Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ストレスに応答した活性酸素種シグナルのジャスモン酸とサリチル酸による制御

2023-02-27 10:03:44 | 読んだ論文備忘録

Jasmonic acid and salicylic acid modulate systemic reactive oxygen species signaling during stress responses
Myers et al.  Plant Physiology (2023) 191:862-873.

doi:10.1093/plphys/kiac449

News and Views
Rise of signaling: jasmonic and salicylic acid oppositely control reactive oxygen species wave production
Fernández-Milmanda  Plant Physiology (2023) 191:814-816.

doi:10.1093/plphys/kiac517

植物は、光強度、湿度、温度の急激な変化や、病原体や害虫の攻撃に晒されながら成長、発達、繁殖している。このような環境下で生きていくために、ストレスを受けた組織は活性酸素種(ROS)ウェーブなどを発して迅速に全身へシグナルを伝達し、全身がストレスに対して順応する全身獲得順化(systemic acquired acclimation)を起こす。しかしながら、ROSウェーブと、ジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、アブシジン酸(ABA)等のストレスに対する全身応答に関与する植物ホルモンのシグナルとの関連については明らかでない。米国 ミズーリ大学 クリストファー S.ボンドライフサイエンスセンターMittler らは、シロイヌナズナの1枚の葉に強光もしくは機械的傷害処理をして、蛍光ROSインジケーターH2DCFDAを用いたライブイメージングによってROSウェーブを観察した。また、イオン漏出からストレスに対する順応の状態を評価した。ABA生合成変異体aba2 のROSウェーブと強光ストレスに対する順応を観察した結果、ABAは傷害に応答した局所および全身でのROS蓄積、強光ストレスに応答した全身でのROS蓄積、強光ストレスに対する局所および全身の順応において重要な役割を担っていることが判った。次に、JAの非感受性変異体coi1 と生合成変異体aos1 を用いて解析を行なった。coi1 変異体は局所的な強光ストレスや傷害処理に応答した局所および全身でのROS蓄積が見られず、強光ストレスに対しての局所および全身での順応が起こらなかった。aos1 変異体では、ROS蓄積量は減少したが、強光ストレスに応答した順応は観察された。よって、COI1によるJA感知は、傷害や強光ストレスに対する局所および全身でのROS応答、強光ストレスに対する全身の順応に重要な役割を果たしていると思われる。また、coi1 変異体はJA含量が高いことこら、JAの高蓄積によってROSウェーブや順応が抑制されている可能性もある。SA蓄積量が減少するsid2 変異体では、強光ストレスに応答した局所および全身でのROS蓄積が抑制されたが、傷害に対する応答では全身でのROS蓄積のみが抑制された。SA非感受性のnpr1 変異体では、強光ストレスや傷害による局所的なROS蓄積は見られたが、ROSウェーブの全身への拡散は起こらなかった。また、sid2 変異体、npr1 変異体ともに、強光ストレスに対する局所的および全身的な順応が消失していた。これらの結果から、SAは強光ストレスに対する局所的および全身的な順応に必須であり、NPR1は強光ストレスや傷害を受けた植物の全身でのROS蓄積とシグナル伝達にとって重要であると考えられる。JAとSAは病原菌やストレスに対する応答で拮抗的に作用していることから、JAもしくはSA処理をした植物体のROSウェーブを観察した。その結果、JAは強光ストレスや傷害に応答したROSウェーブを抑制し、SAは増強することが判った。エチレン非感受性のein2 変異体、etr1 変異体の解析から、エチレンは強光ストレスに応答したROS蓄積には関与していないが、傷害に応答した全身でのROS蓄積に関与していることが判った。ストリゴラクトンは傷害や強光ストレスに対する迅速な応答には関与していなかった。以上の結果から、JAとSAは、植物が環境ストレスや傷害に応答する際のROSウェーブの調節において拮抗的な役割を果たし、全身獲得順化を制御していると考えられる。

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植物観察)カンザキアヤメ

2023-02-22 08:46:06 | 植物観察記録

カンザキアヤメ (寒咲菖蒲)
Iris unguicularis アヤメ科アヤメ属 別名:カンアヤメ

 

2023年2月20日 鎌倉 長谷寺

 

