読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『55歳からのハローライフ』

2020年05月30日 | 作家マ行
村上龍『55歳からのハローライフ』(幻冬舎、2014年)

還暦前後の「老人」(?)たちが再び人生に目覚めるということを主題にした中編小説集である。

「結婚相談所」
夫が退職して一日中家にいるのに嫌気がさして離婚した女性が独り身の自由を謳歌しながらも知り合いから言われた一言で結婚相談所に登録し、何人もの男性と面談するが何も得られないでいた頃に、30歳くらいの若い男と一夜をともにするという経験をして、新しい人生を生きていこうとする。

「空を飛ぶ夢をもう一度」
54歳で小さな出版社をリストラされてから交通整理員の仕事をしている男が、かつて佐賀県の町で中学生の時に知り合いだった男と再会する。しかしその男は末期の結核患者で、明日の命も分からない状態で日雇労働者の住むような旅館に無銭で泊まっており、そこから連絡が来る。その男は最後に生き別れた母親に形見の指輪を返したいという。死にかけたような状態のその男を、彼の母親の元に連れていくと、母親は喜び、しばらくして母親に看取られて亡くなる。

「キャンピングカー」
家具の販売会社を早期退職した男は早期退職による特別加算金を使って1000万もするキャンピングカーを購入し、妻と自由に日本中を旅しようと夢見ていた。ところがいざその話をすると妻からは自分の時間を大切にしたいという理由で断られる。暇だからそんなことを考えるのだと娘から言われ、再就職を勧められたことから、就職活動をするが、それまでの自尊心がボロボロにされるような事態にうつ病のようになってしまう。

『55歳からのハローライフ (幻冬舎文庫)』へはこちらをクリック



  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『おじさん、語学する』

2020年05月24日 | 人文科学系
塩田勉『おじさん、語学する』(集英社新書、2001年)

外国語習得の新しいメソッドを提示するために、一種の経験談の体裁をとって書かれた本である。新型コロナが始まった直後の大学図書館で、たぶん新一年生への紹介コーナーのようなところに置いてあったので、新刊かと思ったら、20年前の本だったが、けっして古びていないと思う。

(ただし、やたらとカセットテープの話がでてくるのは少々古すぎるのではないかと思うが…今どきカセットテープを使うことは不可能に近く、せめてCDとかDVDであろう。)

まったく未知の外国語を習得する段階や方法として、次のような提案がされている。

1.まず目的意識をもって、視聴覚的手法から入る。NHKテレビの語学講座で、簡単な挨拶や自己紹介から始める。

2.テレビからの受動的な方法に飽きてきたら、つまり生身の人間と会話することへの渇望が出てきたら、語学学校に通う。この本では教育システム、教授者のレベルがしっかりしたものとしてベルリッツが用いられている。

3.対話に慣れてきたら、教師と生徒というママゴト会話から一歩飛躍するために、頭の回路を当該言語にしてしまう習慣をつける。それは会話学校の授業においていろんなシチュエーションを想定して場面を切り抜けるという方法を用いてもらう。

この段階で、教師と生徒という関係でない当該言語の外国人と話をする機会が持つことができればいいが、日本にいる限り、それは難しいので、会話学校でそういう訓練ができるのが望ましい。

4.単語を増やすために、大量の当該言語を聞くようにするために、テレビのBSニュースとか映画などを見るようにする。

5.単語を音と結びつけて、また一つの文章の流れの中で習得するために、音声を収録したCD付きの対訳本を用いて、辞書などを調べることなく、多くの当該言語の文字と音に接するようにする。会話と違って書き言葉は否応なく単語数が増える。

これまでの文法中心のやり方と違って、非常に興味深い方法が紹介されている。私も韓国語あたりをこの方式で勉強してみようかな。

『おじさん、語学する (集英社新書)』へはこちらをクリック

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『82年生まれ、キム・ジヨン』

2020年05月22日 | 韓国文学
チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、2018年)

数百もの予約者があったが、待っただけのことがあった小説だった。書店に行くたびに、この本を目にして、買ってしまおうかと何度も思ったが、図書館に予約しているんだしと、思い直した。(別に自慢気に書くことではないと思うけど。)

毎日韓国ドラマをテレビで見ている。韓国で女を生きるのは大変だなといつも思う。たとえば、少し前に見た『私のIDはカンナム美人』。中学生の頃からブサイクと言われ続けた主人公のカン・ミレが大学に入学したのを期に整形して人生をやり直そうとする話だが、そうした美醜の問題だけでなく、大学生からして上下の関係、男女の関係など、日本では想像できないほどの厳しさがある。

