内田樹編『人口減少の社会の未来学』(文藝春秋、2018年)
編集者の良し悪しが本の出来具合を左右するという好例のような本であった。
内田樹の序論は本人も書いているとおり、出版社からこの本の企画を提案されて書いたもので、それがそのまま今回の本の執筆者に送られたという。もちろん内田樹は編集者ではないが、そのような役割を担っている。
誰に依頼するのか、どの程度まで執筆者の執筆内容を方向づけるかということは、それぞれの執筆者が書いてきた文章のレベル以前の問題で、編集者なら必ず検討して実行しなければならないものだろう。
だがこの本の好き勝手さには呆れる。池田清彦の「ホモ・サピエンス史から考える…」から隈研吾の「武士よさらば」まで、とても「人口減少の社会の未来学」というタイトルの下に置けるようなものとは思えない。
それぞれの執筆者がこれだけ好き勝手なことを書いているということは編集者が何も手を打たなかったからだろう。内田樹の文章は素晴らしい(彼の序論はいつもの内田風論理が全開)けど、彼には編集者としての資質はないようだ。あるいは編集者として何もしなかったか(たぶん何もしなかったのだろう)。
内田樹は、古武道家の甲野善紀との対談もそうだったが(こちらを参照)、他人と組んで作った本はまったく面白くない。一人で好き勝手なことを書いたものが一番興味深い。
この本で私が興味深く読んだのは、日本社会は「根拠のない楽観」だけにすがりついて、冷静にあらゆる可能性を考え、それぞれの可能性における対策を検討するというクールな態度ができない日本人を嘆いている内田樹の「序論」が一つ。
第二に、イギリスの現状を報告し、緊縮策の危険性(というか実効性の薄弱さ)を訴え、1930年代のアメリカの「ニューディール政策」が現代にも必要だとするブレイディみかこの「縮小社会は楽しくなんかない」。
第三に「若い女性に好まれない自治体は滅びる」で岡山県奈義町の子育て支援を例に挙げて、社会全体が子育て支援をするような仕組みと認知を作っていくこと、底辺層を社会に取り込んでいく様々な運動の大切さ―それが結局は社会の活気と活力を取り戻すことに繋がると主張する平田オリザ。
藻谷浩介の「日本の人口減少の実相と…」は、『里山資本主義』を読んでその斬新な切り口に関心したことがあったので、一番期待していたのだが、統計が表す事実から日本人の誤解を切り捨てようとする姿勢はいいものの、やたらと数字が多くて、辟易した。数字が事実に基づいているのなら、もっと特徴的な(例えば東京都と北海道と沖縄)くらいを比較するような手法でもよかったのではないかと思う。
しかし全体としては、「人口減少の社会の未来学」というタイトルにひかれて読んでみた人をがっかりさせる内容であることには変わりない。
編集者の良し悪しが本の出来具合を左右するという好例のような本であった。
内田樹の序論は本人も書いているとおり、出版社からこの本の企画を提案されて書いたもので、それがそのまま今回の本の執筆者に送られたという。もちろん内田樹は編集者ではないが、そのような役割を担っている。
誰に依頼するのか、どの程度まで執筆者の執筆内容を方向づけるかということは、それぞれの執筆者が書いてきた文章のレベル以前の問題で、編集者なら必ず検討して実行しなければならないものだろう。
だがこの本の好き勝手さには呆れる。池田清彦の「ホモ・サピエンス史から考える…」から隈研吾の「武士よさらば」まで、とても「人口減少の社会の未来学」というタイトルの下に置けるようなものとは思えない。
それぞれの執筆者がこれだけ好き勝手なことを書いているということは編集者が何も手を打たなかったからだろう。内田樹の文章は素晴らしい(彼の序論はいつもの内田風論理が全開)けど、彼には編集者としての資質はないようだ。あるいは編集者として何もしなかったか(たぶん何もしなかったのだろう)。
内田樹は、古武道家の甲野善紀との対談もそうだったが(こちらを参照)、他人と組んで作った本はまったく面白くない。一人で好き勝手なことを書いたものが一番興味深い。
この本で私が興味深く読んだのは、日本社会は「根拠のない楽観」だけにすがりついて、冷静にあらゆる可能性を考え、それぞれの可能性における対策を検討するというクールな態度ができない日本人を嘆いている内田樹の「序論」が一つ。
第二に、イギリスの現状を報告し、緊縮策の危険性(というか実効性の薄弱さ)を訴え、1930年代のアメリカの「ニューディール政策」が現代にも必要だとするブレイディみかこの「縮小社会は楽しくなんかない」。
第三に「若い女性に好まれない自治体は滅びる」で岡山県奈義町の子育て支援を例に挙げて、社会全体が子育て支援をするような仕組みと認知を作っていくこと、底辺層を社会に取り込んでいく様々な運動の大切さ―それが結局は社会の活気と活力を取り戻すことに繋がると主張する平田オリザ。
藻谷浩介の「日本の人口減少の実相と…」は、『里山資本主義』を読んでその斬新な切り口に関心したことがあったので、一番期待していたのだが、統計が表す事実から日本人の誤解を切り捨てようとする姿勢はいいものの、やたらと数字が多くて、辟易した。数字が事実に基づいているのなら、もっと特徴的な(例えば東京都と北海道と沖縄)くらいを比較するような手法でもよかったのではないかと思う。
しかし全体としては、「人口減少の社会の未来学」というタイトルにひかれて読んでみた人をがっかりさせる内容であることには変わりない。