Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ブラシノステロイドによる温度形態形成の制御

2018-02-21 05:39:12 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroids Dominate Hormonal Regulation of Plant Thermomorphogenesis via BZR1
Ibañez et al. Current Biology (2018) 28:303-310.

doi:10.1016/j.cub.2017.11.077

植物は温度変化に応答して発生・成長を調節している。ドイツ マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクQuint らは、以前に、温度上昇に応答した胚軸伸長を起こさないシロイヌナズナokapi1opi1 )変異体がDE-ETIOLATED 1DET1 )の新規アリルであることを見出した。そして、DET1はCONSTITUTIVE PHOTOMORPHOGENIC 1/SUPPRESSOR OF PHYA-105 1(COP1/SPA)E3ユビキチンリガーゼ複合体を介して温度形態形成を調節しており、COP1/SPAがELONGATEDHYPOCOTYL 5(HY5)によるPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR 4PIF4 )の転写抑制を解除することで成長促進が引き起こされることを明らかにした。今回、新たに温度誘導胚軸伸長を起こさないopi3 変異体とopi7 変異体について解析を行なった。マッピングの結果、opi3 はブラシノステロイド(BR)生合成酵素をコードするDWARF7DWF7 )/STEROL 1STE1 )/BOULE 1BUL1 )のノンシノニマス変異であり、opi7 はBR生合成に関与するP-450をコードするROTUNDIFOLIA 3ROT3 /CYP90C )のアミノ酸置換変異であることがわかった。したがって、温度形態形成ではBR生合成が重要であることが示唆される。opi3 変異体、opi7 変異体ともに、活性型BRのepi-ブラシノライド(BL)を添加することで温度誘導胚軸伸長が回復した。PIF4の機能喪失変異体は温度誘導胚軸伸長が抑制されているが、BLを添加することで胚軸伸長が野生型と同等にまで回復した。更に、PIF4 過剰発現系統やPIF4の抑制因子であるHY5やEARLY FLOWERING 3(ELF3)の機能喪失変異体に対してBR生合成阻害剤のプロピコナゾール(PPZ)を添加することで、これらの系統の胚軸伸長促進効果が強く現れる表現型が抑制された。したがって、BRは温度形態形成経路の一部としてPIF4の下流で機能していると考えられる。PIF4は温度上昇に応答してオーキシンの生合成遺伝子や応答遺伝子の発現を誘導していることが知られている。BRの生合成やシグナル伝達の変異体をオーキシン(ピクトラム)処理しても温度誘導胚軸伸長の回復は見られなかった。一方、オーキシンの生合成やシグナル伝達の変異体をBL処理することで温度誘導胚軸伸長が回復した。したがって、温度形態形成シグナル伝達においてBRはオーキシンの下流で作用していると考えられる。ジベレリン(GA)も温度形態形成にとって重要であり、DELLAリプレッサーがPIF4の活性を阻害している。ドミナントネガティブgai-1D DELLA 変異体にBLを添加することで温度誘導胚軸伸長が回復し、PPZ処理はdella 五重変異体の恒常的温度応答を抑制した。これらの結果から、温度形態形成におけるオーキシンやGAの機能はBRに依存していると考えられる。BRシグナル伝達因子であるBRASSINAZOLE-RESISTANT 1(BZR1)を過剰発現させた系統は温度上昇に対する感受性が高く、BZR1は温度形態形成の正の制御因子として機能していると考えられる。温度上昇によりBZR1 転写産物量もBZR1タンパク質量も変化しないが、BZR1タンパク質の核の局在量が増加しており、この局在変化はPPZ添加によって抑制された。BR生合成遺伝子は温度上昇によって発現量が増加すること、PIF4はBR生合成遺伝子に結合することから、BRはBZR1を核に局在させて細胞伸長に関与する遺伝子の発現を誘導することで温度形態形成において中心的な役割を演じているものと思われる。BZR1 過剰発現系統は温度上昇時にPIF4 の発現が強く誘導されること、BZR1はPIF4 遺伝子のプロモーター領域に結合することから、BRはBZR1を介してPIF4 の発現を正に制御し、増幅ループを形成していることが示唆される。以上の結果から、PIF4による温度形態形成において、ブラシノステロイドはPIF4やオーキシンの下流に位置してBZR1を介して伸長成長を調節していることが示唆される。そして、BZR1はPIF4 の転写を誘導してPIF4→オーキシン→BRカスケードの増幅ループを形成してPIF4による温度形態形成を促進させていると考えられる。

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論文)アブシジン酸受容体のリン酸化によるシグナル伝達の制御

2018-02-11 17:19:53 | 読んだ論文備忘録

Reciprocal Regulation of the TOR Kinase and ABA Receptor Balances Plant Growth and Stress Response
Wang et al. Molecular Cell (2018) 69:100-112.

