Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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植物観察)箱根

2024-03-28 14:14:48 | 植物観察記録

2024/03/28
箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。今年、関東では3月後半に寒い日が続いており、その所為でしょうか、バイケイソウは地上部に出芽して葉の展開がようやく始まりだしたところでした。東京のソメイヨシノの開花予想は平年より5日遅い3/29頃となっています。これは、昨年11月から1月にかけての気温が高かったため、休眠打破が遅れたことによるものとのことなので、ひょっとしたら、バイケイソウの出芽の遅れも休眠打破の遅れが原因かもしれません。2023年に一斉開花した個体からは新しい子ラメット(わき芽)が1~3個形成されます。2023年開花個体の新規形成子ラメット数は、1個の個体から3個の個体までほぼ均等に見られました。したがって、昨年の一斉開花によって集団内の個体数が2倍に増えるクローン繁殖をしたことになります。実生が花成するまでに数十年かかるといわれているバイケイソウにとって、花成後のクローン繁殖は個体数増加の大きな手段の1つとなっています。

 

標高が高い群生地?では、出芽はしてはいるが葉の展開は見られない。

 

標高なのか、林床の明るさなのか、栄養状態の違いなのか、この群生地の個体は葉が展開し始めた。

 

こちらの群生地では葉がさらに展開。

 

左側は2023年花成個体から出芽した3つの子ラメット。右側の株は、左の個体群の親と同じ時期に形成された兄弟ラメットで、2023年には花成しなかったものと思われる。

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論文)フィールド試験で判ったMAX2の新たな機能

2024-03-26 16:10:27 | 読んだ論文備忘録

Field-work reveals a novel function for MAX2 in a native tobacco's high-light adaptions
Li et al.  Plant Cell Environ(2024)47:230–245.