この小説を読むと、社会の変化もそしてそれに伴う男性自身の意識の変化(いい意味でも悪い意味でも)がしっかり書き込まれていて、よく分かる。

ときに韓国文化は興味深いけど、韓国人とはお付き合いしくはないな、と思うこともドラマなどを見ていて多々ある。でも、韓国の人たちも日本人を見て、同じことを思っているのかもしれない。

日韓には近くて遠い国のような大きな溝があるように見えるが、私は少なくとも、多くの犠牲を払って自分たちの力で民主主義を作り上げてきた韓国の人々に敬意を抱いている。
82年生まれ、キム・ジヨンへはこちらをクリック

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『西洋音楽理論にみるラモーの軌跡』

2020年05月17日 | 人文科学系
伊藤友計『西洋音楽理論にみるラモーの軌跡』(音楽之友社、2020年)

副題に「数・科学・音楽をめぐる栄光と挫折」とあるように、音楽理論家としてのラモーの栄光と挫折を解説しているのだが、それはまさにラモー個人のものではなくて、西洋近代音楽理論そのものの栄光と挫折にほかならないことを明らかにした本である。

近代和声理論を確立したジャン=フィリップ・ラモーの理論の意義は、古代ギリシャから続いた演繹的手法、つまり原理から出発して現実を説明しようとする方法から、実験科学の発展によって、実験や経験から原理を導き出そうとする帰納法への転換時期にあったことにある。

ラモーに即して言えば、1722年出版の『和声論』では古代の手法に則っていたが、その直後にソヴールの音響学を知ることになり、1726年出版の『音楽原理の新体系』以降は、こうした実験科学の成果に基づく和声原理の説明に進むことになる。

それはまさに硬直化したアリストテレス主義などを否定して新しい科学を生み出していこうとする啓蒙主義の精神に合致したものであったことから、ディドロやダランベールたちの支持を得ることになる。

だが、音楽を科学にしようとするラモーの奮闘は、ラモー自身の問題というよりも、音楽を科学にしようとすること自体に内在する諸困難であった。

そしてラモーが解決できなかった短完全和音の合理的説明や上方倍音列から第6倍音までを限定する恣意的方法などは、現在の音楽理論においても解決できていないとして、ラモーの問題意識はけっして古びたものではなくて、現在も生きているという。

ルソーも言っていたことなのだが、上方倍音列は無数にあるのに、なぜド・ミ・ソだけを特権化するのか? ド・ミ・ソは誰でも快を与えると思っているかもしれないが、不快に感じる時代や民族もある。つまり近代西洋音楽が唯一絶対の普遍的なものではなくて、近代の西洋という、時代的にも民族的にも限られた世界の音楽にすぎないということだ。

過去にも未来にも、そして地球上にも、この音楽とはまったく相容れない音楽が無数にあったし、たぶんこれからも生まれてくるだろうということだ。ラモーの格闘とその失敗は、まさにこのことを教えてくれるのではないか

音楽理論の素人にも非常にわかりやすく書かれた、優れた本である。ラモーって近代和声を確立したって言われるけど、もう一つよくわからなかった人にもかんで含めるように書かれたこの解説書を読めば、ラモー理論の意義と限界が理解できる。
西洋音楽理論にみるラモーの軌跡: 数・科学・音楽をめぐる栄光と挫折へはこちらをクリック

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『外国人労働者をどう受け入れるか』

2020年05月10日 | 評論
NHK取材班『外国人労働者をどう受け入れるか』(NHK出版新書、2017年)

ただでさえ、少子高齢社会になっている日本、そこへもってきて3Kと言われるような仕事をはじめとした労働力人口不足が進んでいる。そこでどうするか。外国人労働者を受け入れようというのが自然な流れだ。

だが、外国人労働者が定住すること、つまり移民を受け入れることを日本社会は極度に嫌うと思い込み、外国人労働者を「労働者」として受け入れるわけにいかないと考えた歴代の自民党政権によって作られた制度が「外国人実習生制度」だ。

労働者ではない、ただ技能を身につけるために三年間もしくは五年間だけ勉強している実習生だ。だから日本の労働法制は適用されない、社会保険もいらない。こんな都合のいい制度を作った。