DOI:10.1016/j.molcel.2017.12.002

PYR1/PYL/RCARファミリーはアブシジン酸受容体として機能している。中国 上海植物ストレス生物学研究センターZhu らは、シロイヌナズナ芽生えのPYL4はSer114がリン酸化されており、ABA処理した芽生えではリン酸化されていないことを見出した。また、PYL1もABA処理によってSer119のリン酸化か消失した。PYL1 Ser119やPYL4 Ser114はABA結合ポケットに位置しており、シロイヌナズナの14の全てのPYLで保存されているアミノ酸残基である。このPYLファミリーにおいて保存されているSer残基の役割を解明するために、Ser残基を他のアミノ酸に置換してレポーター遺伝子(RD29B::LUC )の一過的発現を見たところ、AlaやCys残基への置換ではABA処理によってレポーターが発現したが、擬似リン酸化させたAps残基への置換やLueやGluといった大きな側鎖のアミノ酸残基への置換ではレポーターの発現誘導が見られなかった。よって、保存されているSer残基のリン酸化はABA結合ポケットを変化させ、PYLの機能を負に制御していることが示唆される。ABA-PYL受容体複合体はPP2Cファミリータンパク質フォスファターゼ(ABI1、ABI2など)を阻害し、これによってSnRK2タンパク質キナーゼが活性化してターゲットタンパク質をリン酸化する。PYL1の保存されたSer残基のリン酸化はABAに依存したPP2Cの阻害を妨げた。また、PYLの保存されたSer残基の擬似リン酸化変異は、ABAに依存したPYR1、PYL1、PYL2、PYL3、PYL4とABI1との相互作用、ABAに依存しないPYL7、PYL9、PYL11、PYL12とABI1との相互作用を妨げた。PYLの保存されたSer残基のリン酸化はABAの結合を阻害し、ABAの受容とシグナル伝達に対して負に作用した。pry1pyl1pyl2pyl4 四重変異体でPYL1 もしくはSer残基をAlaに置換したPYL1 を発現させた形質転換体は、変異体のABA非感受性を相補したが、Ser残基をAspに置換したPYL1 を発現させた形質転換体はABA非感受性のままだった。したがって、擬似リン酸化変異したPYLはABA受容体として機能していない。PYLのSer残基をリン酸化するタンパク質キナーゼの探索を行ない、Target of Rapamycin(TOR)キナーゼが調査した全てのPYLをリン酸化することを見出した。また、TORキナーゼとATPの添加によってPYL1によるABAに依存したPP2Cのフォスファターゼ活性の阻害が抑制された。よって、TORキナーゼによるPYLのリン酸化はPYLによるPP2Cの阻害を抑制することが示唆される。TORキナーゼ活性が低下したraptor1-2 変異体ではPYL4のSer残基のリン酸化が見られないこと、生体内においてPYL1とTORが相互作用をしていることが確認され、これらの結果か、PYL ABA受容体は生体内でのTORキナーゼの基質であり、Ser残基がリン酸化のターゲットであることが示唆される。TOR RNAi系統やraptor1-2 変異体は野生型よりもABAに対する感受性が高く、ABA処理後のSnRK2活性が高くなっていた。同様に、TORキナーゼ阻害剤のラパマイシンやPP242を添加することでABAによるSnRK2活性誘導が強くなった。また、TORキナーゼを阻害することでストレス応答遺伝子の発現が誘導され、ストレス耐性が高まった。ABA処理は、TORによるPYL1やPYL4のリン酸化を低下させ、TORの基質の1つである40Sリボソームタンパク質S6キナーゼ1(S6K1)のThr449のリン酸化も低下させた。しかしながら、ABA処理によるS6K1 Thr残基のリン酸化の低下はsnrk2.2/3/6 三重変異体やpyr1pyl12458 六重変異体では見られなかった。これらの結果から、ABAによるTOR活性の阻害はABAシグナル伝達に依存していると考えられる。TOR複合体の調節因子であるRaptorBは様々なタンパク質キナーゼによってリン酸化され、このことによってTORの活性が制御される。酵母two-hybridアッセイの結果、RaptorBはSnRK2と相互作用をし、SnRK2.6がRaptorBをリン酸化することが確認された。よって、RaptorBはSnRK2の直接の基質となっている。ABA処理はSnRK2によるRaptorBのリン酸化を誘導し、RaptorBとTORとの相互作用を低下させた。これらの結果から、ABAによるSnRK2タンパク質キナーゼの活性化はRaptorBをリン酸化し、TOR複合体からRaptorBを解離させてTORキナーゼ活性を阻害すると考えられる。以上の結果から、TORキナーゼはABA受容体PYLの保存されたSer残基をリン酸化することでPYLのABA結合とPP2Cとの相互作用を阻害してストレス応答を抑制しており、ストレスやABAによって活性化されたSnRK2はRaptorBをリン酸化してTOR活性を阻害しストレス応答が起こると考えられる。したがって、ABAシグナルとTOR複合体はリン酸化による制御ループを形成して成長とストレス応答のバランスを調節していると考えられる。

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論文)イネマイクロRNA OsmiR396dによるジベレリンシグナルとブラシノステロイドシグナルの制御

2018-02-05 22:48:07 | 読んだ論文備忘録

OsmiR396d Affects Gibberellin and Brassinosteroid Signaling to Regulate Plant Architecture in Rice
Tang et al. Plant Physiology (2018) 176:946-959.