2023年1月10日 鎌倉 大功寺

冬に開花する小型のアヤメで、地中海沿岸の東部地域原産の常緑性の多年草。乾燥した岩場の斜面のような開けた場所などに生え、草丈は20~40㎝、葉は幅3mm程で細長い。1月から3月にかけて開花し、花は葉よりも低い位置で咲く。同じような小型のアヤメにチャボアヤメ(矮鶏菖蒲、Iris sanguinea cv. Pumira、別名:三寸アヤメ)があるが、チャボアヤメの花期は通常のアヤメ(菖蒲、文目、綾目、Iris sanguinea )と同じ4月~5月で、葉も幅広である。

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論文)非生物ストレスに応答した側根発達の抑制

2023-02-21 10:51:20 | 読んだ論文備忘録

CPR5-mediated nucleo-cytoplasmic localization of IAA12 and IAA19 controls lateral root development during abiotic stress
Nam et al.  PNAS (2023) 120:e2209781120.

doi:10.1073/pnas.2209781120

根系構造の可塑性は、植物が様々な環境ストレスに対処するために不可欠であり、側根の発達は根系の可塑性を決定する大きな要因となっている。非生物ストレスは側根の発達を阻害するが、その機構は完全には解明されていない。韓国 浦項工科大学校のHwang らは、シロイヌナズナ芽生えに、乾燥ストレスとしてポリエチレングリコール(PEG)、浸透圧ストレスとしてマンニトール、塩ストレスとしてNaClを与え、根系の発達を観察した。その結果、何れの処理も側根数を減少させ、側根が誘導される主根伸長領域でオーキシンレポーター遺伝子(DR5v2:NLS-GFP )の発現量が減少していることが判った。このことから、オーキシンシグナル伝達の低下が、環境ストレス下での側根の発達障害に直接関係している可能性があると考えられる。そこで、側根形成に関与していることが知られているオーキシンシグナル伝達因子のAUXIN RESPONSE FACTOR7(ARF7)やIAA12、IAA19について解析を行なった。ARF7は、主根分裂領域の細胞では核に局在し、側根が発達する伸長領域の細胞では細胞質に凝集体として局在しており、この局在はストレス処理によって変化することはなかった。IAA12とIAA19は、根の分裂領域では核に局在し、伸長領域ではIAA12は主に細胞質に、IAA19は核と細胞質の両方に局在していたが、ストレス処理によって伸長領域のIAA12とIAA19が核に局在するようになった。IAA12は、側根誘導初期過程では細胞質に蓄積しているが、ストレス処理によって核に局在するようになった。このことから、非生物ストレスによるIAA12/19の核内移行が、側根の発達に必要なオーキシン応答を抑制していると考えられる。核膜孔複合体(NPC)がオーキシンシグナル伝達を制御しているという過去知見から、NPCがAUX/IAAタンパク質の移行に関与しているのではないかと考え、5種類のヌクレオポリン(MOS3、HOS1、NUP75、ALADIN、CPR5)についてプロトプラストを用いた発現実験系で解析を行なった。その結果、CPR5(CONSTITUTIVE EXPRESSOR OF PATHOGENESISRELATED GENES 5)のみがオーキシンレポーター遺伝子(GH3pro:LUC )の発現を活性化させ、IAA12の核外排出を誘導することが判った。IAA12、IAA19は、野生型植物の根の分裂領域では核に局在し、伸長領域にに近づくにつれて細胞質に蓄積するようになるが、cpr5 変異体の根では伸長領域においても核に局在し、CPR5 過剰発現個体(CPR5-OE)の根では、根全体を通して主に細胞質に局在していた。プロトプラストを用いた発現解析から、CPR5は、ARF7によるGH3pro:LUC レポーターの活性化を高め、ARF7とIAA12の相互作用を減少させ、ARF7によるレポーター活性化のIAA12、IAA19による抑制を部分的に阻害することが判った。これらの結果から、CPR5によるIAA12、IAA19の核からの排除は、オーキシンシグナルを活性化させることが示唆される。cpr5 変異体の根の伸長領域では、DR5v2:NLS-GFP レポーターの発現量が野生型植物よりも低く、CPR5-OEの根では全体的に発現量が高く、特に伸長領域で高くなっていた。野生型植物と比較して、cpr5 変異体は主根が短く、側根数が減少しており、オーキシン添加による側根発達が見られなかった。逆に、CPR5-OE は側根数が増加して主根も長くなっていた。ARF7とARF19は側根発達においてオーキシンシグナル伝達を正に制御しており、arf7/19 二重変異体では側根発達が抑制される。arf7/19 二重変異体でCPR5 を過剰発現させても側根発達が抑制されることから、CPR5による側根発達制御はARF7とARF19の経路に依存していると考えられる。これらの結果から、CPR5によるIAA12、IAA19の核からの排除は、核内の遊離ARFを増加させることでオーキシンシグナル伝達と側根の発達を活性化していることが示唆される。ストレス条件でのCPR5 の発現を見たところ、PEG、マンニトール、NaClの何れの処理によっても発現量は減少した。CPR5-OEを非生物ストレス処理するとIAA12が核に局在するようになった。よって、非生物ストレスによるCPR5 の発現とCPR5活性の抑制がIAA12、IAA19の核局在を増加させていると考えられる。CPR5-OEに非生物ストレス処理をすると、側根数、主根長、側根密度が減少するが、野生型植物よりも高い値を示した。以上の結果から、CPR5を介したIAA12、IAA19の細胞内局在の制御は、非生物ストレス条件下でのオーキシンシグナル伝達の主要な制御機構として機能し、側根発達を調節していると考えられる。