doi:10.1111/pce.14728

ストリゴラトン(SL)とカリキン(KAR)のシグナル伝達は、非生物的および生物的ストレスに対する応答を媒介し、植物の形態や成長を制御していることが報告されている。しかし、それらの研究の大半は、温室や実験室環境で行われたものであり、自然環境においてSLシグナルやKARシグナルが果たす役割は明らかとなっていない。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Baldwinらは、SLとKARの生態学的機能を理解するために、SL受容体のDWARF 14(D14)、KAR受容体のKARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)、SLとKARのコレセプターであるMORE AXILLARY GROWTH2(MAX2)がRNAiによってサイレンシングされた野生タバコ(Nicotiana attenuata)のトランスジェニック系統(irD14、irKAI2、irMAX2)をアメリカ ユタ州 グレートベースン砂漠の圃場で4シーズン(2018~2021)栽培し、表現型を観察した。その結果、irMAX2は、対照と比較して、より小さく、より繁茂し、一次枝の数が多くなることが判った。しかも、irMAX2の葉は、クロロフィルa/b含量が有意に減少し、重度の白化を示した。しかし、irD14、irKAI2およびirD14とirKAI2の交配系統(irD14 × irKAI2)では、このような白化は見られなかった。D14およびKAI2はそれぞれSLおよびKARのレセプターであることから、MAX2はSLおよびKARシグナルとは独立して白化表現型を制御していることが示唆される。さらに、irMAX2の葉は葉食動物によってより激しく食害され、irMAX2の葉での傷害誘導ジャスモン酸(JA、JA-Ile)放出は対照葉よりも有意に低かった。一方、irD14、irKAI2、irD14 × irKAI2の草食動物抵抗性は対照と同等であった。これらの結果から、圃場育成野生タバコにおいてMAX2 をサイレンシングすると、SLシグナルやKARシグナルとは無関係に、葉の白化、植物体成長の低下、草食動物抵抗性の低下が生じることが推察される。白化したirMAX2の葉は、デンプンと可溶性糖類の含量が著しく低下し、アミノ酸含量が増加していた。各系統の葉を用いてマイクロアレイ解析を行ない、irMAX2で発現量が変化する遺伝子のGO用語の強度を計算したところ、発現上昇した遺伝子は、熱、光強度、酸化ストレスに対する応答に関連する過程のものに富み、発現低下した遺伝子は、栄養飢餓応答に関連するもの富んでいることが判った。これらの結果から、irMAX2の葉の白化表現型の原因として、熱と栄養飢餓が考えられる。そこで、irMAX2の葉の元素成分分析を行なったが、対照との差異は認められず、養分欠損がirMAX2の葉の白化の原因ではないと思われる。また、実験室環境での高温(35℃)育成で、irMAX2の葉は白化せず、クロロフィル含量も対照と同等であったことから、圃場育成irMAX2の葉の白化は、熱のみによるものではないことが示唆される。トランスクリプトームデータにおいて、irMAX2の葉では酸化ストレスと高光強度に応答する遺伝子が発現上昇しており、砂漠の光環境の特徴である高いUV-Bまたは光合成有効放射(PAR)量が、葉の白化の原因である可能性がある。そこで、植物体に照射するUV-BまたはPAR量を制御して解析した結果、UV-Bの照射量だけではirMAX2の葉の白化は起こらないこと、PAR量を温室と同程度に下げると白化した葉の緑色が戻ること、温室で育成しているirMAX2に補光して高いPAR量を照射すると葉が白化することが判った。これらのことから、高PAR光への暴露によってirMAX2の葉の白化が起こったものと思われる。白化したirMAX2の葉の光合成能力を示す指標はいずれも低かったが、温室で育成したirMAX2の光合成能力は対照と同等であった。これらの結果から、irMAX2の白化表現型と光合成能力の低下は、高PAR光が原因であると思われる。強光ストレスは一連の酸化反応を引き起こし、ルテイン、ゼアキサンチン、β-カロテンなどの抗酸化物質が光による酸化ダメージから植物細胞を守ることが知られている。圃場で育成したirMAX2の葉はルテイン含量が低く、このことがirMAX2の葉の強光ストレスに対する感受性に寄与していることが示唆される。圃場栽培したirMAX2の葉は、強光応答遺伝子(ELIP1ELIP2)、一重項酸素応答遺伝子(WRKY33WRKY40-1WRKY40-2)、H2O2触媒・応答遺伝子(SODAPX2ZAT10)の転写産物量が上昇しており、日陰処理をすることでこれらの遺伝子の転写産物量は対照と同等にまで減少した。しかし、細胞死に関連した兆候は見られなかった。以上の結果から、MAX2 をサイレンシングさせた野生タバコは、温室で育成した際にはバイオマスが増加するが、強光の圃場条件下で育成すると、温室とは真逆の表現型を示し、クロロフィル含有量と光合成能力を減少させ、ルテイン含量を減少させ、活性酸素応答を増加させることによって活力を低下させると考えられる。

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論文)芽生え胚軸の光方向感知機構

2024-03-24 15:01:15 | 読んだ論文備忘録

Air channels create a directional light signal to regulate hypocotyl phototropism
Nawkar et al.  Science (2023) 382:935-940.