それだって表向きは、日本で技能を身につけて、母国に帰り、母国の産業の発展に貢献するというものだが、実際には、労働力人口の不足を補うためのものにすぎないから、現実の実習生の置かれた状況は、この取材班が指摘するような「奴隷労働」になっているという。

最低賃金以下の賃金で、長時間労働を強要し、冷房も暖房もない、汚い部屋に押し込めて、パスポートも取り上げる、なにか文句を言ってきたら、すぐに強制送還させる。場合によってはパワハラ、セクハラを行う。まさに人を人とも思わない扱いをされているのが現状だという。

この本ではそういう人たちが避難して、未払い賃金などを勝ち取り、母国に帰れるようにするためのシェルターを運営している夫妻の活動を取材して、そうした現状を告発している。

もちろんそういう悪徳業者ばかりではない。日本人と同じ労働条件で待遇し、日本語の勉強やその分野の勉強の支援もしている社長も紹介されている。本来ならそういう環境で働いてもらえるような制度のはずなのだが。

そしてこの本で強く指摘されているのが、こうした詐欺的な制度で外国人労働者を働かせている日本政府に対して国際的な機関から非難の声が上がっているということだ。そしてそれは労働者の提供元となっている中国や東南アジアの諸国における日本の評価の低下を招来し、これからは外国人労働者を丁寧に処遇している韓国やその他の国々に外国人労働者が逃げてしまって、日本には外国人労働者が集まらなくなるという心配である。

これからまさに労働人口減少が急激に進み、外国人労働者が必要となる時期に、日本が敬遠される時代になる可能性がある。その原因を作っているのが「実習生制度」なのだ。

自民党政権って、ろくなことせんな。早く安倍には罷めてもらわんと、日本はにっちもさっちも行かなくなる。
外国人労働者をどう受け入れるか―「安い労働力」から「戦力」へ (NHK出版新書 525)へはこちらをクリック

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機』

2020年05月08日 | 評論
黒川敦彦『ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機』(講談社+α新書、2020年)

恐ろしいことが書かれている本を読んだ。しかも昔の話ではない。今目の前にある危機に警鐘を鳴らしている本だ。

ソフトバンクが投資会社になり、しかも危ない投資ばかりをすることで2013年あたりから多額の負債を抱え、今や18兆円もの負債を抱えているという。携帯電話などの本来の事業のほうは大幅な黒字で健全なのだが、孫正義がいつの間にか投資家になってしまい、その投資がどうも素人ばりのことばかりやって、大赤字を生み出しているという。このままいけば、完全に破綻するのも間近だという。

そしてうちの生活に直結するのがゆうちょ銀行の金融危機。かつてゴールドマン・サックスの日本法人で天才トレーダーと言われた佐護勝紀という人がゆうちょに入って、かつてのサブプライムローンのような不良の金融証券を買わせているらしい。その結果、いつそうした不良債権が破綻してもおかしくない状況なので、そうなれば100兆円というゆうちょマネーなんか吹っ飛んでしまうというのだ。

月曜日にでも郵便局に行って、お金を引き下ろしてこよう。コロナで経済も無茶苦茶になっている状況が引き金となって、上のような事態が起きることも予想される。せめて現金でもっているほうがいい。

金融に詳しい人なら、金にするとか、優良な国の国債にするとか、いろいろあるのだろうけど、そういうことには全く疎いので、せめて現金で。庶民の悲しさよ。

コロナの恐怖に金融破綻の恐怖まで…。恐ろしい世の中になったもんだ。

『ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機』 (講談社+α新書)へはこちらをクリック



  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なつかしい昔の国鉄の映像(山陰)

2020年05月07日 | 日々の雑感
なつかしい昔の国鉄の映像(山陰)

暇なのでYou Tubeを見ていると、なんと京都夜行の車内アナウンスがあるではないか。

昔、高校生の頃に、ボート部の友人と連れ立って、夏休みに京都旅行をしたことがある。その時に使ったのが米子を夜の10時くらいに出発して、京都に翌朝の6時くらいに着く、その名も京都夜行だった。ディーゼル車に牽引された普通列車でほとんど各駅に停車しながら、京都まで行く。

その頃できたばかりの京都の四条通りのマクドナルドでハンバーガーやマックシェイクを食べた。

そして帰りも同じく京都夜行。こちらも京都を夜10時くらいに出発して、米子には朝の7時半くらいに着く。

それ以降、大阪の大学に入ってからも、米子に帰省する時に、なぜか京都夜行を使っていた。まぁお金がなかったからだろう。いつだったか、たぶん正月休みで帰るときだったのだと思うが、目を覚ましたら、ちょうど霞あたりで、停車した駅のホームは雪が1mくらい積もっており、さらに延々と雪が降っているところだった。あの幻想的な絵図は忘れられない。