doi:10.1104/pp.17.00964

イネマイクロRNA OsmiR396は植物特異的転写因子のGROWTH REGULATION FACTORsOsGRFs )をターゲットとしており、GRF-miRNA396は様々な発生過程の制御に関与している。中国科学院 植物研究所のXu らは、OsMIR396d を過剰発現させた形質転換体(miROE)を作出し、miROE幼苗の第3葉は対照よりも葉身の屈曲角度が2倍大きいことを見出した。また、miROEの草丈は対照よりも2~3割低くなった。miROEで見られる葉身屈曲や半矮性の表現型はブラシノステロイド(BR)シグナルが強くなった際に見られる表現型と類似している。そこで、BR(24-eBL)添加による葉身屈曲をmiROEと対照で比較したところ、miROEはBRに対する感受性が高いことが判った。また、miROEの実生はBR処理による根の伸長抑制に対しても感受性が高くなっていた。これらの結果から、OsmiR396dはイネのBRシグナル伝達を正に制御しているものと思われる。qRT-PCRの結果、miROEではBRシグナルによって正に制御される遺伝子のBRASSINOSTEROID-INSENSITIVE 1OsBRI1 )やDWARF AND LOW-TILLERING 1OsDLT1 )の発現量が高く、負に制御される遺伝子のLEAF AND TILLER ANGLE INCREASED CONTROLLEROsLIC )の発現量は低くなっていた。よって、OsmiR396dはBRシグナル伝達経路の複数の段階を制御しているものと思われる。BR処理によってOsMIR396d の発現量は増加し、幾つかのOsGRF 遺伝子の転写産物量は減少した。OsMIR396d の発現量は、BRシグナルが強化されたOsLIC アンチセンス系統やBRASSINAZOLE-RESISTANT 1OsBZR1 )過剰発現系統で増加しており、BRシグナルが低下したOsBZR1 RNAi系統で減少していた。これらの結果から、OsMIR396d の転写はBRの添加でも内生のBRでも誘導されることが示唆される。premiR396d 転写開始点の上流にはBZR1結合部位に見られるCGTGT/CGエレメントが3つあり、各種アッセイから、OsMIR396d はOsBZR1の直接のターゲットで、OsBZR1はOsMIR396d の発現を正に制御していることが判った。OsMIR396d 過剰発現系統は、節間が短く、特に第5節間が短くなっていた。この形質はジベレリン(GA)欠損変異体と類似している。そこで、幼苗をGA処理して第2葉鞘の伸長を見たところ、miROEは対照よりもGA応答性が低下していることが判った。また、miROEではGAシグナル伝達に関与しているGIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF 2OsGID2 )、GA生合成経路遺伝子のOsCPS1OsKO2OsGA20ox1OsGA20ox3 の転写産物量が対照よりも減少していた。OsMIR396d の発現は、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理によって抑制され、高濃度GA処理によって増加した。これらの結果から、OsmiR396dはGAシグナル伝達に関与し、GA生合成を制御していることが示唆される。miR396のターゲットの1つであるOsGRF6 の変異体osgrf6 は、草丈が低くなり、OsmiR396d 耐性型OsGRF6 を発現させた形質転換体は草丈が僅かに高くなったが、osgrf6 変異体の葉身の屈曲は野生型と同等であった。よって、OsmiR396dはOsGRF6 をターゲットとして草丈を制御しているが、OsGRF6 は葉身屈曲には関与していないことが示唆される。osgrf6 変異体はBR処理による葉身屈曲や根の伸長阻害においてBR感受性が野生型と同等であり、OsGRF6 はBRによるこれらの過程の制御には直接関与していないと考えられる。osgrf6 変異体と野生型の籾をPACを添加した培養液で発芽させると第2葉鞘の長さに差異は見られなくなり、ここにGAを添加するとosgrf6 変異体の葉鞘は野生型よりも短くなった。また、osgrf6 変異体ではGA生合成酵素遺伝子の発現量が低下しており、内生GA量も野生型よりも低くなっていた。よって、OsGRF6 はGAのシグナル伝達と生合成の両方の制御に関与していると考えられる。以上の結果から、マイクロRNA OsmiR396dはジベレリンとブラシノステロイドのシグナル伝達に影響することでイネの形態形成を制御していると考えられる。

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HP更新)「バイケイソウ考 その12」を追加しました

2018-02-02 15:45:59 | ホームページ更新情報

私のHP「Laboratory ARA MASA」の「バイケイソウプロジェクト」に「バイケイソウ考 その12 2017年の北海道と箱根でのバイケイソウ花成状況について」を追加しました。最近はHPの更新が年に1回程度になってしまっていますが、バイケイソウの観察はちゃんと続けていますので、ご意見等ありましたらご連絡ください。

なお、どういう訳か、私のHPは「Google Chrome」で閲覧すると文章の配置がおかしくなって綺麗に見えません(多分私のHPの作り方の問題だと思います)。閲覧の際には他のブラウザをご利用ください。

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