS(STM)、トウモロコシではKNOTTED1(KN1)がその役割を担っている。これまでの知見から、KN1 はジベレリン(GA)シグナルに影響を及ぼしていることが推測されており、優性のKn1-N 突然変異体においてGAを不活性化するGA2-オキシダーゼ(ga2ox1 )の転写産物量が上昇していることが報告されているが、詳細なメカニズムは明らかとなっていない。植物遺伝子発現センター(アメリカ連邦農務省・カリフォルニア大学)のHake らは、トウモロコシのKNOX転写因子がga2ox1 遺伝子の第1イントロンの3’側にある2つのTGACモチーフを含んだシスエレメントに結合することを突き止め、これがga2ox1 の発現に関与して発達中の葉から分裂組織へ流入するGAを不活性化することで分裂組織の異常分裂を抑止していることを明らかにした。ga2ox1 遺伝子のシス領域はイネ、モロコシ(Sorghum bicolor )、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon )のオーソログにも存在することから、KNOX転写因子によるGA量制御はイネ科植物に共通して見られる機構であると考えられる。

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論文)浮きイネの水没伸長メカニズム

2009-08-22 17:29:54 | 読んだ論文備忘録

The ethylene response factors SNORKEL1 and SNORKEL2 allow rice to adapt to deep water
Hattori et al.  Nature (2009) 460:1026-1030.

doi:10.1038/nature08258

News and Views
Plant biology:
Genetics of high-rise rice
Voesenek & Bailey-Serres  Nature (2009) 460:959-960.

doi:10.1038/460959a

浮きイネは水没すると節間を伸長させる能力を有している。多くの生理学的研究からこの応答にはエチレン、ジベレリン、アブシジン酸といった植物ホルモンが関与していることがわかっているが、この形質に関与している遺伝子は同定されていない。名古屋大学の芦苅らのグループは浮きイネ品種C9285と通常の品種台中65を交配し後代系統のQTL解析から浮きイネの形質に関与する3つの主要なQTLを突き止め、そのうち最も作用力のある第12染色体上の遺伝子座について同定を行った。そして、ポジショナルクローニングや形質転換体の機能獲得解析からSNORKEL1SK1 )、SNORKEL2SK2 )の2つの遺伝子を同定した。SK1SK2 は核局在シグナルとAP2/ERFドメインを有したERFサブファミリーに属するタンパク質をコードしている。SK 遺伝子は水没により発現量が増加し、葉身、葉鞘、節と節間を含む茎の基部といった水没に対して応答している器官で発現が見られる。SK 遺伝子はエチレン処理によって発現が増加し、SK 遺伝子のプロモーター領域にはエチレンシグナル伝達に関与する転写因子EIN3の結合する部位が存在する。よって、SK1、SK2は浮きイネの水没応答に関与する新奇のエチレン応答性転写因子(ERF)であるといえる。イネは水没するとエチレンを生成するが、浮きイネでは水没によって蓄積したエチレンによりSK 遺伝子の発現が誘導され節間伸長が起こる。その際、浮きイネでは活性型のジベレリンであるGA1量が上昇するが、通常のイネではGA量に変化は見られない。SK 遺伝子のシグナルはGA量の変化と関連し、これが節間伸長をもたらしていると考えられる。水没に耐性を示すイネとして、水没中の伸長とエネルギー消費を抑制する系統が知られており、この系統ではSUB1A というERFが発現してそのような形質を示す。SKSUB1A はどちらもERFをコードしGAと関連しているが、相反する機能によりイネの成長を制御し水没に適応させている。

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論文)遠赤色光による種子発芽の抑制機構

2009-08-20 23:02:49 | 読んだ論文備忘録

Far-red light inhibits germination through DELLA-dependent stimulation of ABA synthesis and ABI3 activity
Piskurewicz et al.  The EMBO Journal (2009) 28:2259-2271.
doi:10.1038/emboj.2009.170

種子発芽は光の質、温度、水ポテンシャルといった環境要因によって厳密に制御されている。これらの要因は種子発芽に対して拮抗的に作用するジベレリン(GA)とアブシジン酸(ABA)の2つの植物ホルモンの相対的な量を制御している。葉の陰になり遠赤色光(FR光)成分の多い光の下では、フィトクロムB(phyB)が不活性型となっており、GA量が少なくABA量が多いために発芽は起こらない。ジュネーブ大学のLopez-Molina らのグループは、シロイヌナズナを用いてFR光下での発芽抑制におけるGAシグナルとABAシグナルの関係について解析を行なった。その結果、FR光下での発芽抑制の際には、bHLHタンパク質のPIL5がGAシグナルの負の制御因子であるGAIRGA の発現を誘導し、これらのDELLAタンパク質がABA合成に関与しているとされているRING-H2因子XERICO の発現を誘導して種子の内生ABA量を高めていることがわかった。そしてABAはABAシグナル伝達に関与する転写因子のABI3 やDELLAタンパク質RGL2 の発現上昇をもたらして、種子の発芽を抑制していた。また、DELLAタンパク質は種皮の破裂を抑制し、ABI3は内乳(糊粉層)の破裂を抑制していることがわかった。

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論文)N末端則経路による形態形成制御

2009-08-18 11:18:17 | 読んだ論文備忘録

The N-end rule pathway controls multiple functions during Arabidopsis shoot and leaf development
Graciet et al.  PNAS (2009) 106:13618-13623.
doi:10.1073/pnas.0906404106

ユビキチンを介したN末端則経路は、生体内においてN末端アミノ酸残基に基づいたタンパク質の半減期に関与している。N末端がAsp、Glu、(酸化型)Cys残基のタンパク質は、アルギニル-tRNA-タンパク質トランスフェラーゼ(R-トランスフェラーゼ)の作用によりN末端にArg残基が縮合され、N末端の塩基性アミノ酸を認識するE3ユビキチンリガーゼのN-レコグニンに認識されてユビキチン-プロテアソーム系により分解される。トリニティカレッジ(ダブリン大学)のGraciet とカリフォルニア工科大学のMeyererowitz らのグループは、シロイヌナズナの2つR-トランスフェラーゼAtATE1 (At5g05700)とAtATE2 (At3g11240)の二重突然変異体ate1 ate2 を用いてN-末端則経路が植物の形態に及ぼす影響について解析した。ate1 ate2 変異体はロゼット葉が波打って鋸歯の切れ込みが深くなり、頂芽優性が低下して花成前に腋生分裂組織から葉が出現し、葉序や節間伸長に異常が見られ、葉の老化が遅延した。AtATE1AtATE2 はどちらも急速に成長している組織で発現しており、葉やシュートの発達の制御に対して相補的に作用していると考えられる。シロイヌナズナのN-レコグニンであるPROTEOLYSIS6  (PRT6 )の機能喪失突然変異体prt6 およびate1 ate2 prt6 三重変異体もate1 ate2 変異体と同じような表現型を示すことから、ate1 ate2 変異体において観察される形態変化は特定のタンパク質がN末端則により分解されないことによって生じているものと考えられる。ate1 ate2 変異体に見られる葉の形態異常はクラスⅠKNOTTED 様ホメオボックス(KNOX )遺伝子のBREVIPEDICELLUS BP )の発現異常によっても生じ、ate1 ate2 変異体では野生型では見られないはずの葉でのBP 発現が観察された。BP の発現はASYMMETRIC LEAVES1 AS1 )転写因子複合体およびオーキシンにより抑制されていることが知られている。ate1 ate2 as1 三重変異体では双方の親系統では見られない小葉が出現したことから、R-トランスフェラーゼとAS1は葉の発達過程において部分的に重なり合って作用していると思われる。また、ate1 ate2 変異体はオーキシンに対する応答性、内生オーキシン量が野生型と同等であるので、R-トランスフェラーゼの作用はオーキシンとは独立しているものと思われる。

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論文)アブシジン酸とエチレンの作用拮抗メカニズム

2009-08-14 21:20:27 | 読んだ論文備忘録

Antagonism between abscisic acid and ethylene in Arabidopsis acts in parallel with the reciprocal regulation of their metabolism and signaling pathways
Cheng et al.  Plant Mol Biol (2009) 71:61-80.
DOI 10.1007/s11103-009-9509-7

アブシジン酸(ABA)とエチレンは、種子発芽、芽生えの成長など植物の成長過程において拮抗的に作用している。この2つのホルモンの拮抗作用にはそれぞれのシグナル伝達において交差する点が存在するのか、両者のシグナルは並行しているのかは明らかとなっていない。台湾中央研究院のCheng らのグループは、シロイヌナズナのエチレンシグナル伝達の突然変異体(ctr1ein2ein4ein6 )とABA合成の突然変異体aba2 を交配して二重変異体を作出し、これらを解析することで相互のシグナル伝達の関係を解析した。その結果、全ての二重突然変異体において植物体が小さい、萎れやすいというaba2 の形質が見られた。エチレンに対する応答およびトリプルレスポンスについては、ctr1aba2 変異体では常にエチレン応答を示し、ein 変異の入ったものではエチレン非感受性となっていた。これらの結果ら、ABAシグナルとエチレンシグナルは並列の経路であると考えられる。一方、マイクロアレイ解析を行なったところ、aba2 変異体ではACCオキシダーゼ(ACO )の発現量が増加しており、ein2 変異体ではABA合成に関与している9-シス-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ3遺伝子(NCED3 )の発現量が増加していた。また、エチレン受容体の膜貫通型ヒスチジンキーナーゼをコードする遺伝子に変異の生じたetr1-1 変異体ではABAシグナル伝達の負の制御因子であるABSCISIC ACID INSENSITIVE1ABI1 )とABA水酸化酵素CYP707A2 遺伝子の発現量が低下していた。したがって、ABA2EIN2 はそれぞれエチレン合成およびABA合成をを負に制御し、ETR1-1ABI1CYP707A2 を正に制御してABAシグナルを抑制していると考えられる。以上の結果ら、ABAとエチレンは互いのホルモン合成と分解、もしくはシグナル伝達において拮抗的に作用しあっていると思われる。

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論文)不定胚形成の分子機構

2009-08-13 06:03:28 | 読んだ論文備忘録

Auxin-induced WUS expression is essential for embryonic stem cell renewal during somatic embryogenesis in Arabidopsis
Su et al.  Plant J. (2009) 59:448-460.
DOI: 10.1111/j.1365-313X.2009.03880.x

不定胚は植物細胞にオーキシンやストレスなどの刺激を与えることで誘導される。その際、細胞塊の一部に分裂組織が形成され、接合子胚に似た形態形成過程を経て胚へと発達する。分裂組織の形成には幹細胞を規定するWUSCHELWUS )遺伝子が関与していると考えられ、また不定胚形成にはオーキシンが関与しているとされている。山東農業大学のZhang らのグループは、シロイヌナズナ未熟胚由来カルスからの不定胚形成過程においてどのような分子機構が作用しているかを調査した。接合子胚形成過程ではLEAFY COTYLEDON1 LEC1 )、LEC2FUSCA3 FUS3 )、ABA-INSENSITIVE3 ABI3 )といった遺伝子が重要な役割を担っており、それらは不定胚形成過程においても発現が見られた。また、茎頂分裂組織や子葉の形成過程において発現しているSHOOT MERISTEMLESS STM  )やCUP-SHAPED COTYLEDON2 CUC2 )も不定胚形成過程において発現が見られ、接合子胚も不定胚も胚形成過程において発現している遺伝子は類似していることがわかった。不定胚形成過程でのWUS の発現パターンを見ると、カルスをオーキシンを含む培地に移植して胚形成能を有するカルス(embryonic callus、EC)を誘導した際には表面から7、8層下の未分化の細胞領域で弱く発現しており、培地からオーキシンを抜いて不定胚を誘導すると発現が高まってその領域が器官形成の中心となって不定胚が形成されていった。ECでのWUS の誘導には培地からのオーキシン除去が必須だが、WUS の発現パターンの制御には前段階のオーキシン処理が重要であることがわかった。ECにおいてオーキシンはカルスの中央部に局在しているが、不定胚を誘導する培地に移植するとオーキシンはカルスの縁の部分で高く、WUS の発現するカルス中央部では低くなりオーキシンの濃度勾配が形成されていた。その後、オーキシンは不定胚の頂端部や子葉原基で高くなっていった。よって、オーキシン濃度勾配はカルスでのWUS の発現誘導と関連しており、WUS の誘導後にオーキシン濃度勾配は茎頂分裂組織や不定胚において再構築されるものと考えられる。また、不定胚形成過程におけるオーキシンの濃度勾配の形成にはオーキシン排出キャリアPIN1 の発現が関与していることが確認された。以上の結果は、オーキシン濃度勾配の形成とPIN1によるオーキシン極性輸送がWUS の発現誘導と不定胚形成にとって重要であることを示している。

