天野純希『燕雀の夢』（角川書店）を読む。
武田信玄、上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、伊達政宗の
父親たちを描いた短編集です。
「下剋の鬼」は上杉謙信の父、長尾為景の話。
守護代として越後平定のために戦うも、
ついに望みを達せなかった為景。
息子の謙信の代でも（次の景勝の代でも）国人の反乱が収まらず、
決して強固な支配ではなかったことがわかります。
「虎は死すとも」は武田信玄の父、信虎の話。
甲斐を追放され、各地を転々とする信虎の「お騒がせ」な行状を描きます。
ワガママな信虎に振り回される人々が笑えます。
「決別の川」は伊達政宗の父、輝宗の話。
「甘さ」を残す輝宗と、非情に徹することのできる政宗。
上杉景勝とその背後にいる秀吉の影が、悲劇を準備します。
「楽土の曙光」は、徳川家康の父、松平広忠の話。
今川家に従属しながらも、独立の道を模索する広忠。
織田信秀のもとにある竹千代を取り戻すため戦うのですが…
「黎明の覇王」は、織田信長の父、信秀の話。
美濃攻めで大敗した後、西三河も失い、
失意にあった信秀の希望となったのは、嫡男である信長。
「うつけ」と呼ばれながらも異能の才を見せる信長に、
信秀は再起の可能性を見出します。
胃の腑の病で死期を悟った信秀は、
尾張統一のために秘策を実行しようとする…
タイトルにもなっている「燕雀の夢」は、
豊臣秀吉の父、木下弥右衛門の話です。
足軽、木下弥右衛門は、美しい娘を嫁にするため、
戦で手柄を立てようとする。
戦場で負傷し、戦に出られなくなった弥右衛門は…
なるほど、そういう解釈があるのか、という設定です。
「おとうさんの悲哀」が感じられるラストでしたが。
それぞれの人生は完結しているのですが、
歴史というストーリーでは途中退場を余儀なくされた感のある父たち。
息子の存在を意識させることによって、
尻切れトンボになることを回避しているのでしょうか。
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