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論文)トウモロコシのストリゴラクトン生合成経路

2023-02-17 11:13:03 | 読んだ論文備忘録

Maize resistance to witchweed through changes in strigolactone biosynthesis
Li et al.  Science (2023) 379:94-99.

do10.1126/science.abq4775

ストリゴラクトン(SL)は、ストライガ等の根寄生植物の種子発芽シグナルとして利用されているだけでなく、アーバスキュラー菌根菌の宿主シグナルや、発生を制御する植物ホルモンとしての役割を担っている。SLは現在までに35種類以上発見されており、いずれも保存されたD-リングを含んでいる。典型的(canonical)SLにはストリゴール型とオロバンコール型があり、非典型的(noncanonical)SLにはA-、B-、C-リングがない。トウモロコシの根からは少なくとも6種類のSLが分泌され、そのうち2種類はzealactoneとzeapyranolactoneであると同定されている。しかし、他の4つのSLは不明であり、6つのSLの生合成の違いやストライガの種子発芽における役割も不明である。オランダ アムステルダム大学Bouwmeester らは、トウモロコシ系統間のSL生産量の差異を評価するために、トウモロコシの複数の遺伝子型の根から滲出液を採取し、多重反応モニタリング(MRM)液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC/MS/MS)でSLを分析した。解析の結果、SL量は系統間で異なり、遺伝子型の1つであるNP2222は、未知SLと「化合物5」の2つのSLのみが検出される特徴的なプロファイルを示すことが判った。核磁気共鳴(NMR)スペクトルと逆合成解析から、NP2222の2つのSLの構造を決定し、「化合物5」をzealactol、未知SLをzealactonoic acid(ZA)と命名した。バイオアッセイでストライガの発芽を調べたところ、zealactolもZAもzealactoneよりも発芽誘導性が低いことがわかった。この結果は、SL構造の微細な違いが生物活性の変化をもたらすことを示しており、SL組成の差異を解明するために、トウモロコシSL生合成経路の解析を行なった。遺伝子共発現解析から、β-カロテンからcarlactone(CL)を生成する過程を触媒するZmCCD8More Axillary Growth 1MAX1 )ホモログのZmMAX1b が密接に共発現していることが判明し、ZmMAX1bはCLからcarlactonoic acid(CLA)を生成する過程を触媒していた。さらに、1) ZmCCD8ZmMAX1b と共発現している遺伝子の探索、2) MaizeGGM2016を用いた共発現ネットワーク解析、3) zmccd8 変異体の遺伝子発現解析から、SL生合成経路の候補遺伝子の探索を行なった。その結果、7遺伝子が候補遺伝子と見出され、このうち3遺伝子[GRMZM2G033126GRMZM2G158342GRMZM2G023952 (ZmMAX1b )]は、第3染色体上でクラスターを形成していることが判った。このクラスターは他のイネ科植物においても見られた。解析の結果、GRMZM2G033126 は、CLAからmethyl carlactonoate(MeCLA)を生成するcarlactonoic acid methyltransferaseをコードしていることが判明し、この酵素をZmCLAMT1と命名した。もう1つの候補遺伝子GRMZM2G158342 はZmCYP706C37をコードしており、この酵素はMeCLAからzealactoneへの転換に必要な多くの酸化的ステップを触媒し、さらにCLのzealactolへの転換も触媒することが判った。CLからZAへの転換にはZmCYP706C37とZmMAX1bが関与していた。zmcyp706c37 変異体ではzealactol、ZA、zealactoneが検出されず、CLAとMeCLAが蓄積していた。化合物添加実験から、zealactolはzealactoneの前駆体であり、zealactoneからzeapyranolactoneが生成されることが判った。NP2222の特徴的なSLプロファイルは、CLAMT1の機能喪失によるものであり、NP2222、およびNP2222と同様にzealactolとZAが蓄積するCML52とNC358の根滲出液は、ストライガの発芽誘導性が低くなっていた。zamax1b 変異体もストライガ種子の発芽誘導と成長が抑制された。しかし、zmmax1b 変異体の分枝表現型に変化は見られなかった。ZmMAX1bの下流もしくは並行して作用しているZmCYP706C37 の機能喪失変異体も分枝表現型に変化は見られなかった。よって、これらの変異体のSLは分枝阻害ホルモンの前駆体でなく、不要な多面的作用をもたらさない安全な育種標的であると考えられる。以上の結果から、トウモロコシでは2つの並行したSL生合成経路が機能しており、どちらの経路も主要SLであるzealactoneを生成することが明らかとなった。また、zealactolとZAはストライガの発芽誘導が弱いため、両者を多く滲出する遺伝子型のトウモロコシにはストライガの感染を強く抑制する効果があると考えられる。

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論文)野生ダイズ ツルマメの高緯度適応

2023-02-11 11:18:23 | 読んだ論文備忘録

The genetic basis of high-latitude adaptation in wild soybean
Dong et al.  Current Biology (2023) 33:252-262.

doi:10.1016/j.cub.2022.11.061

ダイズは光周期に対して極めて敏感な短日植物であるが、高緯度で栽培する過程で主に光周期感受性の低下を通じて長日条件下で花成する能力を獲得した。近年の研究で、ダイズ花成の高緯度への適応は、花成抑制因子として機能するE1E2GIGANTEA のホモログ)、E3E4 、および2つのPSEUDO-RESPONSE-REGULATOR3 ホモログTime of flowering 11Tof11 )とTof12 の自然機能喪失変異と、花成活性因子Tof5FRUITFULL のホモログ)の機能獲得変異によってもたらされたことが示されている。しかし、ダイズの原種と考えられているツルマメ(Glycine soja )は、中国黒龍江省北部や北緯48度以上のロシア極東連邦管区を含む広い地理的範囲(北緯24~53度、東経97~143度)に分布している。中国 広州大学のLiu らは、ツルマメの花成を制御しているQTLを同定することを目的に、ツルマメ295系統をハルビン(45.75'N)で自然長日条件下で栽培して開花時期を調査し、4,893,018個の一塩基多型(SNP)を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)から、開花時期を制御する第4染色体上の遺伝子座Tof4 を同定した。Dongnong50(DN50、野生ダイズから導入した品種)と Williams 82(W82)の交雑集団を用いてTof4 遺伝子座の精密マッピングを行ない、E1 ホモログのE1La 遺伝子(Glyma.04G156400 )に早咲き系統でリジンをグルタミン酸に変換(K101E)すると予測されるSNP(A301G)を見出した。そのリジン残基はマメ科植物に保存されていることから、このSNPはE1Laの機能を損なっているものと思われ、E1La 遺伝子はTof4 遺伝子座の有力な候補であることが示唆される。機能的Tof4 対立遺伝子(NIL-Tof4 )と変異Tof4 対立遺伝子(NIL-tof4-1 )を持つF8準同質遺伝子系統(NIL)を作出し、チャンチュン(長春、43.88'N)で自然長日条件下での農業形質を評価したところ、NIL-tof4-1 はNIL-Tof4 と比較して開花時期および成熟時期が著しく早く、草丈、節数、さや数が減少し、穀物収量が減少することが判った。これらの結果から、tof4-1 対立遺伝子は長日条件下でダイズの花成と成熟を促進しており、E1Laは、E1と同様に、花成抑制因子として機能していることが示唆される。CRIPR-Cas9法でE1La を機能喪失させたW82(tof4CR )は、野生型W82と比較して、開花時期および成熟が有意に早く、収量関連形質が変化して収量が減少した。Tof4 を過剰発現させたW82(Tof4-OE )は、自然長日条件下で野生型W82よりも有意に遅い開花と成熟を示し、その結果、収量が増加した。tof4CR とNIL-tof4-1 では、ダイズのフロリゲン遺伝子ホモログのFT2aFT5a の発現量がW82やNIL-Tof4 よりも高く、Tof4 はダイズ花成制御においてFT2aFT5a よりも上流で作用していることが示唆される。