もう一つの思い出は、米子発京都行きの特急「あさしお」だ。これはたぶん京都に受験に行った時に初めて使ったのだと思うが、それ以来、数回これを使った。当時はすでに伯備線の特急「やくも」が走っていて、こちらのほうが大阪に行くのに速いのだが、なぜか「あさかぜ」を何度も使っていた。

今回探してみたらこの「あさしお」もあった。しかも丁寧な解説もついている。私が乗ったのはこんな朝早く出る号ではなかったと思うのだが。



今は高速バスで4時間(5000円)の時代だ。これだって、数人しか乗っていないような時もある。たまにやくもと新幹線を利用するが、こちらは3時間半(1万円)だけど、快適さはこちらも負けていない。

さらに伯備線の生山から根雨のあいだのどこかから撮影したものだと思われる、雪の中を行き交う列車という映像もすごい。たぶん明け方から一日かけて撮影したのだと思うけど、寒いなかを大変な苦労をしたと思われる。これも感動的な映像だ。


さらに、かつて伯備線を蒸気機関車の三重連が走っていたのを撮影したものもある。これは作者も書いているように「新日本紀行」を真似て作ったもので、周辺の農村の風景や人々の暮らしを描いているのも素敵だ。


こういうのを見ると撮り鉄たちの思いがよく分かる。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

絶望的な日本の対コロナ政策

2020年05月07日 | 日々の雑感
絶望的な日本の対コロナ政策

日本政府の対コロナ政策が、無能だけでなく、まったくやる気のない安倍のせいで、絶望的になっている。5月末まで緊急事態宣言の延期を決めたが、これだって、なにか科学的な根拠があって出したわけではない。ただの憶測、いや希望的観測、まさに大本営発表と同じ。

そもそもPCR検査がいまだに4日以上熱が続かないと検査してもらえないとか、大阪では10日待ちだとか。もう悲惨としか言いようがない。1万数千人とか言っている感染者数だって、あんなもの誰も信じていない。普通に最低でも10倍以上でしょう。

どうしてPCR検査が増えないのか?島津製作所をはじめとしてあちこちで検査時間を短縮した検査キットができているのに、厚生労働省がそれらを積極的に取り入れて、使用させたり、許可を出したりする気がないから、宝も持ち腐れ状態になっている。

可哀相なのは医療関係者や不特定多数の人と接するスーパーの店員さんたち。対コロナの最前線で闘っている医療関係者や、私たちの日常生活にかかせない職業の人たちには、優先的に、かつ定期的(例えば1週間に1回など)に検査を行って、陰性ならよし、陽性なら、隔離や入院などの措置を行うようにしてあげることができれば、安心して働いてもらえるし、通院や買い物に行く私たちだって、安心して行ける。

60歳以上の感染者の死亡率が90%って、ほんとうに恐ろしい。自宅療養中に急激に悪化して亡くなるケースもあるらしい。死後に検査しているケースがどれくらいなのだろうか。きっとただの肺炎で処理しているから、あまり表に出てこないのだろう。

この60歳以上向けに大事なのが、アビガンをもっと広く使用しろということ。「赤江珠緒がアビガンで改善 投与可否の理由明かす」とか、「アビガン回復のグラドル、副作用の恐怖…赤裸々告白」というネットニュースを読むと、アビガンは劇的に効くにもかかわらず、催奇形性などの副作用があるために、申請をした医療機関でしか使えないらしい。もちろんこれから妊娠する可能性のある人たちにはその辺を理解してもらって承認を得た後に使うとしても、還暦過ぎたおっさんやおばはんは死亡率が高いのだから、どんどん使って重症化しないようにしてもらいたい。効くのか効かないのかわからないようなアメリカの薬を承認したところで何の役にも立たない。

そして休業補償。ほんとうにえらいことになっているのに、未だに休業補償はしないと言っている。非常事態なんだから、非常事態の政策をやれよ。通常の時期の政策では対応できないだろう。どうしてそんな誰にでも分かることができないのか?

まず国民の命を守り、安心感を与えるような政策や政治家たちの行動が必要なのに、改憲だって? 開いた口がふさがらない。

もうこんな首相は罷めさせよう。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする