Jasmonic acid and salicylic acid modulate systemic reactive oxygen species signaling during stress responses
Myers et al. Plant Physiology (2023) 191:862-873.
doi:10.1093/plphys/kiac449
News and Views
Rise of signaling: jasmonic and salicylic acid oppositely control reactive oxygen species wave production
Fernández-Milmanda Plant Physiology (2023) 191:814-816.
doi:10.1093/plphys/kiac517
植物は、光強度、湿度、温度の急激な変化や、病原体や害虫の攻撃に晒されながら成長、発達、繁殖している。このような環境下で生きていくために、ストレスを受けた組織は活性酸素種(ROS)ウェーブなどを発して迅速に全身へシグナルを伝達し、全身がストレスに対して順応する全身獲得順化(systemic acquired acclimation)を起こす。しかしながら、ROSウェーブと、ジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、アブシジン酸(ABA)等のストレスに対する全身応答に関与する植物ホルモンのシグナルとの関連については明らかでない。米国 ミズーリ大学 クリストファー S.ボンドライフサイエンスセンターのMittler らは、シロイヌナズナの1枚の葉に強光もしくは機械的傷害処理をして、蛍光ROSインジケーターH2DCFDAを用いたライブイメージングによってROSウェーブを観察した。また、イオン漏出からストレスに対する順応の状態を評価した。ABA生合成変異体aba2 のROSウェーブと強光ストレスに対する順応を観察した結果、ABAは傷害に応答した局所および全身でのROS蓄積、強光ストレスに応答した全身でのROS蓄積、強光ストレスに対する局所および全身の順応において重要な役割を担っていることが判った。次に、JAの非感受性変異体coi1 と生合成変異体aos1 を用いて解析を行なった。coi1 変異体は局所的な強光ストレスや傷害処理に応答した局所および全身でのROS蓄積が見られず、強光ストレスに対しての局所および全身での順応が起こらなかった。aos1 変異体では、ROS蓄積量は減少したが、強光ストレスに応答した順応は観察された。よって、COI1によるJA感知は、傷害や強光ストレスに対する局所および全身でのROS応答、強光ストレスに対する全身の順応に重要な役割を果たしていると思われる。また、coi1 変異体はJA含量が高いことこら、JAの高蓄積によってROSウェーブや順応が抑制されている可能性もある。SA蓄積量が減少するsid2 変異体では、強光ストレスに応答した局所および全身でのROS蓄積が抑制されたが、傷害に対する応答では全身でのROS蓄積のみが抑制された。SA非感受性のnpr1 変異体では、強光ストレスや傷害による局所的なROS蓄積は見られたが、ROSウェーブの全身への拡散は起こらなかった。また、sid2 変異体、npr1 変異体ともに、強光ストレスに対する局所的および全身的な順応が消失していた。これらの結果から、SAは強光ストレスに対する局所的および全身的な順応に必須であり、NPR1は強光ストレスや傷害を受けた植物の全身でのROS蓄積とシグナル伝達にとって重要であると考えられる。JAとSAは病原菌やストレスに対する応答で拮抗的に作用していることから、JAもしくはSA処理をした植物体のROSウェーブを観察した。その結果、JAは強光ストレスや傷害に応答したROSウェーブを抑制し、SAは増強することが判った。エチレン非感受性のein2 変異体、etr1 変異体の解析から、エチレンは強光ストレスに応答したROS蓄積には関与していないが、傷害に応答した全身でのROS蓄積に関与していることが判った。ストリゴラクトンは傷害や強光ストレスに対する迅速な応答には関与していなかった。以上の結果から、JAとSAは、植物が環境ストレスや傷害に応答する際のROSウェーブの調節において拮抗的な役割を果たし、全身獲得順化を制御していると考えられる。