doi:10.1126/science.adh9384

スイス ローザンヌ大学Fankhauserらは、シロイヌナズナ芽生えから光屈性が低下した変異体を選抜し、胚軸が透明な変異体を単離した。この変異の原因遺伝子は、ABC-2タイプトランスポーターファミリータンパク質をコードするATP-BINDING CASETTE G5ABCG5)であることが確認された。この変異体における光屈性の低下は、光透過が促進されることで胚軸上部の光勾配が浅くなることによって引き起こされるのではないかと考え、abcg5 変異体と同じく胚軸が透明な2つのcristal 変異体(cri7cri8)と光屈性を比較した。この3つの変異体は胚軸の光透過性が高く、一方向からの青色光照射に対して、野生型植物は光屈性を示したが、3つの変異体は成長方向がバラバラで、青色光受容体が機能喪失したphot1 変異体は無反応であった。abcg5 変異体の胚軸は、重力に対する応答性は正常であった。よって、胚軸が透明であることは、光の方向に反応する能力の変化と関連していると考えられる。abcg5 変異体の光屈性の欠損は、光強度が弱くても強くても、双方向光照射のような複雑な光環境においても観察された。このような明らかな光屈性欠損があるにもかかわらず、光を感知してから数分以内に起こるphot1を介したターゲットタンパク質のリン酸化はabcg5 変異体でも観察され、青色光による胚軸伸長阻害も正常に起こった。しかし、abcg5 変異体では胚軸を横断するオーキシン勾配が形成されなかった。このことから、abcg5 変異体の光屈性欠損は、初期のフォトトロピンシグナル伝達段階ではなく、胚軸全体に光勾配を形成する能力の低下によるものであると考えられる。abcg5 変異体の透明性は胚性器官(根、胚軸、子葉)に限られ、本葉等の他の植物器官は透明ではなかった。また、abcg5 変異体の葉柄は野生型植物と同じように光屈性を示した。ABCG5 遺伝子は発達中の胚で強く発現しており、芽生えでは有意な発現は見られなかった。これらの結果から、abcg5 変異体は芽生え特異的に光屈性欠損を示し、これは胚軸の透明性に起因すると思われる。ABCG5は子葉のクチクラ形成に関与していることが報告されているが、胚軸のクチクラは野生型植物とabcg5 変異体の間で大きな差異は見られなかった。また、野生型植物とabcg5 変異体の胚軸細胞壁の厚さや、黄化芽生え可溶性粗抽出液の吸収スペクトルに差異は見られなかった。したがって、abcg5 変異体における胚軸の透明性は、クチクラや細胞壁の厚さ、可溶性色素の違いによるものではないと考えられる。明所で育成したしたabcg5 変異体芽生えや切取った根や胚軸は水に沈み、空気含有量が減少していることが示唆された。また、abcg5 変異体の胚の密度は野生型植物よりも高くなっていた。空気チャネル(air channels)は、胚や胚軸の皮層細胞間や皮層と表皮細胞の間の三細胞接合部の細胞間空隙において見られる。黄化芽生え胚軸の横断面を電子顕微鏡で観察したところ、表皮細胞と皮層細胞によって生成される三細胞接合部の空隙が、野生型植物では空いていたが、abcg5 変異体では繊維状の構造物で埋まっていた。また、野生型植物では、空隙を取り囲む細胞壁の外側に明確な電子密度の濃い層が並んでいたが、abcg5 変異体では、この層は拡散し、不均一で、時には存在していなかった。さらに、3次元非破壊X線マイクロトモグラフィーによる観察を行なったところ、野生型植物では長軸方向に空気チャネルが検出されたが、abcg5 変異体では検出されなかった。これらの結果から、野生型植物とabcg5 変異体の光透過率の違いは、細胞間隙の空気の存在の有無で説明できることが示唆される。そこで、空気チャネルの役割を明らかにするため、シロイヌナズナの胚軸、葉(葉柄と葉身)、アブラナ(Brassica rapa)の胚軸、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)の葉柄に水を浸透させたところ、光透過性が向上することが判った。よって、細胞間隙の空気は組織を通過する光の透過を制限することに寄与していることが示唆される。次に、シロイヌナズナと、それよりも10倍以上大きいアブラナの芽生えを用いて実験を行なったところ、両種とも水浸潤によって光屈性は低下したが、重力屈性は低下しなかった。これらの結果から、芽生えの光屈性には細胞間隙空気チャネルが必要であると考えられる。芽生えの光学的特性を詳細に調査したところ、abcg5 変異体芽生えは野生型植物よりも多くの光を透過すること、野生型植物の空隙に水を浸潤させることでabcg5 変異体と同様の光学特性を示すことが判った。対照的に、abcg5 変異体に水を浸潤させても光学的性質に有意な変化は起こらなかった。したがって、abcg5 変異体および浸潤させた野生型植物芽生えでは、拡散透過光、反射光、拡散反射光が減少している。解析の結果、空気チャネルが光散乱に寄与し、それによって胚軸全体の光透過性を制限していることが判った。蛍光標識したPHOT1(PHOT1-GFP)を発現させた系統の解析から、PHOT1 は皮質細胞で強く発現し、野生型植物では、細胞間空隙の細胞膜に沿ってGFPシグナルのギャップが見られたが、abcg5 変異体では観察されなかった。また、胚軸の光照射側と日陰側で形成されるGFP蛍光シグナルの勾配は、abcg5 変異体や浸潤芽生えよりも野生型植物の方が有意に急であった。これらの結果から、空気チャネルは光の散乱を促進し、その結果、一方向から照射された胚軸を横切る光の勾配を強くしていることが示唆される。以上の結果から、胚で発現するABCトランスポーター遺伝子ABCG5 は、芽生えの空気チャネルの形成に必要であり、空気チャネルは芽生えの光の方向感知にとって重要であると考えられる。

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論文)リン欠乏に応答したイネの形態と栄養素利用変化の分子機構

2024-03-18 17:18:08 | 読んだ論文備忘録

Low phosphorus promotes NSP1–NSP2 heterodimerization to enhance strigolactone biosynthesis and regulate shoot and root architecture in rice
Yuan et al.  Molecular Plant (2023) 16:1811-1831.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.022

リンは、植物の成長、発達、代謝とって重要な栄養素の一つであり、植物はリンの大部分を無機リン酸塩(Pi)として吸収する。イネは、Pi欠乏に応答して、分けつ数の減少、主根の伸長と側根数減少といった形態変化を起こす。この過程には、Pi欠乏シグナルを伝達する転写因子Oryza sativa PHOSPHATE STARVATION RESPONSE2(OsPHR2)が関与していることが知られている。また、Pi欠乏はストリゴラクトン(SL)の生合成を強く誘導する。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所のWangらは、イネプロトプラストを用いた実験から、OsPHR2およびOsPHR1は、SL生合成を促進するGRASファミリー転写因子遺伝子のNODULATION SIGNALING PATHWAY1NSP1)およびNSP2 の転写を活性化することを見出した。CRISPR-Cas9によって作出したNSP1NSP2 の機能喪失変異体やユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた形質転換体の解析から、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での分けつ数の減少とSLシグナル伝達の活性化(D53タンパク質の分解誘導)に関与していることが判った。NSP1NSP2 の発現は、SL生合成遺伝子(D10D17D27Os900Os1400)と同様に、Pi欠乏によって促進された。また、NSP1とNSP2は複合体を形成してSL生合成遺伝子のプロモーターに結合してその発現を活性化すること、プロモーター領域への結合と遺伝子発現の活性化においてNSP2が重要であることが判った。OsPHR2は、NSP1NSP2 に加えてD17D27Os900 のプロモーターに結合し、その発現を直接活性化した。したがって、OsPHR2は、NSP1、NSP2と協力して相乗的にSL生合成遺伝子の転写を活性化していると考えられる。nsp1 nsp2 二重変異体は、Pi欠乏条件でのSL生合成遺伝子の発現誘導と根および根滲出液中のSL量の増加が阻害されており、NSP1とNSP2は、Pi欠乏下でのSL生合成誘導にとって重要であると考えられる。NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールによる根の発達制御について調査したところ、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での主根の伸長促進と側根数の減少に関与していることが判った。イネの側根と冠根の発達はCROWN ROOTLESS 1(CRL1)/ADVENTITIOUS ROOTLESS 1(ARL1)によって制御されており、CRL1 の発現はSL処理によって抑制された。crl1 変異体では、SL処理やPi欠乏による側根密度の減少が見られないことから、CRL1はPi欠乏条件での側根密度の制御に関与していることが示唆される。nsp1 nsp2 二重変異体のCRL1 発現量は、野生型植物よりも高く、Pi欠乏による発現の低下が殆ど見られなかったが、SL処理により発現量は低下した。これらの結果から、Pi欠乏はNSP1NSP2 の発現を活性化してSLの生合成とシグナル伝達を促進することで、CRL1 の発現抑制と側根密度の抑制を引起していることが示唆される。Pi欠乏による冠根数の減少は、野生型植物とnsp1 nsp2 二重変異体で同等であることから、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏による冠根数の制御に影響していないと考えられる。Pi欠乏は多くの植物種で窒素の吸収と同化を阻害することが知られている。解析の結果、Pi欠乏はイネの内生窒素濃度を低下させ、窒素の吸収と同化に関与する遺伝子(OsNRT2.1OsAMT1.1OsAMT1.2OsAMT1.3OsGS1.2OsGS2OsNRT1.1BOsNIA1OsNRT2.3aOsNAR2.1OsNIR1)の発現を抑制することが判った。Pi欠乏による窒素濃度の低下はnsp1 nsp2 二重変異体やd14 SL受容体変異体では見られなかった。また、nsp1 nsp2 二重変異体ではPi欠乏による窒素の吸収・同化関与遺伝子の発現抑制が弱くなっていた。これらの結果から、Pi欠乏は、NSP1/2-SLシグナル伝達経路の一部を通じて窒素吸収と同化を抑制していることが示唆される。次に、SLによるリン吸収の制御について調べたところ、SL処理はPiトランスポーター遺伝子の発現を誘導すること、nsp1 nsp2 二重変異体およびd14 変異体は野生型植物よりも内生Pi濃度が低いこと、d14 変異体でのPi欠乏によるPiトランスポーター遺伝子の発現誘導は野生型植物よりも弱いことが判った。したがって、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏時にリン吸収を向上させていることが示唆される。興味深いことに、Pi欠乏条件下でSL処理をするとOsNRT1.1BOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2の転写産物量が増加し、低窒素条件下でSL処理をすることでOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2OsGS2の発現が誘導された。これらの結果から、SLによる窒素吸収・同化の制御が、環境中の窒素・リン濃度の変動に伴ってダイナミックに変化し、窒素とリンの濃度バランスをとっていることが示唆される。これらの結果から、NSP1NSP2 はイネのリン利用効率を改善する因子としての有用性が期待されるが、ユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた場合、分けつ数の減少や収量の低下を引起していた。そこで、NSP1NSP2 を自身のプロモーター制御下で発現させた形質転換体を作出したところ、これらの形質転換体は根でのSL生合成が高まり、主根の伸長とPi欠乏時のリン吸収が促進され、地上部乾物重の増加、穂長の伸長が見られ、収量が増加した。以上の結果から、イネはリン欠乏に対してNSP1、NSP2を介してストリゴラクトンの生合成とシグナル伝達を活性化し、形態や栄養素利用を変化させていると考えられる。

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論文)キャベツにおける優性雄性不稔自然突然変異

2024-03-13 14:13:30 | 読んだ論文備忘録

A natural mutation in the promoter of Ms-cd1 causes dominant male sterility in Brassica oleracea
Han et al.  Nature Communications (2023) 14:6212.

doi:10.1038/s41467-023-41916-0

春キャベツ(Brassica oleracea)の集団から同定された優性核遺伝子雄性不稔(DGMS)突然変異体79-399-3(その原因遺伝子座はMs-cd1 と命名された)は、花と葯の大きさは正常であるが、生存可能な花粉粒を作ることができない。この変異体をドナーとして、キャベツ、ブロッコリー、コールラビ、カイランのDGMS系統が作出され、それぞれのハイブリッド育種に利用されている。中国農業科学院 蔬菜花卉研究所Lvらは、Ms-cd1 の原因遺伝子のマップベースクローニングによる同定を試み、最終的に10.9 kbの区間にマッピングした。BRADデータベース(http://brassicadb.cn)のキャベツリファレンスゲノムから、この領域は、Bol035718 のプロモーター領域、第1エクソン、第1イントロンの一部を含んでいることが判った。しかし、DGMS系統と野生型植物の間でBol035718 のコード領域に塩基配列の変異は見られなかった。そこで、10.9 kbの全塩基配列を決定した結果、DGMS系統ではBol035718 の開始コドンから597 bp上流に一塩基欠失が検出された。したがって、この欠失が優性雄性不稔の原因ではないかと推測した。Bol035718 の機能を確認するため、プロモーター領域の一塩基欠失を含んだBol035718 遺伝子ゲノム断片をキャベツ近交系01-20に導入したところ、この系統は、DGMS01-20と同一の雄性不稔性を示した。形質転換雄性不稔系統と野生型01-20の交配から得られた後代は、1:1の割合で分離した。したがって、Bol035718 は雄性不稔を制御するMs-cd1 に相当し、Bol035718 遺伝子プロモーター領域の一塩基欠失が原因変異であると結論した。以下、DGMSを引き起こす対立遺伝子をMs-cd1PΔ-597、野生型対立遺伝子をMs-cd1PWTと呼ぶ。Ms-cd1 は、PHD-fingerモチーフを持つ転写因子をコードしており、シロイヌナズナのMS1、イネのPTC1/OsMS1、トウモロコシのZmMs7と相同である。これらのホモログは葯や雄性配偶子の発生に関与することが報告されているが、対応する遺伝子の変異体は劣性遺伝を示し、本研究で観察されたDGMSとは全く異なる雄性不稔表現型を引き起こす。Ms-cd1PΔ-597 は、MS1 ホモログの中で唯一優性の自然対立遺伝子であることから、雄性不稔を制御する別の分子機構の一端を担っているものと思われる。Ms-cd1 の機能を解析するために、CRISPR/Cas9により機能喪失変異体を作出した。その結果、ホモ接合型ms-cd1PWT 変異体は完全に雄性不稔であったが、DGMS変異体とは異なり、葯が縮れ、成熟期に花粉粒が形成されなかった。ms-cd1PWT×01-20から得られたF1植物は完全に雄性稔性であり、自殖F2世代の表現型は3:1(稔性:不稔性)に分離し、ms-cd1PWT は劣性雄性不稔突然変異体であることが示された。これらの結果から、(I) Ms-cd1 は葯と小胞子の発達に必要であること、(II) Ms-cd1PΔ-597 が優性雄性不稔を引き起こすには特異的プロモーター変異と機能的Ms-cd1 の両方が必要であること、(III) 79-399-3DGMSは機能獲得型雄性不稔であり、その不稔性はms-cd1 変異体のものとは異なることが明らかとなった。Ms-cd1 は、野生型植物および優性遺伝雄性不稔系統において、花粉四分子形成期の葯のタペート細胞および小胞子で特異的に発現していた。また、qRT-PCR解析の結果、DGMS01-20では01-20と比較して有意にMs-cd1 転写産物量が減少していた。そこで、Ms-cd1 の変異プロモーター(PΔ-597)および野生型プロモーター(PWT)制御下でGUS レポーターを発現するコンストラクトをシロイヌナズナに導入してGUS活性を観察したところ、qRT-PCRの結果とは対照的に、PΔ-597::GUSPWT::GUS と比較してGUS活性とGUS 遺伝子発現が劇的に増加し、PΔ-597 は高いプロモーター活性を示すことが判った。さらに、ms-cd1PΔ-597 変異体におけるms-cd1 の発現量は、ms-cd1PWT 変異体における発現量よりも約3倍高くなっていた。一方で、ms-cd1PWT およびms-cd1PΔ-597 におけるms-cd1 の発現は、Ms-cd1PWT およびMs-cd1PΔ-597 におけるMs-cd1 の発現に比べて劇的に増加しており、機能的なMs-cd1 が自身の発現を抑制していることが示唆される。Ms-cd1 の発現に影響している因子を酵母one-hybridスクリーニングにより探索したところ、 キャベツethylene response factor 1-like(BoERF1L)をコードするBol028757 遺伝子が陽性を示した。そして、解析の結果、BoERF1LはMs-cd1PWT プロモーターの-604から-589までのGACを中心配列とした領域と相互作用をして発現を抑制していること、Ms-cd1PΔ-597 プロモーターでは一塩基欠失がBoERF1Lの結合を妨げていることが判った。BoERF1L は葯発達初期に発現しており、boerf1 変異体は花粉生存率が低下していた。したがって、BoERF1L はMs-cd1 の発現制御を介してキャベツの稔性に影響していると考えられる。Ms-cd1 のオルソログであるシロイヌナズナMS1 は、葯と花粉の発達に重要なDYT1-TDF1-AMS-MS188-MS1 ネットワークに関与していることが報告されている。そこで、これらの遺伝子の発現を調べたところ、DGMS01-20ではBoTDF1BoAMSBoMS188 の発現が低下していたが、ms-cd1 変異体では発現が上昇していることが判った。よって、Ms-cd1 は、BoDYT1-BoTDF1-BoAMS-BoMS188-Msc-d1 モジュールにおいてフィードバック抑制の役割を果たしていると考えられる。興味深いことに、BoLTPsBoEXLsBoGRPs などの花粉外被関連遺伝子は、DGMS01-20では発現が上昇し、ms-cd1 変異体では発現が低下していた。このことから、Ms-cd1 は花粉外被形成の活性化因子である可能性が示唆される。以上の結果から、以下の作業モデルが考えられる。Ms-cd1 は転写因子BoERF1Lの直接のターゲットであり、安定した発現レベルが維持される。このことは、BoDYT1-BoTDF1-BoAMS-BoMS188-Ms-cd1 ネットワークと、それに続く花粉形成に必要な一連の遺伝子のフィードバック制御に不可欠である。DGMSでは、プロモーター変異がMs-cd1 の制御異常を引き起こし、BoDYT1-BoTDF-BoAMS-BoMS188-Ms-cd1 モジュールの強い負のフィードバックが起こり、それに続いてBoQRTsBoTEKBoPKSAなどの花粉外被発達関連遺伝子も制御される。ms-cd1 変異体ではモジュールのフィードバック制御が行われないため、BoTEKBoPKSA のようないくつかの遺伝子が発現上昇し、BoLTPBoEXL のような花粉の発達に関連する遺伝子が発現低下する。全体として、Ms-cd1 の正確な制御が、雄性稔性に不可欠であると考えられる。Ms-cd1PΔ-597 が他の植物種でも雄性不稔を誘導できるかどうかを調べるため、シロイヌナズナ、ナタネ、トマト、イネにPΔ-597::Ms-cd1 を導入した。その結果、導入個体は対応する野生型植物と同一の正常な植物形態と雌性稔性を示したが、安定した雄性不稔性を示し、生存可能な花粉を作らず、自殖しても種子を生産しなかった。また、PΔ-597::Ms-cd1 導入個体と野生型植物との交配から得られたF1は、1:1(稔性:不稔性)の割合で分離した。これらの結果から、Ms-cd1PΔ-597 の異所的発現は優性雄性不稔を誘導し、双子葉植物と単子葉植物で保存されていることが示された。

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論文)Dof転写因子による光合成の促進

2024-03-02 09:33:47 | 読んだ論文備忘録

The Dof transcription factor COG1 acts as a key regulator of plant biomass by promoting photosynthesis and starch accumulation
Wei et al.  Molecular Plant (2023) 16:1759-1772.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.011

中国 蘭州大学のLiらは、シロイヌナズナのブラシノステロイド受容体変異体bri1-5 のアクティベーションタギング変異体集団から、胚軸が短い表現型を部分的に回復させるcogwheel1-3Dcog1-3D)変異体を単離した。bri1-5 変異を分離除去したcog1-3D 変異体は、胚軸が伸長し、ロゼット葉も大きくなり、野生型植物よりも1株当たりのバイオマスが有意に増加していた。COGWHEEL1(COG1; AT1G29160)は、植物特異的なDNA binding with one finger(Dof)ファミリー転写因子で、シロイヌナズナには同じクレイドに属するCYCLING DOF FACTOR 1(CDF1)、CDF2、CDF3、CDF4、CDF5、CDF6の6つのパラログが存在する。各CDF 遺伝子を過剰発現させた形質転換体は、COG1 過剰発現形質転換体と同様に、ロゼット葉が大きくなり、地上部バイオマスが増加した。COG1ファミリー転写因子の機能喪失変異体の表現型を観察したところ、COG1 およびCOG1 と最も類似性が高いCDF4 の単独変異体や二重変異体に野生型植物との大きな差異は見られなかったが、五重変異体、六重変異体、七重変異体では、変異が集積するにつれてロゼット葉がより小さくなり、生重量が減少し、花序が矮化していった。また、七重変異体表現型は、COG1 ファミリーのいずれかを過剰発現させることで回復した。これらの結果から、COG1ファミリー転写因子は冗長的に機能し、植物の正常な成長と最終的なバイオマス量を制御していることが示唆される。長日条件下で育成した野生型植物とcog1-3D 変異体の芽生えのトランスクリプトーム解析を行なったところ、311遺伝子がCOG1による制御を受けており、214遺伝子は発現が上昇、97遺伝子は減少していることが判った。そして、光合成関連遺伝子、特にLHCA1LHCA4LHCB1.1LHCB1.2LHCB1.4LHCB1.5LHCB2.1LHCB2.2LHCB2.3LHCB3LHCB4.2LHCB4.3LHCB6psaD2 などの中核的な光合成機構に関与する遺伝子は、COG1による制御を受けていた。さらに、これらの光合成遺伝子の発現は光シグナルによって制御されており、COG1によって制御されている遺伝子の58 %(168/311)は光による制御も受けていた。COG1ファミリー転写因子の過剰発現系統や機能喪失変異体での光合成遺伝子の発現制御を見たところ、LHCA1LHCA4LHCB1LHCB6psaD2 の発現量は、COG1 過剰発現系統の芽生えでは光照射に応答して急速に増加したが、七重変異体では抑制された。6種のCDF 過剰発現系統においても、光照射に反応してすべての光合成遺伝子の発現量が上昇したが、これらのCDFタンパク質が光合成遺伝子発現に及ぼす影響はCOG1に比べると限られていた。これらの結果から、COG1ファミリー転写因子は、光によって誘導される複数の光合成遺伝子の発現を冗長的かつ差異的に制御していることが示唆される。