解析の結果、Tof4はFT2a 遺伝子、FT5a 遺伝子のプロモーター領域と直接相互作用をして転写を抑制していることが判った。また、Tof4は、E1と同じように、Tof5 遺伝子プロモーター領域に結合して転写を阻害した。したがって、Tof4は花成エンハンサーのFTFUL のプロモーターに直接結合して転写を抑制し、ダイズの花成と成熟を遅延させていると考えられる。Tof4/E1LaE1 およびE1Lb との関係を調査するために、CRIPR-Cas9法で作出した機能喪失変異体を用いて解析を行なった。チャンチュンでは、tof4CR e1CR 二重変異体は e1CR 変異体およびW82よりも早く開花し、収量に関する形質も変化していた。しかし、ハルビンでは、W82とe1CR 変異体は成熟せず、栽培期間終了まで自然採種が困難であったのに対し、tof4CR e1CR 二重変異体は開花と成熟が早く、高品質の種子を収穫することができた。tof4CR e1CR e1lbCR 三重変異体は、チャンチュンとハルビンの2つの高緯度地域における自然長日条件下で、超早期開花と成熟を示した。これらの結果から、Tof4 の機能喪失はダイズの高緯度への適応を促進し、E1LaE1 は、ダイズの開花時期、成熟、収量を、独立して、しかし相加的に制御していると考えられる。Tof4 対立遺伝子の起源を探索するために2387系統のTof4 遺伝子配列を調査し、5つのハプロタイプ(Tof4H1-Tof4H5 )を見出した。そして、Tof4H3Tof4H2 (tof4-1 ) から由来していることが示され、Tof4H2tof4-1 )とTof4H3tof4-2 と命名)はTof4のFT5a 発現抑制能を部分的に損なっていることが判った。また、DN50のtof4-1 をCRIPR-Cas9法でさらに機能喪失させたtof4CR-D 変異体は、DN50よりも有意に早く開花した。よって、tof4-1 は弱いアレルであると考えられる。弱いTof4 アレル(tof4-1tof4-2 )は、ツルマメの32.9%にみられ、栽培ダイズでは0.35%(3/857)に見られるのみであった。中国由来のツルマメ441系統のうち、東北部由来の58.8%がtof4-1 アレルで、2.8%がtof4-2 アレルであったが、他の地域由来の系統では変異tof4 は見られなかった。以前の研究で、Tof5 の機能獲得型アレル(Tof5H1 およびTof5H2 )と E3 の機能喪失型アレルも野生ダイズの高緯度地域への適応に寄与していることが示されており、中国東北部でのTof5H2 および Tof5H1 アレルの頻度はそれぞれ15% および18% で、e3 アレルの頻度はわずか4%であった。そして、71.5%以上の系統がTof4 の変異型対立遺伝子またはTof5 の機能獲得型対立遺伝子を保有していた。よって、この2つの対立遺伝子がツルマメの高緯度への適応の主要な遺伝的基盤となっていると考えられる。

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論文)ブラシノステロイドによるトマトの冷温ストレス耐性

2023-02-07 11:31:28 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroid signaling positively regulates abscisic acid biosynthesis in response to chilling stress in tomato
An et al.  Journal of Integrative Plant Biology (2023) 65:10-24.

