読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

2022年に読んだ本のベスト・ファイブ

2022年12月23日 | 日々の雑感
2022年に読んだ本のベスト・ファイブ



今年は31冊を読んだ。最初はどうなることかと心配したが、一定の生活リズムというか読書リズムができたので、どんどん読めるというわけにはいかないが、たったこんだけしか読まなかったのかと嘆くこともなくすんだ。その理由は毎週日曜日は読書の日と決めたことにある。日曜日は、パソコンでのデスクワークはしないで、もっぱら音楽を聴いたり、読書で一日を過ごすことにしたのだ。

もう一つは、今年から音読を始めたことにある。仕事も辞めたので、教室で大きな声を出すこともなくなった。一日まったくしゃべらないことも普通にある。そこで、心肺機能を維持するために(って大げさだけど)、音読を始めたのだ。毎日30分程度小説を音読する。これだけでもずいぶんと喉のためにも肺のためにもよさそうだ。

もちろん30分の音読では読書が進まないので、時間があれば、黙読もするが、音読をしていると、音読に適した表現とか言い回しがあることに気づいて面白い。伊集院静『ミチクサ先生』、逢坂冬馬『同士少女よ、敵を撃て』、ねじめ正一『泣き虫先生』、高見沢俊彦『音叉』、原田マハ『風神雷神』、松本薫さんの小説、フランス語では『星の王子さま』の仏和対訳を音読した。来年もこれは続けていこうと思っている。

1.鷲見洋一『編集者ディドロ』(平凡社、2022年)
18世紀の知の集大成である『百科全書』の全体像を余すところなく描き出した日本語で初めての著作として特筆にあたいする。後続の学徒のためにも、参考資料についても一冊の本を書いてほしいものだ。

2.伊集院静『ミチクサ先生』(講談社、2021年)
気難しい人という夏目漱石のイメージを一新する、よい小説だと思う。音読したら、これがまた心に残る場面がたくさんあることに気づいた。とくに妻の筆子との関係はどの程度裏付けがあるのか分からないが、斬新だ。

3.山崎雅弘『未完の敗戦』(集英社新書、2022年)
コロナ禍の対応に象徴的に現れた、日本という国の姿-国民の生命をないがしろにして、あらゆる政策を一部の権力者たちが甘い汁を吸う道具にしてしまう-が、戦中の日本軍のやり方となんら変わっていないことを明らかにした評論。ブログでも鋭い政府批判を書いている人なので、参考になることが多い。


4.高見沢俊彦『音叉』(文藝春秋、2018年)
東京と鳥取県のど田舎+大阪といういう違いはあるにせよ、同じ時代の空気を吸っていたものとして共感できるところがたくさんあって、懐かしみさえ覚える。文章も読みやすい。

5.石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋、2020年)
小池百合子という、権力志向の新しいタイプの「政治屋」のことを綿密な資料を駆使して明らかにした評伝。この人、都知事のあとは首相を狙っているのだろうか、こんな女を行政のトップにしてはいけない。

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『風神雷神』

2022年12月11日 | 作家ハ行
原田マハ『風神雷神』(PHP、2019年)



俵屋宗達の『風神雷神図屏風』をモチーフにした小説。

著名な画家の生涯とか絵をモチーフにした小説は、ほぼ研究尽くされていることが多いので、たいてい実際にはあり得ない出来事があったとか、実際には存在しない絵が発見されたというようなフィクションをいかに真実らしくみせるかというところに、作品の出来がかかっていることが多い。

この小説は、信長がその権力の絶頂期にローマ教皇のもとに送った使節「天正遣欧少年使節団」に俵屋宗達も一緒に派遣されたという設定で書かれている。

本の最後にも書かれているように、「天正遣欧少年使節団」を研究した若桑みどりの『クワットロ・ラガッツィ』を種本にしているので、その経緯や彼らが辿った足跡や謁見の様子などは、それに作者の想像力も加えて、微に入り細を穿つというくらいに詳細に描かれており、本当に俵屋宗達が一緒にヨーロッパを見聞してきたかのように思えてくるから、作者の筆の力はそうとうのものだろう。

しかし俵屋宗達の「風神雷神屏風図」には、素人の私が見ても、西洋絵画の影響はまったくないのは分かる。いくら俵屋宗達の生涯に不明なところが多いからといって、西洋に行かせるのは、想像力の使いすぎではないかと思う。

まぁいい夢物語を読ませてもらったというところだろうか。

画家を題材にした架空の小説には次のものがある。
二つともゴッホというのは、やはり人気度を示しているのだろうか。
原田マハ『たゆたえども沈まず』

高橋克彦『ゴッホ殺人事件』

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『音叉』

2022年12月04日 | 作家タ行
高見沢俊彦『音叉』(文藝春秋、2018年)

バンドのアルフィーのメンバー高見沢俊彦が初めて書いた小説ということで新聞などで知っていたのだが、たまたま図書館の返却コーナーにあったので読んでみた。

とにかく文章が読みやすい。本人の実際に経験したことを回想風にそのまま書いたせいなのか、もともと文才があるせいなのか、読みやすい。

しかも書かれている時代が私の学生時代とほぼ同じということもあって、時代の雰囲気がよく分かる。もちろん私にはこれほどの女性遍歴はまったくないので、その辺のことを差し引いても、「私にも書けるんじゃないか」という気にさせるような、いい小説だ。

実際アルフィーも74年くらいにデビューしてから、メリーアンがヒットする80年の初頭まではたいへんな苦労をしたらしいが、その後はずっと一線を走っている。

とは言っても私は彼らにはまったく関心がなかったのだが、この5・6年くらい前からBS7チャンネル(テレビ東京か?)で「あの年あの曲」とかいう番組があって、曲のアナウンサーの隣に出ていたのが、アルフィーの坂崎幸之助と高見沢俊彦だった。とくに坂崎幸之助はもうあらゆるフォークソングを知っているのではないかというくらい、つねにギターを抱えていて、ちょこっと弾いて歌ってみせるので、気に入った。

この頃には高見沢俊彦はもう長髪の宝塚女子って雰囲気で、面白い人だなくらいだったのだが、新聞で『音叉』という小説を書いたのを知って、多才だなと感心したものだ。

とにかく音楽業界の一線をこれほど長期に走っているバンドも少ないので、これからも活躍してほしいし、高見沢俊彦の他の小説も読んでみようかなと思っている。

『音叉』のアマゾンのコーナーへはこちらをクリック

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