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論文)植物の小胞体におけるタンパク質品質管理機構

2009-08-12 21:34:50 | 読んだ論文備忘録

A plant-specific calreticulin is a key retention factor for a defective brassinosteroid receptor in the endoplasmic reticulum
Jin et al.  PNAS (2009) 106:13612-13617.
doi:10.1073/pnas.0906144106

Commentaries
Calreticulins are not all the same
Alessandro Vitale  PNAS (2009) 106:13151-13152.
doi:10.1073/pnas.0907255106

シロイヌナズナのブラシノステロイド非感受性突然変異体bri1-9 は、膜貫通型ブラシノステロイド受容体キナーゼBRI1のリガンド結合モチーフにアミノ酸置換の変異が入るために、小胞体のタンパク質品質管理機構によりタンパク質が小胞体に留まって細胞膜へ到達しない。ミシガン大学のLi らのグループは、以前にbri1-9 変異体の表現型を回復させる突然変異体(EMS-mutagenized bri1 suppressor 1ebs1 )を単離し、EBS1 は哺乳類のUDP-グルコース:糖タンパク質グルコース転移酵素(HGGT)のホモログをコードしていることを明らかにした。HGGTは小胞体において糖タンパク質の糖鎖にグルコースを付加することでタンパク質品質管理機構に関与していることが知られている。今回は新たにebs2 変異体を単離し、解析を行なった。ebs2 による変異はebs1 によるものと非常によく似ていることから、EBS2もEBS1と同様にBri1-9の品質管理に関与している変異体ではないかと考えられた。染色体ウォーキングにより、ebs2 変異はカルレテュキュリン3(CRT3 、At1g08450)遺伝子の変異によりアミノ酸置換の起こったものであることが判った。CRTは小胞体に局在する分子シャペロンで、糖タンパク質の正しい折れたたみに関与している。シロイヌナズナにはCRTが3種類(CRT1~3)あるが、CRT1/CRT2とCRT3ではC末端側のアミノ酸配列やATTED-IIデータベースによる遺伝子共発現解析結果が異なることから、それぞれの生理機能は異なっていると考えられる。CRT3の変異によりbri1-9 表現型が回復するということは、この変異によりbri1-9タンパク質が小胞体外へ輸送されることを示しており、CRT3はbri1-9を小胞体内に留める主要な因子であると考えられる。また、CRT1とCRT3でC末端のドメインスワッピングを行ない、CRT3のC末端がbri1-9の小胞体保持に関与していることが確かめられた。以上の結果は、植物に存在するカルレティキュリンも小胞体タンパク質品質管理機構に関与しており、シロイヌナズナの3つのカルレティキュリンは機能的に異なっていることを示している。

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論文)ショ糖分解の主要酵素は細胞質インベルターゼ

2009-08-09 19:03:17 | 読んだ論文備忘録

Normal growth of Arabidopsis requires cytosolic invertase but not sucrose synthase
Paul Barratt et al.  PNAS (2009) 106:13124-13129.
doi:10.1073/pnas.0900689106

ショ糖が植物細胞において代謝される際には、ショ糖合成酵素(SUS)かインベルターゼ(INV)により単糖に分解される。SUSはショ糖をフルクトースとUDPグルコースに可逆的に変換する酵素で、シロイヌナズナにはアイソザイムが6つ存在する。INVはショ糖をグルコースとフルクトースに加水分解する酵素で、シロイヌナズナには細胞内局在(液胞、細胞質、細胞壁)の異なるアイソザイムが9つ存在する。SUSによる糖代謝はATPの消費が少なく、フィードバック制御による調節を受けることから、INVによる糖代謝よりも重要ではないかと考えられてきた。このことを検証するために、ジョン・イネス・センターのSmith らのグループは、シロイヌナズナのSUSのうち篩部で発現しているSUS5とSUS6を除く4つを発現抑制した四重変異体(sus1/sus2/sus3/su4 )を作出して解析を行なった。しかし、この変異体は正常に成長/繁殖し、INV 遺伝子の発現増加やヘキソースリン酸やUDPグルコースのプールサイズの変化は見られなかった。そこで、細胞質局在の2種類の中性/塩基性INV(At1g35580、At4g09510)を発現抑制した変異体を作出して解析を行なった。それぞれのINVの単独変異体cinv1cinv2 は土耕栽培条件下において野生型と同等であったが、cinv1/cinv2 二重変異体は開花・結実は見られるが、成熟個体は野生型に比べ小さくなった。また、二重変異体の芽生えはシュートの成長は正常だが根の成長は極端に悪かった。二重変異体の根の伸長領域の細胞は肥大して潰れやすく、中心柱、内皮、皮層の細胞分裂に異常が見られた。根の中性INV活性は野生型よりも4割程度低下していた。これらの結果から、細胞質INVによるショ糖分解は非光合成細胞における糖代謝の主要な経路であると考えられる。

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論文)食害する昆虫の違いで防御応答シグナルが異なる

2009-08-05 20:03:31 | 読んだ論文備忘録

Different Lepidopteran Elicitors Account for Cross-Talk in Herbivory-Induced Phytohormone Signaling
Diezel et al.  Plant Physiol. (2009)150:1576-1586.
doi:10.1104/pp.109.139550

植物は病原菌の感染や草食昆虫の食害を受けると様々な防御応答を示し、それにはサリチル酸(SA)、ジャスモン酸(JA)、エチレンといった植物ホルモンの生成とそれらのシグナルのクロストークが関与している。マックス・プランク化学生態学研究所のBaldwin らのグループは、野生タバコNicotiana attenuata を実験材料に用いて、2種類の鱗翅目幼虫の食害に対する植物の応答を調べた。このタバコは自生地においてスペシャリストであるタバコスズメガ(Manduca sexta )とゼネラリストであるシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )の食害を受ける。タバコスズメガの食害を受けたタバコは一過的にJAとエチレンを生産するが、SA量はそれほど大きな変化を示さなかった。一方、シロイチモジヨトウの食害を受けるとSA生産が大きく増加し、JAとエチレンの生産はタバコスズメガの食害の際と比べると少なかった。この植物ホルモン生産パターンの違いは、それぞれの幼虫の口内分泌物を傷害葉に処理しても観察された。幼虫の口内分泌物に含まれるエリシターの違いにより植物ホルモン応答が異なることが知られている。タバコスズメガの口内分泌物には脂肪酸-アミノ酸縮合体(FAC)がシロイチモジヨトウ口内分泌物よりも多く含まれており、これはJAとエチレンの生産を誘導するが、SAの生産には影響しない。シロイチモジヨウトウ口内分泌物はタバコスズメガ口内分泌物よりもグルコースオキシダーゼ(GOX)活性とGOXの基質であるグルコース含量およびこの反応により生成される過酸化水素含量が高く、GOX活性(おそらくこの反応の生成物である過酸化水素)がSAの生産を誘導していることが確かめられた。熱処理をしたイチモジヨトウ口内分泌物は、非熱処理のものよりもJAとエチレンの誘導量が多くなることから、GOX活性はJA、エチレン生産を抑制していると考えられる。また、JA合成を抑制したタバコやエチレン合成や受容を抑制したタバコにFAC処理をするとSA誘導量が増加することから、JAとエチレンはタバコスズメガ口内分泌物の誘導するSA生産を抑制していると考えられる。以上の結果は、鱗翅目昆虫の口内分泌物に含まれるFACとGOXという異なるエリシターに対してタバコはサリチル酸とジャスモン酸のクロストークおよびサリチル酸とエチレンのクロストークにより防御応答を変化させていることを示している。

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