サイバーCR-X Si グラストップ ブラック 5速MT走行距離3.5万キロ 車体価格89万円
トラックにぶつけられ、ほぼ全損状態になったCR-X。しかも相手は無保険車である。しかし、何が幸いするか分からない。無保険だったことで相手もパニックになっていたのか、持ちかけてきた話はこうだった。
「修理代を全額出すので、それで終わりにしてもらえませんか?」
何と、こちらは何もしなくて、向こうが全ての責任を被って修理代を出すという。いや、それはそれでいいけど、ここまで大破すると、新しいクルマを買った方が安いですよ。新車でも安いだろうし、中古で同程度でも不満はない。そう伝えたのだが、騙されることを警戒しているのか、とにかく修理しますとのことなのだ。
全てをバラし、フレームの矯正からスタート。3ヶ月近くも掛かる大修理で、費用は187万円也!
丁寧に修理してくれたのか、フェンダーやライトの隙間とかにもズレがなく、キレイに直って帰って来た。
この修理の後でハンドル交換も行った。シビックから外していたナルディのハンドルとシフトノブをCR-Xに移植したのである。
ワンダーシビックとサイバーCR-Xではハンドル周りの作りが違うので、当然ワンダー用のボスとサイバー用のボスは違う。しかし、当時はハンドル交換の市場が大きかったのか、ワンダーのボスに継ぎ足してサイバーに合わせられる中継ボスがあって、ボスを2個重ね合わせるようにしてナルディのハンドルを取り付けた。この2個重ねのボスは、その後もずっと使い続けることになる。
この頃になって、仁も我慢ができなくなったのだろう。クルマを買い替えた。以前は同じワンダーだったが、その時もMTとATの違いに嫉妬していた。それがATのワンダーとMTのサイバーになったため、どうしても仁もMTに乗りたくなったようだ。
そして仁が購入したのは発売されたばかりのシビック、スポーツシビックのフェリオSiRだった。
フェリオを手に入れた仁はすぐさまボクのと同じウッドのシフトノブを買って来た。しかし、ナルディのプレートが付いたノブは売り切れていて、仁が買って来たのは無限のシフトノブ。
だが、仁のフェリオに無限のパーツは着いていない。そこで、仁はノブを交換してくれないかと持ちかけてきた。ボクのサイバーは無限のホイールを履いていたからだ。
こうして、シフトノブを交換して以来、ずっとこのウッドのノブを継承して来た。今のホビオには着けていないが、このノブは大事に取ってある。いつか、このノブの出番があるかも知れない。
ボクが買った2台目のクルマ、このCR-Xとは約5万キロを共に過ごしたが、別れの時がやって来た。それは中央フリーウェイでの出来事である。
その日、仕事でCR-Xに乗っていたボクは立川の某百貨店へ急いでいた。約束の時刻15分前にまだ日本橋にいたボクは、高速に乗り、立川への道を飛ばしていた。
前を2台のトラックが並走していたが、その荷台から何かが崩れ落ちて来た。それがトラックとトラックの間から飛んで来て、視界一杯に広がった。ヤバイ! 咄嗟に大きくハンドルを切って落下物をかわした! と、CR-Xがハーフスピン状態になってコントロールを失った。
よく事故の時などスローモーションに感じるという。あれは本当である。斜めになってスッ飛んで行くCR-Xが高速道路の左の壁にぶつかろうという時、頭の中では色々と思考していた。「このまま真正面からあのコンクリートにぶつかると即死するかも知れない。何とか斜めに、左側面からぶつけて、運動エネルギーを減らせられないものか? もう少しだ。もう少しだけクルマを右に向けられれば、側面を当てられる」
アドレナリンが大量に出て、脳の思考スピードのリミッターが外れるのかも知れぬ。結構冷静に考え、操作して、左側面から壁にぶつけることに成功した。
ガガガがガガガ! 壁にぶつかった衝撃を受けながら、よし、これで死なずに済むぞと思った瞬間、クルマがガタッと傾いたかと思うとスピンした。後で調べるとタイヤがクルマの下に潜り込んでいたから、サスの付け根の辺りが折れたのだろう。それでスピンして、中央分離帯の方へ吹っ飛んだ。
ガツンと中央分離帯にぶつかって跳ね返り、再び高速左の壁にぶつかって跳ね返り、再び中央分離帯へ飛んで、後ろから分離帯に乗り上げて止まった。エンジンはまだ回っていたが、サスが折れているから動けない。オーディオからは稲川淳二の怪談がまだ流れていた。
幸いなことに怪我一つしていなかったので、クルマを降り、緊急電話の所へ行ってJAFを呼ぶ。JAFはすぐにやって来た。そして、CR-Xのフロントを台車みたいなのに載せ、後ろをレッカーに引っ掛けて搬送したのだ。ボクはCR-Xの運転席に座らされていた。後ろから来るクルマの運転手と目が合う。みんな、情けないヤツめという表情でこちらを見ていた。
JAFは国立府中の料金所を出た所までしか搬送してくれなかった。そこからいったん葛西の会社へ戻り、ハイエースで国立府中へ行き、ホンダにCR-Xを引き取って貰った。もちろん廃車である。
ハイエースには他の社員も乗っていて、CR-Xの前で記念撮影。もうこれでCR-Xに乗ることはできないだろう。CR-Xばかりか、ワンダーシビックのローンもまだ残っている。次にクルマを買うとしても、安いボロ車が精一杯だ。
ところで、トラックからの落下物。あれは毛布でした。載せている荷物が傷付かぬよう巻いていたボロ布のような毛布。飛んで来た時は壁のようにみえたんだけどね。
落としたトラックは、気付かずに走り去ってしまいましたとサ。