Dof転写因子は、標的遺伝子のプロモーター中の5’-T/AAAAG-3’ コア配列またはその相補鎖の5’-CTTT/A-3’ 配列に結合し、遺伝子発現を制御することが知られている。LHC 遺伝子の塩基配列を調査した結果、Dof DNA結合モチーフと推測される配列がプロモーター領域に確認され、解析の結果、COG1は、LHCA1LHCA2LHCA3LHCA4LHCB1.1LHCB2.1LHCB3LHCB4.2LHCB6 遺伝子のプロモーター領域と結合することが確認された。LHCB5psaD2 の転写産物量も光照射下でCOG1/CDFによって制御されているが、今回の解析では、両遺伝子のDof DNA結合モチーフと推定される領域へのCOG1の結合は検出できなかった。したがって、これらの遺伝子の発現制御には、COG1ファミリー転写因子と他の因子と相互作用が必要なのかもしれない。cog1-3D 変異体およびCOG1 過剰発現系統のロゼット葉の純光合成速度は、野生型植物と比較して増加しており、対照的に、七重変異体では減少していた。また、cog1-3D 変異体およびCOG1 過剰発現系統の電子伝達速度は、野生型と比較して有意に増加していた。これらの結果は、COG1 の高発現がシロイヌナズナのロゼット葉における光合成活性の上昇につながることを示唆している。COG1 過剰発現系統のロゼット葉のデンプン含量は野生型植物よりも高く、七重変異体のロゼット葉では劇的に減少していた。6種のCDF 過剰発現系統のロゼット葉のデンプン含量は、野生型植物と比較してわずかに多いか同等であった。このことから、各CDFが光合成物生産におよぼす影響は比較的限定的であることが示唆される。ロゼット葉の葉緑体を電子顕微鏡観察したところ、cog1-3D 変異体とCOG1 過剰発現系統の葉緑体には、野生型植物に比べてより大きく、より多くのデンプン粒が見られ、七重変異体の葉緑体には小さなデンプン粒しか含まれていなかった。これらの結果は、COG1がロゼット葉のデンプン蓄積を促進することを示している。COG1ホモログは、ハクサイ(Brassica rapa)、タバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Solanum lycopersicum)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、ダイズ(Glycine max)、イネ(Oryza sativa ssp. japonica)、トウモロコシ(Zea mays)などの代表的な作物植物で同定され、ハクサイのCOG1ホモログ(Bradof054Bradof065)を過剰発現させたシロイヌナズナは、COG1 過剰発現系統と同様に、ロゼット葉の増大、地上部新鮮重の増加、デンプン蓄積量の増加、複数のLHC 遺伝子およびpsaD2 の発現促進が確認された。また、シロイヌナズナCOG1 を過剰発現させたベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は、野生型植物よりも著しく大きくなり、地上部新鮮重も有意に増加し、光合成遺伝子の発現レベルが上昇、純光合成速度が野生型よりも有意に高かった。これらの結果から、COG1とそのホモログのバイオマスを増加させる機能は、異なる植物種で保存されていることが示唆される。以上の結果から、Dof転写因子のCOG1は、光照射に応答した光合成関連遺伝子の発現を直接活性化することで光合成とデンプン蓄積を促進し、植物のバイオマス増加の重要な制御因子として機能していると考えられる。

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