doi:10.1111/jipb.13356

ブラシノステロイド(BR)は、植物の成長・発達における様々な生理過程を制御している。また、BRはストレス応答にも関与しており、低温に応答してBRシグナル伝達に関与する転写因子BRASSINOSTEROID-INSENSITIVE1(BZR1)がC‐REPEAT BINDING FACTORCBF )遺伝子の転写調節をして低温ストレス耐性遺伝子の発現を誘導する。さらに、BRは冷温ストレス(0~10℃)による光阻害から植物を保護することが知られている。しかしながら、BRがどのようにして冷温ストレスに応答しているかは不明である。中国 浙江大学Xia らは、トマトのBR生合成遺伝子DWARFDWF、CYP85A1をコード)やBZR1 の過剰発現個体(DWF-OEBZR1-OE )は、野生型植物と比較して、冷温処理(5℃で5日間)後の光化学系Ⅱの最大量子収率(FV/Fm)が高く、相対的電解質漏出(REL)が低下して冷温による酸化障害が緩和され、アブシジン酸(ABA)含量とABA生合成酵素遺伝子NCED1 発現量が高くなっていることを見出した。一方で、dwf 変異体やbzr1 変異体は、冷温処理に対して過剰発現個体とは逆の応答を示した。NCED1 遺伝子のプロモーター領域にはBZR1が結合するE-boxエレメントが存在し、BZR1が直接結合してNCED1 の発現を活性化すること、冷温処理はBZR1のプロモーター領域への結合を促進することが判った。BZR1 のホモログであるBRI1-EMS-SUPPRESSOR1BES1 )をVIGSでノックダウンしたbes1 変異体も冷温耐性を示したが、冷温処理によるABA含量やNCED1 発現量の変化は見られず、BES1はNCED1 遺伝子プロモーター領域に結合しなかった。よって、BZR1とBES1は共にトマトの冷温耐性に寄与しているが、ABA生合成における役割は異なっていると考えられる。ABA欠損notabilisnot )変異体は、冷温耐性が著しく低下し、CBF1 の発現誘導が阻害された。また、DWF-OEBZR1-OE の冷温耐性はnot 変異によって失われた。dwf 変異体へのABA添加処理は、冷温ストレスによる酸化障害を緩和し、CBF1 の発現を促進した。したがって、ABAはBRが誘導する冷温耐性に必要であると考えられる。BZR1をリン酸化してBRシグナル伝達を負に制御しているBRASSINOSTEROID‐INSENSITIVE2(BIN2)の過剰発現個体は、冷温処理による酸化障害が悪化し、NCED1 の発現誘導が阻害され、ABA蓄積が抑制された。よって、BIN2は、BRを介したABA生合成の制御と冷温耐性の負の制御因子として機能している。以上の結果から、BRによるトマトの冷温ストレス耐性は、BZR1を介したNCED1 の転写活性化によるABA生合成に依存していると考えられる。

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論文)オーキシンによる胚軸伸長促進の分子機構

2023-02-05 21:17:29 | 読んだ論文備忘録

Auxin promotes hypocotyl elongation by enhancing BZR1 nuclear accumulation in Arabidopsis
Yu et al.  Science Advances (2023) 9:eade2493.

doi:10.1126/sciadv.ade2493

オーキシンとブラシノステロイド(BR)は、胚軸伸長を促進する2つの主要な植物ホルモンである。オーキシンは、細胞膜に局在するプロトンポンプを活性化することでアポプラストの酸性化を促進し、細胞壁のリモデリングに関わるエクスパンシン、キシログルカンエンドトランスグルコシラーゼ/ヒドロラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼを活性化して最終的に細胞膨張と胚軸伸長を引き起こす。BRは、BRシグナル伝達の主要な転写因子であるBRASSINAZOLE-RESISTANT 1(BZR1)の細胞質から核内への移行を促進し、細胞伸長関連遺伝子の発現を誘導させる。しかしながら、胚軸伸長における両ホルモンのクロストークは十分に理解されていない。中国 山東大学Ding らは、合成オーキシンアナログピクロラム(PIC)処理によるシロイヌナズナ芽生え胚軸の伸長促進がbzr1 変異体で抑制され、BZR1 過剰発現個体では強まることを見出した。PIC処理は、胚軸細胞の伸長に関連するBZR1下流の遺伝子(BEE1PRE1 )の転写産物量を増加させるが、BZR1 転写産物量に影響してはいなかった。そこで、BZR1の細胞内局在を調査したところ、PIC処理は、BR(eBL)処理と同様に、BZR1の核内蓄積を促進することが判った。これらの結果から、オーキシンによる胚軸伸長はBZR1に依存しており、これにはオーキシンによるBZR1の核内蓄積が関与していると考えられる。オーキシンシグナルによるBZR1の核移行を促進する因子を探索することを目的に、免疫沈降-質量分析(IP-MS)を行なったところ、BZR1と相互作用をするタンパク質候補として2種類のタンパク質キナーゼMITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE 1(MPK1)とMPK3が見出された。PIC処理による胚軸伸長は、MPK阻害剤の1,4-ジアミノ-2,3-ジシアノ-1,4-ビス[2-アミノフェニルチオ]ブタジエン(U0126)によって抑制され、MPK活性化剤の上皮成長因子(EGF)によって促進された。また、オーキシンが誘導するBZR1核内蓄積は、U0126によって抑制され、EGFによって促進された。これらの結果から、MPKはオーキシンが誘導するBZR1の核内蓄積と胚軸伸長に関与していると考えられる。BZR1と相互作用をする2つのMPKは異なるグループに属しており、MPK1はMPK2、MPK7、MPK14と共にグループCに属し、MPK3はMPK6と共にグループAに属している。胚軸でのMPK の発現を見ると、MPK3MPK6 は高い発現を示し、PIC処理によって発現量はさらに増加した。グループC MPK 遺伝子もPIC処理によって発現量が増加したが、発現量は非常に低かった。mpk3 変異体、mpk6 変異体の芽生えは通常の生育条件で野生型植物よりも胚軸が短く、PIC処理による伸長促進の程度も低くなっていた。薬剤処理することでmpk3 mpk6 二重変異を示すMPK3SR は、単独変異体よりもさらに胚軸が短く、PIC処理の効果も低減していた。しかし、mpk1 mpk2 mpk14 三重変異体芽生えは、通常条件での胚軸の長さは正常で、PIC処理による胚軸伸長促進も僅かに低下する程度であった。また、MPK3、MPK6を活性化するMPKキナーゼ5(MKK5)の恒常的活性化型を過剰発現させた形質転換体は、オーキシンによる胚軸伸長とBZR1核内蓄積の促進が高められていた。したがって、MPK3とMPK6は冗長してオーキシンが誘導する胚軸伸長に促進的に作用しており、グループC MPKの促進効果は弱いと考えられる。MPK3/MPK6とBZR1との相互作用は、BiFCアッセイやco-IPアッセイでは確認されたが、Y2Hアッセイでは検出されなかった。このことから、MPK3/MPK6とBZR1との相互作用は間接的であり、架橋タンパク質が必要であることが推測される。そこで、IP-MSデータを再解析したところ、14-3-3タンパク質ファミリーのGROWTH-REGULATING FACTOR 4(GRF4)とGRF7が見出された。14-3-3タンパク質は、リン酸化型BZR1と相互作用をしてBZR1の核から細胞質への移行に関与していることが知られている。grf4 変異体芽生えは野生型植物よりも胚軸が長く、PIC処理による伸長促進効果も高くなっていた。一方で、GRF4 過剰発現個体芽生えは、胚軸が短く、PIC処理による伸長促進効果も弱く、PIC処理やeBL処理によるBZR1核内蓄積が抑制された。14-3-3タンパク質と結合することで機能を阻害する合成ペプチドR18の添加は、PIC処理による胚軸伸長を強め、BZR1の核内移行を促進した。14-3-3と相互作用をしないBZR1S173Aは核内に留まった。これらの結果から、オーキシンによるBZR1の核内蓄積と胚軸伸長は、GRF4によるBZR1の細胞質保持に拮抗して行われていると考えられる。各種解析から、GRF4はMPK3/MPK6と相互作用をすることが確認され、MKK5で活性化されたMPK3/MPK6はGRF4のSer248をリン酸化することが判った。GRF4のリン酸化は、GRF4の細胞内局在やBZR1との相互作用には影響しないが、26Sプロテアソーム系による分解を促進することが判った。無細胞系を用いた解析から、野生型植物からのタンパク質抽出液は、合成オーキシンNAA存在下でのGRF4の分解を促進し、MPK3SR 系統の抽出液はNAAが誘導するGRF4の分解を抑制した。よって、MPK3/MPK6によるGRF4のリン酸化はオーキシンが誘導するGRF4の分解を促進していると考えられる。以上の結果から、オーキシンは、MPK3/MPK6によるGRF4タンパク質の安定性制御を介してBZR1の核内蓄積を促進することで胚軸伸長に関与する遺伝子の発現を誘導していると考えられる。

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