小川良『妖臣伝―厳島合戦異聞(上・下)』
(幻冬舎文庫)を読む。
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内容(「BOOK」データベースより)
剣士・さぎりは流浪の途中で、
大内義隆の愛妾・総子から兄・冷泉隆豊のもとに、
幼子・頼子を届けるよう依頼される。
頼子には側近の陶隆房(のちの陶晴賢)の反乱をつげる密書が託されていた。
惨殺され亡霊となった総子に守られながら、
山口の隆豊のもとへ向かうさぎりを隆房の忍び・怪僧善常が襲う…。
内容(「BOOK」データベースより)
陶隆房(のちの陶晴賢)は反乱を成功させ、西国の覇権を掌握する。
隆房を仇と狙うさぎりと、宿敵善常法師を狙う忍びの者、
次郎は雌伏の毎日を送る。敵対する毛利家へ、二人の献身が続いた。
隆房はこれまでの謀略戦にやがて疲弊し、怨霊たちも彼に襲いかかった。
そして厳島合戦…。
武将たちの激しい愛憎に彩られた戦国大絵巻、堂々の完結。
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小川さんの公式サイトによると、
高口里純さんが『悪の華』のタイトルで劇画化されたそうです。
あらすじを見ると忍者モノの伝奇小説としか思えないのですが、
山田風太郎のような奇抜な忍術合戦は一切ありません。
また、オカルト的なサイキック・バトルもありません。
江戸以前には武士の間で普通の恋愛だった衆道(男色)。
大内義隆と寵童だった陶隆房とのすれ違い。
善常法師に体を奪われ、次第に心を寄せていく次郎。
深く愛するがゆえに憎しみへと駆り立てられる心情が
細やかに描写されています。
義隆が隆房と衆道の関係にあったのは史実であり、
無理やりに男色を絡めたものではありません。
江森備『私説三国志 天の華 地の風』は
諸葛亮を色子のごとく英雄豪傑に寵愛される美貌の策士に描き、
独自の視点で魅力的な作品に仕上げていますが、
『妖臣伝』も歴史小説として
時代の雰囲気を伝えることに成功しています。
怨霊の登場のさせ方も中世の説話を思わせる描写であり、
違和感なくストーリーに溶け込んでいました。
もちろん、厳島の合戦を描いた歴史小説としても
面白く読める内容です。
丁寧に作り込まれてはいるが、くどさを感じない、
絶品の料理を食べたような読後感でした。
文庫本の解説を読むと、小川氏が「女流作家」と紹介されています。
教師業のかたわら小説を執筆されているとのことなので、
単行本として出版されているのは『妖臣伝』しかありませんが、
次回作が楽しみな作家です。
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